劇団天華お芝居「釣忍」

2015.11.22 夜の部@篠原演芸場

笑う。
どんな状況下でもヘラリと笑う。
そうでないと生きていけない。
世の中の悲哀が見えすぎて、多すぎて、彼はここに在ることに耐えられない。
千夜座長の定次郎は、そんな男の人だった。

澤村千夜座長(11/22)


11/8(日)、千夜座長の芝居に衝撃を受けたけど。
遅い…我ながら遅すぎたよ…天華さんは9月から東京公演してくれてたのに…。過ぎたことを悔いてもしゃーないので、11月下旬はけっこうまめまめしく通った。
その中で出会った『釣忍』。あの夜の篠原演芸場の舞台に生きていた定次郎を、私はずっと忘れられないだろう。

筋は多くの人がご存知と思うけれど、山本周五郎原作の名作。遊び人の定次郎と、芸者上がりの女房のおはん(澤村神龍副座長・女役)は、小さな家でつましいながらも愛情に満ちた暮らしをしている。

夫婦を演じたお二人。澤村千夜座長(右)&澤村神龍副座長(左)(11/22)
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印象的なのが、夫婦関係において定次郎の腰がひじょーに低いこと!たとえば定次郎が他の女に鼻の下を伸ばしていたと痴話喧嘩になれば、
「ごめん、悪かったって。なぁ、俺には女房のお前だけだよ、ごめん、この通りだ!」
と妻相手にアッサリ正座して頭を下げる。
(定次郎は2年も働かずにおはんが全面的に面倒を見ているので、当然といえば当然だけど…)

定次郎は、もともとは大店・白金屋の次男坊。ある日、定次郎の留守に兄・佐太郎(澤村龍太郎さん)が訪れる。
「白金屋の跡取りには定次郎と決まったのです。どうか弟と別れていただきたい!」
別れてくれなければ切腹するとまで言う佐太郎に、おはんは泣く泣く別れる覚悟を決める。
帰って来た定次郎に、おはんは愛想づかしの演技をする。
「まったく、働かないで一銭も家に入れない男なんて、もううんざりなんだよ」
ここでも、なかなか定次郎の怒りに火がつかず、困り顔で頭を下げるばかり。
「うん、お前の言うとおりだ。俺が悪かった。よし、これからちゃんとするから!」
大衆演劇の芝居で、自分を立てようとする力みがない男、という千夜さんのやり方は新鮮だった。

「お前さんは結局、坊ちゃんなんだよ」
おはんの一言に、定次郎の表情から曖昧な笑いが消える。声が冷える。
「おい、それは言わねえって約束だろ」
「坊ちゃんに坊ちゃんって言って、何が悪いのさ。ねえ、ボンボン?」
定次郎のまなじりが尖り、明らかな苛立ちを見せる。

少しずつ舞台にひらめく、定次郎の人となりの切片。それらはクライマックスの一場面で、一本の糸に回収される。

おはんと別れて白金家に戻った後の場面。
兄の佐太郎・定次郎の母(喜多川志保さん)・御本家(澤村悠介さん)・御本家の女(澤村ゆう華さん)、一同が揃った席に。
定次郎は遅刻した挙句、泥酔して転がりこむ。
御本家の決定は酷いものだった。正妻の子である定次郎を跡取りにし、妾の子である佐太郎は、いくらかの財産を渡して家から追い出すという。
それを聞いて、定次郎は散々暴れる。
「そりゃないだろ。今の白金屋があるのは、あんちゃんが雨の日も風の日もお得意さんを回って、白金屋をお願いいたしますって頭下げてきたおかげじゃねえか!」

御本家に乱暴した責任を取って、定次郎は勘当されることになる。
けれど定次郎は、本来のへらっとした顔に戻って佐太郎に言う。
「俺には跡取りなんて向かねえんだよ。白金屋はあんちゃんが継ぐべきだ」
「定次郎!お前は…それでいいのか?」
兄の強い口調に、定次郎はしばし押し黙ってから。わずかに笑んで、独り言のように語る。

