2014年 珠玉の一本―舞踊編―

お芝居みたいな舞踊が好きだ。
ひとり芝居大好き。当て振り大好き。
世界観に引っ張り込んでくれるような舞踊が観られると、客席でカメラを抱えながら、頭はその世界に飛んでいる。

2014年末の珠玉の一本シリーズは、悲劇編喜劇編敵役編を書いて。
最後の記事は、舞踊の傑作を振り返って終わります。
挙げさせていただいたのは、9つの舞踊。
少々長めの記事になりましたので、のんびりお付き合いくださいませ。

勝小虎代表代行(剣戟はる駒座〈倭組〉) 「ひばりの佐渡情話」
2014.2.11 昼の部@大島劇場



悲し、遠し、佐渡の面影。
勝小虎さんの女形舞踊は、枝垂れるようななまめかしさが、しとしとと胸に残る。
『ひばりの佐渡情話』で息を飲んだのは、滑るような所作の向こうに、佐渡の曇り景色がおぼろげに現れ出ること。
たとえば、両手が波の形を作って揺れる。
ざんぶ、ざんぶと、静かな波が客席を手招く。
限りなく霞んで、消えてしまう手前の、こごりのような色に見えた。
⇒当時の記事
⇒同じ大島劇場で観た『夢日記』も傑作でした。

島崎寿恵さん(まな美座) 「くらやみ橋から」
2014.4.12@メヌマラドン温泉ホテル



この方の至芸が観たくて、3時間かけてメヌマラドン温泉ホテルまで行った。
―それ以来この橋 くらやみ橋と呼ばれてますねん―
大月みやこの歌いだしのセリフが終わった後。
寿恵さんの独自のセリフが加わる。
「そう言う私も、川の底を覗きこむように生きてきました…」
「というより、生かされてきたんやなー…」
虚ろな眼窩は、下を向いている。
やがて寿恵さんは、何かを振り切るように、泣き出しそうな顔を上げた。
「まるで――抜け殻や!」
掬いきれない悲しみが、舞台空間を食い破る。
2015年、必ず再会したい女優さんだ。

辰巳小龍さん(たつみ演劇BOX) 「暗夜の心中立て」
2014.5.4 夜の部@浪速クラブ
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『暗夜の心中立て』は、2014年の舞踊ショー流行曲に挙げられると思う。
中でも辰巳小龍さんの舞踊は、やはり圧巻だった。
黒と橙の衣装の花魁は、叶わない恋に身を震わせる。
思い極まったとき、紅い包みから毒をあおる。
その次の瞬間――血を流す口元、カッと開いた目!
両腕で死を抱きとるように、客席を向く姿は、今も焼きついている。

沢村菊乃助さん(玄海竜二一座)「番凩」
2014.6.7 夜の部@浅草木馬館
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人間の体って、こんな風に動くんだ…!
腕の一振り、脚の一筋で、ボカロのハイテンポな曲を操っているようだ。
劇団荒城ゲストに来ていた6月、菊乃助さんを初めて観た。
まだ23歳なのに、面立ちの雰囲気が静かなせいか。
舞台姿は水を打つように清く、涼しい。
12月の座長襲名、おめでとうございます。
ゆりかもめでコミケへ向かう、オタクの座長さん…どんな舞台世界を見せてくれるだろう。
⇒当時の記事

荒城真吾座長(劇団荒城) 「歌麿」
2014.6.14 夜の部@浅草木馬館
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右手には絵筆。
引き絞るような厳しい眼差しで、自分が描く“女”を見つめる。
真吾さんが演じるのは絵師だ。
――私 まるで浮世絵 歌麿――
曲が進むにつれて、絵の中の女に恋情を燃やし、やがて狂気に陥る。
耳慣れた『歌麿』だけど、こんな表現方法があるのか…。
真吾さんの頭の中では独自の世界観が尖っている感じがして、恐る恐る覗きたくなる。

柚姫将副座長(劇団KAZUMA) 「夢一夜」
2014.6.20 昼の部@八尾グランドホテル



今年の将さんの舞踊を思い出すと、本当に女形が美しくなられたなぁと思う。
将さんの女形からは、演じられる“女性”の健気さや真面目さが薫る。
『夢一夜』を選んだのは、ある一シーンに心奪われたから。
――最後の仕上げに 手鏡見れば――
のところで、大方整えた髪に手をやって、右、左、と軽く首を曲げ、そっと髪に触れて。
手鏡をひっそり覗きこむ。
女の人の小さな部屋に、客席ごと閉じこもっていくような感覚に陥った。
⇒当時の記事

