春陽座お芝居「暗闇の源太」

2014.4.5 昼の部@ユラックス

2012年10月の春陽座の東京公演から、実に1年半。
ずっと、あのきれいな型のお芝居が見たいなと思っていた。
「チェックしてなかったの?4月のユラックスは春陽座だよ!」
元々4月に三重に行く予定があった私は、友人の一言で決意して。
予定を最初の土日にずらし、花金の夜、意気揚々と深夜高速バスに乗り込んだ。

ただっ広くて明るい、ユラックスの大広間。
お芝居「暗闇の源太」が始まるとすぐ、槍を持った役人たちがバタバタと舞台に走り出てきた。
澤村みさとさんに、澤村美翔さん……みんな懐かしいなあ。
そして、ざんばらの長い鬘を振り乱して、転がり出てきた影が一つ。
澤村かずま座長の大きな目が、顔に降りかかる鬘の間から、必死に辺りをうかがう。

写真・澤村かずま座長(当日個人舞踊「羅生門」より)


かずまさん演じる源太は、島抜けをした罪人で、役人に追われている。
源太は、女房が身ごもったのをきっかけに、江戸へ出稼ぎに来た。
しかし、不運な弾みで人を殺してしまい、島送りになった。
女房にも、生まれたはずの赤ん坊にも、一度も会えないまま。

そんないきさつを、源太は役人の花房(澤村心座長)に語る。
「なぜ島を逃げ出したりした?」
花房に問われると、源太の顔がくしゃりと歪む。
「ここのところ、女房のやつが、毎晩夢枕に立つんです。おまえさん、おまえさんって、哀しそうに呼ぶんです。女房と子どもの身に何かあったんじゃないか、二人に何か起きてるんじゃないかって、いても立ってもいられなくて…」
話しているうちに、悲しみが募って来たかのように、両手が空を切る。
「捕まったら死罪になるのはわかってる。だけど一目、一目でいいから二人に会いたい、そうしたら俺はもう死んだっていい!」
哀願する源太に、私は気づけば自然と共鳴していた。

かずまさんの感情豊かな演技は、善良な一般庶民の役だと、これはもうすっかり飲まれる。
2年前に東京で見た、「御用晴れ晴れ街道」の恩返しするスリの役もそうだった(そのときの観賞録)。
ただ毎日を懸命に生きている、市井の人間の素朴な喜怒哀楽が、骨太の体にぎゅっと詰まっているのだ。

花房の情けで、源太はほんのわずかな間だけ、故郷の村に戻る。
恋女房は既にこの世の人ではなかったが、忘れ形見の子ども・金太(澤村煌馬くん)は元気に育っていた。
「おっかさん、ちゃん、ただいま!」
金太がおっかさんと呼ぶのは、源太の姉・お吉(澤村かなさん)。
ちゃんと呼ぶのは、お吉の夫・伊太郎(滝川まことさん)。
姉夫婦は、源太に代わって金太を育ててくれていたのだ。

源太は自分の素性を明かさず、金太を膝に抱く。
「なぁ、金坊は、ちゃんとおっかさん、どっちが好きだ?」
金太は勢いよく答える。
「ちゃんかなぁ!おっかさんは小さいことでもすぐにおいらを怒るけど、いつもちゃんが庇ってくれるんだ。だからおいら、ちゃんが大好きなんだ!」
「そうか…ちゃんが庇ってくれるのか…」
呟いて、源太は空を仰ぐ。
噛みしめるように眉を寄せ、目を細める。
「―伊太郎さん…」
この一瞬のかずまさんに、脈打つ哀切。
実の子でもない金太を可愛がってくれる伊太郎への、申し訳なさ、ありがたさ。
同時に、本当は自分が“ちゃん”なのだ、と言いたいのを堪える切なさ、苦しさ。

源太が、家に帰る金太を見送る場面は、ことさら胸に迫る。
「おじちゃん、またね!」
客席の喝采を浴びて、煌馬くんは袖にはけて行った。
その後も、かずまさんは舞台端に一人立って、去って行ったほうへ手を振り続ける。
「気をつけろよ、金坊、転ばないようにな、ああ、まだ手ぇ振ってる」
角度を変え、高い所へ上がり、舞台の端の端までにじり寄って、体を乗り出して、ひたすら手を振る。
源太の瞳の中で、小さな息子の姿が石ころのようになり、豆粒のようになり、ついに見えなくなるまで。
その姿に、親だと名乗ることのできない、行き場のない愛情がせり上がる。

澤村かずまさんという役者さんは、これから必ず、大衆演劇界を引っ張って行く人の一人になるのだろうと思う。

相当お久しぶりの私なのに、春陽座の皆さんが、送り出しで「めっちゃ久しぶり!」と覚えていてくださってありがたかった。
会いたかった、春の陽だまり。

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