「あんちゃん、祭りって行ったことあるか?」
「今ちょうど祭りをやってる。行けばそりゃあ楽しいんだ。貧乏人も金持ちも、年寄りも若いのも関係ねえんだ」
「みんなで一緒に飲んで踊って、三日三晩酔っ払って…楽しいぜ、祭りはよ」

懐から取り出すのはひょっとこのお面。定次郎は、お面を着けて陽気な踊りを始める。
母と佐太郎の怪訝な目線が突き刺さる。勘当されるときにまで、この次男は何を考えているのか、と。
場違いにもほどがある、ひょうきんな姿。

ああ、この人はどんなときも笑っていないと生きていられないんだ…

千夜さんがひらひらと踊る姿から、哀しみと尽きない慈愛が染み出して。手の一振り、足の一振りのたび、舞台中に広がるようだった。

定次郎には見えているんだろう。
妾腹であるために跡取りにはなれない兄の姿。
芸者上がりの後ろめたさを身に沈めて生きているおはんの姿。
おはんとの生活の周辺にあった、その日その日を細々と暮らす人々の姿も。

“貧乏人も金持ちも関係ねえんだ”
世の理不尽を知りながら。
安寧を取りこぼしてしまう者たちの切なさを目にしながら。
自分自身は生まれながらのボンボンで、しかも正妻の子。
その立場から不運な人々を見下ろす傲慢さに、この人は耐えられないのだ…。

だから定次郎は、高いところから降りる。
情けなく女房に頭を下げて、親類の前に泥酔して現れる。
どんな状況でも笑って、千鳥足でよろけて、それでも身を裂く悲しみに笑いきれなくなったときの「極まり」としてお面が出現する。

志保さん演じる母が、定次郎の膝にしがみついて泣き叫ぶ。
「お前、お前、この家を出て行くのがそんなに楽しいの?!」
実母の悲嘆に、定次郎は立ち止まる。ゆっくりお面を引き剥がす。その顔はもう笑えてはいない。じっと静かに、何かをこらえるような表情。

泣く母と戸惑う兄を向こうに残して、幕が閉まる。花道の端に千夜さん一人だけが立っている。
目は潤み、目の回りは震えて、もう涙をこぼす寸前。
「ふ、ふ」
それでも、唇の端を上げて笑う。
ポン、ポン。
手に持ったひょっとこの面を軽く叩く。長年の相棒の労をねぎらうみたいに。
この瞬間、定次郎の人物像が波打つように押し寄せてきた。

終演後の口上の千夜座長(11/22)
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11月、急ぎ足で観た天華のお芝居はなんとか8本。その8本に限っての感想だけれど、千夜さんの芝居には「世の中に身の置き所がない人間」というモチーフがよく似合うような…

いやいや、まだまだ観始めたばかりの方だから。
これからゆっくり観ていこう。ぽつぽつと、面白く観ていこう。
今後もきっと天華のお芝居に出会うとき、私の頭には定次郎の踊る姿がよぎっていると思うのです。この座長さんが呼び起こす通奏低音のように、繰り返し、繰り返し。
“貧乏人も金持ちも、年寄りも若いのも関係ねえんだ、そりゃあ楽しいぜ、祭りはよ…”

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之七] 十条・篠原演芸場のおにぎりがニッポン一おいしいワケ

本っ当に、おいしいですよね!篠原演芸場のおにぎりへ最大の愛をこめて、書かせていただきました!

