剣戟はる駒座〈倭組〉・勝小虎さん個人舞踊「夢日記」

2014.2.9 昼の部@大島劇場

―私の名前は夢千代と申します―

静かな語りに、ハッと意識が尖る。
客席がしんと静まる。

しばらく間を置いて、女形の小虎さんが登場する瞬間は、目が覚めるように印象深い。
目を伏せて、ただ、きっそりと佇む姿。
動きのない、表情もない、音は聴き手の胸の内に零れるような語りだけ。

―原子爆弾というのをご存じですか―

大島劇場の畳の上の、空気が痺れる。

写真・勝小虎代表代行(2/9個人舞踊「夢日記」より)


普段お芝居の記録ばかりだけど、この舞踊を見たらどうしても書きたくなった。
あんなに、糸を通したように張りつめる舞台は初めてだったからだ。

「夢日記」は、原子爆弾のために白血病になった“夢千代”の心を歌いかける。
―なにが欲しいと聞かれたら 愛が欲しいと答えます―
身の内に病を抱える女性という設定がそもそも胸を打つので、私の場合、イントロが聞こえた時点で背筋を伸ばしてしまう。

小虎さんの“夢千代”は、佇んだ後、おもむろに歩き始める。
淡々とした足取りの一方、定まらない眼差し。
この二つが絡んで、現実感が薄れていく。
“夢千代”が歩くのは、舞台と客席の境、夢と現の境。

―ああ ほのかな命の私には 大きな愛はいりません―

生と死の境。
こちらの手の届かないどこかから現れ出て、ふら、ふら。
視線が、何かを探すように空を彷徨う。



極端に悲しげな表情とか、感情を露出させるような振りは何もない。
だけどいくつかの箇所で、目が丸く瞬く。
黒目がぱちりと、どこかを覗きこむ。
そのあどけなさは、子どもが、抵抗できない重い荷をじっと見上げる瞳を思わせて。

―ああ はかない命の私には 大きな夢はいりません―

振りほどけない、呪縛の強さを思わせて。
灰色の着物から、点々と哀しみが漏れる。

照明が消える舞台の上。
為すすべなく、寄る辺なく、身を折って、命を畳んでいく姿が焼きつく。

歌が完全に終わり、小虎さんが舞台袖に入ってから、私はようやく息をついた。

改めて、勝小虎さんは奥深い役者さんだと思う。
たまに踊られるこういう舞踊と、普段の明るさ極まる笑顔とのギャップ。
お芝居にしても舞踊にしても、するすると芸達者なのに、自分を主張する気配がない感じ。
その底知れない加減が、つくづく面白い。

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