玄海竜二会頭お芝居『男はつらいよ』―空に恋する男― (劇団KAZUMAゲスト)

2016.11.19夜の部@三吉演芸場

「さくらーぁ!」
一番好きな人は、一番遠いところにいる。

玄海竜二会頭(2016/11/19)


劇団KAZUMA、\絶賛三吉公演中っ!!/
千秋楽12/15(木)まで、もう残すところ半月です!
最近、ブログはある程度まとまった文章を書く用途にしているので…それぞれの芝居の感想や印象に残った舞踊のお写真は、Twitter(@yhgraceyh)に載せてます。
横浜のKAZUMAの様子が知りたいという方がいましたら、よかったら上記をクリックしてTwitterを見ていただければ…。

で、改めてブログでも残しておきたいなと思ったのが11/19(土)に上演された『男はつらいよ』。九州から玄海竜二会頭がゲストで来るのに合わせ、家族も誘って三吉へ駆けつけました!

玄海さんは主役のやくざもの・源吉。
この芝居は外題からして、映画「男はつらいよ」シリーズを下敷きにしているので、源吉は寅さんの時代劇版みたいなキャラクターだ。
「源吉の兄貴は困った女の人がいるとすぐ面倒見て、そんでフラれて。もうなんべんも、その繰り返しじゃねえか」
弟分の銀次(藤美一馬座長)が同情気味に、源吉のフラれぶりを語る場面がある。けれど映画の寅さんと一番異なるのは…
――玄海さんの顔の真ん中、赤く塗った鼻。源吉には、顔面が醜男というコンプレックスがある。
(恋の障害を見た目に設定するのは『花かんざし』とか『平公の恋』みたいで、とても大衆演劇的)

源吉は、三島の山奥で、目が見えない娘が山賊に襲われているところを助ける。娘は崖から落ちて、視力と記憶を失ってしまったという。
「覚えているのは、伴の者と一緒に江戸へ向かう途中だったということ。江戸に着けば、わらわのことを知っている者に会えよう」
と言葉遣いが仰々しい娘を演じるのは、千咲凛笑さん。

千咲凛笑さん(2016/11/19)
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可憐、かつ誇り高いお嬢様の役。凛笑さんの水辺に咲く花のような“守ってあげなきゃ”感が、役柄を成り立たせていた。

娘を連れて、源吉は江戸へ。弟分・銀次の営む髪結床に転がり込む。
「なあ銀次、お前のところでこの娘、預かってくれねぇか」
「おいおい兄貴、こんな若い娘が店にいてみろ、俺となんか関係があるんじゃないかって近所の女連中が店に来なくなっちまうだろ」
奥様方のアイドルの髪結いさん、というちょっとなよやかな設定が一馬座長にハマる。

藤美一馬座長(2016/11/19)
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銀次はほとんどの場面で商売道具の櫛を持っているのだけど、まず櫛というアイテムが一馬座長に似合う!女の人の髪をササッと梳きそうな洒脱な軽やかさ。

銀次はしばし考えて、
「もし、俺のところでこのお嬢さんが暮らすなら、兄貴も一緒に俺のとこに来いよ。それならお客に何か聞かれても、兄貴が面倒みてる娘ですって言えるじゃねえか」
という結論で事は収まる。娘は呼び名がないと不便ということで「さくら」と名付けられた。

医者・薮井竹庵(龍美佑馬さん)の見立てでは、さくらの目は見えるようになるという。
「この娘の目は開くぞ!ただし、いつ開くかはわからない」
「じゃあ、毎日、俺が先生の診療所にさくらを連れてくよ。そんくらいお安い御用だ」
というわけで、源吉とさくらは雨の日も風の日も診療所通い。

劇中、最も印象的な場面のひとつ。遠い診療所に通うのに疲れきったさくらが、「嫌じゃ、もう疲れた、もう一歩も動けぬ」と駄々をこねて泣き始める場面。しょうがねえなぁ、と源吉はさくらをおんぶする。
「ほれ、行くぞ、さくら」
すると泣いていたさくらの顔が、ぱぁっと晴れやかな笑顔に変わって。
「源吉、さあ、参ろう…」
源吉の慈愛に満ちた表情。その背でさくらの安心しきった姿。三吉の小さな花道をはけていく二人には、互いを必要とし合う、温かな愛情が流れていた。

