劇団KAZUMAお芝居「男の人生」

2013.10.20 昼の部@篠原演芸場

彼の心弱さは、不安を生む。
次第に疑いに成長し、やがて攻撃の牙を剥く。

将さん演じる白木屋一家の二代目、こんなに弱い悪役があるだろうか。
「おい、伊三郎は本当に、本当に来るんだろうな。あいつが寝首を掻きに来るんじゃないかと、俺は不安で夜もおちおち眠れないんだ」
弱さゆえに二代目の心は、人間の一番深い、暗い境涯へと沈んでいく。
その哀れさに涙が出た。

写真・柚姫将さん(当日舞踊ショーより)


「男の人生」は「先月の木馬館での衝撃に続き、2回目の鑑賞。
でも木馬館の舞台で観た将さんの演技は、もう少し悪寄りだったような。
篠原バージョンでは、より一層、二代目のためらいや戸惑いが強調されていたように思う。

「男の人生」というお外題について、少し考えてみた。
この題はもちろん、主人公・伊三郎(藤美一馬座長)の生き様を指しているんだろう。
忠信を尽くしてきた白木屋一家を追い出されても、二代目の危機には駆けつける情の厚さ。
だがその二代目に騙されて、愛妻のお菊(霞ゆうかさん)を自らの手で斬ってしまい、絶望のどん底に突き落とされる。
底から這い上がるように、情炎を目に迸らせて、お菊の弔い合戦へと走る伊三郎。
伊三郎の生き方には、打たれても打たれても、人間らしい情を失わない強靭な“男”が見える。

だけども。
私はこの題に、敵役である二代目の、暗がりの人生をも重ねてしまうのだ。

その心模様が最もよく表されるのは、序幕の襲名披露の場面。
腹心の鉄五郎(美影愛さん)に、
「二代目の襲名を最も面白くないと思ってるのは、伊三郎ですよ」
と吹きこまれ、二代目は、伊三がそんなことを…と不信を込めて呟く。
また、叔父さん(華原涼さん)に言われた、
「てっきり今日は伊三郎の襲名かと思ってたぜ。この家は伊三郎が継ぐものだと思ってたからな」
なんて軽口には、二代目の目にはっきり嫉妬が浮かぶ。
将さんの表情が、段々段々、影を重ねるかのように険しくなる。

「お前との兄弟分の縁は今日で終わりだ、とっととこの家から出て行きな!」
疑いに目のくらんだ二代目は、語気も荒く、伊三郎にそう言い渡してしまう。

私の心に食い込んだのは、この直後、立ち去る伊三郎を見送る二代目の姿だ。
立ち上がって、伊三郎のほうに手を伸ばしかけている。
引き止めようかどうしようかと、迷っている。
将さんの顔つきから、さっきまでの黒い疑いがふいと消えて。
代わりに、途方にくれた子どものような、幼い戸惑い顔がある。
やっぱり、早まったんじゃないか。
自分は、取り返しのつかない失敗をしたんじゃないか。
そんな言葉が零れてくるような。

上記の場面は本当に一瞬しかなくて、すぐに美影さんが「二代目!」って声をかけるんだけど。
この一瞬の将さんの演技で、二代目のぐらぐら揺れる心が、浮かび上がってきた。
途方にくれた目、本当に頼れる人を失ってしまった子どもの眼差し。

将さんの弱い親分役…と言えば、別のキャラクターを思い出す。
私がどうしようもなく好きな、「生首仁義」の白鷺一家の三代目。
あっちも、大声出されただけで泣きだしてしまうような弱っぷりだけど。
それでも、三代目は周囲に恵まれていた。
大好きな兄や、信頼できる世話役に囲まれて、また三代目自身も周囲を愛した。
だからこそ「生首仁義」の三代目は、自らの弱さを克服して死んでいくのだ。
「仙蔵と長五郎に、今までは弱い男だったかもしれないが、死ぬときは強い男で死んでいったと、そう伝えておくれ!」
情愛に基づく、一筋の意志を光らせた、立派な最期。

対して、「男の人生」の白木屋一家の二代目は。
周囲に誰も、その弱い心を庇い立てしてくれる人がいなかった。
だから私は、この敵役に同情を禁じ得ない。
心に芯を持たないがゆえに、周囲の悪い大人につけこまれて、いいように利用されて。
最後は、古くなった玩具が捨てられるかのように、雪の中に斬り捨てられる。

誰か一人、導いてくれる手があったなら、二代目の人生は違ったろうに。
自らの心の落ち窪みに足を取られ、ずるずる落ちていく二代目を、誰か引っ張り上げてあげたなら。
四方から刀で突き刺され、人形の糸が切れるように、雪の中に倒れ伏した二代目。
何の情けもなく、二代目の体が引きずられていく光景に、「男の人生」という題が重くのしかかる。

「お菊―っ!」
と空を睨んで、妻の名前を叫ぶ伊三郎の、強く美しい生き様。
「鉄、お前…俺を裏切ろうなんて、思っちゃいねえだろうな」
最期の言葉まで疑心にとりつかれた二代目の、弱く哀しい生き様。

明暗が、裏に表に翻る、男の人生。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

関連記事
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)