春陽座お芝居「人生双六」

2015.1.1 夜の部@三吉演芸場

雑誌やネットで澤村かずまさんの写真を見かけると。
彼の人情芝居が観たくなる。
きりりと結ばれたまなじりが、感情をせき止められずにじわじわ歪んで、やがて全身が泣きに震える。
この方の演技は、“全身の細胞で浸りきってる”感じに圧倒されるのだ。

今年は元旦から、そんなお芝居に出会えて幸運でした。

澤村かずま座長(当日個人舞踊「羅生門」より)


さすがに元旦くらいは家にいて家族と過ごそう…
なんてカケラも思ってない多数のファンが、三吉演芸場に着いたら日常のような顔をして着席されていた。
私はこういう大衆演劇ファンの基本姿勢が大好きです。

正月三が日は切った張ったの芝居は避けたそう(かずまさん談)。
「人生双六」は、庄五郎=かずまさん、梅之助=心さんの演技がこざっぱりと気持ちよく絡む、友情と親愛の舞台だった。

庄五郎(澤村かずま座長)は仕事が見つからず、途方にくれていた。
着物はボロ切れのようになり、三日も飲まず食わずで、今にも倒れそう。
だが、茶店の前で泥棒(澤村美翔さん)に出くわした。
庄五郎は持ち前の正義感に火がつき、泥棒を捕まえようとする。
そこを通りかかった梅之助(澤村心座長)は、庄五郎のほうを泥棒と間違えてしまう。

なんとか梅之助の誤解を解き、庄五郎は熱弁する。
「故郷(くに)のお母ちゃんが言うてたんや。どんな貧乏してても悪いことしたらあかん!心に傷を持ったらあかん!って」
その言葉を、梅之助はじっと虚空を見つめて聞いている。
やがて、決断した口調で告げる。
「庄五郎はん、あんたの言葉、よう胸に沁みました」
懐から取り出したのは財布だった。

「実はな、これ、百両入ってますねん」

驚く庄五郎に、梅之助は財布を弄びながら続ける。
「先ほどこれを拾いましてな。落とし主の名前も書いてあるし、落とした人はさぞ困っとるやろ、届けなならん、届けなならんと思いながらも、どうしても欲が出て届けることができんで、ここまで歩いてきましたんや」
「でも庄五郎はん、今のあんさんの言葉で目が覚めました。人間は心に傷を持ったらあかん…ほんまにそうや。これ、届けてきますわ」
心さんの語り口は静かなんだけど。
言葉の端々がとっても粋に響いて、梅之助という人物の気持ちの良さを感じさせた。

梅之助が、ニコニコと提案を持ちかける。
「一つ勝負してくれまへんか。互いに今は仕事もない者同士やけど、これから頑張って働いて、5年後にまたお会いしましょう。そのときに、どちらがより出世しとるか、競争しまへんか」
庄五郎は嬉しそうに頷く。
「庄五郎と梅之助、なかなか無い名前の者同士、気が合いそうですね。わかりました。5年間、勝負ですね」
心さんの柔らかな笑みと、かずまさんの力強い笑顔が、夕焼けの風景に浮かぶ。

梅之助は、一文無しの庄五郎にお金をいくらか与えた上で。
さらに茶店のうどんをおごる。
「こんなお金までもらった上、そんな」
庄五郎は遠慮するが、「さぁ」とうどんの椀を差し出され、申し訳なさそうに受け取る。
かずまさんはアツアツのうどんを一口すすって、
「なんでうどん、昼より熱くなってんの(笑)」
なんてアドリブの笑いを入れて、二口目。

かずまさんがうどんを大きく頬張って、ぴたりと箸を止める。
口に大量のうどんをくわえたまま、瞼がねじれそうなくらい強く、ぎゅうっと目をつむる。
照明が落ちて、場はもの寂しい夕闇になる。

仕事にあぶれて、三日も食べられず、ボロボロの着物でさまよい歩いていた。
他人に乞食と間違えられた。
今、口の中いっぱいに温かいうどん。
――誰かがもう一度、自分に親切にしてくれた。
庄五郎の飢えた心から沸き出る喜びが、一直線に客席に伝わってきた。

「心に傷を持ったらあかん」で始まり、うどんで締められる。
この一幕目は、さりげなく、人の心の交わりの極みみたいな部分に行きつこうとしているように見える。
後半、梅之助が婿入りした先の隠居(澤村新吾さん)が、庄五郎にこんな風に言う。
「あんたの話はよう聞いてましたで。毎日、庄五郎、庄五郎と…」
たった一度会っただけの相手の話?5年も経っているのに、毎日?
と、普通なら不自然に思うかもしれないけど。
最初の二人の邂逅を細かく描いてくれたから、納得できる。
心はずっと、あの夕闇の茶店の前に繋がれているのだ。

全然テイストは違うけれど、泉鏡花の短編『外科室』を思い出す。
一瞬目を交わしただけの男女が、9年間互いに愛を抱き続ける話だ。

5年後の再会の日、梅之助と庄五郎は、互いにくしゃくしゃに笑って一言。
「お会いしとうございました…!」
たった一度の出会いが、心に棲み続ける。
交わしたわずかな言葉が、命の支えになり続ける。
恋愛を友情に置き換えると、この日の『人生双六』には『外科室』の輪郭が透けていた。

それから春陽座のお芝居を見ていつも感じるのが、劇中に流れる音楽への強いこだわり。
『人生双六』ではエンディングである大ヒット曲が流れるのだけど、よく聴くと歌詞に“双六”って入っていて驚いた。
かずまさんに伺ったところ、やはりその歌詞ゆえに採用したそう。

毎日淡々と、品よく、こだわりの細工をほどこして芝居を作り続けている。
春陽座の姿勢には、なにか職人めいた姿を見る。

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