【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之七] 十条・篠原演芸場のおにぎりがニッポン一おいしいワケ



とにかく、おいしい。ホクホクした炊き立てのお米。たっぷりのたらこ。適度な水分を含み、人の手でぎゅっと握りこまれている。もう一口、もう一口と、パクパク食べ進め、市販より大きめのおにぎりをペロっと数分で食べきってしまう。食べるたびに筆者は思う。十条の大衆演劇場・篠原演芸場のおにぎりはニッポン一だ!と。
「特にお客さんが多い日は、昼の部と夜の部合わせて500個くらい作ります。普段の土日だと300個から350個くらいかな」
と、篠原演芸場で働く篠原美津子さんは売れ行きを語る。


⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

お話を聞かせて下さった篠原美津子さん、開場前のお忙しいときに調理場へ入れて下さった劇場スタッフさんに感謝。
写真を提供してくれた友人や、観劇した時におにぎり撮影を手伝ってくれた友人もありがとう!

この記事を公開して間もなく。
篠原演芸場の存在は知ってるけれど行ったことがない…という方が。
おいしそうなおにぎりに惹かれて、行ってみることにしたというコメントがありました。

――内心、転げ回りたいくらい嬉しかったですね(このとき篠原の客席だったのでやらなかったけども)。
やっぱりおにぎりすごい!おにぎり偉大!
大衆演劇の世界へようこそ!

東京の大衆演劇を支えているのは、劇団さん、興行主さん、お客さん。
そして、ここで毎日おにぎりを握っている従業員さん。

記事中で使っている鮭おにぎりの写真は、一人、膝の上で割って撮りました。
一番おいしそうに見える角度を探して、かなり枚数撮りました。
…客席で。
いや、調理場にいつまでもいたら邪魔になるし、他に明るい場所なかったし…。

ひとり、角度を変え、置き場所を変え、一心不乱に鮭おにぎりを撮る客。
周りのお客さんの視線がそれなりに胡乱げでした(当たり前)。
あのとき篠原演芸場にいらしたお客さん、もしここ見ていらしたら、そういうことだったんですよ…!

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太鼓が鳴るところ―劇団KAZUMA・浪速クラブの客席から―

2015.11.14-15@浪速クラブ

夏祭りの音がする。
太鼓が鳴っている。

浪速クラブの熱気を楽しみに、土日で出かけたKAZUMA遠征。
“きーみーがいたなーつーは”…って『夏祭り』が聞こえ出した途端、場内の空気がワッと楽しげに沸いた。
舞台の幕が割れて、デッカイ太鼓が現れる。
その向こうにほっそりした白い姿。藤美一馬座長。


“君の髪の香りはじけた 浴衣姿がまぶしすぎて”

懐かしいなあ。3年前も同じ曲がかかってたなあ。
2012年8月の東京・篠原演芸場。あの時の高揚の中に、篠原の畳の上に、戻ったような気がした。

「一馬さんが大阪に来るたび観とるんよ。旗揚げしてずっとだから、もう10…何年になるかなあ」
浪速クラブでお隣になったご婦人は、そう語ってくれた。隣を見れば、肩を揺らして手拍子を送っている。
きっと彼女の記憶の中には、私よりずっとたくさんの『夏祭り』が通り過ぎているのだろう。
旗揚げからの年月の中には、良い時期も、そうでない時期もあったのだろう。

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全身で跳ねるように、太鼓を打つ一馬座長。太鼓の周りで、実に楽しそうに踊る座員さんたち。
この光景を見ていると、自然と口元が緩んでしまう。
昔、“なんでこんなに楽しいのかな?”なんて記事も書いたけど、その答えはいまだ見つからない。

関東ファンとして、今年6月の三吉演芸場公演は嬉しかった。何より、芝居を愛する友人たちに劇団KAZUMAを知ってもらえたことが。
一緒に観に行った友人の、
「KAZUMAのお芝居好きだったなー、私」
という言葉を聞き、どこらへんを好きになってくれたの?と食い気味(笑)に聞くと。
「なんかさー、すごくひそやかじゃない?」

