高槻千鳥から②劇団天華お芝居「釣忍」―ある家の幸福―

2016.5.22昼@高槻千鳥劇場

前回からの続き!
日曜日のロングラン公演二本目は、お芝居を観る幸福について、再度教えてくれるものでした。

5.22(日)芝居二本目「釣忍」
おなじみ「釣忍」。定次郎・おはんの夫婦は、つましいながらも仲良く暮らしている。けれどもある日、実家の兄が定次郎を跡取りとして連れ戻しにやってくる。

亭主の定次郎に千夜さん。

澤村千夜座長

(5/22個人舞踊。この鬘、トレードマークなんでしょうか?珍しいし、よくお似合い!)

役者さんのニンとぴたり合う役の出会いは、気持ちいい舞台を約束してくれるものだと思うけど。この定次郎役と千夜さんは、合うというか、もう持ち味そのまま!な感じがします。すんごいナチュラル。
「俺が惚れた女ってのは、おめぇをおいて他にはいねえよ」
決め台詞にもどこかフワッと浮き上がった感じがあって、この世を楽しく泳いでいる人物像が浮かぶ。

そして女房のおはんに神龍さん。

澤村神龍副座長
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(5/21 個人舞踊)

神龍さんおはんの愛想づかしの場面が抜群だった!夫婦の暮らしがほころびていくのは、定次郎の実家・白金屋から兄・佐太郎(澤村龍太郎さん)が訪れたとき。
「定次郎が白金屋の跡取りに決まった。おはんさん、どうか何も言わず定次郎と別れてほしい」
頭を下げ、そうでなければ切腹するとまで言う佐太郎に、おはんは泣く泣く別れを承知する。
「芸者上がりの後ろめたさに、飲まないと決めたお酒だけれど…」
意を決した表情で酒をあおり始める。そこへ帰って来た定次郎。おはんは振り返りもせず、キツイ言葉を次々浴びせていく。
「これはね、あたしが自分で働いて自分で買ったお酒なんだ。定さんはこの2年、ろくに働きもしないじゃないか」
うっすら笑んで次の一言。
「帰る場所なら立派な実家があるじゃない。結局定さんにはこういった暮らしは無理なんだよ、ねえ坊ちゃん」
この言葉に、女房をなだめていた定次郎の顔つきが変わる。
「言っていいことと悪いことがあるぞ…」

愛情で覆われていた、埋めがたい格差が露わになる。金持ちの家で大事に育てられた定次郎と、陽の当たらない芸者の人生を歩んで来たおはん。
「坊ちゃん、ねえ、ボンボン?」
おはんは執拗にからかうような口調で、定次郎を怒らせる。遠ざける。自分の生きてきた低みから、高いところへ夫を戻してやる。

おはんは部屋の隅に座って、出ていく支度をする夫をじっ…と見ている。定次郎がいなくなり、暗い部屋に一人残された後。そろそろと立ち上がって、玄関口に下げてある釣忍を見に行く。咲かない花を無言で見上げる。神龍さんのほっそりした横顔が浮かび上がる。
もう希望は自分の人生から出て行った。
定さん――
畳にへたりこみ、 顔を覆って引き裂く泣き声。
気取りも照れもなく、“おはん”という女の役に全身で飛び込む神龍さんは、やっぱり素敵な役者さんだなぁと思いました。

ここまでのところだと、白金屋が完全に悪者だけども。定次郎の家族も、決して悪人じゃないのだ。
たとえば龍太郎さん演じる兄の佐太郎。

澤村龍太郎さん
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(5/21 個人舞踊)

妾腹の子であるため、ご本家(澤村悠介さん)とお付きの女(沢村静華さん)からは冷たくあしらわれている。
「佐太郎さんは先代がよその女の人に産ませた子…いわば妾の子です。いくらかのお金を持たせて家を出て行かせなさい」
佐太郎は弟を恨んでも当然の立場。けども、実家に帰るのは嫌だと言う定次郎の頬をパシンと張ってしまった後、ハッと手を押さえる。しまった!と自分でおののくような表情に、口にはしない弟への愛情が現れていた。

それから志保さん演じる定次郎の母。

喜多川志保さん
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(5/22 個人舞踊『滝の白糸』。芝居のような絶品でした)

