劇団KAZUMAお芝居「直次郎一人旅」

2013.10.10夜の部@篠原演芸場

「直次郎一人旅」について、私の感動ポイントは、どうも本来の見どころとずれているかもしれない。
多分、主軸は父子の絆にまつわる悲運。
父は直蔵(美影愛さん)。子は直次郎(藤美一馬座長)。
でも私には、生き別れの父子の断ち切れない絆よりも。
そこに踏み込むことを許されない、血縁の外側に佇んでいるしかない、育ての子・太吉(柚姫将さん)の悲しみのほうがより迫ってきた。

写真・柚姫将さん(当日ラストショー「お吉物語」より)


鑑賞録に入る前に決意を一つ。
いつか絶対、見逃した「仇討ち甲州街道」を観る…!

「仇討ち甲州街道」は、この2日前の10/8(火)の夜の部のお芝居だった。
8日は橘劇団さんとの合同公演で、すごい熱気だったようだ。
ようだ、というのは、私はその日に限って夕方から大事な仕事で行けなかったから…。

なので10日に篠原を訪れたとき、仲良くしていただいている常連さんたちが次々と、
「合同公演の夜のお芝居、良かったー」と話してくれたときはけっこう落ち込んだのです。
「特に将さんがすごく良くて、泣かされたのよ~」と聞いたときはちょっと立ち直れなかったのです。
だから絶対!いつか観る!

気を取り直して本題。
この日の「直次郎一人旅」の舞台は、ガランと人気のない多度津一家の、静かな日常風景から始まった。
若い衆は皆一人立ちし、親分の女房は亡くなり、今この家に暮らしているのは二人きり。
「太吉さんよ、遊んできて汗かいたろう。風呂が沸いてるからな、入ってこい」
「いや、俺が親分より先に風呂をいただくわけにはいきませんよ!」
親分と、5つの時に拾って18年間育ててきた太吉のみ。

太吉はずっと親分に尽くす気でいるけど、親分は太吉を堅気にさせたがっている。
「お前はやくざになるには、優しすぎる」
「どうしたってお前の中には、やくざの血は流れていねえんだ。そんなきれいな目をした奴が、やくざになりきれるかい」

この将さんと美影さんの会話だけで構成される序幕を通して、親分と太吉の間の空気感が、私の中にどっかり腰を据えた。
親子なのに主従という関係性が面白い。
太吉は丁寧に「親分」と呼びかけるし、親分のほうもおどけ混じりとはいえ、「太吉さん、お願いします」と敬語を使ったりして、妙な遠慮があるのだ。
かと思えば、近所の女の子(霞ゆうかさん)が持って来てくれた不味い芋煮を押しつけあったりする、親密なじゃれ合いもふわっと出て来る。

だからこそ、この後の展開は痛烈だった。
太吉が奥の間で芋煮を食べている間、一人になった親分。
そこに、旅人の直次郎(藤美一馬座長)が訪れる。
「お前さんの命を、もらいに来た」
敵対する一家の依頼で自分を斬りに来たと聞かされても、親分は顔色一つ変えず、微笑したまま。
直次郎の懐に光る、女性物の簪。
「死んだおふくろがたったひとつ、遺したものだ」
親分はそれを見て、何か、気づいたようだ。

親分は斬られるが、なおも直次郎に笑って言う。
「一つだけ、やり残したことがある。その間、待ってちゃくれねえかい」
斬られた体で、筆と紙をつかみ、手紙を書き残す。
そしてよろよろと仏間に辿り着き、死んだ女房の霊前で息を引き取る。
太吉には、「あの直次郎ってお人に、どうか手出ししないでほしい」と言い残して。

手紙は、実は直次郎が親分の息子であることを明かす。
親分の本当の名前は直蔵で、直次郎の母の簪は、かつて直蔵が惚れた女性にあげたものだった。

父と知らず斬ってしまった直次郎の悔悟の念と、息子だと知っていて斬られた父の深い情愛。
手紙の場面から、物語の本筋がくっきり浮かび上がってくる。

だけど私にむしろ衝撃だったのは、手紙の最後が「直蔵より」で結ばれていたこと。
あの人はずっと親分として生きてきたのに、命の終わりには直蔵に戻るのか。
最期には、直次郎の父として死んでいったのか。
――じゃ、太吉の立場はどうなるんだろう。

直次郎の場合、父の顔も知らなかったけど、血の絆という絶対的な証が、親子を強固に結び付ける。
一方太吉には、親分の血は流れていないけど、18年間の小さな日々の積み重ねがある。
「直蔵より」の結びは、積み重ねられた日々の暮らしを、血の絆の前に討ち伏せてしまったような気がして。
その太吉の哀しみはどこで報われるんだろう。

直次郎と太吉は仇討ちのため、親分を斬るよう依頼した一家に乗り込んで行く。
けれどそこでも、やくざと斬り合うに力及ばない太吉は、斬り合いの外に追い出されてしまう。
直次郎に「手出しするなと言ったはずだ」と言われ、
「申し訳ござんせん…」と膝を突くしかない、義理の息子の哀しみは。

ということばかり胸に響いたのは、この日の特赦な構成のためだと思うのだ。
序幕で、たっぷり親分と太吉のやり取りを見せてもらったから、私の頭は太吉に追随して筋を追っていった。
でも、どうやらこの日の「直次郎一人旅」は、最初のもう一幕を省いていたらしい。
本来は冒頭に、一人旅する直次郎が、親分を斬るよう依頼される場面があるとのこと。
その造りだったら、直次郎の孤独と父に対する思い入れを受け取った上で、物語に入っていったんだろうな。

お芝居にとって序幕って、要なんだなあ。

あと、一番震えたのは、直次郎が手紙を読む場面の美影さんの声の演技!
手紙の内容が美影さんの声で流れるんだけど、当然姿は舞台のどこにもない。
にも関わらず、親分の表情やまなざしが幻のように、白い紙の向こうに揺れるのだ。
手紙の場面は6~7分あったと思うんだけど、寸隙の緩みもない。
この箇所はまさに圧巻だった。

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