橘菊太郎劇団お芝居「明治一代女」&嬉しそうな木馬館の話

2014.8.17 昼の部@浅草木馬館

みんなの興味を一身に集めて、“橘さん”はやってきた。

「木馬、ホントに来るんだって。8月!」
「あたしね、大勝館で見てたのよ。それ以来、何年ぶりだろ」

まだ寒い季節から、ちらりと噂は耳にしていた。
暖かくなるにつれて、客席の声は浮足立ってきた。
8月に入った途端、Twitterのタイムラインが、次々と観劇報告の写真で埋まった。

木馬館に、あの橘大五郎が初乗り!
従来の公演コースから言えば、革命みたいなものらしい。
「すごいことです」
深く頷く人がいた。

写真・橘大五郎座長(当日舞踊ショーより)


8月前半を大阪和歌山遠征に費やしたので、私がようやく見に行けたのは8/17(日) だったのだけど。
それまでに、友人達から聞いていた評判がすごかった。
芝居が本格的、演技のうまいベテラン勢が揃っている、踊りは若い座員さんも全員上手、大五郎座長の気さくなキャラがいい…
ホントに、そんなオールマイティーな劇団があるんだろうか?
実際、自分の目で見てみた。
――ホントだったよ!

お芝居「明治一代女」は、大五郎座長が全て演出したとのことだった。
芸者・叶家お梅(橘大五郎座長)は、役者・沢村仙枝(橘良二副座長)を愛するあまり、仙枝との別れを迫る箱屋・巳之吉(橘小次郎さん)を刺し殺してしまう。

「明治一代女」って、お梅の愛ゆえの業の深さとか、巳之吉の社会的低層で身をよじるルサンチマンとかが、ドロドロともつれているお話だと、これまで思っていたのだけど。
大五郎さんのそれは、清冽なラブストーリーだった。

冒頭の場面から、茶屋の一室での、二人の逢引きシーン。
大五郎さんのお梅が、スッと几帳を引くと、うたた寝している良二さんの仙枝が現れる。
「どうかしたのか、お梅?」
「あら、起きていなすったんですか」
なんでもない会話にも、ほのかな睦みが香る。

大五郎さんの女形芝居の艶はもちろん。
個人的には、仙枝役の良二さんの一つ一つの仕草が焼きついた。
このラブストーリー的演出が映えるのは、副座長さんの凄まじい美貌あってこそな気がする。

写真・橘良二副座長(当日舞踊ショーより)


なんだ…この方…
雛人形のお内裏様が、人間に変化したようなお顔立ちだ。
「悪い噂なんて気にすることはない、言いたい奴には言わせておけばいい」
言いながら、机に頬杖ついて、涼しげにお梅を見やる風情。
細く切れる目線がもの言いたげで、吸われるように見つめてしまう。

それから、軽みのある声も良い。
お梅を待つ仙枝と、茶屋で働く娘たちがお喋りする場面がある(娘の一人は三條ゆきえさん、もう一方は申し訳ないことにお名前わからず…)。
仙枝は娘たちをからかって、
「お前たち、私に歌舞伎の型を習いたいって?じゃあ何か、知っている型をやってみるといい。何ならできるんだ」
副座長さんの声、音が小気味よく切れるのに、ふわりと宙に遊ぶ軽さがあるのだ。

娘たちは、「橘良二さんの真似ならできます!」と、良二さんの「カッコつけた舞踊」の真似をしてみせる(笑)。
「へえ、その良二さんってのは、そんな風にするのかい」
と、ご本人はおかしそうに口元をほころばせながら、あくまで冷静。
役者って言葉のイメージそのもの、だなぁ。

お梅と仙枝の見せ場は、ラスト。
巳之吉を殺してしまったお梅は、必死に警察から隠れ、仙枝の公演先の劇場を訪れる。
中へかくまおうとする仙枝を振り切って、お梅は地に指を突く。
艶然と微笑んで、仙枝を見つめる。
「いってらっしゃいませ…」
大五郎さんの表情に浮かぶのは、諦念、哀しみ、それから尽きることない愛情。
この後、お梅には鉄格子が待っている。
一緒になることのなかった二人の、最初で最後の、夫婦の真似ごと。

続く場面はさらに悲しい、加えて美しい。
舞台にはお梅一人が残され、明かりが全て消える。
ひとつだけ、ぼんやりした照明があるのは、舞台端にセットされた劇場の入り口。
そこから、仙枝を迎える客席の、万雷の拍手が聞こえて来る。
今日は、仙枝の襲名披露公演だ。

お梅は劇場の入り口に立って、そっと暗がりから、恋人の晴れ舞台を見つめる。
ぱち、ぱち、ぱち、ぱち。
ただ一つの望みに、たった一つの光に、消え入りそうな拍手が送られる。

若々しい、甘やかな演出がたっぷり。
27歳の大スターは、もしかするとロマンチストでいらっしゃるのかな。

一緒に見ていた大学時代の友人は、これまで何回か観劇の誘いにつきあってくれた。
感性の鋭い彼女が、メールで感想をくれた。
「今まで見た中で一番感動したし、綺麗だなーっ!っておもったよー」
名高い“橘さん”。
バランスが取れた構成は、老若男女、誰が見てもお腹いっぱいになれる。
男性客も、ちょっと驚くくらい多かった。

通路に補助席が二列(!)に並んでいる木馬館なんて、もしかしたら初めて見るんじゃないだろうか?
盛夏の小屋は、とても嬉しそうだった。

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