しかし。映画がベースにある以上、寅さんが必ずマドンナと別れるように、やっぱり源吉とさくらにも別れが訪れる。
なんで別れるのかは、これから再演で観る方がいるかもしれないので省略。ここで書き残しておきたいのは、源吉が去っていくさくらを見送るシーンに現れていた、恋の姿だ。
※ここから先、ラストシーンを書いているのでご注意ください

源吉はいつしかさくらに想いを寄せていた。けれど胸の内を告げようとはしない。
「この顔の俺が恋なんて、江戸の人が笑わあ」
自嘲する源吉を、隣にいる銀次が励ます。
「誰が笑ったりするもんか」
竹庵も励ます。
「源さん、誰も笑わねえよ」
その言葉に、ふっと空を見上げる源吉。
「そうだよな…誰も、笑わねえよな…」
涙の溜まった目が雲の向こうを見て、ぱちぱちと瞬きする。

空を恋うる目。
どんなに上に手を伸ばしても、届かない。それでも焦がれずにはいられない。
玄海さんのじっと空に食い入るまなざしをもって、芝居は源吉とさくらの物語を超える。普遍的な“恋”の姿を描き出す。

さくらーぁ!と一言だけ叫んで。源吉は何度も赤い目を瞬かせながらも、ひょうきんに笑ってみせる。そして客席に背を向け、一歩一歩歩いていく。
決して届かないからこそ、愛しい。

映画「男はつらいよ」で…寅さんがマドンナとくっつくチャンスって、けっこうある。けれど、いざ結ばれそうになると、寅さんはたびたび自分からチャンスをふいにしてしまう (もちろん、そうしないと話が続かないんだけど)。
恋しては失う寅さんは、多くの人心をつかんだ。そのことに、遠くにあって初めて成立する恋の純度というのがある―と思わされるのだ。

シリーズものの映画に対して、たった約1時間の芝居で、観客を同じ到達点にまで飛ばしてくれたのは演者の力。
玄海さんて、これまで観た芝居だとハードボイルドな任侠ものか、明るいドタバタ喜劇のイメージだったけれど、こんなにピュアなラブストーリーも表現されるんだ…。
潤んだ目の中に恋をしまい、きゅうっと唇を上げて三枚目の源吉に戻る玄海さん。この凄まじい役者さんと同じ時代にいたことを、いつか私たちは語り草にできるだろう。

“源吉、さあ、参ろう”
遠くにありてこそ―
空のかなたに、想いが咲いている。

【劇団KAZUMA 今後の予定】
11月・12月 三吉演芸場(神奈川)
1月 鈴成り座(大阪)

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之拾九] 退団直前インタビュー! 恋川心哉さんの語る「心・笑顔・感謝」(桐龍座恋川劇団)

彼が踊っている。
彼が客席に飛び込んでくる。
すると、お客さんがなんだか元気になるのがわかる。
「心哉ー!」
この沸き方は、王子様のパワー!

恋川心哉さんは、11月の千秋楽で恋川劇団を退団される。
お芝居のこと、ダンスのこと、来年の旗揚げのことなど、お話を聞かせていただきました!

【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之拾九] 退団直前インタビュー! 恋川心哉さんの語る「心・笑顔・感謝」(桐龍座恋川劇団)

(2016/11/16)


――「心哉さんはとにかく優しい」「丁寧」って、人柄についての評判をよく耳にします。

心 そうなんですかね~…多分、みんな騙されてると思いますけどね…(笑) 

――いえいえ(笑)

心 よくお客さんに言うんですよ。「いや、そうやって男に騙されたらあかんで」って。今日も送り出しで話しましたね。お客さんが「神対応や~」とかって言うから、「いや、そう思ってるその気持ちがすごく良いことで、俺がすごいわけやない。多分それ、騙されてるで」って(笑) 

――ブログには、好きな言葉も書いていらっしゃいましたね。

心 「心」と「笑顔」と「感謝」。そこはほんとに思ってますね。

――人生の師匠的な、影響を受けられた人がいるんですか?