勘当した我が子のことをひたすら心配しつつも。
「佐太郎、すまないね、お前にはいつも苦労をかけるねえ…」
自分が産んだ子と同じくらい、なさぬ仲の子にも心を注ぐ、“お母さん”の姿がとても好きだった。

そんな家族だから。定次郎のほうも心の内では母と兄を慕っている。
「今の白金屋があるのは、あんちゃんが雨の日も風の日もご贔屓さん回りして、どうか白金屋をお願いしますって頭下げてくれたおかげじゃねえか!」
とご本家相手に啖呵を切る。
「おっかさん…許してやっておくんなせえよ…!」
と去り際にしぼり出す声で母を振り返る。

「釣忍」って、夫婦愛を描いたお話だと思っていたけど。
白金屋という家族の物語でもあるんだな。
定次郎もおはんも佐太郎も母も、みんながお互いを思いやっているのに。誰一人、悪人ではないのに。
“芸者上がりの後ろめたさに”
“いわば妾の子です”
“ 結局定さんにはこういった暮らしは無理なんだよ ”
生まれの差、育ちの差…浮世のしがらみに絡みつかれて、苦しいほどにうまくいかない。

だからクライマックスの場面はひとつの浄化のようだ。ご本家を激怒させ、再び勘当になった定次郎。母と兄の前で、ひとりごとみたいに口を開く。
「なぁあんちゃん、お前、祭りって行ったことあるか?ねえよな、お前は昔から仕事ばっかりだったもんな」
「あんちゃん、祭りってのは楽しいよ。仲の良いもん同士で集まってよ、朝までたらふく酒飲んで神輿かつぐんだ、そりゃあ景気がいいもんだよ!」
「祭りの太鼓はてんつくつ、てんてんつくつく、てんつくつ…」
ひょっとこのお面を懐から取り出して。舞台の右から左へと、お面を着けた千夜さんが滑らかに踊っていく。
もつれあった糸をスルスルほどくように。
ただみんなでお酒を飲む―ハレの祭りの情景。現実にがんじがらめになった人々を、淡い夢がひっそりよぎっていく。

踊りが終わると、お面を外し、ひょっとこの口のあたりを指でつつく。
トン、トン…
おどけた面。悲しみを隠せる笑い顔。
トン、トン…
お面と向かい合う千夜さんの表情はしんとしている。定次郎という人物は、この“おどけ”を相棒にずっと生きてきたのだろう。高いところにいられないように。低みに降りられるように。

定次郎が家を出ると、飲み仲間の留(澤村丞弥さん)と出くわす。軽口叩いている間に、おはんが迎えに来る。佐太郎と母とも和解し、白金屋は佐太郎が継ぐことになり、最後は大団円だ。
「おはんさん、私ね、そこにいる定次郎、勘当いたしましたのよ。だからこれからは、どうぞこの子をよろしくお願いします」 
母のにこやかな言葉を聞いて、お母さんに対してだけは最後まで気まずそうに背を向けていた定次郎が、ようやく安堵した笑みに変わる。

定次郎、おはん、佐太郎、母。
最後は舞台の上のみんなが幸福そうな光景。
千夜さん、神龍さん、龍太郎さん、志保さん。
それぞれが役に寄り添っているからこその。

お芝居が終わったとき、素敵な芝居だった、幸せ!と思えるのは。
舞台に立っている人たちの、役として振る舞う真摯な姿勢のおかげなのだと思う。
“イケメン軍団”である彼らが、思いきり顔を崩し、膝をついてむせび、泣き声上げて、慌てふためき、ごろっと老ける。
“俺”がいなくなって、役と、汗だけが見える。

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(5/22 オープニング)

そういうとき私はいつも、華やかなこの劇団さんの、芝居に対しての誠実さを見る気がするのです。

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高槻千鳥から①劇団天華お芝居「花かんざし」「桶屋さん」

2016.5.21夜&22昼@高槻千鳥劇場

“物語”に浸かりたい。



元々、5/21-22の週末に大阪・京都旅行を予定していたところ。
大阪に行くなら、どーしても高槻千鳥劇場をスルーできない…っ!という私のとんでもないワガママに心優しい連れが付き合ってくれた(ありがとう!!)。
しかも2日間だから観られる芝居は2本だな~と思っていたら。出発前に劇場のブログを再確認して目を疑った。
5月22日(日) 昼1回ロング公演 お芝居二本立て
ということは2日間合わせて3本の芝居が観れちゃうということ…?
…私、今一番好きな日本語が「お芝居二本立て」です(次点は「通し狂言」)。

幸運にも観られた三本の感想を順に書いていきます!

