桐龍座恋川劇団お芝居「一本刀土俵入り」

2013.11.15 夜の部@篠原演芸場

「なあに、(おっかさんの居場所は)お墓さ…」
若き二代目・恋川純さんの駒形茂兵衛は、少年だ。
「故郷(くに)が遠いんだよ。越中富山から南へ六里、山の中さ」
鈴川桃子さんのお蔦さんは、少女だ。

故郷を、親を恋しがる、子どもの心がふたあつ。
我孫子屋の二階の窓から、ぼうと浮かび上がる。

写真・二代目恋川純さん(当日個人舞踊「時代遅れ」より)


写真・鈴川桃子さん(当日個人舞踊「空に刺さった三日月」より)


桐龍座恋川劇団のお芝居がすごいらしい。
二代目が、この東京公演ではとにかくお芝居に注力していて、初めて演じる特選狂言をガンガン予告しているらしい?!
恋川さんに大ハマリ中の知人からそんな話を聞きつければ、心はそわそわ。
「金曜日、一本刀土俵入りだって」
聞いた瞬間、金曜の早朝起床を決意した。
もちろん、早め出勤⇒早め退勤⇒18:00篠原の実現のため!

集客が難しい(らしい)金曜の夜でも、篠原演芸場は満杯だった。
この日はミニショーなしでお芝居からの開演。

――長谷川伸の名作「一本刀土俵入り」!
幕が開いた瞬間、ひんやりした心地よい感じの緊張感が、舞台にも客席にもみなぎっていた。
舞台の側は、初めての特選狂言に気合十分。
序幕の、鈴川かれんさんたち酌婦のお喋りの風景も美しい。
一方客席の側は、力を込めたお芝居に目を見開いて、花金の夜にも詰めかけている。

ああ、お芝居が始まる。
真剣なお芝居が、真剣に感動を求めて来た客席の前で始まる、その清々しさが肌に感じられた。

「すみませんが、水を飲ましてもらえませんか」
空腹にふらつきながら登場した茂兵衛=二代目・恋川純さんのお顔は、ほとんどスッピン。
ふっくら気味の輪郭が、子どもの健やかさを連想させるせいか、22歳よりあどけなく見える。
加えて、朴訥な喋りをするもんだから。
「故郷のおっかさんの墓の前で、土俵入りをしてみせたいんだ」
「それができたら、わしは、もう、いいんだ」
とつぶやく姿に、滲む風情は子どものいじらしさだった。

そして私は、鈴川桃子さん演じるお蔦さんにも、同じ童心を感じたのだ。
個人的に「一本刀土俵入り」の白眉だと感じる場面は、お蔦さんが自分の簪と櫛を扱帯に包んで、茂兵衛に渡す場面。
私が愛してやまない、フィクションにおける“無私の贈与”の結晶のよう。

だから恋川さんがこの場面をどう見せてくれるんだろうと、最も楽しみにしていた。
「お前さん、大めしぐらいだろうから、それじゃ足りないだろう。これも持ってお行き」
桃子さんが、簪と櫛を抜いて、赤い扱帯にくるむ。
体を乗り出して、二階から茂兵衛のいる地面に、扱帯をしゅうっと垂らす。
「持って行くんだよ、さあ受け取んな」
舞台の真ん中を、赤い一筋の温情が縦に流れる。
この絵の見事さ。
扱帯が、赤というのがたまらなく良い。
赤色の素直な華やかさは、少女を連想させるからだ。

桃子さんは、序盤では、お蔦さんに退廃的な雰囲気を被せて演じていた。
というのも、お蔦さんは、“すべた”と街の連中から蔑視されている。
自分でも、“酌とり女”だと自嘲している。
「おらちゃ友達、さたねの花よ…」
越中八尾の小原節を歌っても、故郷はただ遠く、諦めの向こうに霞むばかり。

でも、突如現れた茂兵衛は違った。
故郷のおっかさんの墓の前で晴れ姿を見せたいと、飢えながらさまよいながら、それでも関取になろうとしていた。
だからお蔦さんは、持てる限りの全てを包んで、茂兵衛に渡す。
故郷を恋しがる、自分の幼心を包んで、同じまなざしの下に預ける。

舞台を縦に割る、赤い扱帯を見つめながら、そんなことを考えていると。
静かに茂兵衛とお蔦さんのやりとりに聴き入っていた客席から、ぱちぱちと拍手が一つ起こった。
連鎖するように拍手の数は増えていった。
「わし、こんなに優しくしてくれる女の人に初めて会った」
二代目が、目元をくしゃくしゃにして、ぎゅっと抱きしめるように櫛と簪を受け取る。
この場面に立ち会えただけで、この夜の篠原演芸場に来た価値があったと思った。

「横綱を張るまでは、いかなことがあっても、駒形茂兵衛で押し通します」
律義に何度も頭を下げながら、少年の志を抱いて立ち去る茂兵衛。
「よっ、駒形ぁ!」
破顔一笑、我孫子屋の二階に少女そのものの笑顔。
若い若い二代目が演出された舞台だからこそ、こんなみずみずしい「一本刀土俵入り」になったのじゃないかなぁ。

この秋は、東京住まいの観劇仲間が次々二代目にハマっている。
本格的なお芝居が良い、エネルギッシュなショーが良い、女形の色気が良い、口上の爽やかな明るさが良い、と評判天井知らず。
私は一年ぶりに観たのだけど、なんてパワーアップだろう!
古典のお芝居の重みを、先輩方の歴史を、その両肩にしっかりと乗せて。
かつ愉しみながら、自分流に打ち出して来られているみたいだ。
ショーで見せる笑顔の力強いこと!

口上では、あの引力抜群の大きな目で真摯に話される。
この夜の口上で「お芝居中心の大衆演劇に戻したい」と熱く語られたときは、喝采が起きた(私ももちろん、全力で拍手)。

この方は、これからまだまだ昇るのだろう。
凛然とした力に貫かれて。
きらきらした光を携えて。

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教えていただきとても嬉しいです。ありがとうございます!

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