劇団KAZUMA「紺屋高尾」① ―藤美一馬座長の久蔵役―

2014.1.5 昼の部@京橋羅い舞座

「会えるんですね、会えました、会ってもらえるんですね」
叶わない恋に、それでも指を伸ばして。
届かない夢に、それでもにじり寄って。
久蔵(藤美一馬座長)が、三年の労苦の果てに、ようやく目にした片恋の相手。
喜びと切なさが混ぜこぜになった、涙のセリフ。

写真・藤美一馬座長(当日太鼓ショーより)


劇団KAZUMAの新作「紺屋高尾」は、書いてたら語りたいことが多すぎたので、久々に記事を①②に分けた。
優しく、甘く、ほろほろ溶ける、砂糖菓子のような掌編。
ああ本当、この日まで大阪に残ってよかった…

物語は、紺屋=染物屋の久蔵(藤美一馬座長)が、布団の中で熱に浮かされている光景で始まる。
「俺の病は、お医者様でも草津の湯でも治せないんです…」
久蔵は、花魁の行列を見て、高尾太夫(柚姫将さん・女役)に一目ぼれ。
だが職人の久蔵が、高位の傾城とお近づきになれるはずもない。
というか、一目会うことすら、財布を投げ打っても叶わない。

悩んだ末、寝込んでしまった久蔵。
が、紺屋の親方(龍美佑馬さん)の助言で飛び起きる。
「高尾太夫は、一目会うのに十五両ってところだ」
「お前だったら、まぁ、三年必死に働けば、十五両貯まるだろうな」

――三年後。
ただ一つの目標に向けて、がむしゃらに働いてきた久蔵は、いよいよその日を迎えた。
「親方、私の十五両、出してもらえませんか」
久蔵の表情はそわそわ、照れとためらい混じり。
「お前、三年かかって貯めた十五両を、一日で全部使っちまおうってのか!」
最初は戸惑い気味だった親方も、最終的には諦める。

久蔵の吉原への案内役として、ヤブ医者の竹庵先生(冴刃竜也さん)が登場する。
「その爪は、隠したほうがいい。すぐに紺屋だとバレてしまうぞ」
竹庵先生に言われ、染色に汚れた爪を隠して。
「その職人の言葉も隠さなきゃ駄目だ。お前はわしが言うことに、ただ“あいあい”と答えていればよい」
“あいあい”の練習までしたりして。

久蔵のひたすら一所懸命な思いはただ、三年前に一目見たきりの、かの人のため。
その姿を見ていると、頑張れー!と応援したくなってくる。

舞台は、肝心の対面へ。
緊張に凝り固まった久蔵の前に、三年越しの望み、艶やかな高尾太夫がしずしずと現れる。
(将さんの高尾太夫については②でガッツリ書きたい)

久蔵は最初こそ隠していたものの、高尾に不審の目を向けられ、ついに洗いざらい真実を打ち明ける。
「俺は、本当は紺屋の職人なんです。指は染物で汚れております…」

一馬座長は畳に手をつく。
三年経ったらまた来ます、また十五両貯めて来ます、と打ちつけるように吐露する。

「それまでこの広い江戸の空の下、たまたま街で俺を見かける、そんなこともありましょう」
「そのときは、どうか花魁、たった一言“久さん、元気?”と声をかけてほしいんです。どうか、無視だけはしないでください…」
「その一言だけを楽しみに、これから先の人生を生きていくことができますから」
どうか、花魁、どうか。
肩を震わせて、涙を零して。
一縷の望みが、一馬座長の身体から迸る。

…そして、正直な男に奇跡が降ってくる。
「来年三月十五日」
「あちきは年季が明けるんです」
「そうしたら、ぬしの女房になりに行きましょう」

――ぬしの正直に惚れんした。
破顔一笑、花魁の心が降ってくる。

“嬉しい”、心底そう思っている自分にびっくりした。
お芝居を見ていて沸く思いが、楽しいとかおかしいとかじゃなく、“嬉しい”だなんて。

それは、前半でたっぷり見せてくれたからだ。
久蔵が三年間必死に働いて、高尾への思いを募らせていく様子を。
親方、竹庵先生、最初に出て来る医者(華原涼さん)、職人仲間(まだ名無しの新人さん)…
色んな人が久蔵を取り囲んで、呆れながらその恋の面倒を見てきた様子を。
お芝居前半で繰り広げられた、あれやこれやの風景が、気づけば小舟のように、私の感情を久蔵の心と同じところに運んでいて。
叶わないはずの夢が叶った、ありえない望みが報われた、そんな至上の喜びが流れ込んでくる。

このお芝居の幸福感は、“来年三月十五日”の場面で結露する。
約束通り、久蔵の紺屋にやって来た高尾。
感激して高尾の帯にしがみつく久蔵に、あの言葉が降り注ぐ。

「久さん、…元気?」

たった一つの夢だもの。
たった一つの望みだもの。
手の届かない傾城が、優しい顔で振り返ってくれる。
そんな奇跡だって、きっと人生には起こりえるのだろう。

久蔵は、感動のあまり言葉に詰まる。
一馬座長の口をぱくぱくさせる表情がおかしい。それを上回って愛しい。
そしてようやく絞り出す、
「元気…」

この場面について、口上で一馬座長が、「あんたの“久さん、元気?”で泣きそうになったわ」と将さんに言っていた。
私は泣きそうどころか客席で普通に泣いてましたよ!

この一週間、大衆演劇ファンの友人にはもちろん、そうでない人にまで、とっても幸せなお芝居を見た!と「紺屋高尾」についてウキウキと話しまくってきたところ。
花街の歴史に詳しい知人が、教えてくれた。
高尾太夫は実在で、「紺屋高尾」は十八世紀初期の実話に基づいているのだそうだ。
恥ずかしながら、これまで完全な創作だと思い込んでいました…

もちろん伝説みたいなもので、どこまで本当かわからないけど。
このくすぐったい奇跡が、いかに人々の口の端に上り、大切に語り継がれてきたか。
人気の落語になり、浪曲になり、お芝居になるまで。
想像すると、三百年前の人々の憧憬は、とても近いところにある気がする。

遠征仲間もこのお芝居は気に入って、二人で東京へ帰る新幹線の中でずっと、「紺屋高尾」の話をしていたくらいだ。
彼女もしみじみ言っていたのが、「高尾太夫は良かった。本当良かった」。
さて次の記事では、ファンとしては話したくってしょうがない、将さんの高尾太夫について語ります。

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コメント

もうこれ本当最高でしたね(^_^)
ただただ嬉しかった(^ー゜)
早く続きが見たいです(^ー゜)

>匿名の方へ

いらっしゃいませ。
紺屋高尾、最高でしたね!
お正月からこんな新作に当たれて幸運極まれりでした(*^_^*)

続き書きましたので、よければ見てやってくださいね~

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