王国に乾杯!―敬愛するすべての座長たちへ―

なぜ、その『黒猫』は胸を打ったか―?
Acid Black Cherryの軽快なリズムに乗せて踊る、若き座長。
イケイケノリノリなこの曲で、まさか涙がにじむなんて。
♪噂の猫って わたーしーのこと…♪
勢いよく花道に躍り出る姿が、記憶の中の様々な座長たちの景色と重なった。
決して、逃げられない人たちの姿。

「劇団のどんな不満でも要求でも、お客さんは座長に言うやろ。聞くの、かなりしんどいみたい。だからなるべく不平等のないように、いつも気を配って…」
これは、別の劇団の常連さんのつぶやき。少し離れたところに、丁寧に送り出しをしている当の座長がいた。
座長さんたちはそれぞれの劇団の顔であり、アイコン。送り出しで告げられるのは、必ずしも「楽しかったよ」「お疲れ様」だけではないようだ。

――お客さんに投げるお菓子やティッシュが行き渡らなかった
――ショーの構成が退屈
――これが観たいあれが観たい
――好きな座員の出番が少ない

お客さん一人一人に、大好きな役者さんがいる。愛しい舞台がある。だからこそ、理想と違うもどかしさも胸に溜まっていく。

私自身、ある女優さん主演の芝居が観たい→女優さん本人に言う→「座長に言ってみてください」→「座長、あの~!」という流れをやることも。
座員さん主演の芝居を観たいって、座長さんにしてみれば気持ちのいいリクエストじゃないかも。でも、決定権のある人に直訴するしかないものな…と、結局、送り出しの先頭に立っている座長のもとへと行くのだ。
こういうとき、いずれの座長さんも、必ずニコニコと振り返ってくれる。疲弊なんぞかけらも見せない。
“客”という自分の権力性がざわつく。

客入りに一番必死なのも、やはり座長だ。彼らは、劇団という会社の経営者。
ミニショーの幕が開いたとき、お客さんが少なめだとスッと青ざめていた若い座長の顔が浮かぶ。
閑散とした客席でも、舞台上では平然とつとめるベテラン座長が、なじみのお客さんに涙ながらに電話してきたという話も聞いた。
苦戦を強いられた一ヶ月、千秋楽で初の大入りが出たとき、気丈な女性座長は糸が切れたように大粒の涙を流していた。

関西に行くたび楽しみにしている雑誌『カンゲキ』のバックナンバーをめくれば、私が頻繁に観ている座長たちも、ぽつりと重々しい言葉を残している。
(舞台の苦しさという質問で)
“本番前のプレッシャーやお客様の入り具合など、経営者的な苦しみですね”
<2016年2月号 劇団天華・澤村千夜座長>

(苦しい時に頼る人や物はありますか?という質問で)
“物も人もないですね…最後は自分で解決していかないといけないので…”
<2016年2月号 劇団炎舞・橘炎鷹座長>

――組織のトップなんだから、苦労は当然。
――そのかわり芝居は基本いつも主役だし、お花はいっぱいつくし、十分な見返りはあるじゃない。
頭の中で、正論が好きな自分がそう述べてくるけれど。

それよりもっと奥深い記憶。
今年、入りの少ない客席で観た、ある座長さんの『黒猫』。
観ながら思ったのは、もしかして、ポップスのダンスは踊り慣れていないんじゃないかな…。
さっきまで、古典舞踊や演歌を踊っていたときは、しなやかな曲線を描いていた体。多分、そういった古いものが本来の得意技なんだろう。弧を描く体を、直線的なパキパキしたリズムに無理やり合わせている…そんな違和感があった。

それでも満面の笑みで、汗だくで、踊る。
少しでも盛り上がる曲で、沸いてもらわなきゃ。
楽しいと思ってもらわなきゃ。
だって、座長だから。
休日の昼の部、多いとは決して言えない客席。この場所で明日も公演がある。明後日も。今月の千秋楽を迎えるまで。
しなる背中は、劇団全部を負う背。
伸ばされる腕は、座員みんなを引っ張る腕。
彼はアイコンだから。
彼は経営者だから。

