桜春之丞座長 個人舞踊「化粧」(劇団花吹雪)

2014.7.13 夜の部@三吉演芸場

――バカだね バカだね バカだね あたし
愛してほしいと 思ったなんて――


普段華やかな座長さんが、心破れて泣く様は。
憐れさ極まって、客席で同時に涙してしまった。

写真・桜春之丞座長「化粧」より


物語に入りこむ系の舞踊は、大好き。
役者さんの創る世界に引き込まれて、心が冴え冴えとする。

中でも春之丞さんの「化粧」は、去年の1月に見てから忘れられなかった一本だ。
だから三吉演芸場で曲名がアナウンスされたときは、「これすごいよ!」と隣の連れの肩を叩いた。
(敬愛する中島みゆきさんの曲だから、というのもある。劇団花吹雪では中島みゆき、よくかかる気がする。みゆきさんファンがいらっしゃるのかな)

曲が始まると、春之丞さんは客席から登場して、通路をゆっくり通り抜けた。
物語らず、温度を消した表情で、客席を眺めてから、舞台に上がる。

――化粧なんて どうでもいいと思ってきたけれど
せめて 今夜だけでも きれいになりたい――


曲の中で演じられるのは、去られた女。
取り残された女。
墨色の着物に、儚い花が咲いている。

まず、真顔でじっと客席の上のほうの空間を見つめて。
舞台に熱が集まってから、少しずつ、感情を表していく。
悲しげな微笑だったり、不安に慄いたり。

――あたしが出した 手紙の束を返してよ
誰かと 二人で 読むのは やめてよ――


痛いくらいリアルな詞に、段々入り込んでいく。

――流れるな 涙 心でとまれ
流れるな 涙 バスが出るまで――


舞台端まで駆け寄って、去っていく“バス”を追う。
春之丞さんの視線は、客席を通り越して、遠くへ投げかけられる。
丸い大きな目が、黒々と、無心に食い入る。
“バス”の中に、心を吸い取られたみたいに。

でも、やがて見失ってしまって。
糸が切れたように、花道でよろめく。

舞台のやや左手にたたずんで。
淡々としたメロディに合わせて、歌詞をなぞって踊る。
墨色の姿が、歌の中に沈み込んで行く。
口紅の濃い赤だけが、ふいに哀しく浮き上がる。

喪失を胸に畳みこんで。
静かに顔を覆う、ひとり。

――バカだね バカだね バカのくせに――



――愛してもらえるつもりでいたなんて――



バカだね…

零れ出る情が、涙に還る。
しぼった灯りの下、情景はくらぐらと深い。

春之丞さんは、去年も今年も見るたび、眩しいスターみたいな役者さんだ。
顔も雰囲気も、私がこだわっている美声も。
華やかそのもの、春そのもの!みたいな。

でも、こんなに淋しい、とりすがるような失恋歌を表現すると、痛烈に胸に響く。
この方が手に入れられないものなんてあるのか…と思うくらいなのだけど。
さらっとやってらっしゃるけど、すごい芸の力なのだろう。

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