桜春之丞座長(劇団花吹雪) 「化粧」
2014.7.13 夜の部@三吉演芸場



墨色の着物に、儚い花が咲いていた。
春之丞さんが演じるのは、好きな人に去られた女。
顔を覆って、独り泣く。
――バカだね バカだね バカのくせに
愛してもらえるつもりでいたなんて――

華やかで可憐な女形が、恋に破れてしおれる。
勝気に歩んでいる人の、ふとした心弱さを見る思いがして、涙してしまった。
⇒当時の記事

大川竜之助座長(劇団竜之助) 「大きな古時計」
2014.8.20 夜の部@三吉演芸場



チクタク、チクタク。
時計の針に見立てられた扇子が動く。
たまたま三吉演芸場の近くに用があった際、あの大川竜之助さんが劇団十六夜のゲストに来ていると聞いて、急きょ飛び込んだ。
『大きな古時計』の中盤、竜之助さんの白い袴姿がぴたりと固まる。
手元の扇子だけが時を刻み、空気が張りつめる。
――今はもう動かない その時計――
お花を付けた方も、舞踊の最中には入らず、曲が終わってから渡されていた。
止まっていく時計の物語は、誰も入れない、一人の世界だった。

橘小次郎さん(橘劇団) 「夜叉のように」
2014.9.21 夜の部@篠原演芸場



私の2014年の大衆演劇は、この舞踊抜きでは語れない。
目に止まらない速度で、付け替えられる面。
技術的なすごさに加えて、表される情念の生々しさに衝撃を受けた。
ぎり、ぎりと、地の底で悶える痛みが、私の胸にも差し込まれるようだった。
一の面は、女。
二の面は、怨。
三の面は、夜叉。
四の面は…
入れ替わり立ち替わり、現れる恨みの貌。
その合間に挟まる小次郎さんの素顔が、穏やかな目つきなのがかえって憑依めいている。
ああ、芸を観た!という高揚がいつまでも残った。
⇒当時の記事

「2014年 珠玉の一本」シリーズ、これにておしまい。
長い振り返りにお付き合いいただき、ありがとうございました。

大みそかですので、いつも読んでくださる方へご挨拶。
「お江戸の夢桟敷」は、開始からようやく2年が経ったところ。
おぼつかない筆ながら、舞台から受け取ったものを、私の手から貴方の手にお分けする気持ちで、書いております。
今年もありがとうございました。
来年も、大衆演劇の世界にひしめく息づかいを、敬意をこめて書き残していきたいです。
どうか、貴方もご一緒に。
良いお年を!

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2014年 珠玉の一本―敵役編―

「誰が主演の芝居か」と、同じくらい。
「誰が敵役を演じるのか」は、悪役・敵役ラバーにとって肝心要なんです。

物語の奥底から、差し覗く暗い色。
容赦なく心を抉る、敵役の欲望のぎらつき加減こそ、ひとつの芝居の華…!

2014年、心のひだに染みついた敵役が5人。
観た順に振り返っていきます。

勝小虎代表代行(剣戟はる駒座〈倭組〉) 「やくざの花道」剛三役
2014.2.16 昼の部@大島劇場


勝小虎代表代行(2014/2/16)


その冷たい目つきに宿るのは、力への飢餓。
小虎さん演じる剛三は、自分の親分(勝龍治総裁)を殺し、代わって親分になり上がる。
親分のお嬢さん(宝華弥寿さん)が、剛三を責める。
「かつてお前は、ボロボロになって行き倒れていた。うちの一家に助けられて、“どうか子分の端に加えておくんなさい”と涙流してお願いしたじゃないか。その恩も忘れて…」
この場面の、小虎さんの表情が良い。
嫌なことを思い出したと言わんばかりに、片眉上げて、恩人の娘を一瞥する。
この人物は、弱者の惨めさを知っているからこそ、空っぽの身に力を欲するのだ。

