2014年 珠玉の一本―敵役編―

「誰が主演の芝居か」と、同じくらい。
「誰が敵役を演じるのか」は、悪役・敵役ラバーにとって肝心要なんです。

物語の奥底から、差し覗く暗い色。
容赦なく心を抉る、敵役の欲望のぎらつき加減こそ、ひとつの芝居の華…!

2014年、心のひだに染みついた敵役が5人。
観た順に振り返っていきます。

勝小虎代表代行(剣戟はる駒座〈倭組〉) 「やくざの花道」剛三役
2014.2.16 昼の部@大島劇場


勝小虎代表代行(2014/2/16)


その冷たい目つきに宿るのは、力への飢餓。
小虎さん演じる剛三は、自分の親分(勝龍治総裁)を殺し、代わって親分になり上がる。
親分のお嬢さん(宝華弥寿さん)が、剛三を責める。
「かつてお前は、ボロボロになって行き倒れていた。うちの一家に助けられて、“どうか子分の端に加えておくんなさい”と涙流してお願いしたじゃないか。その恩も忘れて…」
この場面の、小虎さんの表情が良い。
嫌なことを思い出したと言わんばかりに、片眉上げて、恩人の娘を一瞥する。
この人物は、弱者の惨めさを知っているからこそ、空っぽの身に力を欲するのだ。

最後は、飯炊きの少年・卯之吉(勝彪華さん)に、親分の仇として討たれてしまう。
剛三は槍を突きつけられ、身動きを封じられ、絶体絶命の状況で、なお吠える。
「ふざけるな、卯之!お前が出る幕じゃねえんだ、三下はすっこんでろ!」
この役に限らず、小虎さんの敵役芝居はいずれも、欲望が迸るようだ。
普段は大層のんびりした雰囲気の方なのに、一体どこから出てくるのか…?
⇒当時の記事

見海堂駿代表(見海堂劇団) 「黒潮に叫ぶ兄弟」新兵衛役
2014.4.19 夜の部@大宮健康センターゆの郷


見海堂駿代表(2014/4/19)


大衆演劇に“毒親”が登場したのは衝撃だった。
「騙されたお前が、トンマなんだよ」
と、父親が息子に背後から斬りつけるなんて。
『黒潮に叫ぶ兄弟』は、新太郎(風吹あさとさん)・新吉(見海堂光副座長)の兄弟愛のお話。
だが、駿さん演じる父親・新兵衛からの、息子達への愛情はごく薄い。
――はるかに勝るのは、金への欲望。
新兵衛は、高浜の親分(見海堂真之介総座長)に、新吉から灯台の鍵を盗めと命じられる。
「褒美に、十両やろう」
新兵衛はためらいなく、新吉から鍵を奪い取る。
鍵を追って来た新太郎が、父に刀をかざせば。
「すまんかった、実は高浜の親分に脅されて、鍵を盗んでこなければ殺すと言われ…」
と泣き真似をしてみせて。
新太郎が情にほだされたところで、背後から斬る。
駿さんの眼差し、仕草一つ一つから、黒々とした滴りが零れる。
酒焼けした肌色のメイクに千鳥足で、ふらふらと舞台をさまよう。
⇒当時の記事

荒城照師後見(劇団荒城) 「名案旅合羽」剣術道場の先生役
2014.8.30 昼の部@川越湯遊ランド


荒城照師後見(2014/8/30)


「照師さんって、まさに“カッコいい”って感じよね」
知人が何気なく言った評は、思い返せば深く頷けるかも。
190cmあるらしい背、骨ばった体躯、斜めに流れる目つき。
その面立ちに薄く陰が透けて、醸されるのは男の色気。
“男前”じゃ正統派すぎるし、“イケメン”だけじゃ語れないし。
“カッコいい”という言葉が、一番しっくり来る役者さんだと思う。