心 神戸のほうの、自分を応援してくれてるお客さんなんですけど。その人は、たとえ何があっても、人を嫌な目で見ない。自分が何を言われても、絶対争わない。ずっと笑顔でいると、良いことが絶対あるからって。その人が言ってた言葉が、心と笑顔と感謝があれば…っていうことだったんです。それを聞いたときに、僕もほんとに素晴らしいことやなって思って。自分の教訓にしてます。

⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

Twitterで仲良くしていただいている、心哉さんファンの方がいる。彼女の愛にあふれたブログや写真を見ていたら、心哉さんの人間的な魅力や、サービス精神の大きさが少しずつわかってきた。
先月、東京公演が始まってから、「もう恋川としての心哉さんは最後だから!」と足繁く劇場に通う人が、どうしてこんなに多いのかも。

個人舞踊で篠原演芸場の花道を駆け抜けていく、その身体から、“お客さんを喜ばせる存在でありたい”という精神がまっすぐに弾けているようだ。
お客さんの笑顔が力、声援が力、どうか楽しんで帰ってほしい!
そんな役者としての在り方が。

余談。
記事製作中、インタビューの録音を書き起こしていると。
「~でしょうか?」「そうですね、それは…」
「~と伺いました」「はい、…」
という、きっちりしたテンポの受け答えが続くことに気づいた。
あ、一つ一つ質問の語尾まできちんと聞き終えてから、答えられているんだ…。
つくづく丁寧な方だなぁ…。

その中で。
「EXILE、本当にお好き「大好きです!」
ここは早かった…!(笑)

近い将来、「劇団心」の座員さんたちが成長した頃には、座長を筆頭にEXILEメドレーなんて舞踊ショーもあるかもしれない。

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芝居でしか言えない ―“ありがとう”のありか―

“上手く言えない 上手く言えない 思ってることが言えない”
“上手く言えない 上手く言えない どうしても上手く言えない”

(ハロー!プロジェクト アンジュルム『上手く言えない』)

お気に入りの女性アイドルの歌から、こんな歌詞を引用してみたものの。
ある劇団の花形さんは、送り出しでめっちゃ“上手く言える”人である。いわゆる神対応。
ぎゅっとお客さんの手を両手で握り。
「ありがとうございました!」
一人一人、顔をのぞきこんで。
時々こちらが何か言ったら、「そうなんですよ~」とか、「そんな風に言ってもらえたらすごく嬉しいです!」とかテンション高めに対応してくれた後で。
「また来てくださいね。お待ちしてます!」
最後に満面の笑み。
お疲れなのになんて丁寧な対応…すごいなぁ、偉いなぁ。そんな愛想のいい役者さんがいる一方で。

数年前の夏、大島劇場の送り出しで、畳にドスッと立っていらしたベテラン役者さんを思い出す。

無題

彼はマネキンのように棒立ち。大きな目をジロリ見開いてはいるのだけど、お客さんと目は合わせない。会釈や笑顔もない。
そんな風なのでお客さんも戸惑って、誰も彼には話しかけていなかった。
「あの…お芝居の親分の役、とても良かったです」
私がノコノコ声をかけたのは、芝居の悪親分役が素晴らしかったからだった。それを一言お伝えしたかった。
「重たい貫禄があって、舞台をどっしり貫くというか…」
「…あぁ、ありがとうございます…」
ちょっと戸惑ったように、微かな声で返答された(やはり目は合わない笑)。

昔、大衆演劇に送り出しの習慣はなかったから、世代差も出るとはいえ。
このベテランさんと同世代で、お客さんと気さくにペラペラお話される役者さんもいることを考えると。
やっぱり、「舞台を降りると喋らない」気質の役者さんっているのだなあと思う。

太夫元や後見ならまだしも。現役の座長さんでそういったタイプの方は、毎日の送り出しも孤軍奮闘じゃないだろうか。芝居のセリフは立て板に水のごとくでも、劇場の出口を出た途端、シャイな顔つきの座長さんに出くわすことが時々ある。