最後は、飯炊きの少年・卯之吉(勝彪華さん)に、親分の仇として討たれてしまう。
剛三は槍を突きつけられ、身動きを封じられ、絶体絶命の状況で、なお吠える。
「ふざけるな、卯之!お前が出る幕じゃねえんだ、三下はすっこんでろ!」
この役に限らず、小虎さんの敵役芝居はいずれも、欲望が迸るようだ。
普段は大層のんびりした雰囲気の方なのに、一体どこから出てくるのか…?
⇒当時の記事

見海堂駿代表(見海堂劇団) 「黒潮に叫ぶ兄弟」新兵衛役
2014.4.19 夜の部@大宮健康センターゆの郷


見海堂駿代表(2014/4/19)


大衆演劇に“毒親”が登場したのは衝撃だった。
「騙されたお前が、トンマなんだよ」
と、父親が息子に背後から斬りつけるなんて。
『黒潮に叫ぶ兄弟』は、新太郎(風吹あさとさん)・新吉(見海堂光副座長)の兄弟愛のお話。
だが、駿さん演じる父親・新兵衛からの、息子達への愛情はごく薄い。
――はるかに勝るのは、金への欲望。
新兵衛は、高浜の親分(見海堂真之介総座長)に、新吉から灯台の鍵を盗めと命じられる。
「褒美に、十両やろう」
新兵衛はためらいなく、新吉から鍵を奪い取る。
鍵を追って来た新太郎が、父に刀をかざせば。
「すまんかった、実は高浜の親分に脅されて、鍵を盗んでこなければ殺すと言われ…」
と泣き真似をしてみせて。
新太郎が情にほだされたところで、背後から斬る。
駿さんの眼差し、仕草一つ一つから、黒々とした滴りが零れる。
酒焼けした肌色のメイクに千鳥足で、ふらふらと舞台をさまよう。
⇒当時の記事

荒城照師後見(劇団荒城) 「名案旅合羽」剣術道場の先生役
2014.8.30 昼の部@川越湯遊ランド


荒城照師後見(2014/8/30)


「照師さんって、まさに“カッコいい”って感じよね」
知人が何気なく言った評は、思い返せば深く頷けるかも。
190cmあるらしい背、骨ばった体躯、斜めに流れる目つき。
その面立ちに薄く陰が透けて、醸されるのは男の色気。
“男前”じゃ正統派すぎるし、“イケメン”だけじゃ語れないし。
“カッコいい”という言葉が、一番しっくり来る役者さんだと思う。

その照師さんが川越の千秋楽では、ハゲ茶瓶の鬘を被っていた。
ハゲあがった剣術道場の先生は、弟子たちに囲まれて、朗々とした声を客席に投げる。
「動画の撮影は禁止となっております!」
さらに道場の弟子たち=若手さんたちをずらりと並べて、復唱させる。
「千秋楽、最後までよろしくお願いします!」
頭はハゲてるのに、スタイルは当然すらっとカッコよくて、ギャップが絶妙におかしい。
この先生が若い娘に惚れて、勝手に娶ることに決めたために、騒動が起こる。
(観た当時はアレコレ追われて感想記事を書けなかったんです。申し訳ない)

龍美佑馬さん(劇団KAZUMA) 「天神の半五郎」上総の伍蔵役
2014.11.22 昼の部@四国健康村


龍美佑馬さん(2014/11/22)


底の底から、噴き上がるのは恨み。
「俺は子どもの頃、世間から捨て子、捨て子と蔑まれた目で見られてきた」
肌を覆い、染み出すのは妬み。
「俺がいないときに限って、お前のお父とおっかあが、お前たちにだけまんじゅう買ってやったり、飴舐めさせてやったり。それを陰から見ていた俺の気持ちが、お前にわかるか?」
初めて観た「天神の半五郎」。
佑馬さん演じる上総の伍蔵、この悪役が私の心をゾクゾク捕えた。
赤ん坊の頃、天神の森に捨てられた伍蔵は、世間への恨みと妬みを腹に収めて生きてきた。
伍蔵が一番憎んでいるのは、乳兄弟の又五郎(柚姫将副座長)だ。
「俺は子どもの頃から、お前が嫌いで嫌いで仕方なかった。絶対に、お前よりは偉くなってやると決めていたんだ。だから俺は十手持ちになった」
持たない者から持てる者への憎悪は、測りしれない。
人の良さの滲む佑馬さんだけど、精一杯怖い調子を出して演じられていた。
⇒当時の記事