5.21(土)夜 「花かんざし」
色んな劇団さんでお馴染みの演目。この日は大川竜之助座長がゲスト。主役の顔に大きなアザのある男は竜之助座長が演じていた(役名がどうしても思い出せず…残念な記憶力で申し訳ないm(__)m)。

大川竜之助座長
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(5/21はお歌も披露。千夜さんのリクエストだったという長渕剛から、『Close your eyes』を熱唱!さすがはプロの巧さでした)

竜之助座長演じる主人公は、旅の道中、悪い侍(澤村龍太郎さん)に斬り殺された女(喜多川志保さん)を見つける。そこへ女の娘(澤村神龍副座長)が戻ってくる。
「おっかさん、これからあたし一人でどうしたらいいの…」
泣き崩れる娘をよく見れば、目が見えていない。目を開けるために医者にかかるお金を持って、母娘二人で旅の途中だったという。
「なんだ、来るところがねえなら、俺のうちに来るか?」
と低く語りかける様はハードボイルドなカッコよさ。娘・お花ちゃんと一緒に暮らすようになってからは徐々に恋心を寄せるけれど、
「兄さんは、どうしてあたしにこんなに良くしてくれるの?」
「そりゃ、俺は、お前に惚…いや、いや、なんでもない」
と言葉を引っ込めてしまう、語らない男の渋みがある。

でも、竜之助さんの作るキャラクターが真に伝わってきたのは、後半の展開でその“カッコよさ”が剥がれてきてから。
「兄さんがどんな顔をしているか知りたい。兄さんの顔を触らせてほしいの」
と頼むお花ちゃん。しかし自分の顔には大きなアザがある。きっと触らせたら怖がるに違いない、嫌われるかもしれない…
そこで、ひょっこり訪ねてきた弟分の政吉(澤村千夜座長)に頼む。
「お前の顔を、ちょいと俺に貸しちゃあくれねえか」
だけど政吉が、お花ちゃんの身の上を聞いて「かわいそうになぁ」と一言言おうものなら。
「同情なんてするんじゃねえ!かわいそうだ、何とかしてやりたい、と思い続けたら、その先には何がある?愛情に変わるんだよ」

いら立ったように政吉を監視する、竜之助さんの全身に“焦躁”があった。今の暮らしを壊したくない、でも顔のきれいな弟分に恋を奪われるのは怖い、という焦りが不機嫌そうな表情にハッキリ見て取れた。

不安通り、政吉はお花ちゃんを好きになってしまう。
「頼む、政吉、諦めてくれ。お前はこれから先、いくらだって女はいるだろう。俺にとっては初めての恋なんだ」
弟分に頭まで下げて、もう必死だ。落ち着き払った兄貴分の姿が崩れるほどに、恋の切実さがひしひしと迫って来る。

そして千夜さんの政吉。ラストに、あ!と目を開かされた。

澤村千夜座長
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(5/21個人舞踊『傘ん中』)

「兄貴、聞きましたぜ、旅から帰ってから若い女連れ込んでうまくやってるらしいじゃないですか!」
と、ニヤリ笑って言う。竜之助さんが渋く締まった味なのに対して、千夜さんの見せ方はフワンと軽くて柔らかで、両者のバランスが面白い。
恋敵となった兄弟分が決闘しかかっていたところに、親分(澤村丞弥さん)がやって来て、破門することにした兄貴のほうを襲おうとすると。
「はいはい、親分、俺そっちにつきます!一緒にやっちまいましょう!」
って義侠心なくサクッと裏切る(笑)