劇団炎舞・橘炎鷹座長の場合は、雑誌のインタビューで率直に語っている。
<今、送り出しが重要視されています。送り出しは、正直に言って苦手です>
(『演劇グラフ』2015年12月号)

今年の6・7月の東京公演で、木馬館や篠原演芸場の出口に立っていた炎鷹さん。友人たちが芝居の感想を口々にお伝えするのを、うん、うんと頷きながら聞いていらした。
Twitterには、小さな子どものお客さんとの、優しい表情の2ショットが流れて来る。饒舌ではないけれど、穏やかで誠実な人柄が滲んでいる。

今年は遠征もしまくったけど(汗)、仕事の出張で大阪にいることも多い一年だった。大阪に行くと、空き時間はレトロ喫茶に行きたくなる習性がついている。
ある駅近でのコーヒータイム。向かいの席のご婦人たちのグループに、男の人が一人入って来た。あ。すっぴんなので一瞬わからなかったけど、近くの劇場で公演している座長さんだ!ご贔屓さんたちとのお茶会かな?と、ついつい気になっていると。
「さっきの送り出し、あんなんじゃあかんよ、座長。もっと丁寧に、一人一人なんか言って相手せんと」
「やっぱり女の人やから、大事に扱われたら嬉しいわ」
どうやら彼の送り出しへのアドバイスが、集まりの主旨らしかった。わりかし辛辣な内容に、もちろん彼のためを思ってなのだろうけど、厳しいな…と内心ヒヤヒヤしていると。
「送り出し、難しい」
黙っていた座長さんが一言だけつぶやいた。グレーのジャケットが、心なしか肩を落としているように見えた。

たしかに、役者さんが笑顔で接してくれたら気持ちが晴れる。「いつもありがとう」「遠くから来てくれたんですね」「また来てね」と声をかけてくれたら、気遣いの行き届いた方なのだなと思う。

なら、言葉をかけない=お客さんへの気持ちがない…んだろうか?
「○○さん、遠征して来たのにそっけなくて」「舞台は良いけど、愛想がね…」
劇場をあとにして駅に向かう道で、そんな声が耳に入った。せっかく遠くから来たのにと、きっと寂しく感じられたのだろう。
色々考えあぐねたので、少し時間を巻き戻してみる。
送り出しの数十秒より、もっと前まで。
3時間をかけた舞台まで。
そこで彼らが何か、言っていた気がする…。

「兄ちゃんの縄解いてやってください、もう逃げへんな兄ちゃん、ホラもう逃げへんて言ってます、なぁ親方」
『上州百両首』の牙次郎は懇願していた。兄・正太郎を捕えている親方の足元にへたりこんでいた。
牙次郎役の役者さん。お客さんとの間にカッチリ距離を置くので、時折冷たいと言われている。前月から、お客さんを飽きさせない演目の並びを練り続けてきたそうだ。

「一生懸命貯めてきたお金なんだろ?!」
『へちまの花』の大工さんは涙ぐんで言っていた。おちょこちゃんを騙そうとしていた自分を恥じていた。
大工さん役の若手さん。人見知りが強いほうで、新しいお客さんの前では人懐っこい笑顔がなかなか出ない。大衆演劇公演を始めたばかりのセンターで、客席にはまだ常連さんと言える人もそんなにいなかったようだ。

「男で、負けた…!」
『喧嘩屋五郎兵衛』の五郎兵衛は叫んでいた。殺めてしまった伊之助の真心に気がついて、ぶるぶる震えていた。
五郎兵衛役の役者さん。まじめすぎる性格ゆえに、時々発言がきつく聞こえてしまう。色んな五郎兵衛のパターンがある中で、最も肌に合う演じ方を選んだそうだ。

――週末の演目は、好きな人の多い『上州』がいいんじゃないか。
――大衆演劇に慣れていない人にもわかりやすい、『へちまの花』だっただろうか。
――『五郎兵衛』は、やっぱり自分の納得できるやり方で行こう。
お客さんに、届くように。