山戸一樹さん(若葉劇団ゲスト) 「木曽路の女」賽の目の弥之助役
2014.11.30 昼の部@大宮健康センターゆの郷


山戸一樹さん(2014/11/30)


山戸さんは何者なんだろう。
まだこの方について、私は観たばっかり、知ったばっかり。
ついひと月前、『木曽路の女』の賽の目の弥之助役を見て、飲みこまれたのだ。
「俺は酒飲みだったから、酒で頭が狂っちまってたんだろうな」
弥之助は、木曽一家を守る立場にあったにも関わらず。
酒に溺れたところを甘言にそそのかされ、一家を売ってしまった。
そのことを妹分のお常(愛望美さん)が責めると、虚ろな目線で頼む。
「お常、いっそ、お前の手で殺してくれ」
舞台左手に、ぽつんと座りこむ山戸さんの姿。
そこから場全体に広がる、渋みがかった愁嘆の色。
山戸さんの弥之助は、敵役とは言えないかもしれない。
悪の側に置くには、あまりに哀しい、あまりに寂しい。
⇒当時の記事

以上5人が、今年のマイペスト・ヒール!
しかし、役者さんにとってみれば、やっぱり主役とか良い役で褒められるほうが嬉しいのかな?

でも、ある若手さんが熱弁してくれた。
「悪い奴やってるとき、お客さんから“最低―”とか言われるとよっしゃ!って思うんですよ。嬉しいですもん、そういうのが」
また、ある座長さんが、口上で話されていた。
「敵役のときは、とことんお客さんから憎まれて、なんて悪いやっちゃ、死んじまえって思われるのが役者冥利ってもんです」

なので、彼らの役者魂に敬意を表して。
来年も、実に悪く、憎々しく、恐ろしく、哀しく、凍りつくような敵役が見たいです!
いやあ、敵役って本当にいいもんですね…

次で珠玉の一本シリーズはラスト。
舞踊編を書いて、今年を締めくくりたいと思います。
なんとかして大みそかに間に合わせるんだ…!

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2014年 珠玉の一本―喜劇編―

前回の悲劇編に続き。
今度は、喜劇をウキウキ語りたいと思います。
(昨年の「2013年 珠玉の一本―喜劇・人情劇編―」はこちら)

ひたすら笑えるだけじゃなく、情たっぷりの芝居が良い。
登場する人々が愛おしくなってしまうような、優しさたんまりの人間模様が見られたら嬉しい。
贅沢な望みを叶えてくれた芝居は、↓の5本でした。

劇団KAZUMA「紺屋高尾」
2014.1.5 昼の部@京橋羅い舞座


藤美一馬座長(2014/1/4)


この芝居は、なんて大きな幸福感を残してくれるんだろう。
紺屋・久蔵(藤美一馬座長)が、恋に尽くした三年。
一目惚れした高尾太夫に会うための十五両を、三年かけて稼ぎきった。
久蔵の親方(龍美佑馬さん)は、「三年かかって貯めた十五両を、一日で全部使っちまおうってのか!」と呆れながらも見守る。
竹庵先生(冴刃竜也副座長)は、高尾に会う前に久蔵にアドバイスする。
「その爪は、隠したほうがいい。すぐに紺屋だとバレてしまうぞ」
紺屋の望み薄い恋は、みんなの支えで花魁の所へ昇る。
そして、奇跡が降ってくる。
「来年三月十五日、あちきは年季が明けるんです。そうしたら、ぬしの女房になりに行きましょう」
高尾太夫(柚姫将副座長)が、横顔で弾けるように笑う。
「ぬしの正直に惚れんした」
手の届かないはずの夢が、優しく、甘く、振り返る。
⇒当時の記事

剣戟はる駒座〈倭組〉「虎の改心」
2014.3.23 昼の部@スパランドホテル内藤


不動倭座長(2014/3/23)


