2014年 珠玉の一本―喜劇編―

前回の悲劇編に続き。
今度は、喜劇をウキウキ語りたいと思います。
(昨年の「2013年 珠玉の一本―喜劇・人情劇編―」はこちら)

ひたすら笑えるだけじゃなく、情たっぷりの芝居が良い。
登場する人々が愛おしくなってしまうような、優しさたんまりの人間模様が見られたら嬉しい。
贅沢な望みを叶えてくれた芝居は、↓の5本でした。

劇団KAZUMA「紺屋高尾」
2014.1.5 昼の部@京橋羅い舞座


藤美一馬座長(2014/1/4)


この芝居は、なんて大きな幸福感を残してくれるんだろう。
紺屋・久蔵(藤美一馬座長)が、恋に尽くした三年。
一目惚れした高尾太夫に会うための十五両を、三年かけて稼ぎきった。
久蔵の親方(龍美佑馬さん)は、「三年かかって貯めた十五両を、一日で全部使っちまおうってのか!」と呆れながらも見守る。
竹庵先生(冴刃竜也副座長)は、高尾に会う前に久蔵にアドバイスする。
「その爪は、隠したほうがいい。すぐに紺屋だとバレてしまうぞ」
紺屋の望み薄い恋は、みんなの支えで花魁の所へ昇る。
そして、奇跡が降ってくる。
「来年三月十五日、あちきは年季が明けるんです。そうしたら、ぬしの女房になりに行きましょう」
高尾太夫(柚姫将副座長)が、横顔で弾けるように笑う。
「ぬしの正直に惚れんした」
手の届かないはずの夢が、優しく、甘く、振り返る。
⇒当時の記事

剣戟はる駒座〈倭組〉「虎の改心」
2014.3.23 昼の部@スパランドホテル内藤


不動倭座長(2014/3/23)


キーアイテムは、玩具のピストル。
ぱぁんと鳴れば、冗談みたいな殺人が起きる。
大工の虎(不動倭座長)は、べろべろに酒に酔い、妻と義父を包丁で追いまわす。
「あいつら、実の親子で間男しとるんや、間男成敗や」
なんとか、虎の酒癖の悪さを諌めなくては。
棟梁(勝小虎代表代行)は、虎に玩具のピストルを渡す。
「ええか、みんな、虎に撃たれて死ぬっちゅう芝居をしてほしい」
そこで周囲の人々は、「早く殺してみろよ」「はよ殺してぇなー!」と虎を煽る。
パン!
と銃声が鳴るたびに、一人ずつ死んだフリ。
けれど絵空事の殺人は、虎の良心を呼び覚ます。
「みんな、みんな死んどる。ああ、わしは、ホンマになんてことをしてもうたんやろ」
倭さんの、くしゃくしゃの泣き顔に、情の固まりが浮き上がる。
⇒当時の記事

新喜楽座「大江戸出世美談 新門辰五郎」
2014.6.29 昼の部@大島劇場


松川小祐司座長(2014/6/29)


きれいな座長さんが演じる、きれいな人間。
「あの大向こうから河内屋、菊之丞、とハンチョウかけてくださるお客様に、金持ちの大臣も貧乏なおこもさんも、身分の上下はないんやで!」
役者・中村菊之丞(松川小祐司座長)は、弟子たちに叫ぶ。
同時に自分自身の身の内に刻むみたいに。
菊之丞は上方から江戸に出てきたばかりで、知名度がない。
そこへ、「わしが、あんたの贔屓になったるわ」と名乗りを挙げてくれたのは。
おこも連盟の会長(松川翔也副座長)と、副会長(松川さなえさん)だった。
汚いおこもは、ずた袋の中から、正体のわからない酒や竹輪を差し出す。
それでも菊之丞はニコニコと、
「へえ、いただきます」
弟子に呆れられても、おこもの贔屓に対して誠実であろうとする。
小祐司さんは、少女みたいな美貌で、物腰柔らか。
心の内に深い内省をしまっている感じが、菊之丞の役にハマっていた。
⇒当時の記事

橘劇団「出世の茶碗」
2014.9.13 夜の部@篠原演芸場


橘良二副座長(2014/9/13)


個人的な白眉は、橘良二副座長によるエレガントなうどんの食べ方(実演)。
良二さんは、筆で書いたような顔立ちに涼しい目の光る、極めて美しい役者さんだと思うのだけど。
『出世の茶碗』では、ボロの着物にほっかむり姿で、ヨロヨロと杖に縋って登場する。
「おこもさんと思われるのも無理はありませんが、私たちはおこもさんではないのです」
こんな気品に満ちたおこもさんがいるだろうか…。
良二さん演じる松吉と弟の松之助(橘裕太郎さん)は、大店の息子だったが、旅の途中で全財産を盗まれた。
茶屋の店主・亀(橘大五郎座長)は、すっかり情にほだされて。
「お前さんたちが出世したそのときに返しとくれ」と、うどん(本物)をわんさか出してやる。
元気よく次々たいらげる裕太郎さんと対照的に、良二さんは箸使いも丁寧。
生花でもやるような風情で、黙々と、うどん。
ひたすら、うどん。
能天気な芝居の風景と、切れる美貌のギャップは、今思い返してもおかしい。
⇒当時の記事

都若丸劇団お芝居「下町人情」
2014.10.13 昼の部@三吉演芸場


都若丸座長(2014/10/25)


みんな大好き「若ちゃん」の舞台を、私は今年初めて観られました。
「台風来てる中、お客さん来てくれてるんですよ!5人残って!今日来てくれたお客さんのために、なんか踊ってください」
座員さんと楽しげに絡む、若丸さんの笑顔が見たい一心で三吉演芸場に通った。
『下町人情』の若丸さんは、箒を握って手ぬぐいを巻き、女房・お勝の役!
「待ちなさい、あんた!ふざけんじゃないわよ!」
と座布団を武器に、元気いっぱい、夫役の都剛副座長を追いかけ回す。
夫が妹(都ゆきかさん)を、借金のカタとして女郎屋に三十両で預けたと聞けば。
「お鶴ちゃんで三十両なら、あたしが行ったら六十両だわ!」
そのうち来客があると、夫はお勝を粗相のないように…と衝立の陰に隠してしまう。
舞台の隅に追いやられた若丸さんは、ゴロニャーなんて言いながら。
衝立の上からピョッと顔を覗かせたり、手ぬぐいを投げ縄のように使ったり。
客席の期待を一身に集めて、コメディアンは、任せとけとばかりにほくそ笑む。
⇒当時の記事

こうしてまとめてみると。
恋の成就、酒乱の改心、贔屓への恩、救貧の心、喧嘩の中の夫婦愛…
大好きな喜劇には、いずれも人の愛情が根底にある。
人の心には良いものがちゃんとあると、物語が無邪気に伝えてくれる。
甘っちょろいようだけど、他人を貶したりバカにしたりする笑いの取り方は、大の苦手なので。
ここに挙げたような喜劇なら、何度でも繰り返し観たいものだ。

次の記事は、私の趣味全開で書く…
敵役編です。

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