ひそやか…
その言葉を胸の中で転がしながら、この浪速クラブ遠征で観た芝居を思い出す。いくつかの光景が、印象深く浮き上がってくる。

11/14(土)の『男の情炎』では。
一馬座長が、釣りの場面で作り物の魚をつまんだ後、手拭いを取り出して“濡れた手”を拭っていたこと。
将さんが、「おめえ、旅人か」とセリフを言う前に、相手の旅のわらじを履いた足を確認していたこと。
竜也さんが、飄々とした旅人の役ながら、「お嬢さんが好きです」と告白する直前だけ口元を少し震わせていたこと。

11/15(日)の『沖のカモメ』では。
佑馬さんが、人を刺してしまったノミを“硬直した手”から引き剥がすとき、イテテテ…と呟いていたこと。
凜笑さんが、「松のお兄ちゃん、どうしたの?」と舌たらずな口調で言い、ああ子どもの設定なんだと理解できたこと。
大介さんが、子どもをさらった男を追って家を飛び出すとき、家の中に一人残る妹を慮って、一瞬だけ「お美代ちゃん…」と振り返ること。

一つ一つは、目立つ仕掛けではないかもしれない。
派手さ奇抜さは、ないかもしれない。
でも――しゅるしゅると糸をほどくように、胸に落ちてくる物語の確かさ。
舞台の端々まで満ちる、息づかいや、目線や、足踏み一つが編んでいくお話の濃さ。

たしかに、ひそやかな。
たしかに、ひめやかな。

その劇団の色を作っているのは、やっぱり一馬座長なんだろう。
「お芝居は“自分の気持ち”ですよね。自分の感情をどうお客さんに出していくか」
先日の【SPICE】インタビューでの発言。それじゃ、相手から予想外のセリフが来ても、切り返しができるようにならないといけないんですね、と感心する私に。
「うちのメンバーはそういうのはうまいんじゃないかなぁと思います。まあ(役者経験が)長いんで、みんな」
さらりと仰った。

将さん・竜也さん・大介さんには、時々舞台を託して。
凜笑さん・KEITAさん・晃太さんを育てつつ。
涼さん・佑馬さん・真の助さんとは、長年の同僚みたいに笑う。
“長いんで、みんな”
藤美一馬座長の培った、今の劇団KAZUMAの光景。

ドンドンっ!とひときわ大きく打ち鳴らして。
ずいっと客席に突きつけられる撥。
「一馬―!」の歓声。

“そーらーにきえてーった打ち上げはーなーびー”…
夏祭りは続いている。
もうずっと、太鼓は鳴っている。
旗揚げから13年。

「一馬さんは若い時もきれいやったけど、立ち役、今の方がカッコええわ」
お隣さんがウキウキした口調で言った。
長い祭り囃子は、これからがいいところ。
これからが聴きどころ。

浪速クラブでの一馬座長はまさに全身全霊の大熱演。
若手の誰よりも高くジャンプしていた。

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いつだって、お楽しみはこれからだ。

劇団KAZUMAの浪速クラブ公演、残り10日余り!

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拾い上げる目―劇団天華さんのお芝居に驚いた話―

2015.11.8昼の部「三人出世」@篠原演芸場
2015.11.8夜の部「芸者の誠は岩清水」@篠原演芸場


この方のアタマは、きっと深い、鋭い、強い。
…んじゃないかなぁ、多分。
お初の劇団天華さんで、澤村千夜座長の芝居を観て驚いた!
以前、他劇団のゲストで観たときは、華やかなお名前通り、キラキラ!ギラギラ!グリッター!な印象が強かったのだけど。
そのお芝居には、“敗者への眼差し”が食い込んでいたのだ。

澤村千夜座長(昼の部ミニショーより)


日曜日は篠原演芸場に用事があり、そのまま昼の部の天華さんを観ていこうと客席に向かうと。
何年も前から客席で親切にしてくれる方と、久々にバッタリ会うことができた。
「天華さん初めて?お芝居がなかなかいいのよ~」
芝居好きのこの方が言うのなら間違いあるまい!と期待して開幕を待つ。

