橘菊太郎劇団お芝居「出世の茶碗」

2014.9.13 夜の部@篠原演芸場

騒いで、はしゃぎまわって、びぃびぃ泣いて。
喜も怒も哀も楽もナンセンスなくらいに一杯で、でもやっぱり最後は「良い話」!
そんな人情喜劇が、私は一番好きだ。
「この芝居、あんた好きでしょ、絶対」
「出世の茶碗」の幕が閉まった途端、一緒に見ていた相手に言われた。
好み、ど真ん中です。

能天気な芝居の中に、切れる美貌が一点。
橘良二さんのポーカーフェイスを見ていると、なんだろう、こみ上げる独特の面白さがある。

橘良二さん(当日個人舞踊「惚れ神」より)


↑一筆書きのような目鼻立ちの流線は、舞台で見ると本当に映える。
イケメンとか通り越して、“きれいな生き物”という印象だ。

「出世の茶碗」の主人公は、田舎で茶屋を営むおじいさん・亀(橘大五郎座長)。
亀の茶屋に、行き倒れ寸前の旅の兄弟が辿り着く。
「さ、あと一つ山を越えれば江戸だ、もう少しだ」
兄・松吉(橘良二副座長)が、懸命に励ますも。
「兄さん、駄目だ、お腹が減って…一歩も動けないよ」
弟・松之助(橘裕太郎さん)は、力なくその場にへたりこむ。
亀は、ツギハギだらけのボロを着ているわりに、品のある兄弟だと訝る。

「何かわけがありそうじゃな、よければそのわけ、話してみんか」
亀の言葉に、松吉は「聞いてくださいますか…」と応じる。
このときの良二さんは、茶店の縁台に腰かけて、大五郎さんをまっすぐ見つめる。
結ばれる横顔と、しゃんと伸びた背筋。
どっかの貴族みたいな姿なのに。
身を包むのはボロの着物。
さらに頭を包む、妙に間抜けなほっかむり。
そのギャップに、思わず噴き出しそうになる。
「おこもさんと思われるのも無理はありませんが、私たちはおこもさんではないのです」
いや、こんな気品に満ちたおこもさんはいないよ!

「私たち兄弟は、越前高田の松前屋の息子なのです」
「え?!わしでも知っとる…あの大店の?!」
驚く亀に、松吉は頷く。
兄弟は、父の死後、奉公人が散り散りになったため、いっそ江戸へ出て一旗あげようと店を畳んだ。
が、旅の途中、全財産を盗まれた。
二人とも、もう何日も食べていないという。

亀はすっかり同情し、文無しの兄弟に、うどんを振る舞う。
「うどんの代金は要らん、出世払いにしよう。お前さんたちが出世したそのときに返しとくれ」
ここに続く、うどんを食べるシーンが、個人的には秀逸だった。

縁台に良二さん・裕太郎さんが並んで座り。
飢えた兄弟らしく、本物のうどんを、ひたすら貪る。
「さぁ、どんどん食べとくれ!次持ってくるから!」
大五郎さんが、うどんの入った器を、奥から次々持って来て。
良二さんと裕太郎さんのお碗に、どんどかどんどか、うどんを追加していく。
二人とも、かなりのハイスピードで食べるも。
「ほい次!いっぱい食べとくれ!」
空になったと思ったら、放り込まれる次のうどん。

けたたましい場面なのに、良二さんの食べ方のエレガントっぷりに、私は爆笑だった。
体を正面に向けて、お椀を丁寧に抱えて、箸使いも滑らかに。
淡々とした視線をつゆの中に落とし、麺を口に運ぶ。
眉一つ動かさず、生花でもやるみたいな風情で。
黙々と、うどん。
ひたすら、うどん。

ギャップは爆発力だ。
三枚目芝居の空気から、ひとつ突出する、クールな美しさ。
良二さんが、絹でも扱うかのごとく、ボロの着物をさする。
「この着物は、裸だった私たちをかわいそうに思った親切な人が、恵んでくださったのです」
美貌と言動のズレが効く。
普通のセリフでも良二さんが言うと、おかしくってしょうがない。

ようやくうどんを食べ終わったところに、亀の女房の鶴(小月きよみさん)が帰って来る。
「あんた、またお金もらわずに食べさせたりして!うちは商売なのよ」
咎める鶴に、亀は言い返す。
「ええんじゃ、出世払いにしたんじゃ!」
「見てみい!二人とも、腹いっぱいになったところで、働く意欲が顔に溢れとるじゃろ」
亀に指さされて、きりっと見つめ返す松吉。
松吉の位置はちょうど舞台真ん中、よけいに際だつ華のかんばせ。
お雛様の壇の一番上から降りてきたような姿で、口を開けば、
「これから一生懸命働いて、必ず恩をお返しいたします」。
…やっぱり、じわじわおかしい(笑)

橘劇団・副座長は、芝居での小気味いい声が素敵な一方で。
私は、三枚目喜劇と良二さんの組み合わせが、目下一番気になっています。

それにしても、「出世の茶碗」という題名が好きだ。
「出世」って言葉に乗っかった、健やかな上昇願望を。
「茶碗」って言葉の呑気さが、ほのぼのと受け止める。
お芝居に描かれるにぎやかな風景、亀や松吉の温情を、題名が想像させてくれる。
今年見た大衆演劇の喜劇の中でも、とびきり好きな一本になった。

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コメント

へええ、いいお話ですねえ
こういう芝居もあるのですね
橘題五郎といえば、超有名ですが、お爺さんの役もやるのですね
さすが座長
上品な橘良二さんの絵も浮かぶようでした

以前の舞踊に関するコメントも、参考になりました
ありがとうございます

>山口ジジイ様

大五郎さんは三枚目でも抜群にうまかったです!
どこから見てもおじいちゃんになりきって、気取りゼロで演じられてました。
女形の美しさが有名ですが、元気な若者だったり、変顔メイクで三枚目だったり、色んな顔を見せてくれます。

こちらこそ、読んでいただいて褒めていただいて、とても励みになっています。
ありがとうございます♪

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