たつみ演劇BOXお芝居「夜叉ヶ池」・1―水に棲むもの―

2015.2.11 夜の部@篠原演芸場

水底から、白雪が呼んでおりました。
先月、たつみ演劇BOXの東京公演が始まってからずっと。
私の心は、引っ張られておりました。
『夜叉ヶ池』を観なくちゃ、昨年の小龍さんお誕生日公演でやったという芝居を観なくっちゃあと。

小龍さんが演じるのは二役。
一人目は人間の百合。
そして二人目は、夜叉ヶ池に棲むお姫様・白雪。
妖怪たちにかしずかれる百万石のお姫様。
「鬼、畜生、夜叉、悪鬼、毒蛇と言わるる私が身に、袖とて、褄とて、恋路を塞いで、遮る雲の一重もない!」
水の世界の深奥で、白雪が叫ぶ。
『小泉版・夜叉ヶ池』、待ってたー!

辰巳小龍さん(芝居終演後のあいさつで)


泉鏡花の『夜叉ヶ池』。
文学部出身者には罹患者が多いと思われるこの戯曲には、私もとり憑かれっぱなし。
「下流の水はやっぱり水晶、ささ濁りもしなかった」
たつみさん演じる山沢学円が、鏡花色全開のセリフをさらりと口にしたとき。
ああ、私ホントに大衆演劇で『夜叉ヶ池』を観てるんだ…と、それだけで感動した。

だけど、鏡花のセリフは文字ならまだしも、耳で聞くとかなり難解。
そのセリフをちゃんとわかる言葉にしているのは、やっぱり小龍さんの脚本。
そして息を吹きこんでいるのは、役者さんの力なのだろう。

『小泉版・夜叉ヶ池』について真っ先に思い出すこと――
「人間の世界」と「異界」の境目の描出が、本当に美しい。
いずれも原作にはない、小龍さんのオリジナル。

まず一幕目で、たつみさん=学円が鹿見村にやって来たとき。
「この暑さですっかりしおれて、かわいそうに」
と傍らの夕顔に水筒の水をやる。
すると照明が落ちて。
闇の中、ざわざわ…と夕顔の花がうごめく。
気づけば、学円の後ろに小さな女の子(わかこさん) が立っている。
「夜叉ヶ池は、あっち」
女の子の言葉に従い、学円は行ってみるか…と指された方向へ歩きだす。

花道をはけていくたつみさんを、不思議な音楽が追いかけるのが暗示的。
昼の論理では読み解けない、人間の物差しでは測れない、仄暗い世界に、学円は足を踏み入れていく。
その背を、わかこさんが愛らしいピンクのお着物で見送る。
――劇中で一番ゾクゾクしたシーンだった。
此岸と彼岸の繋ぎを託されるのが、可憐な夕顔というのがたまらない。

もう一つ。
『夜叉ヶ池』といえば白雪の眷族の妖怪!
どんな風に出て来るのだろう…とわくわくしていたら。
「へっへ、大物が獲れた」
と、大蔵祥さんの村人が、大きなクエを籠に入れて花道を走って来た。
すると、村人の体に絡みつく赤い糸。
舞台右袖から赤いテープが投げかけられたのだ。
突如、襲ってきた異物に腰を抜かす村人。
その目線の先、おもむろに、辰巳龍子さんの姥が険しい顔で姿を現す。

いきなり異形のものが出て来るのではなくて、日常の風景に、まず謎めいた赤い糸が綻びを入れる。
人間の世界がふと異界と重なる黄昏時が、とても繊細に演出されていた。

こんな風に、ひた、ひたと人の世界を侵食してきた妖魔の水が。
ラストシーンでは、大洪水となって村を襲い尽くす。
鐘の戒めが解かれ、白雪が哄笑とともに夜叉ヶ池から上がって来た。
(小龍さんの登場の仕方がすごいので、未見の方はぜひその目で確認していただきたい)

白雪は、怯える村人を、杖で思うままに操ってなぶる。
このときの小龍さんの表情!
うっとりとほろ酔いのような目つきなのに、時折鋭く光る。

前の場面でダイヤさん演じる萩原晃が、白雪の過去を語っている。
かつて白雪という娘が、雨乞いの生贄として裸で晒され、恥を忍んで夜叉ヶ池に身を沈めたと。
白雪は、身に刻まれた恥を苦悶を、今楽しげに返しているのか…
優雅に、残忍に、村人たちを一人また一人と洪水に叩きこんでいく小龍さんの姿を見ていれば、そんな想像が沸いた。

そして、観劇仲間もみんな大絶賛だったのが、ラストでの辰巳龍子さんの姥。

辰巳龍子さん(芝居終演後のあいさつで)


代議士・穴隈鉱蔵(宝良典さん)と、博打打ちの伝吉(愛飢男さん)。
村人の中でも特に欲深い二人を、姥が愉悦に満ちて殺していく。
逃げようとする鉱蔵に、化け猫のように曲がった指が伸びて。
見えない力で、鉱蔵は首根っこを捕まえられて後ろに引きずられる。
姥がニタリと、お歯黒に染めた歯を剥く。
…妖怪だ…妖怪がいる…!
ぞっとするほど怖かった。

水がぬらり、闇がぬらり。
夜叉ヶ池には妖の棲む。
篠原演芸場の舞台にとぷんと満たされた水の世界が、頭の隅で今もたゆたう。

語りきれないので2に続きます。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト

コメント

新開地では。

姥の役は、三河家諒さんがなさいました。
辰巳龍子さんの姥も見たいですね。
愛さんのクエは大好きです。
瞳太郎さんの素晴らしさも、お花に対する見解も
共感いたします。
モヤモヤしていた気持ちが、晴れました。

>nemu様

三河家諒さんの姥、観たかったですー!
愛さんのクエは笑いましたw
原作では蟹とか鯰ですが、「クエ」というのは愛さんならでは!

ああ…「モヤモヤしていた気持ちが晴れた」との言葉、本当に嬉しいです。
通えば通うほど、胸に溜まるもやもや…
綺麗なだけでは終わらない世界だということが、段々目に耳に届いてきますものね。
私もまだまだ、息詰まったり悩んでばかりです。

でも。
それでも、役者さんの“良い芝居がしたい”という気持ち。
お客さんの“この役者さんを支えたい”という心。
それらに光を見て、大衆演劇を観続けていきたいと思っています。

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)