けど、ラストシーン。目の開いたお花ちゃんは、あんまりな誤解だけども、恩人と間違えて政吉のほうに駆け寄っていく。好きな女を手に入れてさぞ喜ぶかと思いきや。
意外にも、政吉の横顔は呆然としていた。ただ言葉を失って、お花ちゃんに素通りされた兄貴分の背中を見やる。
竜之助さんがきっぱり決めて、「幸せになれよ」と言い残して去っていく。一人きりで立ち去る主人公の哀れみが際立つシーンだけども。
―その背後で、千夜さんが体を投げ出して、土下座せんばかりに頭を下げているのが目に入った。
盃を分けた兄貴分への気持ちが、政吉の中にはちゃんと残っているんだ…

悲しみこらえて去る兄と、背後で詫び続ける弟。役者さんは一途にそれぞれの役になりきって演じているだけなのだろうけど。結果的に、そこには去る者・残される者、両者の心が響く複眼的な絵があった。
大衆演劇初めてだった連れが、三本一緒に観てくれたうち、一番良かったと言ってくれたのが『花かんざし』でした。

初日でこんな長々書いてますが、続きます。もうちょっとだけお付き合いを!
翌日はカンカン照りの日曜日。
劇場の階段を昇る足取りも軽く、ロング公演です!
お芝居二本立てです!(しつこい)

5.22(日)芝居一本目「桶屋さん」
他の劇団さんを含め、初めて観る芝居だった。

千夜さん演じる桶屋の社長・ハゲ山(笑)は、旅一座の女座長・志保太夫(喜多川志保さん)に入れあげて、寄り合いだとウソをついては高槻千鳥劇場に通う日々。ある日そのことが、桶屋の弟子っ子・鶴(澤村神龍副座長)と亀(澤村丞弥さん)の口から、社長の妻・よしえ(澤村悠介さん)にバレてしまう…というコメディ。
一幕一場で桶屋だけを舞台に、中のドタバタが描かれる。こういう“家の中の小さな喜劇”、大好物!しょーもないことで必死に右往左往する人々の愛しさ。

ハゲかつら被った千夜さんの愛嬌もさることながら、「あんたがしっかりしてないからや!」と恐妻全開で怒鳴りつつもキュートな悠介さん。“肝っ玉母ちゃん”的な役を貫禄とおかしみを持って演じきる。この役者さんが24歳とは…。

澤村悠介さん
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(5/22一部の舞踊ショー。キュートさと老獪さが入り混じる、不思議なたたずまいだと思います)

いま二人、微笑ましいのが、神龍さんの鶴・丞弥さんの亀の弟子っ子コンピ!神龍さんと丞弥さん、いかにも現代的・少年的な役者さん二人が“弟子っ子”っていう枠の中で絡むと、こんなに可愛いんですね。

澤村神龍副座長
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(5/22個人舞踊。いっぱいのお客さんを前に、のびのびした表情)

澤村丞弥さん
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(5/21個人舞踊。驚きのLINE柄のお着物!)

芝居上の役割は同じなんだけど、耳聡くてすばしっこそうな鶴とのんびりポワンとした亀、二人のキャラクターの違いが面白かった。
たとえば、悠介さん演じる社長の妻に「お父ちゃんのこと喋ってくれたら、5000円やるわ」って言われたとき。
「5000円…どうする?」
と興奮しつつも色々計算してそうな表情の鶴。
「全部話す!」
とのーんびりした笑顔であっさり応じる亀(笑)

この他、志保さんのテレンと色っぽい女座長とか(「お父ちゃん」って社長に甘えつく姿のかわいいこと!)、龍太郎さんのいかにもざっくばらんな感じの旅役者とか、静華さんの(どう見ても美人すぎる)うどん屋さんとか、賑やかなキャラクターが小さな桶屋さんを横切っていく。
その中で、千夜さん社長が志保太夫に渡す着物をなんとか家の外に持ち出そうと、一生懸命に策を練るのが楽しい。

さて芝居二本目「釣忍」は次の記事で書きます。
この劇団さん、やっぱり素敵だな、と思わせてくれるお芝居であったと同時。
“お芝居を観る”ことの幸福感がどこにあるのかを、示唆してくれるようなひと時でした。

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いつか故郷に帰る日を―股旅コレクション―

縞の合羽に三度笠。
どこから来たのか、どこへ行くのか。

役者さんの、股旅姿が、好きです!
その日の舞踊ショーで股旅姿が出てくれば。
ありがたや嬉しやと心を潤し、草鞋からスッと伸びる足のラインや、刀にひょいとかかった手の粋な形を味わいつつ、デジカメのシャッターを押しっぱなしにする作業に入るのは、股旅神の信徒としてのたしなみというもの(※個人の意見です)。

