劇団荒城お芝居「上州土産百両首」―1・荒城勘太郎さんの牙次郎―

2014.6.7 夜の部@浅草木馬館

毎日、じめじめした天気が続きますが。
お萩は6/7(土)よりこっち、すこぶる元気です。
見たくてたまらないお外題だったのに、どの劇団さんでも当たらなかった「上州土産百両首」を、ようやく見られた感動。
そして劇団荒城さんという、新たなお芝居の扉に出会った歓び。

「あらちょっと、荒城初めてなの?ここはすごいわよ。芝居もショーも、ずば抜けて本格的だから」
木馬館で、以前からお世話になっていたご婦人と久方ぶりに再会して、言われた。
そう、私は、関東の大衆演劇ファンとしては大変恥ずかしいことに、名高い荒城さんを見るのは、実質初めて…

「上州土産百両首」は、牙次郎(荒城勘太郎若座長)と、正太郎(荒城照師後見)の兄弟の物語。
とにかく、第一に叫びたいことは、勘太郎さんの牙次郎が素晴らしかった。
「兄ちゃん、兄ちゃん」と口癖のように兄を呼ぶ声の、人懐っこさ。
その一方で、貧困を生き抜いてきた、生々しい逞しさを感じさせる。

写真・荒城勘太郎若座長(当日舞踊ショーより)


序幕は、兄弟の一年ぶりの再会。
腹ペコの牙次郎が、風呂敷包み一つ抱えて、大阪から江戸へやってくる。
スリから堅気になったはずの兄・正太郎と、一緒に暮らすためだ。

だが、待ちに待った再会は、思いがけない形に終わる。
「なぁ、牙次、もう一年だけ待ってくれ。俺は、この一年で結局スリをやめられなかった。お前との約束を果たせなかった。もう一年頑張って、今度こそ立派な堅気になってみせるから」
正太郎の言葉に、牙次郎は泣きべそをかく。
「兄ちゃん、そんなん、ひどいわ、わがまますぎるわ…また、わし一人ぼっちになってしまうやん」
だが結局折れて、
「兄ちゃん、ホントにもう一年だけやぞ。もうそれ以上、一日たりとも待てんからな」
背を向けたままの兄に、涙声で呼びかける。
「なぁ、頑張って板前になってや、体に気をつけてな、…さよなら兄ちゃん」

勘太郎さんの牙次郎には、土の香りがある。
えんじ色の着物に、汗とほこりに薄汚れた顔。
しゃくりあげるのをこらえて、全身で兄を恋しがる純粋に、胸を衝かれる。

一年後、兄弟の約束の夜。
牙次郎は十手持ちの下働きとなっていた。
その晩は、山中で捕り物があった。
「上州で人を殺めた“向こう傷の正太郎”ってのが、この峠を通るって情報があるんだ。牙次、お前どうして着いて来たんだ?危ないから、早く帰ったほうがいい」
怪訝そうな親方に、牙次郎はかたくなに言い張る。
「わし、兄ちゃん、待ってるんです。この山の中腹で会う約束なんです」

牙次郎は、親方に自分と兄の生い立ちを語り始める。
「わしと兄ちゃんは、小さい頃に二親を亡くして。兄ちゃんがわしを、親代わりになって育ててくれたんです」
「橋の下で。ずっと二人で橋の下に住んでました」
「居酒屋とか小料理屋とかの残り物をもらって食べたり、それもないときは、食べ残しのゴミを食べたりしてました」
勘太郎さんの語り方は、全く大仰でなく、泣かせようと意気込む感じもなく、ただ訥々としている。

でも、言葉の切れ目に、たしかに兄弟二人が身を寄せ合ってきた光景が浮かんでくる。
寒さ、ひもじさ、寄る辺なさ。
小さな手に握りこめた、唯一の互いの温もり。

正太郎は、役人に追われながら、それでも弟との約束のため、峠にやって来た。
罪人の“向こう傷の正太郎”というのは兄のことだと気づき、愕然とする牙次郎。
役人たちに縄打たれた兄を見て、親方に懇願する。
「縄ほどいたってください、ほどいたってください、お願いします」
「このまま、縄にかけられたまま番所に行ったら、兄ちゃん、死罪になってしまう、それだけは、どうかそれだけは」
まるで、幼子が親にしがみつくようだ。

兄ちゃん、死罪になってしまう――
唯一の肉親を、もぎ取られる痛みにわななく。
木馬館の板の上、体を丸めて号泣する勘太郎さん。
その姿から溢れる感情に打たれて、私もぽろぽろと涙していた。

小柄な体躯に、人恋しさがいっぱい詰まっている牙次郎。
このキャラクターを、心にいつまでも住まわせておけるだけで幸福だ。

一方、照師さん演じる正太郎も、思い返すたびに深みが増す。
牙次郎によって“語られる”ことを通して、正太郎の悲哀がふつふつ沸き上がって来るのだ。
というわけで正太郎の話をするために、次に続きます。

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