お昼の芝居は『三人出世』。劇団KAZUMAと近江飛龍劇団で観たことのあるお芝居だった。
物語は、三人の幼馴染みが江戸に出る場面で始まる。
三年後、三人はそれぞれの道を歩んでいる。
友やん(澤村千夜座長)は目明かしになり、島やん(澤村丞弥さん)は金貸しになり。
そして定やん(澤村神龍副座長)は、世を騒がす泥棒に身を落とした。

お前なんで泥棒なんかになった!と、友やんは定やんを罵るけれど。
「なあ…俺が悪いんやないよな」
定やんの言葉に、胸がどきりとした。神龍さんは頼りなげに、俯き気味につぶやく。
「俺が仕事にありつけずにいたとき、誰が優しくしてくれた?江戸の町をさまよっとるとき、迎え入れてくれた家が一軒でもあったか?泥棒の親方は優しかった。あの人だけが、俺に優しくしてくれたんや…」
「俺が悪いんやない、世間の風が悪いんや!」
世の理不尽に対して、ひたひたと怒りのせり上がるような叫び。
神龍さんのセリフに引き込まれて、ぽろりと涙が出た。よくわかる痛みだった。誰も好きで身を落とすわけではない―無力ゆえに、大きな渦に翻弄されるだけの人生…。

しかし、千夜座長の友やんは幼馴染みにこう告げる。
「それは…間違ってるのとちゃうか?世の中には色んな人がおる。みんなそれぞれに苦労があって、お前一人にかまってられへんわ」
「目の見えない人も、手や足のない人もおるやろ。けど、みんなどうにかして働いとる。目の見えない人はあんまさんをやる。手のない人は荷を背負って飛脚をやる。足のない人はかんざし職人をやったり…」
「定やんは、目も手も足も全部揃うとるやないか。なのにどうして仕事につけんのや。世間のせいやない、お前が自分の弱さに負けただけや!」
泣きながら叫ぶ千夜座長に、客席中から喝采が起こった。

私はただビックリしていた。『三人出世』って、こんな風に広がるんだ…!
幼馴染みの友情を描いた人情噺だと思っていたのに。
目の前の舞台には、「社会」への広がりがあった。普遍性への眼差しがあった。
他の劇団では「ちょい間抜けな普通の男」レベルだった友やんが、だいぶ知恵遅れ気味に描出されていたのも、もしかしたら意図的なものなんだろうか?
(冒頭で友やんが「三年」という年数を数えられず、「三回お正月のお餅を食ったら三年だ」と定やんに教えられる印象的な場面があった)

「なんか、メッセージ性がかなり強くないですか?!」
終演後、興奮して隣の知人に話しかけると、
「うん、そうなのよ、お芝居を通して言いたいことがいっぱいあるんだと思う」
その言葉に、すっかり他のお芝居が気になりだして。
昼の部だけで帰るつもりが、急きょ夜の部までそのまま残ることに!
夜の芝居は『芸者の誠は岩清水』。千夜座長は女形で、芸者・しずの役だった。

澤村千夜座長(夜の部舞踊ショー「お梶」より)
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お芝居での千夜座長の芸者姿は、どこか“毒”が滲む風情がとても良かった。酸いも甘いも肌に吸わせて、輪郭に暗い何かが溜まっている感じ。

お芝居の序盤で、しずは生き別れた兄・孝造(澤村丞弥さん)と再会する。孝造は喜びもつかの間、妹を地面に突き飛ばす。
「しずか、この恥さらしめ!芸者のような卑しい身分になりおって!」
しずの本当の名はしずかといい、元々は武家の娘だった。けれど父と兄が家を出たきり帰らず、それを探して母としずかも旅に出た。だが旅の途中、母は病に倒れた。母の薬のため、お金が必要だった。
「幼い頃から三味だの踊りだの芸事しか教わらなかったこの身、他にどう立てる術がありましょう…」
しずかはやむを得ず芸者になった。母が亡くなった後も、もう道を引き返すことはできず、芸者として生きてきた。

