春陽座お芝居「京の友禅」

2015.1.24 昼の部@三吉演芸場

友禅(滝川まことさん)が望むのは、職人としての名声ではない。
幼い頃から思い合っていた女性・お幸(澤村かなさん)との暮らしでもない。
その両方を見送って、手放して。
彼は友禅染を作り続ける。
絵具に、布に、思いを落とし続ける。

滝川まことさん(当日舞踊ショーより)


澤村かなさん(当日個人舞踊「夢一夜」より)


新作芝居は友禅染を作った職人の話。
なんとも、春陽座の上品なイメージ通り。
透ける色づきを目の奥に挿してもらったような舞台だった。

話は、幼い友禅(澤村煌馬くん)と、らい病の父(澤村京弥さん)の旅の場面で始まる。
雪の中、父子が行き倒れになったのは、扇子屋・堺屋の前だった。
父親は、堺屋の主人(澤村新吾さん) に息子を託す。
「この病は人にはうつりません。でも、もしこの子が大人になって私と同じ病にかかることがあれば、そのときはいつでも放り出してやってください…」
父親はそこで息絶え、友禅は堺屋で育てられることになる。

二幕目は15年後に飛ぶ。
友禅は堺屋で扇子の絵描きをしていた。
堺屋の職人が一堂に集められたとき。
「扇子だけやなくて、絵を着物に描くというのはどないですか」
友禅は、ずっと秘めていた夢を打ち明ける。

その提案に、温厚な主人も難しい顔をする。
「堺屋は扇子屋。もしわしらが着物に絵を描いて売ったりしたら、呉服屋は怒るで。あいつらが怒って堺屋をつぶしにかかれば、赤子の手をひねるようなもんや」
部屋の一番隅に遠慮がちに座って、けれど友禅は毅然と言う。
「堺屋がやるのが難しければ、お暇をいただけませんでしょうか。友禅は一人でもやりたいのです」
「着物が雨に濡れても絵が流れないよう、絵具の配分、乾かし方…一人で色々試しました。まだ方法は見つかりませんが、必ずあるはずです。必ずこの友禅、友禅染を完成させてみせます!」

こうして友禅は堺屋を出る。
友禅に惚れている堺屋のお嬢さん・お幸が友禅について来て、二人は貧しい生活を始める。

まことさんの芝居を、こんなにたっぷり観られたのは初めて。
情熱的に語っているのに、どこか抑えがある。
かずまさんの、感情が皮膚の内を跳ね回るような勢いとは違うし。
心さんの、深いところから心をつつくような細やかさとも違う。

薄曇りのような陰が、額から唇にかけて漂っていて。
まことさんが感情を表すたびに、表情筋につられて陰が動く。

堺屋を出て2年。
友禅染の開発に励んでいた友禅は、ある日指の痛みに震える。
「ついに来たかぁっ…!」
父と同じ、らいの病だ。
「なんでや、なんでなんや、お父ちゃん!」
指を押さえて天を仰ぐ。
次第に手足が動かなくなり、顔も崩れていく未来が友禅の夢を裂く。

お幸を自分の運命に巻き込まないようにと、友禅は自分の心を裏切る。
“お幸への愛情がなくなった”と嘘の手紙を堺屋の主人に送り、迎えに来させる。
「友禅の阿呆、阿呆、阿呆…!阿呆―!」
お幸は友禅の嘘を信じて、絶望を炸裂させる。
友禅の大切な仕事道具を投げつけ、ぶるぶる震える手で顔を覆う。
かなさん、さすがの熱演。

さらに1年後、お幸の祝言の日。
友禅が堺屋を訪れる。
「友禅染がようやく完成いたしました。その最初の着物、お嬢さんに袖を通していただければ」
と、仕上がった着物をお幸に差し出す。
病のために、もう固まって動きにくくなった指で。

私が目を見張ったのは、堺屋を後にして、花道をはけていく友禅の表情。
病んで、お幸とも結ばれず、なお。
ほう…と虚空を見つめて、柔らかく笑む。
まことさんの顔に滲む陰は、舞台に深い楔を打ち込むようだ。
今ここにあることの喜びを噛みしめるような笑みだった。

『京の友禅』の記事を終える前に、もう一つ言及しておきたい。
個人的なツボに入ってたまらなかったのは、冒頭の父子がさまよう場面だった。
京弥さん演じる友禅の父は、病のため顔の下半分を覆っているので、表情はよく見えない。
セリフも一切ない。
でも、涙が出た。

澤村京弥さん(当日舞踊ショーより)


京弥さんが、病でうまく動かない手で、懸命に煌馬くんの体をさする。
我が子に少しでも温かさを与えようとする。
雪は容赦なくもうもうと舞い上がり、『砂の器』のメロディーが流れる(この冒頭場面は明らかに『砂の器』へのオマージュなんじゃ…)。

状況自体が泣けるのだけど…
京弥さんのなんとも言えない実直な人情が、顔を覆っていても全身から出ていて、心をつかまれた。
この3年で観た大衆演劇の芝居の中でも、「冒頭場面」に限って言えば珠玉の一つだったと思う。

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