劇団KAZUMAお芝居「信州嵐 弥太郎笠」

2013.10.6 昼の部@篠原演芸場

「この恩知らず!」
「恩知らず」
「恩知らず…」
それはただの罵倒に過ぎない。
でも、十二の春から親分への恩のために生きてきた信吉(華原涼さん)には、刀で斬られるよりも酷な痛みなのだろう。
「やめろ、やめろ」と耳をふさぐ信吉の姿は、苦痛の固まりのように、舞台の真ん中に縫いとめられていて、目を離せない。

写真・華原涼さん(当日舞踊ショーより)


「今日は涼さんの日だったね…!」
友人と終演後にお茶していたら、どちらともなくこの一言が出た。

「信州嵐 弥太郎笠」はまず前半で、ござや一家の内側に積もる、裏切りと不信を描き出す。
事の発端は、清太(冴刃竜也さん)が親分(藤美真の助さん)のお茶に入れたヤモリ。
清太は女房と決めた女性(香月友華さん)を親分に奪われたことを恨み、親分をヤモリの毒で殺そうとした。

裏切り者の清太を成敗するため、最初に音松(柚姫将さん)が清太を斬りに向かう。
が。
「安心ですかねぇ…」
親分にいつも付いている丑(龍美佑馬さん)が、首をひねりつついえば、親分の心に不信が一粒。
「清太と音の兄弟は、そりゃ仲が良いんですよ。清太が涙の一粒でも流してごらんなさい、音の兄弟はすぐに同情して、お前を斬るのはやめだ、悪いのはあの親分だとなりますよ」
「雨のしとしと降る晩に、一家の入り口がスーッと空いて…」

二人がかりで寝首を掻きに来られる!
疑心にとりつかれた親分が、次に差し向けたのが信吉だ。
信吉には、決して親分を裏切れない事情があった。
「十二の春にお前を拾ってから、ずっと俺が面倒見てやったんだからな。その恩を忘れるなよ」

信吉は頷いて出て行き、これで一安心のはず。
が。
「安心ですかねぇ…」
丑の首をひねりひねりの一言で、またも沸き立つ疑心暗鬼。
「あの三人、仲が良いんです。信の兄弟、音の兄弟、それに清太、この三人でござや一家の三羽鴉っていうんですよ」

今度は三人がかりで寝首を掻きに来られる!
親分の怯えはもっとふくらみ、最後に旅人の弥太郎(藤美一馬座長)を差し向ける。

が。
またも「安心ですかねぇ…」
からの、
「草鞋を脱いでたった三日の家のために、人、斬りますか、普通?」
からの、
しびれを切らした親分の「ああもういっそ、俺が自分で見届けに行く!」

この前半は、佑馬さんと真の助さんのコミカルなやり取りが見どころ。
だけど、笑いの狭間にふと見てしまう、親分の強烈な他人不信。
誰も彼もが自分を裏切るのではないかと疑う。
「親分も昔はあんなお人じゃなかった。優しいお人だったんだが、ここ数年ですっかり変わっちまった…」
信吉がそうつぶやく場面は、哀切に満ちた後半への置き石のように。
物語は痛みをはらんで暗くなる。

音松・信吉・弥太郎は、結局清太を見逃してやった。
そればかりか、音松は堅気になって実家の傘屋を手伝っていた。
音松の傘屋を舞台に、音松とその父(美影愛さん)・妹(霞ゆうかさん)・遊びにやって来た弥太郎がやんやとお喋りし、しばしの平和な風景。

そこに、乱入する暴力の音。
割いた竹で人を殴る音。

「音松の居場所を言えってんだ!」
丑に殴られ、見るも無残な姿の信吉が、引きずられて来る。
清太を逃がし、音松を堅気にしたことで、信吉は責苦を受けていたのだ。
満身創痍、顔には赤アザ、髷はほどかれ、髪がずりずりと地を這う。
この状態の信吉に、親分は愛情のかけらもなく、ただ蔑視だけを投げつける。

運の尽き、音松の実家を見つけた親分は、音松を容赦なく斬り捨てる。
何の関わりもない、音松の父まで一緒に!

「なんで、なんで、何の罪もない親父さんまで斬りなすった…!」
ここで遂に、耐えに耐えてきた信吉の怒りが溢れ出る。
「親分、あんた昔はそんなお人じゃあなかったろう!情に厚くて、若い衆みんなから親分親分と慕われて…いつの間に、そんなに変わりなすった」
涼さんのセリフを聞くうち、込められていた怒りが、哀しみの風合いに変わっていく。
「今となっては、受けた恩義が恨めしい…!」
哀しみは、叫びになって場を引き裂く。

自分を育ててくれた相手が、この人のために命を尽くすとまで決めた恩人が、変わっていくのを見るのはどんなに悲しかったろう。
相手の心のありさまは変わり果てて、荒れ果てて、もうかつて慕った人はどこにもいないというのに。

血涙が滴るような、歯ぎしりまで聞こえてくるような、涼さんの熱演。
動かない音松の父を、信吉は何度も何度も揺する。
その姿からは、親のない信吉の、肉親の情愛に対する焦がれまで透けて見える気がした。

だが、地に這いつくばって悶える信吉に、酷い言葉がわらわらと降る。
「恩知らず」「恩知らず」と、他の若衆からの罵りが、襲いかかる。
その言葉だけは言ったらいけない、その言葉はこの人に言ったらいけない。
あんまり痛々しい舞台の光景に、内心、必死に思っていた。

信吉は、弥太郎が親分を斬るのを見届けた後、自ら割腹する。
最期まで、十二の春から受けた恩に殉じる。

普段涼さんは、声も顔も清しくて、極めてクールなイメージ。
だからこそ、信吉の大熱演は新鮮だった。
凜とした声に感情が波打って、舞台を揺るがす。

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