客席の手を引いて―剣戟はる駒座〈倭組〉・不動倭座長―

なんだか、奇跡が起きそうな気がする。

写真・2/9舞踊ショーより

客席に飛び込んでくる、この笑顔!

こんなにしょっちゅう、お客さんの中に降りて来る座長さんは他に知らない。
個人舞踊のときも群舞のときも歌うときも、たまにお芝居のときも。
「川崎のお客さん、楽しんでいただいてますかー?」
「お客さんも見てるだけじゃつまらないでしょ、僕らと一緒に踊ってほしいんです!」
客席から差し出されれた栄養ドリンクを、ごきゅごきゅ気持ちよさそうに飲み干してから、名物の口上が始まる。
「今日も時間が押してるんですよー、終わりの時間が決まってますからね、…なのになんでお前がこんなにべらべら喋ってるんだって話ですよね(笑)」
チーム倭を率いる、とんでもなく眩しい光は、常々客席に向かって全開だ。

2月の大島劇場では、こんな場面があった。
倭さんの個人舞踊の最中、お客さんから舞台に着物のプレゼントが上がった。
踊りの最後のサビの部分、一番客席が盛り上がった瞬間に合わせて。
サッ!と倭さんの手が、誇らしげに後方に広げられた着物を示した。
力強い笑顔で、客席に対して、自分に贈られた心を指し示しているかに見えた。
拍手が一段と大きくなる。
贈ったお客さんの愛情、倭さんの心意気。
その両方に胸打たれて、私も精一杯手を叩いた。

また、こんな場面もあった。
ある夜の女形の個人舞踊、曲は「川の流れのように」。
ゴージャスなカールの鬘に、ピンクの着物、頭にでっかい花飾り。
ただでさえ華やかな人なのに、これでもか!と目を引く色味を足して、客席の真ん中に降りてきた。
そして、小さな大島劇場にひしめくまなざしと、順番に目を合わせていく。
客席の間をゆっくり歩みながら、そこにある顔たちを、文字通りのぞきこむ。
お客さん一人一人を慈しむように。
あの大きな黒目でもって、一人一人に話しかけるように。

この人は、ずっとこんな空間を作りたかったんだろうか。
舞台と客席が、互いの息遣いを感じながらじゃれあう。
旗揚げの前から、座長になられる前から、ずっと。
―ああ 川の流れのように いつまでも青いせせらぎを聞きながら…―
歌と倭さんの風情が溶け合って、胸を浸していった。

「芸はもちろん精進しますけど、ここ見たら元気が出るなぁって、そう思ってもらえるような劇団にしていきたいですね」
2月初日、倭さんの口上。
「劇場が近いから大島にはたまに来るんだけど。はる駒座は今月初めて見て、わ、ここ良いなぁって……見て、元気をもらって、また仕事に行くの」
2月中旬、大島劇場で仲良くしていただいた常連さんのお話。
「仕事、毎日ホント大変だけど、でも……ここがあるから、ね」

こんな場面もあった。
舞踊ショーの最中、花道に踊り出た倭さん。
花道付近に座っていた、地元のお客さんたちに温かく笑いかければ、空気がほどける。

その中からひとつ、ふっと手が伸べられた。
特に何の気負いもなく、ただ倭さんの笑顔に糸を引かれるように、自然に手が動いたように見えた。
倭さんは笑みを深めて、その手を両手で握る。
すると、花道脇の列から、つられるごとく次々に手が伸びた。
かの座長は、その一人一人と目を合わせて、握手されていた。

私も私もと、座長の手を求める様は、明るい光に縋るよう。
来たばかりの川崎なのに。
みんな、この人が好き。
みんな、いつ来ても元気をくれるこの人が大好き。

「しかし、あの元気、どっから出るんでしょうね…」
隣席の女性に囁いてみれば、
「ねー。多分、幕閉まったらバテバテなんじゃないかしら」
と苦笑気味。

そうかも。
いや、意外と日常からあんな感じなのかも。
わからないけど、とにかく倭さんは、元気のプロフェッショナル。
おずおず舞台を見上げれば、一人残らずにっこりと手を引っ張ってくれる。

写真・2/16舞踊ショーより


旗揚げから5か月、回ったのは静岡、茨城、福島、秋田、神奈川。
来月は山梨だそうだ。
馴染みのなかった関東、中学生以上の大人はたった7人の〈倭組〉。
でも、大島劇場を埋める地元客の顔の、なんと明るいことか。
行く先々で、今までにないものをもたらしていきそうな気がする。

先日、はる駒座を初めて見る同僚を連れて行った。
送り出しで彼女初めてなんですよと倭さんに言えば、身を乗り出して、
「どうでしたか!?」
はにかんで楽しかったと答える彼女。
そのくすぐったそうな笑みに、不動倭座長の客席に満ちるものの片鱗を見た。

なんだか、奇跡を起こしそうな気がする。

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