徐々に手拍子が大きくなってきた。後方の客席を振り返れば、座長の笑みにつられたように、楽しそうに相好を崩している人もいる。
♪だんだん 強く どんどん 私を生―かせるー…♪
サビで、バッと腕を掲げる汗まみれの笑顔。客席という鏡からの照射を受けて、まるで花が開くようだ。
ニカッと現れる白い歯は、まるで実がはじけるようだ。

どの劇団でも出会う、あの空気を何と名付けられるだろう?
座長さんが舞台中央で大きな笑顔を見せるとき、封を解かれる特別な空気。
自分が築いた劇団の中心で。
自分が築いた客席を見つめて。

内心、昨日のクレームめいた送り出しが引っかかったままでも。
今朝は、入りの厳しい数字とにらめっこしていても。
今夜は、資金繰りに頭を抱えていても。
それでもなお、お客さんの笑顔が嬉しくって、笑みこぼす心もきっとあると。
舞台を通して人を喜ばせるという根っこの喜びは、どうしたって消えないままだと。

だから私たち客席も、特別な名で呼ぶ。
「座長!」
それは、この空間に君臨する人の名だ。
大きな劇場でも、小さなセンターでも。
今ここでは、あなたが王様。
「来てよかった」「観れてよかった」「楽しかった!」
この喜びは、あなたの王国でもらったおみやげ。

劇団舞姫・葵好太郎座長(2016/9/3)


たつみ演劇BOX・小泉たつみ座長(2016/9/4)
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劇団炎舞・橘炎鷹座長(2016/6/4)
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劇団天華・澤村千夜座長(2016/5/22)
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劇団飛翔・恋瀬川翔炎座長(2016/4/24)
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劇団都・藤乃かな座長(2016/6/26)
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劇団KAZUMA・藤美一馬座長(2016/6/25)
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拙ブログを読んで下さっている方も、きっとみんな大好きな劇団をお持ちのことだろう。
その長たる彼(彼女)へ、よければ一緒に喝采を。
背負って、引っ張って、走り続ける王様たちへ。
一緒に、乾杯を!

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劇団新お芝居『俺は…太郎』―未来のスパイス―

2016.8.28 昼の部@茂美の湯・もさく座

喜劇で今年一番笑った、というくらい笑った。
新座長がゆったりと大股で舞台を踏み、肩にかついだ刀を揺らす。
「これ(刀)か…?これはな、千歳飴だ」
ニヒルに唇を歪め、かすれの混じったイイ声で言うのに爆笑。
そして、笑いの中に息づいていた新しい芽。
出会ったことのない、大衆演劇の外側に開かれた目。

龍新座長(2016/8/28)


※今回、新作ということで芝居の本筋にほとんど触れていません。気になる~という方がいらっしゃいましたら、ぜひ劇場でご覧ください!

「新さんのオリジナルの何が良かったかっていうと、新しい気づきがあったこと!」
友人が以前観た劇団新のオリジナル芝居に、いたく感銘を受けていたのを見聞きして。
またTwitterに流れて来るフォロワーさんのドラマチックな写真に惹かれて。
関西に行ってしまう前に劇団新を観ようと、初めての茂美の湯まで約2時間かけて来てみれば。
偶然にも8/28(日)は、昼夜ともオリジナル芝居!やったね!

昼の芝居『俺は…太郎』は冒険譚を骨格にしたコメディ。夜の芝居『黄昏空の下で』は少年少女の純愛が描かれる悲劇。
どちらも、新座長の現代っ子感性がほとばしっていた。セリフや演出の端々に、青々しい想像力の枝葉がパキパキ伸びていく。
新さんは映画大好きでいらっしゃるらしく。どうりで、回想シーンと平行した立ち回りなど、すごく映画っぽいと思わせられる演出がちらほら。

中でも斬新だったのが『俺は…太郎』。小龍優さん演じるやくざの下っ端・三太郎を主役にした芝居だ。

小龍優さん(2016/8/28)
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友人たちにもファンの多い優さん。16歳にしてこの貫禄と、かわいらしさが同居しているのに感嘆。