そんなしずかが恋仲になったのが、武家の跡取りである一馬の若子様(澤村神龍副座長)。だが、いまや若子様に仕えていた孝造はこう告げる。
「しずか、諦めろ。若子様には家に帰れば許嫁がいるんだ。恨むならこの兄を恨め」
ここからお話は、身分違いの恋からしずかが身を引く・引かないという流れに。

―ラスト近くに凄まじい場面があった。
若子様を許嫁・琴路(沢村ゆう華さん)が迎えに来る。しずかと琴路、二人の女が対面する。

沢村ゆう華さん(昼の部ミニショーより。とっても愛らしい女優さんだった!)
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しずかはとうとう身を引く覚悟を決め、琴路に挨拶をする。凛然とした千夜座長の横顔。
「私は“尾のない女狐”でございます。これまで若子様の傍におりました。若子様を貴女様にお返しいたします。どうかこれから、若子様のことをよろしくお願い致します」
言っている胸中を思うと泣ける…しずかカッコイイ!
けれども。
琴路は、スッとしずかの前に膝をつく。
「初めまして、私は琴路と申します。これから先は貞女となって、一馬様に尽くして参ります。一馬様のことは、命に代えてもわたくしが守って参ります」
可憐で一生懸命なゆう華さんは、先ほどの千夜座長のどっしり肝の据わった姿と対象的だ。

語り終えた琴路は。
きゅっと優しく、しずかの手を握る。
ヒッ―と、しずかは刃物にでも突き刺されたかのように手をかばう。

ピンクの振袖に身を包んで、たおやかな物腰を見せるゆう華さん。琴路は大事に大事に育てられた、武家のお嬢様。憎いはずの泥棒猫の手をなにげなく優しく握れるくらい、健やかな心。
その清らかな美しさを目の当たりにして。清純な手に触れて。
――しずかは、わなわな震えながら自分の姿を見下ろす。自分の頭のかんざしに触れる。宴席に上がる芸者の着物に身を包み。頭には幾つものかんざしを挿して。美しいけれども、身のこなしには色街のあだっぽい艶が染みついている。

父と兄が家を出なければ。母が病に伏せなければ。
しずかは武家の娘だった。しずかは琴路であるはずだった。
“この身、他にどう立てる術がありましょう…”
どうしようもなかった。他に選べなかった。
その果てに、自分が永遠に失った幸福が、にっこり手を伸べてくる―

「ああああ―!」
しずかの喉から、抑えに抑えてきた悲鳴が上がる。恐ろしいものを見たように地に伏せる千夜座長。

…すごい芝居観ちゃった…というときの、しばし頭がボーっとする現象の中。
二つの芝居の底に、たしかな眼差しがあるような気がした。
好きでなったわけではない泥棒。他に道を選べなかった芸者。
世の中からつるつると滑り落ちていく者を見つめ、拾い上げる目。

澤村千夜座長。
大人になってから役者になった方だと聞く。長い下積みを経て座長になったと聞く。
一体その頭には、どんな世界が詰まっているんだろう…?

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澤村千夜座長。
一体どんな芝居をされるんだろう?
新しい風景が自分の前に開ける、高揚感。
なんかオラ、すっげえワクワクしてきたぞ!(DB世代)

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之六]浪速クラブ公演開始!藤美一馬座長・柚姫将副座長・冴刃竜也副座長・千咲大介座長インタビュー!

