影に燃ゆる陽炎――美影愛さん②――

前回に引き続き、劇団KAZUMAの舞台をひりっと締めて九州に帰って行かれた大ベテラン、美影愛さんの話をします。

「早すぎた天才なんだよ、あの人は」
最近、何十年も大衆演劇の変遷にずっと寄り添ってきた、目利きの方と話す機会に恵まれた。
美影さんについて、そんな言葉がまず出てきた。

前回も引用させていただいた、橋本正樹さんの「あっぱれ役者街道」。
美影さんが、1960~70年代の九州で、里見剣次郎として人気を集めていた頃のエピソードがある。
“真っ赤な鬘で、芝居に登場したのだ。はじめてかぶった熊本県の二本木温泉センターでは、観客は赤い鬘にびっくり仰天し、しばらくどよめきが鎮まらなかったそうだ。”
(『演劇グラフ』2012年5月号 第33回「あっぱれ役者街道」より)

それまで大衆演劇の世界には、黒髪と老け役の白髪の鬘しかなかったらしい。
人間の頭は黒か白、と当たり前のように思っていたお客さんの目に、燃える赤はどんなに鮮烈に映ったろう。
もし、私がその時代の客席にいたら…。
やっぱりまず驚いて、目を見張って。
でも次の瞬間には、あらまー綺麗な色!なんて言いながら、新鮮な舞台景色にワクワクしているんだろう。

ちなみに美影さんは、東京でも幾度も公演されているそう。
木馬館すぐ裏の「すずや」という老舗の舞台用具屋さんで、刀や小物を注文されたという。

木馬館という私の身辺に、そんな歴史がひそんでいたことが嬉しくなってしまって。
12/1(日)に浅草に行った折り、「すずや」さんを訪れてみた。

写真・「すずや」さん入り口(お店の方の許可を得て掲載しています)


残念ながらご主人が不在で、あまり詳しいお話は伺えなかったけれど…
奥様が、「美影先生は東京に来たときは必ず寄ってくれる」とにこやかに話してくださった。

「すずや」さんを出て浅草駅へ向かおうとすると、いつもの木馬館が私を見下ろしていた。
もうすぐリニューアル予定の二階建ては、大衆演劇場になってから37年分の歴史を飲みこんで、冬の冷気の中に息を吐いていた。

日々――文字通り毎日、毎時間(日替わりだし昼夜お外題入れ替えだし)。
凄まじいスピードで、変化し続ける大衆演劇の世界。
新しいお芝居にショーに、無数の役者さんが取り組んでいらっしゃる。
その歴史の中には、早すぎた人々がいたのだろう。
その激流の中には、研がれすぎた感覚が、先に先に走りすぎた人もいたのだろう。

40年以上前、観衆の度肝を抜いた真っ赤な鬘!
その衝撃は、すっかり当たり前のように現在の大衆演劇に根ざしている。
木馬や篠原の舞台に、黒や白髪の鬘しかないなんて考えられない。
燃える赤、ジューシーな橙色、きらきらしいお姫様みたいな金髪が妖しく舞ってこその夢舞台だと、現代しか知らない我が身は思う。

先日も、緑色の鬘でリズミカルに踊る若い役者さんに手拍子をしながら。
その向こうに、若き座長・里見剣次郎と、観客席のどよめきを思い描いていた。

驚きを掠めかわして、残るものがある。
客席の喝采の中に、残すものがある。

私が愛する劇団KAZUMAのお芝居に残された、水面を打つような緊張感も、そのうちの一つに違いないのだ。
「敵役の美影先生が改心する場面で、先生に引っ張られるように舞台でボロボロっと涙が出た」と、自ら感動するように話していた藤美一馬座長を思い出す。

無数の足跡を残されて、そして、今。
私の無知な、よく言えばまっさらな目には。
なお一粒の熱さが見えるような気がする。

すぎもとまさとの名曲「吾亦紅」。
10月に見た美影さんの個人舞踊の中で、ほのかな情熱に感動した一曲だ。

写真・美影愛さん(10/9個人舞踊「吾亦紅」より)


――マッチを擦れば おろしが吹いて――
その目はどこを覗きこむのだろう。
――さらさら揺れる 吾亦紅――
その耳はいつの時代の風を聞くのだろう。

九州、関西、関東…津々浦々回られた。
青年座長・里見剣次郎として、「座・梁山泊」座長として、「まな美座」座長として。
無数のライトを、無数の歓声を、記憶の中に静かに見つめて。
今。
物語られる、今。

――あなたに あなたに謝りたくて――
――あなたの あなたの形見のことば――
目の前の、今日の舞台で紡がれる、お芝居のような舞踊。
踊っているとき、芯の強い女性だったというお母様のことを、思い出されていたそう。

つかみどころのない陽炎は、あえかな舞の形を残しながら、舞台に淡い言葉を残しながら、ゆらゆら伸縮して沈む。
その中に、ハッと瞬時に燃え上がる情。

舞は続いている。
言葉は続いている。
「鬼十郎、お前の言う約束っていうのは、お前の信じる神様との約束かい、それとも俺との約束かい」
(「三つの魂」のおやじさん役 2013.10.14昼の部@篠原演芸場)

今、物語は続いている。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト

コメント

こんばんは。

ものすごく美影さんに
会ってみたくなりました。
きっと迫力が凄いんでしょうね(*゚ー゚)

前回コメントで劇団kazumaが
そろそろ九州にも降りてきそうと
言ったんですが、四国まで来て
予想外にも来月には大阪に上がっていくみたいです(TдT)
とても残念です(TT)
でも、1月に小倉で座長大会が行われるのですがそれに出演するので観に行きたいと思ってます(*´꒳`*)

こんな時間にコメントすみません。
おやすみなさい(*˘︶˘*)

Re: こんばんは。

>来夢様

こんばんは!
会ってみたくなった、と言っていただけると書いている甲斐があります(^^)
美影さんのセリフ術、静かな迫力と情熱の舞踊…東京公演での楽しみでした。
美影さんのご体調次第ですが、KAZUMAには今後もゲスト出演されることもあるようです。

伺った話では、KAZUMAは1月大阪・2月北陸・3月長野ということでした。
なかなか東京からも九州からも遠いですね^^;
私は我慢しきれず大阪は遠征予定です。

小倉の座長大会に行かれるのですね♪
私は座長大会未体験なので、他の座長さん方と一馬座長のやり取りを見てみたいなぁと思います。

いつもありがとうございます(*^_^*)

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)