劇団KAZUMAお芝居「浅草三兄弟」

2013.10.29 夜の部 @篠原演芸場

この日付の頃は、私の心はいまひとつ冷静じゃあなかったなぁ。
2か月間通い詰めた日々も、もう終わり。
新幹線も夜行バスもなしで、いつもの電車とsuicaでKAZUMAに会える!
それだけで、夢のような東京公演だった。
次、こんな夢はいつ見られるんだろう。
関西も九州も、東京の空からは遠く思えた。

――と、どこか切ない気持ちを抱えた千秋楽前夜。
ラストショーは、切なさを吹っ飛ばすかのような「すっぴん歌謡ショー」だった(笑)。
竜也さんの私服がすごいお洒落だったことが、一番印象的だった。
男性向けファッション誌とかに載ってそうな感じだった。
が、ここは基本お芝居ブログなので、しっかりお芝居について書きますよ!

劇団KAZUMAの「浅草三兄弟」と言えば、藤美一馬座長演じる半次だ。
弟分・吉松(柚姫将さん)の幸福を守り抜くために、自分の命を犠牲にする兄貴分。
今年5月、福山・夢劇場で初めて観た後、友人と半次について延々語ったホテルの夜が忘れがたい。

写真・藤美一馬座長(当日舞踊ショーより)


なんで私は、半次にこんなにも胸打たれるのだろう?
2度目なので多少考える余裕もあり、一馬座長の一挙手一等足に注力して観ていた。

最初から最後まで、半次はひたすら吉松を助ける存在だ。
「おいら、もうスリなんて稼業は嫌だ!今すぐにでも堅気になりたいんだ」
吉松の切実な訴えを聞き、半次は自分を危険にさらしても、吉松を足抜けさせることに決める。
加えて、旅立つ吉松に、懐に入っていた金を全て手渡す。
「これは人様の懐から盗んだ汚ぇ金だ。でも、これから堅気になろうってお前がこの金を役立てるんなら、綺麗な金になるんだよ」

三年後、晴れて油どん屋の婿養子になった吉松に、危機が訪れる。
元兄貴分の橘金五郎(華原涼さん)が、夜逃げのための金をゆすりに来たのだ。
「ひと箱千両だ。用意できなければ、ここの婿養子はかつてスリをしていたと触れ回るぞ」

苦悩する吉松を、偶然訪れるのは、飴売りに転身した半次。
「お前を堅気にして送り出したその足で、俺も堅気になったんだよ」
陽気な飴売りの格好で、一馬座長がひょうきんなステップを踏みながら舞台に登場したとき、安心感が広がった。
この人は、必ず吉松を助けてくれる。
そう思わせるくらい、弟分への愛情の深さが、座長の紡ぐ表情一つ一つに溢れていた。

「この店、お前がいると知ってりゃあ、手土産の一つでも持ってきたんだが…」
半次は、決まり悪そうに頭を掻く。
だが吉松に男の子の赤ん坊がいると聞き、半次は背負っていた飴の箱を下ろす。
「これ、お前の子にやるよ。子どもの好きな飴がたくさん入ってらぁ」
「兄貴、それは大事な商売道具じゃないか」
と吉松に驚かれても、いいんだよお前の子にだ、と笑顔で繰り返す。

ああ、「浅草三兄弟」の半次は“無私の贈与”のキャラクターなんだ。
フィクションの世界に時折現れる、私が愛しくてしょうがないキャラクター造形の一つ。

たとえば大衆演劇に近いところで見渡すと、「一本刀土俵入り」のお蔦姐さん。
貧しさ極めた駒形茂兵衛に情を寄せるあまり、在り金全部あげてもまだ足りない。
“これも、あれも持ってお行き!”と自分の頭から簪を抜いて投げ渡す。

それから、学生時代に大感動したミュージカル「ミス・サイゴン」のキム。
儚い命を、全て息子のために注ぎきって死んでいく、薄幸のヒロインだ。
“I'd Give My Life For You”=お前のためなら命もあげよう、と最大の見せ場で歌いあげる。

みんなあげる、ありったけあげる、愛しい者のためなら自分の身なんかないも同然。
深情けの固まりのような、“無私の贈与”の人物像の列に、私は「浅草三兄弟」の半次を加えたい。

「お前、堅気になるったって、金の持ち合わせはあるのか」
懐のお金全部丸ごと、吉松に持たせて。
「この飴、お前の子にやるよ」
何も土産がなければ、商売の命綱である飴を全部置いていって。
藍色の風呂敷に包まれた大きな飴の箱は、多くを持たない半次が与えられる全て。

そして最後には、吉松のために金五郎と斬り合う。
「兄貴、どうか吉松には、何の手出しもしねえでやっておくんなせえ」
嘆願する一馬座長の、きっと結ばれた横顔。
自身は斬られ、命を落とすことになっても。

駆けつけた吉松の腕の中、死んでいくときもなお、半次から差し出されるのは無限の愛情だ。
「吉松、祝言のときは、寂しかったろうなぁ…」
このセリフは何度聴いても震える。
もう自分は死ぬのに。
斬られて、血を流して死ぬのに。
この兄は、弟の心の寂しさを思いやるのだ。

“I'd Give My Life For You”
あげよう、お前のためなら。
この手に抱えた全部、金だって、商売道具だって、命だって。
一馬座長の優しい笑顔に、半次の心がふわりと乗る。

この先また、一馬座長の半次に何度だって出会いたい。

さて。
次は、遂に来てしまった千秋楽のお話。
…千秋楽って書くだけでいまだに寂しい(笑)

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