仕事で心が疲れたときの必須アイテム=フォルダの中の股旅画像を眺めていたら、この人の三度笠良かったなぁ、この人もいいなぁ、と。
一枚一枚を眺めつつ味わいつつ、のんびり夏の晩酌をするような気持ちで、ぺたぺたと股旅写真をブログに貼っていきたくなりました。
一緒に見てやるよという方は、拙いばかりの写真にしばしお付き合いくださいませ~。



劇団悠・高橋茂紀さん(2015/3/22@浪速クラブ)

のっけから、ほー…っと息をつきたくなってしまって書く手が止まる(笑)。下町かぶき組所属の高橋さん、私は「劇団悠」でお見掛けしている。芝居ではなぜか高橋さんの悪役ばかりに当たるのだけど(『お吉物語』での伊佐新次郎役とか)、舞踊では陽気で晴れ晴れしたキャラクターなのが楽しい!
この個人舞踊には去年の浪速クラブで出会えた。笠の下からのぞく、ススっと筆で書いたような目鼻立ちが美しい。この旅人は何かわけありなんだろうか?視線は前を見ているのに、どこか捨てきれなかった未練を感じさせるのがとても味わい深いたたずまいだった。

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きれいな立ち姿。どなたかというと…

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劇団KAZUMA・KEITAさん(2015/11/15@浪速クラブ)

劇団KAZUMAの誇る美青年!目ぱっちりの少女漫画のヒーローみたいな顔立ちのKEITAさんが古典的なものを踊ると、エキゾチックな魅力が出て来る気がします。写真の舞踊は『潮来笠』。心が定まりきってない感じも、旅を始めたばかりの若者らしく、みずみずしい。

そう、当たり前だけど股旅って“旅をしてる”!どこかからどこかへ行こうとしている。
だから衣装そのものの物語性+役者さんの持ち味と演技力で、いろ―んな物語をわくわくと妄想できる。ダーッと妄想を書いていきます!

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劇団都・藤乃かな座長(2015/10/10@島田蓬莱座)

粋!熱い!カッコイイ!立ち舞踊だと、客席から自然に黄色い悲鳴が上がるかなさん。股旅姿は、かちっと留め金の音がするように形が決まる。
この舞踊は、手にした赤い玉のかんざしが物語を想像させた。誰かに会うのか、探すのか?島田蓬莱座の小さな舞台に、旅人の行き先を追っかけたくなるような、イキイキした世界が開かれていた。

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たつみ演劇BOX・小泉ダイヤ座長(2015/1/1@浅草木馬館)

ちょっと古いお写真ですが、たしか曲は『沓掛時次郎』。恋しいおきぬさんに向けて、思いを乗せたセリフ付きで熱演でした。お芝居でもダイヤさんの股旅姿は、まっすぐ!かつ柔らか!な感じが、稀有な汚れのなさだなぁと思う。

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恋川純弥さん(2016/3/20@梅田呉服座)

こちらも『沓掛時次郎』。今年3月の座長公演からの一枚。純弥さんはとにかく姿が美しかった!背が高くて脚絆を巻いた足がすらーっと長くて、ぐっと落とした腰や、刀を一振りする腕に見惚れてしまう。

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劇団新・龍新座長(2016/3/27@小岩湯宴ランド)

舞踊中のお写真じゃなく口上のお写真(このときの芝居も股旅もの)。私の中で股旅姿が絵のように似合う若手座長・1位独走中の新さん!線のハッキリした顔立ちに懐かしい情味が漂っている。特に今年2月に立川けやき座で観た芝居『関の弥太っぺ』は、原作から抜け出てきたような生命力あふれる弥太っぺに目を見張った。

さて義理と人情の綱渡り、そんなカラッと陽気な股旅姿はもちろん素敵だけども。
やっぱりやくざ者なので、博打に喧嘩、血なまぐさい裏通りの匂いがするのもいいな!というわけで次はちょっと暗めな写真を3枚。

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劇団天華・澤村千夜座長(2016/2/14@堺東羅い舞座)