「ほんと、大衆演劇の役者さんて、不器用な人が多いなぁと思うんです」
友人の一人が苦笑しながら言った。

“上手く言えない”人たち。
昼の部。夜の部。深夜までの稽古。付き合い。移動が近づけば荷物。
隙間もない生活の中、寝る前の数分間で考えるのは芝居のこと。睡眠時間を削って書くのは台本。
彼らの多くは、人生ずっと舞台だけしてきて、これしか知らない。

「送り出しでシャイな人って、いくら芸が良くってもやっぱ人気出ないのかな…」
「影でうまくやればええのに、あの人は全部正直に口に出すやん。ほんと損な気性やなぁ」
「どうしても、愛想よくニコニコするのが苦手な子やねん。でも一人で真面目に稽古してんのに」
その不器用っぷりに、各々のファンをやきもきさせながら。

“芝居でしか言えない”人たち。
ヤマ上げ。掛け合い。立ち回り。涙。流れ出るセリフ。
握手で握る手よりも強く、お客さんの心の根っこを握りしめて。顔をのぞきこむよりも深く、一人一人の胸中をのぞきこんで。
全身で観客に叫ぶ、“見てくれ!”
そんな芝居1つは、100の言葉よりも、時に雄弁になりえないだろうか?

「送り出しは、正直に言って苦手です」
「送り出し、難しい」
だから、誰も、下を向かないでくださいな。
素敵な舞台でしたから。

大島劇場で棒立ちになっていたベテランさん。彼の悪親分役を思い出す。主役を今にも取って食いそうな、ゾクゾクする粗暴さ。
主役をジロリと睨み据え、「てめえ、ただですむと思っていやがるのか!」。
それはお客さんへの“ありがとう”。
彼なりの、最大の。

“上手く言えない 上手く言えない どうしても上手く言えない
上手く言えない 上手く言えない あぁもうやり切れない”

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劇団天華お芝居『鷺娘』―夢途絶えてなお―

2016.10.23 夜の部@梅田呉服座 (座長誕生日公演最終日)

それでも生きていかなくては。

「これは道成寺の花子、これは藤娘…まだ私のやったことのない役ばかり」
畳に並べられた、たくさんの絵。
いずれも役者・澤村千左衛門(澤村千夜座長)の姿絵。
「絵の中で、私が踊っているようです」
嬉しそうに一枚一枚を手に取る千左衛門を見て、絵を描いたご贔屓の若旦那(澤村丞弥さん)も満足げ。
若旦那が「ひとまず茶にしよう」と部屋を出る。
ついていく千左衛門は、名残惜しそうに後ろを向いて絵を眺める。一枚、一枚、自分の艶姿を見つめて、ようやく部屋を後にする。
天華さんの新作芝居『鷺娘』の、このさりげない場面がめっぽう好きで、あれは“心”の一瞬だったよなぁと思う。

澤村千夜座長(2016/10/23)


※新作なので後半の詳細は省いて書きますが、少しでもネタバレは嫌だなぁという方はご注意くださいね!

「天華って、なんかどっかチャラいイメージがあったんやけど…芝居始まったら、ちゃうやん!必死やん!って」
「そー!」
10月の梅田呉服座には、舞台以外の思い出もある。呉服座近くのドトールで、Twitterで知り合った天華ファンの方と、身を乗り出して盛り上がった。芝居を愛する、とても楽しい人だ。何より一緒に芝居語りができる人のいる嬉しさ!
呉服座公演が終わった後、お互いの「10月ベスト芝居」を言い合ったところ。二人とも全く同じ(!)2本を挙げた。
一本は10/2(日)の『峠の残雪』。このブログでも再三語ってきた、劇団の代表作であろう悲劇。
そんでもう一本が、千夜さんお誕生日のオリジナル芝居『鷺娘』だったのだ。

