橘菊太郎劇団お芝居「お化け月夜は妻恋宿の留八」・1

2014.9.27 昼の部@篠原演芸場

「愛しい恋しい嬢さん抱いて、情炎地獄へ…!」
幕が閉まる直前。
恨みを果たした後、大五郎さんから、毒がしゅるりと抜ける。

この芝居は、外題は違えど、色んな劇団で見かける。
あの、“男がお嬢さんと祝言の約束をするも、火事で顔に大火傷を負って、化け物と疎まれ、破談にされる”話だ。

男が苛め抜かれた末の、爆発する恨みが見どころ…だと思っていたけど。
大五郎さんは、最後に狂気を手放し、泣きそうにお嬢さんを見つめる。

橘大五郎座長(当日舞踊ショーより)

↑この方の女形は、艶やかなだけじゃなく、上澄みに情の濃さが乗る。

火事で火傷を負う前の、平穏な風景が丁寧に描かれるのが切ない。
優しく、親思いで、やや甘え気性の、留八(橘大五郎座長)の短い幸せ。

「俺とお嬢さんが夫婦かぁ~…!」
留八は、三吉一家に加わったばかりの若衆。
座布団に背を丸めて、ニヤニヤ喜色を浮かべている。
恋焦がれたお嬢さん(三條ゆきえさん)との縁談話が決まったのだ。
親分(水城新吾さん)からも、「気に入った、頼む、ぜひ娘と一緒になってくれ」と太鼓判を押された。

留八は、慕っている兄貴分・流れ星の源太(橘小次郎さん)がやって来たのを捕まえて、浮かれた調子で頼みごとをする。
「なぁ兄貴、仲人の件だけど…」
「ああ任しとけ、俺がどこぞの親分にちゃんと頼んでやるよ」
「違うよ。俺は源太の兄貴に、俺とお嬢さんの仲人をしてほしいんだよ」
留八の懇願ぶりが、素直な性格を伝えてくれる。
真摯な留八を見て、ためらっていた源太もついに、
「可愛い弟分の頼みだ…しょうがねぇなあ」
と苦笑する。

脱線するけど、大五郎さんと小次郎さんの会話のテンポが、抜群に噛み合うことに驚いた。
少年の甘さを残した、大五郎さんの声。
「俺がこの一家に来たのは、源太の兄貴が連れて来てくれたからだろ、お嬢さんとの縁も、源太の兄貴がいなきゃ何もなかったんじゃねえか」
そこに重なる、体の深みから響く、小次郎さんの声。
「そりゃそうだが、それとこれとは話が別だ。祝言なら、どこぞの親分が仲人をしねえと格好がつかねえだろう」
二つの声が、互いを追いかけて滑って行く。
シャン!と水を張った、やくざ言葉の応酬が、聞いていて本当に心地良かった。

さて、留八は、体中に喜びを弾けさせて走って行く。
「こんなめでたい話、早くおっかあに知らせてやりてえ!」
病がちの母(小月きよみさん)のことも、「一家で面倒を見てやる」と親分が約束してくれたのだ。

いっぱい、いっぱいの幸福はすべて、火の中に燃え落ちる。
付け火で三吉一家は火事になり、留八は命がけで、親分とお嬢さんを救い出す。
だが顔の右半分に、ひどい火傷を負った。
――化け物!
留八に返される手のひらは、あまりに冷たい。

“どうか婿になってくれ”と頭を下げた親分は、こう吐き捨てる。
「お前みたいな化け物には、何の用もないんだよ」
“留八さん”と照れていたお嬢さんは、留八の頭から酒を浴びせる。
「お酒を飲みに来たんでしょ。飲ませてあげるわよ。さっさと帰りなさい、化け物」

お嬢さんは、若衆の一人・文太郎(橘良二副座長)と祝言を挙げた。
皆が宴に行ってしまい、無人になった祝言の席で。
留八は、花婿の席にそっと座る。
暗がりの中、空っぽの花嫁の席と、交わす盃。
――あるはずだった未来は、ほんの半時の火事に焼け消えた。
片手が弱々しく、右頬の火傷を覆う。
喪失と交わす、ひとりきりの盃。

場を裂くように、お嬢さんと文太郎を祝う声が響きわたる。
「おめでとうございます!」
留八に、狂気が落ちたと思った。
花道の端に膝をついて。
頭を抱え、耳を押さえて。
目だけが爛々と、声のしたほうを振り返る。
舞台は一切の無音。

観客席の視線は、うずくまった大五郎さん一人に注がれている。
目が離せなかった。
凍りついていた留八の顔は、獰猛に歪んでいく。
悲嘆から身を引き剥がし、留八の心が向かう先は、恨み。

大五郎さんの姿を、濃い影が覆う。
心の歯止めを失った留八は、憎い一家の連中を待ち伏せし、皆殺しにする。
お嬢さんの遺骸を抱いて、自分の腹に刀を突き立て、果てていく。

怨念に尽きる終焉と思いきや。
絶命していく留八の顔つきに、衝かれた。
“俺とお嬢さんが夫婦かぁ~…!”
序盤に見せていた、優しく、親思いで、やや甘え性の、あの顔に戻っていた。

どうして、こんな地獄に陥ってしまったのだろう。
どうして、幸福の中にいたはずの者が。
どうして…

降りる幕の向こう、訴えるかのような大五郎さんの悲痛なまなざしが、目に焼きついている。

この芝居では、念願の橘小次郎さんのガッツリした演技を見られた。
次の記事で書きたいだけ語ります。

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