曲は『一本刀土俵入り』。だいぶ美形な駒形茂兵衛でした。どん!と大きく足を鳴らして土俵入り。千夜さんの股旅姿は、描線がまろやかというか、アウトローらしいアソビの世界の雰囲気が漂うのが私的にはツボです。人生きれいなことばかりじゃないけど、なんだかんだ道中に楽しみを見つけられそうな、享楽的な癒しがにじむ。

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たつみ演劇BOX・小泉ライトさん(2015/2/3@篠原演芸場)

ここ1、2年でめっきり大人になって、「ライトくん」とは呼べなくなってきたライトさん。ポップス舞踊をよく見るけど、たつみ座長のキリッとした線の鋭さを受け継いでいるのか、古典ものもよくお似合い。この旅人は何か秘めごとでもありそうな、影にひらめく目が美しい。

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桐龍座恋川劇団・恋川風馬さん(2015/4/11@篠原演芸場)

いま一人、若々しいやくざ者!風馬さんはハンサムぶりを活かした今風な舞踊に当たることが多いので、この舞踊に当たったときは嬉しかったなぁ。風馬さんの硬質な暗さがハッキリと形を現してる気がします。これから喧嘩にでも向かうのか、重い役目でも背負ってるのか…そんな想像をかきたてる、夜を行く股旅。

いずれの股旅も当然ながら旅の最中。それは大衆演劇の役者さんたち自身の生活とも重なる。前の土地から次の土地へ、寝るところを変え、立つ舞台を変え…
だから舞台の上の股旅姿は、一見、観客席の暮らしと対極の形だ。私たちの多くは“家”を中心に、いつも同じ場所で寝て、同じところへ働きに行く。

でも。
私たちの体はせわしない営みの中にあっても、意識だけは漂流する。
ふいに手を止め、空を仰いで、自分は今何をしているんだろう…?自分の本当にいるべき場所はどこなんだろう…。そんな問いかけにつつかれて、自身を天から見つめる瞬間が誰にもあるだろう。
現実を飛び立とうとする心がうっすら夢見る、“ここではないどこか”。

その夢の温度が、三度笠を被って、縞の合羽を羽織って、結晶として舞台に現れたとき、ハッと無意識に何かが響いてくる。
家を出て、社会からもはみ出して、見たこともない故郷へ帰ろうとうずく。

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橘劇団・橘大五郎座長(2015/8/2@浅草木馬館)

どこから来たのか、どこへ行くのか。
誰かに会うのか、探すのか。
家は影までとうに失い、昨日離れた地は遠く、触れ合う知らぬ人の袖、明日は明日の空の下、いつか故郷に出会う日を―

いやぁ、股旅って本当に良いもんですね~。

最後の大五郎さんの一枚は、粋っぷりといい線の美しさといい、なんかこう、ザ・お手本!って感じです。出てきた瞬間、審査員全員10点!みたいな。

聞くところによれば、昔より股旅のお芝居・舞踊は減る傾向にあるとか…。だからこそ、ここに上げた写真のような、若い役者さんの股旅スピリッツに敬意を表したくなる。

今日もどこかの劇場・センターで。
青暗い照明の舞台に一人、旅人がたたずむ。
その背に観客の数だけの故郷を負って、帰り道を探しに行く。

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之拾四]・横浜、三吉演芸場とともに 喫茶「樹林」のストーリー

大衆演劇場の近くにある、名物喫茶や居酒屋。
おいしいものと観劇がセットだと、その日一日幸せ。
今回は三吉演芸場とともに歩んできた、「樹林」のマスターにお話を聞かせていただきました!

大衆演劇の入り口から[其之拾四]・横浜、三吉演芸場とともに 喫茶「樹林」のストーリー


↑右のモーニングはトーストがほくほくでおいしかったです!500円とお財布にもやさしい♪

ダウンロード


(記事本文より抜粋)
田 19年くらい前、三吉が一度建て替えられた頃(※)、三吉演芸場に勤めてる“おはつさん”って人がいたんですよ。“はっちゃん”って呼んでたんですけど。はっちゃんがお店にお見えになってね。“マスター、これから三吉演芸場が新しく建て直されるからね、そしたら演芸場の人たちも連れてくるから、そういう方面に進んでいったらどうだい?”なんて話してくれて。だけど、最初からこのお店にいるお客さんは、大衆演劇の役者なんか出入りするとそういう人たちが多くなるから嫌だ、とかさ。そういう声だってあったわけよ。