『鷺娘』冒頭のシーンが印象深い。雪降る中を、踊りの師匠・平十郎(澤村千夜座長)と、使用人の文七(澤村悠介さん)が歩いてくる。平十郎は片足を引きずっている。
「あれは…」
ふと気づく目線の先、舞台右手の橋の上。白い着物に身を包んだ娘が、身投げしようとしている。
「やめなさい!」
平十郎の声で振り返った娘は、旧知のお嬢さん・お徳(澤村神龍副座長)だった。逃げ出すお徳もまた、片足を引きずっている…。
“片足が不自由”という、おんなじ身体の欠損を抱えた人間が二人。この絵のインパクト!平十郎とお徳は、いったいどんな関係なのだろう?冒頭の場面で一気に引き込まれます。

澤村神龍副座長(2016/10/23)
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芝居の時間軸は過去へ。平十郎が踊りの師匠になる前、人気の女形役者・澤村千左衛門という名前だった頃の話。
丞弥さん演じるご贔屓の旦那は、千左衛門に色んな衣装を着せて、絵に描きたいと家に招く。
「若旦那の絵の達者さは、ご趣味の域ではありませんね」
「いや、お前の立ち姿は、何を着ても本当に美しい」
と二人とも楽しそう(記事の最初に挙げた、絵をながめる場面はここ)。

でも、仲睦まじい役者と贔屓の関係を、身を焼き切らんばかりの心で見ている者がひとり。それが若旦那の許嫁・お徳だった。生まれつき不自由な片足を引きずり、畳に残された千左衛門の絵を見つめて、苦しげに吐き出す。
「本当に、なんてきれいな立ち姿…。陣助さん(若旦那の名)だって、本当はこんな片輪と一緒にはなりたくないんだわ」
このままでは未来の夫の心を奪われてしまう――不安と嫉妬が、お徳を凶行に走らせます。
千左衛門に薬を飲ませて、その足をつぶさんと。
自分とそっくり同じ、“片輪”にと。

さてここまでは、“傷”の話。順風満帆だった役者人生が、悪意によってつぶされる話。
物語は、また現在へと戻り。今度は“傷”からの“回復”を語っていく。
叶わなかった夢は、絵の中に閉じ込めて。

後半は、ほぼ千夜さんの語りのシーンだ。
「役者の千左衛門はもう死んだんです。ここにいるのは、稽古屋の師匠・平十郎です」
踊りを習いたいと平十郎の下へやってきた、“ある客”に向けて。片足がきかなくなってからの、彼の生き方が語られる。
長セリフの全容は、再演時にぜひ生で聞いていただきたいのだけれど、いくつか響いた言葉を拾い上げると。
「片足が不自由になり、二度と舞台に立てないと知ったときの私は、暗闇の底に落ちたようなものでした。一筋の光も見えなかった…」
それでも。
「人は、生きることから、逃れることはできないんです」

人生が明るいときはいい。若き日、夢に向かって道が開けているときはいい。
でも、あるとき道は断たれる。
傷を負って、生きていくことが絶え間ない苦悶になっても、なお明日は来る。

「人は一人でも生きていくことはできます。でもそれはただ、生きているだけ。そんな人生に何の意味がありましょう」
「誰かと一緒に、笑い、泣き、怒り…」
呉服座の舞台に膝をつき、穏やかな語り口の千夜さんの声。

アクロバットとか日常的にされているので四十路とはちょっと思いがたいけれど、このお誕生日公演で43歳になられた。
とっても生意気な書き方になってしまうかもしれないけど。
二十代の頃なら、人生に対して、もっととんがったことを語られたかもしれないな。三十代の頃なら、傷ついた者に対して、こんなに温かなお芝居はされなかったかもしれないな…
「座長は今が、ええよなぁ」
ドトールで盛り上がっていたとき、彼女がニッコリと言った。

「人を癒すのも、また人なんです」
すみずみまで他者への親愛に満ちた、『鷺娘』の物語。

「今日のお芝居は、ぜひ今後もレパートリーに加えてくださいっ!」
送り出しで鼻息荒くお伝えしたのは、この一言(笑)
きっと演じられるたびに、余白が消えて、核の部分は足されて…回数を経て育っていくお芝居なんじゃないかな?と予感しているから。
たとえば彼が千左衛門から平十郎になる間にあった葛藤を、もっと深く見てみたい―なんて想像は尽きない。
再会を楽しみに。
それまでは白木のような、サッパリ出来立ての初演の記憶を、大切に持っていることにしましょう。

