たつみ演劇BOXお芝居「高崎情話」

2014.7.21 昼の部@八尾グランドホテル

兄弟は、敵に囲まれ、四方から刃を向けられている。
兄(小泉たつみ座長)は、ひとりで、多勢相手に刀をかざす。
だが、目の見えない弟(小泉ダイヤ座長)は、周りの空気に気づかずに三味線を弾く。
「続けろ、いいぞ、そのまま」
兄は弟に何も勘づかせまいと、斬り合いの中で声をかける。

しゃんしゃんと三味の音響く中。
ひらひらと立ち回り。
死を予感した、立ち回り。
「いいぞ、いいぞ…」
たつみさんの刀の一振り一振りから、弟への愛情が散る。

写真・小泉たつみ座長(当日舞踊ショーより)


写真・小泉ダイヤ座長(当日舞踊ショーより)


たつみ演劇BOXのお芝居で、最もぼろぼろと涙したのは「明治一代女」。
辰巳小龍さんの熱演を、昨年7月浅草木馬館で見た。
終演後何時間経っても、衝撃が冷めることなく、恍惚の気持ちで雨上がりの浅草を歩いたのを覚えている。
その胸の揺さぶりの大きさに迫っているのが、八尾グランドホテルで見てきたばかりの「高崎情話」!

生き別れの兄弟をめぐるお話だ。
たつみさんは旅の渡世人(劇中で「彦さん」と呼ばれているけど正確な役名はわからない)。
茶店で、盲目の三味線弾きの師弟(ダイヤさん・愛飢男さん)と出会う。
二人の団子を、たつみさんはペロリと盗み食いしてしまう。
愛さん演じる師匠は、弟子が嘘をついて団子を食べたと思い込み、激怒する。

師匠が怒りにまかせて立ち去った後、ダイヤさん演じる弟子は、悲痛に地面に伏せる。
「私はこのままではお師匠様に捨てられてしまう、また捨てられてしまいます」
「私は実は幼い頃、兄にも捨てられたのです」
事情を聞くうち、渡世人は、この盲目の三味線弾きが、十歳のとき寺に置き去りにした弟・定吉だと気づく。

定吉は、口元をほころばせ、ささやかな出世を思い描く。
「貴方様は知らぬことでしょうが、私たち盲人にも位がありまして、座頭、勾当、別当、そして一番上が検校様です」
「ま、検校様はさすがに無理でしょうが…お師匠様と二人、江戸へ出てお金を溜めて、お師匠様に別当か勾当あたりになっていただいて、私がその跡を継ぐんです」
目の見えない定吉にとって、それがたった一つの夢。

だから兄は、噛みしめるように決意を呟く。
「俺は、百両稼がなきゃならねえ。絶対に、命に代えても、あいつに百両渡してやらなきゃならねえんだ」
百両とは、弟とその師匠が、江戸へ出て位を買うためのお金。
たつみさんの表情が、飄々とした渡世人から、“兄”の顔つきになる。

光を見ない弟への愛しさのため。
かつて置き去りにした、小さな手への償いのため。
兄は、決死の思いで百両を稼ぐ。
無鉄砲な博打で、地元のやくざ一家の恨みを買うことになっても。

「高崎情話」はなんと言っても、クライマックスの場面が凄絶だ。
百両を手にし、いよいよ弟を送り出そうというときに。
地元のやくざ一家の親分(宝良典さん)が、若衆を引き連れて、兄弟を取り囲む。
兄に悪巧みを邪魔されたことと、賭場を荒らされたことで、恨みに思っていたのだ。

けれど、定吉は状況がわからない。
刃をいくつ向けられても、その眼には映らない。
兄は、安らかな声で告げる。
「お前の三味線を聴かせてほしいんだ。今、聴かせてくんねえかな」
定吉は素直に腰かけ、かついでいた三味線を弾き始める。
すぐ眼前で、兄が複数と斬り合っていることなど、気づくわけもなく。

「いいぞ、そのまま続けろ」
弦の音で、刀と刀がぶつかりあう音が、かき消される。
兄がひとり、刀をかざして、自分を守ろうとしている姿を、見るすべもなく。

そして斬り合いが終わったとき、兄は致命傷を負っていた。
崩れそうになる身体を無理に起こして、声を絞り出す。
「なあ、悪ぃけど、俺はちょっとここから先は一緒に行けない理由ができちまった。ここから先は、お前一人で行ってくれねえかな」
兄の心を汲んで、旧知の鳥追い女(辰巳小龍さん)が、弟を無事に送り届けると言う。

去っていく弟に、渾身の力で立ち上がり、兄は最後の言葉を送る。
「出世しろよ」
「偉くなれよ」
「検校様に、なるんだぞ…」
たつみさんの目が、潤みを帯びて光っている。

私は二列目だったけれど、前のお客さんもみんな涙をぬぐっていた。
涙でぼやける視界の中、真正面を向いたたつみさんが、静かに事切れていく。
「定吉、定吉ぃ、さ…」
言葉が出なくなり、喉に指が這って。
人形のねじが止まるように、ぷつりと、動かなくなる。

小泉たつみ座長、33歳。
綺麗な座長さんで、綺麗な舞台を作る方という印象が強かったのだけど。
すごい芸の力を腹の底に持っているのだと、思い知らされた。
とたつみさんファンの連れに言ったら、
「あんた今頃気づいたの?! たつみさんは元々お芝居うまいのよ!」
…さいですか(笑)

これから年月を重ねて、身の内に情を折り重ねて。
深い、じとっと肌に吸いつくようなお芝居を見せてくれるようになるんじゃないかな。
そうなられると嬉しいな。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト

コメント

さすが!

いつもながら素晴らしい洞察力ですね(^-^)v

お萩さんのブログも本になるといいな♪

Re: さすが!

>Key♪様

いつもありがとうございます♪
高崎情話、三味線が鳴る中での立ち回りが、“絵”として完璧なお芝居でした!

ブログ書籍化…夢のような言葉ですね(*´∀`*)
形にできるかはともかく、大衆演劇について何か書くことはずーっとやっていきたいと思っています。
またKey♪さんに喜んでいただける文章が書けたら嬉しいです!

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)