橘劇団お芝居「小町やくざ」&たくさんの“誰か”への感謝をこめて

2014.9.28(千秋楽) 夜の部@篠原演芸場

10月も3分の1を過ぎてしまったけど。
いまだ私は、体半分くらい9月の余韻の中におります…。

千秋楽の夜のお外題は「小町やくざ」だった(ハイセンスな外題!)。
大五郎さん演じる青年が、美しい娘“お染”に化けて、
やくざの親分を騙して人助けをする、痛快なお話。
客席の大多数が一番見たがっている、橘大五郎の女形を、最後に存分に見せてくれた。

…が、美しい大五郎さんと同じくらい、もしやそれ以上。
私が釘付けになったのは、水城新吾さんだ。

水城新吾さん(千秋楽は個人舞踊がなかったので9/27舞踊ショーより)


水城さんの舞踊は、「男はつらいよ」のテーマとか、前川清の「昔があるから」とか、自分のイメージを知り尽くした選曲に唸る。
一方で、情けがジュッと染み出るこの方のお芝居が、私は大好きだ。

「小町やくざ」の水城さんは、悪役のやくざの親分。
親分は、茶店のおみつ(三條ゆきえさん)に惚れている。
子分たちに命じて、おみつを自分の家にさらって来てしまう。

風神雷神の描かれた屏風を背に、子分たちを集めて、話し合う場面のユルさが面白い。
水城さんは独特ののんきな声で、順に子分の言葉を聞いていく。
「うむ、なるほど、で、…裕太郎、お前は?」
と問う先は、後ろ。
「親分、それ絵です。風神です」
「何?だって裕太郎そっくりだぞ、お前。この顔のでかさ!」
「…まさか風神雷神に間違えられるとは…」
「で、なんだね風神くん」
「俺が裕太郎です!親分の後ろのが絵です。風神です!」
屏風の絵とか、予想外なところから笑いが降って来た…。
裕太郎さん自身も不意打ちに驚いてたみたいだし、子分役の一人だった小次郎さんも、本気で笑っていた。

親分のところに、おみつを救出するため、お染=大五郎さんがやってくる。
「年期が明けたら、あたしのこと女房にしてくれるって、約束したじゃありませんか。親分さん、忘れちゃったんですか…?」
お染の涙混じりのでまかせに、親分はコロッと引っかかって、
「そうだったなぁ、いや悪かった、お染ちゃん」
でろでろ笑み崩れる様が、なんだか可愛い。
水城さんの笑顔は、あの細い目をさらに細めて、喜色の中に埋もれるようだ。

そのうち子分の一人が、どうもお染は男ではないかと気づく。
「親分、てぇへんだ、てぇへんだ!」
子分の慌てた声に、水城さんはきりっと返す。
「底辺かける高さ割る二!三角形の面積!」
ナンセンス極まりないギャグに、場内爆笑。

笑いの質が自由自在だ。
水城さんは、ただ面白そうと思ったことを、思いつくままに口にしているように見える。
実際は、芸人の体に刻みこまれた測りが、客席の呼吸を読みとっているのだろうけど。
芝居中、バナナを食べているお客さんを見つけて、
「バナナなんてそんなバナナ!」
とか寒すぎるのに、なんで水城さんだとこんなに笑えるのか。
隣の女性客も、「寒っ」と言いながら爆笑していた。
風貌から滲むユーモラスな雰囲気が、舞台と客席を取り巻く。

芝居の最後に、菊太郎総座長演じる清水次郎長が登場する。
水城さんは慄いて腰を抜かし、
「ええ、あなたが、あの有名な…!」
一呼吸置いて、
「自分に甘く他人に厳しいという、あの方ですか!」
芝居とはいえ、こんなこと水城さん以外に誰が言えようか…!

日によって、凄まじい技巧の芝居を見せてくれたり、やたら噛んでいた日もあったり。
そんなところがまた人間くさくて、この役者さんはベテラン勢の中でも、とかく魅力的だ。
来年の再会まで、どうかお元気で。

そして橘劇団最後の記事には、やっぱりこの方のお写真を載せずにおれない。

橘大五郎座長(9/27舞踊ショーより)


「小町やくざ」での、お染のぶりっこ仕草は、大五郎さんならではの絶妙な愛らしさ。
「お染、悲しい…」とか「もう、お染のバカ、バカ」とか。
高い女形の声に、あざとさと可愛さが炸裂して、可愛い~っ!と歓声が上がっていた。

本来の巡業コースだったら、橘劇団は木馬館・篠原演芸場にのることはなかった。
10月現在興行中の、劇団美山・新生真芸座もそうだ。
興行の事情は知らないけど、この改革には、東京大衆演劇協会の内外部で、多くの人が働きかけたのだろう。

規定の何かを変えるって、想像を絶する大変さだろうな。
トラブルは?リスクは?責任は?
おそらく、反対意見もたくさんあって。

でも、客席には顔が見えないけれど、誰かが提案してくれた。
誰かが、しんどい反対を乗りきってくれた。
最終的に決断してくれたのは、やっぱり篠原会長なんだろうか。

たくさんの“誰か”がいなければ。
私は、橘劇団の完成された「鶴八鶴次郎」にも、幸せな笑いに満ちた「出世の茶碗」にも、頭が激震した「夜叉のように」にも、出会えることはなかった。
本当に、ありがとうございます。

すでに、来年はあそこが木馬初乗りらしいとか、ちらほら耳に届く噂話もあって。
東京の大衆演劇に、新しい風が吹いている感じがする。

この東京で、次はどんな役者さんに、どんな芝居に出会おうか。

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