橘菊太郎劇団お芝居「鶴八鶴次郎」・1

2014.8.23 夜の部@浅草木馬館

さよなら。
さよなら。
大好きな幼馴染に、さよなら。
二人の芸が紡いだ夢に、さよなら。

鶴次郎(橘大五郎座長)が、縋りつくように、三味線を抱きしめてつぶやく。
「お豊ちゃん…」
三味線を置いていったのは、相方の鶴八(小月きよみさん)。
二人が小さな頃からの、たくさんの笑い、たくさんの喧嘩に、今日でお別れ。

一編の映画のような、完璧な芝居を見たと思った。
ただの数秒もダレない、無駄がない。
「お豊ちゃんにあんな演奏をされたんじゃ、一緒に出てる俺が困るんだよ」
「何よ、もう絶対、鶴次郎さんと一緒にはやらない!」
大五郎さんときよみさんのイキイキしたやり取りが、思い出すだに耳に弾む。

橘大五郎座長(当日舞踊ショーより)


小月きよみさん(当日舞踊ショーより)


きよみさん演じる曲師・鶴八と、大五郎さん演じる講談師・鶴次郎。
鶴次郎が鶴八の母の弟子だった縁で、二人は幼馴染だ。
鶴八鶴次郎の名で、名コンビとして人気を集めている。

だが、楽屋に戻れば大喧嘩。
「今日な、一か所だけおかしいところがあった。ほら、俺が唄ってて、三味線に入るくだりだよ。お豊ちゃん(鶴八の本名)、曲に入るのが早すぎるんだよ。もっとたっぷり客に唄を聴かせてから、ゆっくり入るのがいいんだよ。亡くなった師匠は、ゆっくり弾いてたぜ」
鶴次郎に言われれば、気の強い鶴八もカチンとくる。
「どうせあたしは、おっかさんみたいな名人じゃありませんよ。もう、鶴次郎さんとは二度と一緒に出ない!」
と啖呵を切ったところで。

番頭の佐平(橘小次郎さん)に、「二人とも、落ちついてくださいよ」と困り顔を向けられたり。
旦那(水城新吾さん)に、「お前たち二人とも大人になれ。お客は、鶴八鶴次郎の息の合った芸が見たいんだ」とたしなめられたりで。
しぶしぶ揃って舞台に出れば、お客の拍手を浴びて、今度はほくほく笑顔で楽屋に戻って来る。
「ねえ、鶴次郎さん、こんな風に二人の呼吸がぴたっと合って、弾けたことってないわね」
「ああ、一緒にやってて気持ち良かった!」
「さっきはごめんなさいね。あたし、言い過ぎたわ」
「いやいや、さっきは俺が悪かったんだって」
毎日がこんな調子で、周囲は呆れながらも、微笑ましく見守っている。

序幕で、鶴八・鶴次郎のなんとも甘酸っぱい関係性が、時間を割いて描き出される。
きよみさんの鶴八は、芯が強く、懸命に気を張って生きている姿が可愛い。
大五郎さんの鶴次郎は、軽口をすぐに叩くけど、根っこが純粋そうだ。

鶴八と鶴次郎は、鶴八の母の納骨をきっかけに、互いの思いを告白する。
「鶴次郎さん、おじいさんとおばあさんが、見てるわよ…」
「かまうもんかい!」
と、大五郎さんがきよみさんを抱きしめる、少女漫画ばりのシーンが挿入されたりして。

けれど、幸せな未来を損ねたのは、鶴次郎の短気だった。
以前鶴八に言い寄っていた料亭の息子(橘良二副座長)が会いに来たことに、烈火のごとく怒る。
鶴八が、彼に気を残していると疑い、鶴八を鋭くにらみつけて。
「お豊ちゃん、二度と会わねえよ…」
と、全てを捨てて立ち去ってしまう。

二人の再会は、二年後。
佐平の計らいで、鶴八鶴次郎の復活公演が実現する。
壁に並んだ大入り袋に、誰より目をきらきらさせていたのは、鶴八だった。
鶴八は料亭の息子と結婚し、大きな料亭の女将になっていた。
二年ぶりに客席の喝采を浴びて、芸人の喜びを思い出したのだ。
「ねえ鶴次郎さん、このままずっと出ようよ。丸の内のホールだって、どこだって、二人ならやれるわ」

けれど、鶴次郎は凍てついた目で口を開く。
「おい、お豊ちゃん、今日のくだりで一か所だけ、おかしいところがあった…」
言葉は昔の喧嘩と同じでも、違う。
「やっぱり、二年も間が空いてりゃ、無理なんだよ。お客にだってすぐにわかっちまうぜ」
冷たいまなざしが、二年前とは違う。
鶴八が泣き崩れて出ていくまで、罵倒は続いた。

なぜあんなことを、と掴みかからんばかりの佐平に、鶴次郎は語る。
「俺はこの二年で、場末の小屋を転々とするうちに、芸人の世界ってのがつくづく嫌になっちまった。盛りを過ぎた芸人の惨めさっていったらない」
「お豊ちゃんは、このまま料亭の女将をやっていれば、普通の女の幸せを手に入れられるんだ。そのほうがよっぽどいいじゃねえか…」

ひとりになった鶴次郎は、そっと鶴八の三味線を抱きしめる。
万感の思いを込めて、何度も呼んだ名前を、もう一度。
――お豊ちゃん。
想い続けた人には、穏やかな幸せを送った。
その傍らに、自分はいなくとも。

暗い舞台のスポットライトが、三味線を抱える大五郎さんを照らし出す。
歳月を、全身で噛みしめているような絵が、胸を衝いた。
この前週の「明治一代女」同様、みずみずしいロマンチックな演出が本当に映える。

大五郎さん・きよみさんの主人公二人がすごいのはもちろんだけど。
他の座員さん全員が、ぱちっとパズルのように要所にハマっているからこそ、完璧な芝居だったと思うのだ。
そんなわけで、続きます。

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