「海賊の荒波の鬼五郎の首を獲って来い。いいか、ここにくじがある。このくじの先が赤かった奴が、一人で行くんだ」
親分(秋よう子さん)が差し出したくじ引き。
一番先に引いた三太郎のくじの先は…
「親分、これは赤じゃないですよね」
「いや、赤だろ」
「緑でしょ!俺にはこれ緑に見えるもん!」
「赤だよ。三、お前で決まりだ」
三太郎は必死に逃れようとするも無駄なあがき。

「俺一人でって、死ににいくようなもんじゃん!」
どうせ生きて帰って来れない命。出発の前夜、三太郎はやけ酒をあおりに居酒屋に入る。
そこには、変な亭主がいた。サングラス(的なもの)をかけた新座長が、戸惑う三太郎の傍らに腰掛けて、粋な旅人風に微笑む。
「お前…何のためにここへ?」
「いや、酒飲みに来たんだけど…」
まったくだ…(笑)

「熱燗もらえるかな」
と注文すれば、亭主はフッとうなずき、非常にイイ声を奥の間に飛ばす。
「熱燗いっちょう!」
「この店、お前以外に奥さんとか、誰かいるの?」
「俺のこの風貌を見て、人がいるように思うのか?みんな居つかないでいなくなっちまったよ」
「じゃあお前が行かないと熱燗出てこないじゃん!」
「はっはっ。お前、面白い奴だな」
「面白いのはお前だよ!」
まったくだ!(笑)

居酒屋の亭主がなんでこんなにおかしいと思ったか、というと。
新座長が意図してか、意図せずしてかはわからないけど。
彼の行動の一つ一つが、たしかに“大衆演劇あるあるのおさらい”になっているからだ。

三太郎に何度も言う「お前、面白い奴だな」っていうのも、二枚目の主人公がアホな三枚目と出会ったときとかによく言うセリフ。この芝居では、それを言っている奴のほうが面白い(笑)
亭主が引っ込むとき、幾たびも振り返って低―い声で、
「三太郎さんよぉ、これだけは言っとくぜ…」
これも影を背負った二枚目役のセリフあるある。それがこの芝居では、三太郎に「しつこいよ!さっさと入れよ!」と突っ込まれる(笑)

従来の大衆演劇様式がベースにあった上で。
「様式を過剰にすると笑いになる」ということが、新さん・優さんのやり取りの中でイキイキと実践される。
映画やテレビ、ほかの芸能を日常的に見ている人ならではの斜め上からの切り口は、ぴりっとスパイスみたいに効く。
このキャラ、実はすっごく新しい何かじゃないか?!と、もさく座の客席でわくわくしっぱなしだった。

居酒屋の亭主だけにフォーカスしたけど、芝居は居酒屋の場面が終わってからが本題だ。三太郎の下に、猿吉(龍錦さん)、お雉(新燿さん)、犬次郎(龍児さん)が揃い、鬼五郎を目指す。
心優しい猿吉は、錦さんのやわらかな持ち味そのものだったし。
燿さんのお雉は、コメディの中にも、恋に真剣な健気さがあったし。
龍児さんの犬次郎は、のんびりしたトボケ感と「世を知ってる」感が絶妙な混ざり具合。
オリジナルのホンの中で、演じている一人一人がとかく活気づいていた。
そして最後にはアッと驚く仕掛けも。

「芝居が良いって最高に幸せ!」
「今日、楽しかったねえー!」
もさく座からの帰り道、友人と何度も言い合った。

一行はこれから、初の関西回りに行かれるという。
「関西でつくったものを、また来年以降の関東でどんどん出していきたいと思います!」
ニッコリして言いきる新座長の爽やかさ。

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この日の夜の部の個人舞踊「花は咲く」は、やさしい鎮魂に満ちていた。

若きクリエイターに福運あれ!

【劇団新 今後の予定】
9月:島田蓬莱座(静岡)
10月:ユラックス(三重)
11月:夢芝居(和歌山県)
12月:鈴成り座(大阪)

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