その照師さんが川越の千秋楽では、ハゲ茶瓶の鬘を被っていた。
ハゲあがった剣術道場の先生は、弟子たちに囲まれて、朗々とした声を客席に投げる。
「動画の撮影は禁止となっております!」
さらに道場の弟子たち=若手さんたちをずらりと並べて、復唱させる。
「千秋楽、最後までよろしくお願いします!」
頭はハゲてるのに、スタイルは当然すらっとカッコよくて、ギャップが絶妙におかしい。
この先生が若い娘に惚れて、勝手に娶ることに決めたために、騒動が起こる。
(観た当時はアレコレ追われて感想記事を書けなかったんです。申し訳ない)

龍美佑馬さん(劇団KAZUMA) 「天神の半五郎」上総の伍蔵役
2014.11.22 昼の部@四国健康村


龍美佑馬さん(2014/11/22)


底の底から、噴き上がるのは恨み。
「俺は子どもの頃、世間から捨て子、捨て子と蔑まれた目で見られてきた」
肌を覆い、染み出すのは妬み。
「俺がいないときに限って、お前のお父とおっかあが、お前たちにだけまんじゅう買ってやったり、飴舐めさせてやったり。それを陰から見ていた俺の気持ちが、お前にわかるか?」
初めて観た「天神の半五郎」。
佑馬さん演じる上総の伍蔵、この悪役が私の心をゾクゾク捕えた。
赤ん坊の頃、天神の森に捨てられた伍蔵は、世間への恨みと妬みを腹に収めて生きてきた。
伍蔵が一番憎んでいるのは、乳兄弟の又五郎(柚姫将副座長)だ。
「俺は子どもの頃から、お前が嫌いで嫌いで仕方なかった。絶対に、お前よりは偉くなってやると決めていたんだ。だから俺は十手持ちになった」
持たない者から持てる者への憎悪は、測りしれない。
人の良さの滲む佑馬さんだけど、精一杯怖い調子を出して演じられていた。
⇒当時の記事

山戸一樹さん(若葉劇団ゲスト) 「木曽路の女」賽の目の弥之助役
2014.11.30 昼の部@大宮健康センターゆの郷


山戸一樹さん(2014/11/30)


山戸さんは何者なんだろう。
まだこの方について、私は観たばっかり、知ったばっかり。
ついひと月前、『木曽路の女』の賽の目の弥之助役を見て、飲みこまれたのだ。
「俺は酒飲みだったから、酒で頭が狂っちまってたんだろうな」
弥之助は、木曽一家を守る立場にあったにも関わらず。
酒に溺れたところを甘言にそそのかされ、一家を売ってしまった。
そのことを妹分のお常(愛望美さん)が責めると、虚ろな目線で頼む。
「お常、いっそ、お前の手で殺してくれ」
舞台左手に、ぽつんと座りこむ山戸さんの姿。
そこから場全体に広がる、渋みがかった愁嘆の色。
山戸さんの弥之助は、敵役とは言えないかもしれない。
悪の側に置くには、あまりに哀しい、あまりに寂しい。
⇒当時の記事

以上5人が、今年のマイペスト・ヒール!
しかし、役者さんにとってみれば、やっぱり主役とか良い役で褒められるほうが嬉しいのかな?

でも、ある若手さんが熱弁してくれた。
「悪い奴やってるとき、お客さんから“最低―”とか言われるとよっしゃ!って思うんですよ。嬉しいですもん、そういうのが」
また、ある座長さんが、口上で話されていた。
「敵役のときは、とことんお客さんから憎まれて、なんて悪いやっちゃ、死んじまえって思われるのが役者冥利ってもんです」

なので、彼らの役者魂に敬意を表して。
来年も、実に悪く、憎々しく、恐ろしく、哀しく、凍りつくような敵役が見たいです!
いやあ、敵役って本当にいいもんですね…

次で珠玉の一本シリーズはラスト。
舞踊編を書いて、今年を締めくくりたいと思います。
なんとかして大みそかに間に合わせるんだ…!

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