剣戟はる駒座お芝居「浜の兄弟」&ご兄弟の輝き

2013.11.3 昼の部@千代田ラドン温泉センター

生々しく、濃く、立ち込める。

「もう、もう無理や。あいつみたいなんがおったらな、もうわしら、どんなに頑張って稼いでも苦労するだけや」
弟のあまりの不義理に、怒りを通り越して、慄く兄・直蔵の震える声。
演じているのは、不動倭座長。
「不肖・兼松、ただいま帰って参りました…!」
と腰の低い挨拶をしながらも、兄の怒りを感じるやいなや、ふっと献身的な表情が消えて、弟・兼松は算段をするような目つき。
演じるのは、勝小虎さん。

思い出した、このご兄弟のお芝居はそうだった。
作り物としてのお芝居を通り越して、滲み出る情の色があまりに濃い。
この”濃さ”を、今年の春頃は東京で何度も観ていたのだった。

写真・不動倭座長(当日舞踊ショーより)

倭さんの女形は、十朱幸代さんの若い頃によく似た、健気な風情がとっても可愛い。

写真・勝小虎さん(当日舞踊ショーより)

一方小虎さんの女形は、優しげで気丈な姐さん風。
限りなく情の深そうな、独特の魅力がある。

電車に揺られ揺られ、茨城・土浦のラドン温泉まで向かったのは。
ひとえに、はる駒座<倭組>のお芝居を観たかったからに他ならない。
今年の3月・木馬館、4月・篠原で、魅せられ尽くしていた、はる駒歌舞伎の世界。
とりわけ、小虎さん・倭さんの演技に強い“生っぽさ”がお気に入りだった。
(ご兄弟の演技については「恋の高岡」の記事で語っている)

この日のお外題は「浜の兄弟」。
他の劇団さんでもたくさん演じられる有名なお芝居のようだけど、私は初めてだった。

直蔵(不動倭座長)は、老いた母親(宝華弥寿さん)と二人暮らし。
善良な親子を苦悩させるのは、5年前に蒸発した弟の兼松(勝小虎さん)だ。
兼松は、あろうことか村の衆のお金を持って消えた。
金を返すはめになった直蔵と母は、夜なべ仕事で日銭を稼ぎ、つましい暮らしに耐えてきた。

そこへ、舞い戻って来る悩みの種。
「ただいま、帰って参りました…!」
江戸から、商人になった兼松が帰還したのだ。
母親は愛息子を大喜びで迎えるが、直蔵はひどく険しい顔で背を向ける。
「お前のために、わしらがどんなに苦労したか、知っとるのか…」

が、兼松の不肖っぷりは過去の話だけじゃすまない。
兼松を追いかけるように、江戸から早飛脚が着く。
送り主は、兼松が奉公していたという山金屋。
――手紙の中身を読んだ直蔵と母は、腰を抜かした。
<兼松殿が来てから店のお金がなくなっていたことがわかり>
<その額、百両>
<百両返していただけなければ、出るべきところに出る用意があります>

…兼松みたいなのってどこの親戚にも一人はいて、みんなの頭を痛ませているタイプだ。
普段、異世界を楽しむような感覚で観ているお芝居と違って、「浜の兄弟」は身近にありそうな話。

このリアルなお芝居を肉付けする舞台の作り方が、さらにリアルなのだ。
たとえば、母親が兼松を庇って、「やくざな子ほど可愛い」とぽろりと零す場面がある。
聞いた瞬間、直蔵は火がついたように立ち上がる。
「やくざな子ほど可愛い?そしたら、ずっと傍にいて親孝行してきたわしは可愛くなくて、あんな迷惑ばっかりかけとる兼松のほうが可愛いんか」
「アホらし、じゃあわしも親孝行はやめや。ああ、アホらし!」
ちょ、子どもじゃないんだから!と突っ込みたくなるような拗ね方だ。

あー、でも家族の中でなら、この光景ってありそう。
家という密閉空間の中では、大の大人の振舞いも本音丸出し。
倭座長が、ふてくされきった表情で床にどっかり腰を下ろすと。
舞台に、浜のイエの匂いが取り込まれ、濃縮された家族模様が染み出す。

お芝居の“濃密なリアリティ”は、もしかすると<倭組>の紡ぐ世界の骨格になっていくのかも…なんて感じていた。

お芝居以外にも、剋目した点がある。
舞踊ショーでのご兄弟の相舞踊は、互いの持ち味が、互いを抜群に引き立たせていた。
たとえばこの日のラストショー「壺坂情話 お里沢市」。
沢市を演じる倭さんのまっすぐな気性、お里を演じる小虎さんの女形の一途な風情が、見事に絡み合って、手を取る夫婦の姿はまさに情話。

それから、ご兄弟以外の煌きも見逃せない。
人数が少ないので、女優さんも含めて出番が多く、一人一人の魅力がじっくり見られるのだ。
個人的に見れて良かったと心底思ったのは、宝華紗宮子さん・ 叶夕茶々さんの相舞踊だった。
少女×少女!
この清らかさ、愛らしさ!

せっかくなのでお写真も載せてしまおう。
写真・左 叶夕茶々さん 右 宝華紗宮子さん(当日舞踊ショーより)


満足しきって、ラドン温泉で入浴タイム。
すると、お風呂場で地元の方が話しかけてくださった。
「ねぇ、私この劇団は初めて観たんだけど、びっくりするくらい上手いわね。座長さん、腰が低くて丁寧だしね~」
嬉しい気持ちで宴会場に戻ると、今度は前の席にいた地元の方が、私を振り返ってくださった。
「小虎さんの女形、素敵じゃない。何とも言えない笑顔が良いよねー」
初対面とは思えないくらい会話が盛り上がった(笑)

馴染みのない関東公演でも、地元のお客さんにしっかり愛されている。
それは<倭組>の皆様の、懸命な努力の結晶なのだろう。
「どうしたら茨城のお客さんに気に入ってもらえるのかわからないから、ああしろこうしろと、ぜひ僕たちに言ってください」
倭座長の口上からは、驚くほどの真摯さが伝わって来た。

関東とはいえ東京からはわりかし遠いけど、関東公演中にまた行けるチャンスを狙っています。

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