劇団KAZUMAのファンの方に、喜んでいただければ何より、何よりです。

【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之六]・前編 いよいよ浪速クラブ公演スタート!藤美一馬座長が語る“芝居の気持ち”
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(座長インタビューより抜粋)
―特に、お客さんに人気のお芝居ってあります?これやってほしいって言われたり。

藤 『へちまの花』はやってほしいって言われること多いです。僕は娘役なんですけど、最初はやっぱり勘違いしてお笑いのお芝居だから面白ければいいっていう考えだったんです。でも役になって考えれば、とってもわいそうな子で、一生懸命な子だから、そこをお客さんに伝えるようにっていう感じでやってますかね。

―6月に三吉演芸場で劇団KAZUMAの『へちまの花』を観たんです。主人公の娘の悲しさがすごく伝わってきました。

藤 あれは本当、お笑いの芝居なんでしょうけど、泣かせるとこは泣かせたいんで、そんな感じでやってます。

⇒藤美一馬座長インタビュー全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)


もういっちょ!

【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之六]・後編 トリプルインタビュー!劇団KAZUMAを支える三人衆にお話伺いました!
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(インタビューより抜粋)
将 まず、みんながそれぞれ自分の設定を決めてるんです。こいつはこういう役って。俺はそう思ってやってるって。そしたら、相手からボンってセリフを言われて『いや、ちょっと待てよ』っていう性格の役もあれば、『待てコラァ!』ってなる性格の役もあるじゃないですか。相手の言い方次第で、この性格だったら怒るやろな、とか怒らないやろな、とか。そこで芝居っていうのは毎回変わると思います。

―セリフではなくて、自分で決めたキャラクターがあるんですか。

将 そう、俺らは『セリフを追うな』『セリフを待つな』って言うんですよ。筋を覚えろって俺らは言われるんです。セリフが決まってなくても、筋を辿っていって最後のチョンまで辿り着けば、芝居っていうのはうまくいくんですよ。そこに向かって、みんながそれぞれ自分の設定を持ってスタートするわけなんですよ。


⇒柚姫将副座長・冴刃竜也副座長・千咲大介座長トリプルインタビュー全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)



9月中旬、決意しました。
「SPICE」で劇団KAZUMAの浪速クラブ公演を取り上げさせていただこう!と。
他の記事との兼ね合いを考えて、執筆日程を組んで、いざ愛知へ向かう新幹線の中。
ほんのひとつぶ、恩返しの真似ごとができたらいいと思っていた。

誰かがSPICE記事を読んで、こんな劇団があるんだ、面白そうだなぁ、と。
誰かが劇団の名前を心にとどめてくれたら。
私にとっての「大衆演劇の入り口」だった劇団KAZUMAに、いただいた幸福の何百分の一かをお返しできたらいい…。

が、インタビュー当日。東海健康センター。
未熟極まりない質問者は、テーブルにかじりつくように必死でした。
力不足の壁にぶつかりながら、ああ私にせめてもう少し経験があったら…もっとプロのインタビュアーだったら…!いっそここが徹子の部屋だったら…!
と、何度思ったかしれない。

私の下手な質問の意図をスイと読み取って、丁寧に答えてくれた一馬座長。
読者のために、舞台での決まり事をわかりやすく解説してくれた将さん。
喋るのは苦手にも関わらず、最後まできっちり参加してくれた竜也さん。
若手さんへの稽古をつけた後、お忙しいのに駆けつけてくれた大介さん。
本当に、ありがとうございました…!(土下座)

彼らの舞台に出会うたび、気づけば恩が降り積もる。
今回もまた、例に漏れず。

私にとって、大衆演劇の始まりだった劇団KAZUMAの芝居。
幕の向こうからほろほろと流れてくる、なつかしい甘さ。
胸の芯をきゅうっと突く、ささやかな喜怒哀楽。
それをまだまだ追っていくだろう。
まだまだ泣いて、まだまだ笑う。

いつかずっと先の、恩返しを夢見て。
私はまだ上り始めたばかりだ…この長く険しい大衆演劇坂をよ…!

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