劇団KAZUMAお芝居「男の情炎」

2014.5.19 昼の部@やま幸

一気に逆転する。
「たった一つの宝物、あんな奴に奪われたくはなかった!」
将さんの叩きつけるようなセリフに、見ている側の心が、ひっくり返る。
劇中、将さん演じる大五郎は、卑劣な敵役の面を見せてきた。
芝居は、仁蔵(藤美一馬座長)の漢ぶりを描き、また清次(冴刃竜也さん)に同情を寄せながら進んできたのに。
終盤、吐露される大五郎の狂おしい心情が、客席を巻き込む。
「小さい頃からお嬢さんばかり見てきた…」
鬼気迫る長台詞、将さんの真骨頂。

写真・柚姫将さん(当日個人舞踊「菊一輪の骨」より)

この日はお誕生日祝いに各地からファンの方が駆けつけて、賑やかな空間だった(お誕生日に寄せてこんな文を書いた)

さて「男の情炎」という題は、色んな解釈ができそうな気がするけど。
私の中では、終盤近くの大五郎の語りにくすぶる情念と、ぴたり符合する。

主軸は、男女の三角関係だ。
竜也さん演じる旅人の清次は、紀州の夕立一家で草鞋を脱ぐ。
一家のお嬢さん(霞ゆうかさん)は清次に惚れ、清次のほうもお嬢さんを憎からず思う。
だが、代貸しの大五郎は、子どもの頃からお嬢さんが好き。
「お嬢さん、今日という今日は、どうしても俺につきあってもらいますよ」
嫌がるお嬢さんの腕を無理やり引っ張ったり、横恋慕をしている。

やがて大五郎は、お嬢さんを清次に奪われるという焦燥にかられて。
将さんの姿が、ひたひたと薄闇に紛れる。
顔を布で覆い、手にはぎらつく刃物。
憎い清次を刺して、逃げ去る。

そこまでして、お嬢さんとの祝言にこぎつけたのに。
祝言に乗り込んできた清次と、清次を保護していた仁蔵が、大五郎の犯したことを暴く。
「大五郎、お前、なんということを…!」
絶句する親分(龍美佑馬さん)や若衆みんなの前で、ただ一人、罪をさらけ出される。
将さんの紡ぐ表情に、それまで悪意に隠れていた苦悩が、浮き上がってくる。
「たしかに俺はしてはならないことをした。だが、どうか、俺の話も聞いておくんなせえ…」
祝言の袴を床に引きずり、両手をついて、語り始める。

「子どもの頃から、一家に育てられたこの俺だ、いつだって親分のために死ぬ覚悟はできている。でも、お嬢さんのことだけは違った」
「きれいな人だ、いつか俺のものにしたいと……ずっとお嬢さん一人だけを見てきた」
「以前のお嬢さんは大五郎、大五郎と俺の後をついてきたのに。清次が来てからすっかり変わっちまった。何をするにも“ねえ清さん”、どこへ行くにも“ねえ清さん”と」

このお芝居には、お嬢さん・清次・大五郎、三者の恋心が描かれるけれど。
お嬢さんの場合、自由のない生活に嫌気がさしていたところに、突如現れた涼しげな風貌の“小田原の男”にポーッとなったという要素が強いみたい。
清次との逢引き中、「小田原に帰るときはあたしも一緒に連れて行って」と頼んでいるし。

清次は清次で、「お嬢さんを慕っておりました」と告白するものの。
どちらかというと、お嬢さんに恥をかかせないためのようだ。
一家の行く末を案じた仁蔵に、「どうかお嬢さんを諦めて小田原に帰ってくれねえか」と諭されると、わりとあっさり「わかりました」と返事しているし。

でも大五郎の恋情は、掛け替えのない一人だけに、何年も注がれてきた。
震える指を一本立てて、
「たった一つの宝物、あんな奴に奪われたくはなかった!」
悲痛な眼差しがセリフと交差する。
ただ一つしか大切なものを持たない人間が、その唯一を奪われるとき。
彼のあがきは、飢餓にも似ている。

端にいる弟分(響こうたさん)に呼びかけて。
「竹!俺の気持ち、わかるよな?!」
こうたさんが顔を背けると、今度は別の弟分(KEITAさん)に、体ごと飛び出しながら縋って。
「留!なぁ、わかるよな?」
けれど、KEITAさんも視線を逸らす。
見放されて、大五郎は暗い底から見上げるように、客席正面を向く。
「お集まりの皆さまがた…」
ここ、声だけで、ぶるりと震えがきた。
将さんが伏せていた顔をあげ、恋に狂ったこの大五郎――と吠えつくように叫ぶ。

「男の情炎」は昨年10月に篠原演芸場でも観たけど、今回は、前にも増して圧倒された。
物語が、本当に心深くに落ちてきた。
…ってことをお伝えするヒマもなく、新幹線の時間に合わせて岡山駅行きバスに乗り込まざるを得なかったので、せめて感想は丹念に書いた。
遠征最終日のわたわた感は、毎度のことながら悩ましいなあ。

やま幸でも、劇団KAZUMAの客席はこの上なく温かかった(昨年の東京公演でもそんな記事を書きました)。
今回は連れが仕事で18日に帰らなければいけなかったので、途中からは一人だったのだけど、KAZUMAの客席では寂しさなんて全然感じることがなかった。

朝ごはんやコーヒータイムを一緒に囲んでくださった、常連さん達はもちろん。
「東京から来たの?私は今月2回目。前回初めて見てけっこう気に入って、今日も来たの」
初めてお話する方や、温泉に入りに来た地元の方でも。
なぜだか、あのなごんだ客席で隣り合うと、ほろりと心が通じてしまう。

「わぁ、あの花形さん、今日誕生日?きれいねえ」
隣席から、そっと話しかけてもらうと嬉しくなって。
ね、きれいですね、柚姫将さんて方なんですよ、あちらが座長さんで、隣が竜也さんで、あ、あのがっしりした方ですか?龍美佑馬さんていって、元警察官でいらっしゃるんですよ、ねぇ、びっくりですよね。
自分で答える声が、弾んだ調子なのがわかる。
幕間には、私の膝に転がって来るお菓子。
ラスクにゼリービーンズに岡山の白桃キャラメル…いずれも優しさ詰まった、格別のお味でした。

一馬座長の持つ、温もり映して。
座員お一人一人の持つ、親しみ映して。
並んだ座椅子の間、漂う空気は、やっぱり私にはどこより安らかだ。

6月、うまいこと仕事で大阪出張が入ったので。
ひと月なんてあっという間。
それでも、こうしている一日一日が待ち遠しく。
なんにしろ来月の今頃は、八尾グランドホテル編を書いていると思います。

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