絵が畳に散らばっている。
「道成寺の花子、藤娘…」
役者が名残惜しげに振り返る。
かつての夢は絵の中に途絶えても。
“誰かと一緒に”
生きることはなお、喜びであると。

【劇団天華 今後の予定】
11月 四国健康村(香川)
12月 後楽座(岡山)
1月 池田呉服座(大阪)
2月 大江戸温泉物語あわら(福井)

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劇団KAZUMAとの“初めまして”―横浜の良き出会いのために―

「お萩さんの好きなKAZUMAって、11月に三吉なんでしょ?おすすめの芝居とかある?」
「観たことないんだけど、一度行ってみようと思ってて」
この数ヶ月、友人や劇場で知り合った方から、時々そんな風に声をかけていただく。とっても嬉しいことだ。

劇団KAZUMAの三吉演芸場公演は、11/1(火)~12/15(木)夜の部まで。一ヶ月半の長丁場、その間にたくさんの「初めての出会い」が生まれていくのだろう。4年前に私が彼らに出会ったように。

で、ハタと思った。
私自身、初めての劇団さんに行くときにちょっと困りものなのが、役者さんの顔と名前が一致しないこと…
なので、ファンの方のブログで座員さん全員が載っているものを探して、こーいう役者さんがいるのかぁと情報源にしている。
じゃあ、私も。おこがましいかもしれないけど、貴重な関東公演だし、「横浜で劇団KAZUMAを初めて観る」方に役立つことがしたいな!

というわけで11/1(火)夜の部から、撮れたての近影をサクサク貼っていきます。そして個人的な各役者さんについての感想なども添えちゃいます。
これからKAZUMAを観る方、よろしければメンバーの確認にご利用くださいませ!

座長 藤美一馬(ふじみ・かずま)さん
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はんなり美人さんな一馬座長。肌は常々ツルツルです。
芝居はザ・九州!な古典性がくっきりと核にあると思います。奇をてらわず、捻じ曲げず、昔ながらの芝居をひたすら誠実に。そこに加えて、なんとも言えないほわぁ~んとした人間味が漂うとき、あぁ一馬座長だなーと…。
ご本人は落語好き。『紺屋高尾』『品川心中』『文七元結』など、落語を元にお芝居を立てています。こういった“日常の中の小さな物語”が、一馬座長にはとても良く似合う。落語のお芝居は劇団としても代表作なんじゃないでしょうか?

最近ブログもやってらっしゃいますね!文面に癒されます⇒藤美一馬のブログ

副座長 柚姫将(ゆずき・しょう)さん
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“すこやか”という言葉をこんなに体現する成人男性が他にいるだろうか…将さんの笑顔を見ているとそんな風に思っちゃいますね!
毎日全身全霊、舞台に立てば動き回っている副座長。細かなところまで目を配って手を入れて、座長の相手役、二枚目、悪役、女役、それぞれの役に力の限り迫っていきます。舞台を踏んで十数年目のはずですが、今も演じることの歓びがいっぱいに伝わります。
将さんのまっすぐな芝居が全編通して味わえるのは、『身代わり半次郎』かな?『男の人生』では悪役ですが、悲しい生き様がありありと浮かびます。

副座長 冴刃竜也(さえば・たつや)さん
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同じく副座長の竜也さん。どこか影の魅力のある役者さんです。特に女形の色香は、とろりと闇をすくうよう。男の人生を狂わせる系美人。
舞台ぶりを見ていると、キッパリした気性なのがわかってくるように思います。芝居は『兄弟仁義 男の唄』の竜次や、『生首仁義』の長五郎など、感情にパチッと火がつくタイプの、仲間思いのキャラクターがニンだなぁと。それから『次郎長と旅役者』とかコメディの爆発力も楽しい!
水をススーッと滑るような独特の舞踊スタイルも魅力。

