劇団天華お芝居『林蔵』―この世の“向こう側”―

2017.6.3@大江戸温泉物語ながやま

目がきゅうっと上を向く。
口から血を噴き出して、なにか魂的なものが飛び上がっていく。
その先は?
林蔵が身体を半分突っ込んでいる、はみ出した世界の先には?

澤村千夜座長の演技を観るとき――どきりとするのは、たまに人物が正気をふっと逸してしまうような瞬間があるからだ。『お銀片割れ月夜』で子どもに戻ってしまうお銀ちゃんしかり、『お梶藤十郎』で狂った嗤いを見せるお梶しかり…
感情が尖りすぎて針みたいになって、ゆらゆら揺れる。“こちら”と“向こう側”の間を。
『林蔵』もまた凄絶に死にゆく中で、その狭間に落っこちていくのではないか…?


澤村千夜座長 歌の後の挨拶より

※ラストシーンは避けて書いていますが、少しでもネタバレ嫌な方はご注意下さいませm(_ _”m)

はるばる石川まで行った最大の収穫は、千夜さんの演じる『林蔵』を観られたこと! Twitterやファンの方のブログで、感想を読むたびいいなぁと思っていた。だから石川行き夜行バスの中で、ファンの方がTwitterに載せてくれたお外題表を見て、ついに…!私にもこの日が…!と震えた。

色んな劇団さんが演じられる『林蔵』、私はこれまで観たのは3劇団くらい。老いた哀愁が見どころの一つとはいえ、基本的な人間像は大親分だ。任侠らしく眼光鋭い林蔵には、それぞれの役者さんの美しさがあった。

でも千夜さんのは、かなり人間味が濃くて愛嬌寄り。10年ぶりに島から娑婆へ戻って来た林蔵が、真っ先に会いたがるのは娘・お花。
「俺が島に入ったとき、お花は五つ、六つだったろ、ていうことは今頃十五、十六のはずだ」
娘に会う前にうきうきと髪の毛整えたり。早く娘の待つ上尾に帰りたくって、出された食事を食べるヒマも惜しく、包みにぽいっと放り込んだり(ここ、大変キュート!)。

でも前日の口上で「明日は血反吐を吐いて死にます」と話していた通り(なんたるストレートな物言い)、終盤は惨い展開になる。
林蔵は、屋根屋の親分(澤村龍太郎さん)と子分(澤村悠介さん)に斬り刻まれる。なんとか屋根屋を返り討ちにするも、すでに半死半生。視力が弱まっているのか、立つこともままならない状態で床を這いながら刀を振り回す。このあたりから林蔵の姿は一種の怖さを帯びてくる。

血を吐き出し、体が跳ねて倒れる。死んでしまったんだろうか…?と思いきや。突然、目がぎらっと開き、腹から血をこぼしながら立ち上がる。
「おとっつあん!」
お花(澤村神龍副座長)が帰ってきて、父娘の再会の場面。臓腑の破れた林蔵は、娘に看取られてようやく目を閉じる。
と思ったら観客の眼前で、再びガバッと体が跳ね上がる。そのときの目。きゅっと上を向いて、白目がせり出す。愛しい娘でもなく周囲でもなく、死んでいく者はどこを見ているのか…。

気力だけで立って、崩れて、這って、娘に土産として買ってきた着物の包みをずるりと開く。
「おとっつあん、ほら、似合う?」
お花は涙こらえて、着物を着て見せてやる。娘の姿を見届けて、林蔵は心底嬉しそうに笑う。――そして再び血を吐く。
観客の目に常軌を逸した“向こう側”が見え隠れするのは、血糊を大量に使っている生々しさのためだけではなく…。

「10年の島暮らしで、俺は心身ともに弱っちまった。昔は刀の2、3本ぶちこんでも、ふらついたりはしなかったが…」
中盤、林蔵が子分の勇蔵(澤村神龍副座長・二役)から刀を渡されたとき、重みにふらついてつぶやくセリフ。全体を通して象徴的な言葉だ。

死んでいく林蔵の全身に満ちるのは、弱くなった自身への無念。世話してやった屋根屋に裏切られた憤怒。そして最愛の娘を前にして、お花、と呼びながら生にしがみつこうとする執念。
目をカッと見開いて、青いライトの下――千夜さんの痩せ型の体を突き破っていくのは、この役者さんに独特の過剰なまでの何かだ。歯を噛みしめて、きりきりと、この世から振り落とされていく者の悲憤が尖る。

せめてもの救いは、死の間際に娘がいること。兄弟分の清水次郎長(澤村丞弥さん)や、お蝶(喜多川志保さん)も駆けつける。
今までいずれの劇団さんで観た『林蔵』も、こんな風に愛する者たちに看取られて死ぬ幕切れだった。観ながら、林蔵の人生は悪いものじゃなかったんだと思えるところに芝居としての救いがあった。

だけど天華版の最後の最後は――。
ウ…と細く漏れる林蔵の嗚咽。舞台はこちらの安易な救いをはねのけ、刃物のような孤独に貫かれる (未見の人に体感していただきたいので書くのは避けますが、本能的に怖い演出でした) 。

さて、石川は6/2~6/4で行って参りました。突然の人員減の影響で、劇団としてはつらい状況にあったようでした。『林蔵』で神龍さんが二役されていることからも人手が足りていないのがわかるし、裏方は大変なんてものではないという。

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↑口上では座長が座員さんをねぎらう光景も。志保さんに対して、本来なら大幹部と言うべき立場、出番を終えたら楽屋でお茶でも飲んでいていい方なのに、人が足りないので着付けから幕まで走り回らせてしまって申し訳ない…と。
すると志保さんニッコリ、「立ってる者は親でも使えと申します」。さすが💕

3日間、当たったお芝居は『三浦屋孫次郎』(6/2)『林蔵』(6/3)『三人出世』(6/4)の3本。死に物狂いの舞台裏、けれど表に見える芝居は、なぜだか以前より役の気持ちがすっきりと一本化され、その分濃くなったように感じられた。

これまでやってきた芝居は決して裏切らない。
どんなときも。

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【風の盆恋歌】より(6/2)

追記:
拙ブログにいただくコメントやTwitterの反応を見ると、役者・裏方志望の学生さんや、他ジャンルの演劇経験者の方も時々読んで下さっているようなので…(ありがとうございます!)
劇団天華さんでは座員を募集されているとのことです。千夜座長が口上、Twitterで告知されていました。⇒千夜座長Twitter
特に女優さんが今いらっしゃらないようです。情報共有まで。

【劇団天華 今後の公演予定】
6月 大江戸温泉物語ながやま(石川県)
7月 高槻千鳥劇場(大阪府)

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