――そうだったんですね…

田 やだよあんな歌手みたいなの、なんて言う人だっていたんだよ、たくさん(笑)。好きな人、嫌う人、やっぱり半々ですからね。どの世界でも。


⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

マスター・田中さんはチャーミングを絵に描いたような方!
このお人柄に惹かれてこの店に来る常連さんや、役者さんも多いのだろうと思います。
実にまったり~と温かな「樹林」の雰囲気を、わずかでも写し取れたら…とあれこれ試行錯誤して書きました。
いつもお世話になってるSPICEの編集担当さんが、「ドキュメンタリー番組を見てるかのよう」とおっしゃってくれて、お世辞は承知ながら、ありがたや~と笑み崩れる(*^-^*)

田中さんが説明して下さって知ったのですが、「樹林」が大衆演劇と関わりだしたのは、19年ほど前の三吉演芸場の建て替えの時だそう。
それから毎年来る劇団もあれば、新しく乗る劇団も、そしてそれぞれのファンも。
みんなが「樹林」でひとやすみしていった。
温かな、小さな喫茶店の中。
大衆演劇の歴史が、息をしながら今日もお客さんを待っている。

次行ったときは、恋川のご兄弟もお気に入りだったというハンバーグを食べてみたいなぁ…

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まな美座お芝居「質屋の娘」―死ぬまでお前を―

2016.4.21 @メヌマラドン温泉ホテル

一人で退屈そうに土を蹴る。
次は一人でけんけんぱ。
大きな質屋の娘・お福ちゃん(里見剣次郎さん)が遊んでいる。
つまらなそうに拗ねた顔で、朱色の振袖をフリフリ揺らしながら。

「幼い頃の高熱で、お福はあんな身体になってしまった」
「姿はもう20歳だけれど、頭の中は5、6歳の子どもとおんなじ」
お福の母(島崎寿恵座長)が語るように、大きな幼児を思わせる一人遊びが続く。

里見剣次郎さん

(芝居後の口上のお写真。可愛くて元気なお福ちゃん、演者が成人男性なのを忘れます)

どーしても、まな美座さんがメヌマに居てくれる4月のうちに、もう一回観たい!
…というわけで会社員の最終手段・有給休暇を駆使して、観劇仲間2人とメヌマへ。
当たった芝居「質屋の娘」、終盤の場面は、ずっとずっと心にとっておく財産になりました。

いくら頭の中身が子どもだって、お福ちゃんだってもう大人。恋もする。好きな人ができた。優しい手代の進次郎(市村新さん)だ。
娘の恋心を知った母は、進次郎に頭を下げて頼み込んだ。
「進次郎、どうかお福をもらってくれないだろうか」
「お福はあんな子だ、外に女を作ってもかまわない。でも家に帰って来たときだけは、あの子にニッコリしてやって、優しい言葉をかけてやってほしい…」
進次郎は恩ある女将の頼みとあって、「わかりました」と了承した。

女将は破顔一笑、歓喜に顔を崩して。
「ああ!よかった、よかった…!ああ、なんて嬉しい日だろう。今日はもう仕事どころじゃなくなった!」
心底安心した!という寿恵さんに、母親の愛情が打ち響く。このお母さんが頭の弱い娘の将来のことでどれだけ心を砕いてきたか、その喜びっぷりでわかる。

島崎寿恵座長
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(この日の個人舞踊は『くらやみ橋から』。作り出す物語性が圧巻!)

でも実は、進次郎には想い合う相手がいたのだ。それがお福の世話係りのお小夜(夢一途さん)。
「お福お嬢様、どうかお幸せに…」
お小夜はお福の幸せを願い、身を引こうと決めた。その折たまたま、お小夜の姉(媛野由理さん)が、病気の母の薬代のためにお小夜を訪れる。夜、お小夜は姉を追って、質屋を出て行ってしまう。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
このシーン、恋しそうに姉を呼んで舞台をはけていく一途さんがとっても良かった!

夢一途さん
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(暗いお写真になってしまいましたが、晴れやかな笑顔がかわいい!)

