たつみ演劇BOXお芝居「三人吉三」、獣の戯れ

2015.2.3 夜の部@篠原演芸場

ウォーン、ウオオーンと。
物語のところどころに差し挟まれる犬の声。
複雑な物語の底、通奏低音のようにドロリとまつわる獣の呪い。
さすが小龍さんの脚本だ…っ!

辰巳小龍さん(当日舞踊ショー「Catch me」より)


本題の前に。
まず語りたいのは、この芝居のスペクタクル感。

もしかしたら、今の大衆演劇界が作り出せる、最も豪華な芝居の一つなのかも…。
今、破竹の勢いでトップに駆け登りつつあるこの劇団が、力を尽くした。
お金も人手もかかるであろう道具・セットを、惜しみなく使った。

芝居終演後、なかなか止まなかったスタンディングオベーション。
ラストシーンの雪を全身に浴びたまま、たつみさん・ダイヤさん・小龍さんが頭を下げる。
私自身も雪にまみれて真っ白けのコート姿で、手を叩いていた。

たつみさんの、器の大きい兄貴肌の和尚吉三。
ダイヤさんの、悪人なのにどこかボンボンの甘さの残るお坊吉三。
小龍さんの、男と女の間を憑依的に移行するお嬢吉三。
三人が、全編に渡って、膨大な量の七五調のセリフをイキイキとやり取りする。
改めて、三姉弟の芸の底は知れない(しかもみんな美しいし)。
先代、先々代から継いだ芸が体の底に溜まっているようだ。

座員さんも全員が、凄まじい稽古をされたんだろうな。
特に満月ちゃんのおとせ、瞳太郎さんの十三。
このカップルが無垢で、犯してしまう罪業が際立つ。
中でもおとせが大川端でお嬢吉三に言う「人が怖ぅございますなぁ…」は、表情といい声づかいといい、とっても純真。
最近の満月ちゃんは、本当に素敵な女優さんになりつつあるのを感じる。

ラストシーンの立ち回りでは、雪がこれでもかという量で降り積もる。
舞台どころか客席も雪まみれになる。
なので、劇団さんが事前にマスクを配布してくれた。
客席がずらりとマスクを着けて、舞台に食い入る光景は壮観だった。
この芝居の中に浸かりきりたい!という欲求が、節分の夜の篠原演芸場に炸裂していた。

艶やかに整えられた舞台景色。
けれど観ていると、なんだか原始の蠢きが肌に這う。
よく聞くと、獣にまつわるキーワードが多いような…。

まず、猿。
大川端の前で三人吉三が揃う場面は、庚申の夜だ。
しかも、場所は庚申塚の前。
「三疋の額につけたるくくり猿、三つにわけて一つずつ」
と、たつみさん=和尚吉三が庚申塚のくくり猿三つを取って、義兄弟の証として一つずつ持つ。
そういえば、ダイヤさん=お坊吉三が探している刀も庚申丸。

庚申といえば“見ざる・聞かざる・言わざる”の三猿。
三人吉三=三猿か!そういやみんな泥棒(=猿のように手が長い)だし!おお!
と、元・文化人類学専攻学生は一人で盛り上がっていました。
恥ずかしながら後で検索してみたら、『三人吉三』が三猿をモチーフにしているのは、芝居好きな人の中では常識なんだそう…。

そして、犬。
複雑な因果関係の発端は、和尚吉三の父・伝吉(宝良典さん)の罪にある。
「盗んだ庚申丸を川に落とし、腹立ちのあまり、帰りに野良犬を叩き殺した。やがて生まれた子どもには体中にブチがあった。犬の祟りだ。あの野良犬は子を孕んでいたという…」

そういえば、芝居中に犬の鳴き声がやたらと登場していた。
たとえば十三=瞳太郎さんが、身投げしようとしたいきさつを伝吉に説明する場面。
「実は…」
で、ウオオーンと犬の声。
「何、そういうわけがあったのか」
と宝さんが言って、その省略の仕方にどっと笑う客席。
このときはただ、説明を端折るの上手だなぁと思っただけだったけど。
後で思い返せば、犬の声は明らかに意図的に、芝居のあちこちに入れられている。

この犬の祟りが、ハッキリと目に見える形で現れる場面が一つだけある。
和尚が、お坊とお嬢を逃がすため。
泣く泣く自身の妹であるおとせと、実は弟である十三を手にかける場面だ。
送り出しで小龍さんに伺ったら、「芝居としては一番好きな場面」だと言っていた。

未見の方の楽しみのために、詳細は書かずにおきます。
ただ、私にとっては、ラストシーン以上のクライマックスだった。
“因果”という『三人吉三』が内包するテーマが、頭ではなく肌に、ずるずるっと入りこんでくる。
“因果”を体現する満月ちゃんと瞳太郎さんが圧巻。
たつみさんが、人知を超えた根源的な恐怖に立ちすくむ。
照明がいつの間にか不気味な赤になっていて、点滅しては舞台を揺さぶる。
理屈では決して太刀打ちできない、呪いが身をよじって迫って来た。
さすが小龍さんの脚本だ…!(2回目)

帰りの埼京線の中で、観劇仲間と感想を言い合っていると。
「あなた、雪ついてるわよ」
後ろに座っていた女性が、私のコートについた紙切れを取ってくれた。
『雪』…という言い方をされるってことは。
「三人吉三、すごかったですね」
「もー、すごいの観ちゃったわよね!」
と、興奮の残る笑顔が弾けた。

映画にたとえると、全国何十館で同時公開される大作タイプ。
ミニシアター系の、ささやかな日常の風景だけで作った掌編映画みたいな芝居を愛している私でも。
あの豪華絢爛な舞台と獣のにおい、そして降りしきる雪、雪、雪に…
いまだ頭のどこかが酩酊しています。

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コメント

知りませんでした。

三猿のことも、犬の遠吠えの意味も、見落としていました。
凄いお芝居をする劇団だと思ったのは、此処からです。
鳴神、石川五右衛門、下北の弥太郎などなど然り。
まだまだ見ていないお芝居ばかりです。
ゆっくり味わいながら見ていかなくては。

>nemu様

「三人吉三」、私は2回観ています。
1回目は今年1月、木馬館で観ました。
1回目のときはセリフも難しいし、ストーリーについていくのに精一杯で…
それでも最後の雪の中の立ち回りは圧巻でしたが。

篠原で2回目を観て、ようやく少しずつ見所がわかってきました。
こういう芝居をやろうと思い立つ決断力、脚本をかける姉上の存在、実際に上演できる座員さんの豊富さ…
やっぱりたつみ演劇BOXは唯一無二の劇団なんだなぁと思います。


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