劇団千咲座長 千咲大介(せんざき・だいすけ)さん
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劇団千咲から、客演という形で参加されている大介さん。舞踊も芝居もさすがに巧いです。セリフ回しが達者!『へちまの花』の大工さんが愛嬌があって、人懐っこくって好きでした。同じ中学校出身の竜也さんとは本当に仲良しらしく。大介さん・竜也さんが芝居中に兄弟分の役で組んだりすると、息ぴったりな掛け合いが見られるのお楽しみです。
上のお写真を見てもそうですが(写真の腕がイマイチ💦)、着物や小物合わせのセンスが素敵です。ごてごてしないけれど、さりげなく粋だったり洒脱だったり。

藤美真の助(ふじみ・しんのすけ)さん
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三吉の初日にカメラを向けるとこんな感じに(笑) 私の友人が真の助さん大好き!というのもうなずけます。つくづく、おかしい、楽しい、優しい役者さんです。舞台中に後輩たちにいじられても平然としている、器のでっかさ!
『甲州の鬼』の悪親分役は、助平で卑怯な行動にも関わらず、真の助さんにしか出せない愛嬌がある絶品。三吉公演中に出してくださるといいな。

龍美佑馬(たつみ・ゆうま)さん
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悪役からお父さん役まで、実は芝居の一番のキーパーソンな佑馬さん。元は公職で、30代後半になってから初めて舞台を踏んだという異色の経歴の方でもあります。
『浅間の喜太郎』『身代わり半次郎』『雪の夜の父』『戻り橋』など、父子のドラマを描いた芝居は、佑馬さんの本領発揮だなぁと感じます。お父さん役のじんわりと染み入る慈愛、哀れみが胸をつき、自然と涙が…
佑馬さんはがっしりと体格もいいのですが、年老いたお父さん役のときはなぜか小さく見えるんです。不思議!

劇団千咲 千咲凛笑(せんざき・りんしょう)さん
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一にかわいい。二にかわいい。劇団KAZUMAでたった一人の女優さんは、幾十の「かわいい」を捧げても足りないくらい、可憐なかわいらしさのある凛笑さんです。
個人舞踊に手作りのアクセサリーを着けていたり、独自の見せ方をしてくれるのが素敵です。↑の写真のような女学生袴の愛らしさといったら、もう…!手がカメラと一体化するレベルに撮るのをやめられない…!
芝居もお嬢さん役から毒婦役まで、なんでもきちんとこなしてらっしゃいます。『赤尾の林蔵』の、大事に育てられたしっかり者のお嬢さんな感じは特に良いなぁと思います。

追記:凛笑さんもブログやってらっしゃいました!⇒凛笑☆。.:*キマグレ日記♡

ひびき晃太(こうた)さん
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いつも裏で忙しく奔走している晃太さん。個人は歌を歌われることが多いです。いらしてからそろそろ2年、じきに個人舞踊も見たいですね。
送り出しなどで時々接すると、気さくでさばけたお兄さんという感じ。芝居ではどんな持ち味なのか、今後の出番増加が楽しみです。

華原涼(かはら・りょう)さん
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見れたらラッキー!と思っています(笑)。涼さんはいらっしゃる日といらっしゃらない日があって、特に予告とかもないのでその日行ってみて初めてわかります。
どっしりした重さと、怜悧な面差し。親分役とか侍役とか、風格のある役がそのままハマります。逆にこのクールさを逆手にとった、三枚目の面白さはレアですが爆笑ものと思います。『孝行小判』のわずか10分程度の登場場面で、強烈に笑わせてくれた、ぽんこつな十手持ち役が忘れられません。

やっさん
KAZUMAの照明さんです。幕が開く前にお会いすることもあるかも?やっさんの作るしっとりした明かりの中では、役者さんの動きがよくわかります。

もう1名、KEITAさんという若手さんはお休みされているので外しました…(>_<)

最後に、三吉演芸場の11月のお外題表がまるまる1か月分出ているので、こちらもシェア。
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私自身、劇団KAZUMAと出会い直す気持ちで迎えた11月。
誰かが劇団と出会い、好きな役者さんと出会い、特別なお外題に出会うことも、きっとたくさんあるはず。
“特別な出会い”に溢れた、一ヶ月半でありますように!

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