奉公先で恋を諦める決意をし、身の置き所がなくなったとき。
久しぶりに触れた姉の温もりに、家族のところへ無性に帰りたくなる…そんなお小夜の心細さが、短い呼び声でぴりっと伝わった。

進次郎はお小夜が残した置き手紙に気づく。
大慌てでお福を呼び、真実を話す。
「お福お嬢様…申し訳ありません、私は嘘をついていました。実は、私はお小夜さんが好きなんです」
だがお福は能天気な笑顔を浮かべたまま。
「でも、進次郎はお福のことも好きなんでしょ?」
「はい」
「じゃあ、進次郎と、お福と、お小夜と、三人で一緒になろ?」
「ああ、三人で一緒になることはできないんです。お福お嬢様への好きと、お小夜さんへの好きは違うんです」
「どう違うの~?」
なんと言えばお福に伝わるのか…考えあぐねた進次郎は、あえて本心にないことを言う。
「お福お嬢様なんか、大っ嫌いです」
ショックで呆然とするお福に、進次郎は平身低頭で謝る。

でも、お福ちゃんは心のきれいな子だったので。
ショックから立ち直ると、自分が着るつもりで引っ掛けていた花嫁衣裳を、進次郎に渡してやる。
「これ、お小夜に持っていって」
さらに、店のお金もどっさりと進次郎に押し付ける。
「持っていくの!早くお小夜を追っかけて!」
進次郎は恐縮しながら、お小夜を追っていった。

「進次郎、行っちゃった。お小夜もいなくなっちゃった。お福、一人ぼっちになっちゃったー…」

ぽそりとつぶやいて、一人遊びを始めるお福。
うつむいて、つま先でポンポンと地面を飛ぶ。
剣次郎さんの醸す、小さな少女の情景。

家の中から、娘のそんな姿をのぞき見て。
母はわなわな手を震わせ、声を出さずに泣き崩れる。
それでも涙を振り絞り、どうにか心を落ち着けて。
暖簾の隙間から、いないいないばあのポーズをしてみせる。
「お福ちゃん、かわいいお福ちゃんは、どこですかー…?」

この母娘の空間だけ、時間が止まったみたいだった。
子どもはみんな大人になって、働いて、恋をして、親元を去っていく。まさに進次郎とお小夜のように。
でもお福の頭は5歳。いつまでも子どものままで、母の傍にいる。

「お母様、長生きしないでね」
振袖姿でコテンと座り、真剣なお福の横顔。
「お母様、お福のためにずっと苦労ばっかりしてきたから、あんまり長生きしないでほしいの」

お福の思いに打たれ、母は滂沱の涙を流す。
「この子がこんなことまで考えていたなんて…」
寿恵さんは一つ一つのセリフごとに肩を震わせ、膝を叩き、自分に言い聞かせるように。
「バカだったのはあたしのほうだ。世間の目なんか気にして」
「もう、死ぬまでお前を放さないよ。お前が嫌だと言ったって放しやしないよ」
やがて気丈に涙をぬぐい、すっきりとした表情で告げる。
「でもね、お福。悪いけど、あたしはうんと長生きをするつもりだから。お前には付き合ってもらうよ」
「泣いても一緒、笑っても一緒。どうせ一緒なら、笑って生きたほうがいい」

観劇仲間はみんな、親子ものの芝居にめっぽう弱い。終演のときには、私たちのテーブルは涙、涙で大洪水に(笑)

大衆演劇の芝居は、時折、観客席にうずく痛みを映し出すことがある。
お福ちゃんのような家庭が、現実社会にもたくさんあることだろう…
この世に用意されている表通りは、あんまり狭い。
世間から貶められて、それでも生きてきた人間の爪痕を、芝居が抱きとる。芝居を通して、私たちはこの世に出会う。

ぴょんぴょんと、元気に揺れる振袖。
“かわいいお福ちゃんは、どこですか?”
芝居を貫く、温かなまなざしと。
まな美座の一人一人が見せてくれた、情こぼれる演技。

質屋の屋根の下、しっかりと抱き合う母娘の風景を、何度も思い出す。
“もう、死ぬまでお前を放さないよ”
それはまるで、希望を含んだ一枚の絵みたいだ。
“お前が嫌だと言ったって放しやしないよ…”

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