2014年 珠玉の一本―悲劇編―

芝居は、通り過ぎていく。
毎日外題の変わる、目まぐるしい世界で。
どんな感動的な芝居が繰り広げられても、翌日には同じ舞台に別の芝居がかかる。

演じている側からすれば、精魂込めて演じながらも、翌日には脱ぎ捨てていくものなのだろうか。
実際、「あのセリフ感動しました!」と役者さんにお伝えしたところ、
「演じてるときは役の感情にまかせて喋ってるんで、実は自分で何言ったかよく覚えてないんです…」
と、衝撃の返答をいただいたこともある。

だから、胸に残るものが消えてしまう前に、書いておきたい。
前置き長くなりましたが、昨年に引き続き。
「2014年珠玉の一本」シリーズ、始めます。
今年観た中でも、凄い!凄い!と大喝采をいつまでも贈りたい記憶たち。

1本目は悲劇編。
(昨年の「珠玉の一本―悲劇・真面目なお芝居編―」はこちら)。
観た順に並べていったら、全部で7つの芝居になった。

剣戟はる駒座〈倭組〉「雪と墨」
2014.2.15 夜の部@大島劇場


不動倭座長(2014/2/9)


不動倭座長の、人間観みたいなものが垣間見えた気がして、唸った。
倭さん演じる孝造は、努力の末に武士の身分を手に入れた。
その心は次第に驕り、大工の弟(勝小虎代表代行)や、母(宝華弥寿さん)を見下すようになる。
「お前はただの大工やろ」
と、弟の手をギリギリ踏みつけたり、母の体に材木を乗せて苛めたり。
雪のごとく白い心は、墨のごとく黒く染まる。
けれどその奥に、こごっていたもの。
「お母はん、堪忍してや…」
最後に、黒に染めきれない、古い思いが溶け出してくる。
衝撃のラストシーンは、大島劇場の小さな舞台に突き刺さるようだった。
⇒当時の記事

劇団KAZUMA「男の情炎」
2014.5.19 昼の部@やま幸


柚姫将副座長(2014/5/19)
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「たった一つの宝物、あんな奴に奪われたくはなかった!」
柚姫将さんの、こういう芝居が観たかったんだ!
お誕生日当日に敵役っていうのはちょっとかわいそうかも…と最初は思ったけど、そんなことは全然なかった。
将さん演じる大五郎は、一家のお嬢さん(霞ゆうかさん)を幼い時から慕っている。
「きれいな人だ、いつか俺のものにしたいと……ずっとお嬢さん一人だけを見てきた」
けれどお嬢さんは、旅人の清次(冴刃竜也副座長)と恋仲になってしまう。
唯一の宝を奪われた大五郎のあがきは、飢餓にも似て。
「お集まりの皆さまがた…恋に狂ったこの大五郎――」
将さんの鬼気迫る終盤の語りだけで、岡山まで来てよかったと思った。
⇒当時の記事

劇団荒城「上州土産百両首〈大衆演劇版〉」
2014.6.7 夜の部@浅草木馬館


荒城勘太郎若座長(2014/6/9)


今年は、名高い荒城さん初体験の年でもあった。
「上州土産百両首」で勘太郎さんの演じた牙次郎は、いつまでも心に住まわせておきたい、いとけなさ。
「このまま、縄にかけられたまま番所に行ったら、兄ちゃん、死罪になってしまう、それだけは、どうかそれだけは」
兄ちゃん、死罪になってしまう――
唯一の肉親を、もぎ取られる痛みにわななく。
木馬館の舞台で、体を丸めて号泣する勘太郎さんに打たれた。
⇒当時の記事

たつみ演劇BOX「高崎情話」
2014.7.21 昼の部@八尾グランドホテル


小泉たつみ座長(2014/7/21)


立ち回りの場面は、一枚の“絵”。
兄弟は、敵に囲まれている。
けれど目の見えない弟(小泉ダイヤ座長)は、周りに気づかずに三味線を弾く。
「続けろ、いいぞ、そのまま」
兄(小泉たつみ座長)は、ひとりで、多勢相手に刀をかざす。
ひらひら刃の舞う中、しゃんしゃんと三味線の音。
兄から弟への尽きない愛情が染み出してくる、無二の構図だ。
ところで、↑の写真を選ぶために久しぶりにたつみさんの写真を見返していたら、本当にこの方は王子様そのもので、改めて慄いた。
1~3月の関東公演、待ちかねているファンは私の周囲にも大勢。
⇒当時の記事

玄海竜二一座「天竜親恋鴉」
2014.8.3 夜の部@浪速クラブ


玄海竜二座長(2014/8/3)


この方が、もう座長としては引退だなんて。
玄海竜二座長を観られるのは最初で最後かもしれないと、大阪まで駆けつけた。
『天竜親恋鴉』の終盤、芝居を締めるように、ぽつりぽつり零された言葉。
「あっしはやくざでござんす」
「仁義を切りやす」
「親もおりません。親という名のつく者は一人もおりません」
一音一音に、微かな哀しみが尾を引く。
「裏街道を歩きながらも、表街道を歩きたいと…自分の信じる正義を刻みながら、一つ一つ…生きておりやす」
玄海さんのセリフ回し、間…まさに匠の技を見るような心持ちだった。
⇒当時の記事

橘劇団「鶴八鶴次郎」
2014.8.23 昼の部@浅草木馬館


橘大五郎座長(2014/8/23)


きっと多くの東京の大衆演劇ファンにとって、今年のニュースの一つなのじゃないかな。
名高い橘劇団の、木馬館・篠原演芸場、初公演!
稽古の跡が滲むような舞踊も凄かったけれど、なんと言っても芝居。
8月木馬、9月篠原――“通いたい”劇団が東京にいることの幸せを噛みしめた。
『鶴八鶴次郎』は、私の2年半の大衆演劇歴の中で、一番完璧な芝居だったのじゃないだろうか。
幼馴染の鶴次郎(橘大五郎座長)と鶴八(小月きよみさん)の、恋と芸を巡るお話。
ラスト、縋りつくように鶴八の三味線を抱きしめる鶴次郎の姿が、切なかった。
来年の8月木馬、9月篠原公演も早々に決まったという。
大衆演劇界に、大きな変革の歯車が、回り出した音を聞く。
⇒当時の記事

橘劇団「お化け月夜は妻恋宿の留八」
2014.9.27@篠原演芸場


橘小次郎さん(2014/9/27)


橘小次郎さんの芝居は、本当に見事だった。
『お化け月夜は妻恋宿の留八』では、化け物面になった弟分を、庇護する兄貴分の役。
「さ、留八、家に帰ろう。ちょいと待ってなよ?ん?」
小次郎さんの表情・仕草一つ一つに、弟分への情愛が脈打つ。
けれど、情がどろりと濃いのに、残らないでスッと引く。
「留、俺が今から行って、提灯を全部消してきてやるから」
晴れた口調と笑顔で、場の空気を調える。
この絶妙なバランスの芝居が観たくって、9月の篠原には随分通った。
小次郎さんは、日によって芝居に出たり出なかったりなので、当たったときの喜びは倍増。
⇒当時の記事

どの舞台景色も、思い返すたびに、体の底で鮮やかな色を結ぶ。

お次は、喜劇編です。

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