キーアイテムは、玩具のピストル。
ぱぁんと鳴れば、冗談みたいな殺人が起きる。
大工の虎(不動倭座長)は、べろべろに酒に酔い、妻と義父を包丁で追いまわす。
「あいつら、実の親子で間男しとるんや、間男成敗や」
なんとか、虎の酒癖の悪さを諌めなくては。
棟梁(勝小虎代表代行)は、虎に玩具のピストルを渡す。
「ええか、みんな、虎に撃たれて死ぬっちゅう芝居をしてほしい」
そこで周囲の人々は、「早く殺してみろよ」「はよ殺してぇなー!」と虎を煽る。
パン!
と銃声が鳴るたびに、一人ずつ死んだフリ。
けれど絵空事の殺人は、虎の良心を呼び覚ます。
「みんな、みんな死んどる。ああ、わしは、ホンマになんてことをしてもうたんやろ」
倭さんの、くしゃくしゃの泣き顔に、情の固まりが浮き上がる。
⇒当時の記事

新喜楽座「大江戸出世美談 新門辰五郎」
2014.6.29 昼の部@大島劇場


松川小祐司座長(2014/6/29)


きれいな座長さんが演じる、きれいな人間。
「あの大向こうから河内屋、菊之丞、とハンチョウかけてくださるお客様に、金持ちの大臣も貧乏なおこもさんも、身分の上下はないんやで!」
役者・中村菊之丞(松川小祐司座長)は、弟子たちに叫ぶ。
同時に自分自身の身の内に刻むみたいに。
菊之丞は上方から江戸に出てきたばかりで、知名度がない。
そこへ、「わしが、あんたの贔屓になったるわ」と名乗りを挙げてくれたのは。
おこも連盟の会長(松川翔也副座長)と、副会長(松川さなえさん)だった。
汚いおこもは、ずた袋の中から、正体のわからない酒や竹輪を差し出す。
それでも菊之丞はニコニコと、
「へえ、いただきます」
弟子に呆れられても、おこもの贔屓に対して誠実であろうとする。
小祐司さんは、少女みたいな美貌で、物腰柔らか。
心の内に深い内省をしまっている感じが、菊之丞の役にハマっていた。
⇒当時の記事

橘劇団「出世の茶碗」
2014.9.13 夜の部@篠原演芸場


橘良二副座長(2014/9/13)


個人的な白眉は、橘良二副座長によるエレガントなうどんの食べ方(実演)。
良二さんは、筆で書いたような顔立ちに涼しい目の光る、極めて美しい役者さんだと思うのだけど。
『出世の茶碗』では、ボロの着物にほっかむり姿で、ヨロヨロと杖に縋って登場する。
「おこもさんと思われるのも無理はありませんが、私たちはおこもさんではないのです」
こんな気品に満ちたおこもさんがいるだろうか…。
良二さん演じる松吉と弟の松之助(橘裕太郎さん)は、大店の息子だったが、旅の途中で全財産を盗まれた。
茶屋の店主・亀(橘大五郎座長)は、すっかり情にほだされて。
「お前さんたちが出世したそのときに返しとくれ」と、うどん(本物)をわんさか出してやる。
元気よく次々たいらげる裕太郎さんと対照的に、良二さんは箸使いも丁寧。
生花でもやるような風情で、黙々と、うどん。
ひたすら、うどん。
能天気な芝居の風景と、切れる美貌のギャップは、今思い返してもおかしい。
⇒当時の記事

都若丸劇団お芝居「下町人情」
2014.10.13 昼の部@三吉演芸場


都若丸座長(2014/10/25)


みんな大好き「若ちゃん」の舞台を、私は今年初めて観られました。
「台風来てる中、お客さん来てくれてるんですよ!5人残って!今日来てくれたお客さんのために、なんか踊ってください」
座員さんと楽しげに絡む、若丸さんの笑顔が見たい一心で三吉演芸場に通った。
『下町人情』の若丸さんは、箒を握って手ぬぐいを巻き、女房・お勝の役!
「待ちなさい、あんた!ふざけんじゃないわよ!」
と座布団を武器に、元気いっぱい、夫役の都剛副座長を追いかけ回す。
夫が妹(都ゆきかさん)を、借金のカタとして女郎屋に三十両で預けたと聞けば。
「お鶴ちゃんで三十両なら、あたしが行ったら六十両だわ!」
そのうち来客があると、夫はお勝を粗相のないように…と衝立の陰に隠してしまう。
舞台の隅に追いやられた若丸さんは、ゴロニャーなんて言いながら。
衝立の上からピョッと顔を覗かせたり、手ぬぐいを投げ縄のように使ったり。
客席の期待を一身に集めて、コメディアンは、任せとけとばかりにほくそ笑む。
⇒当時の記事

こうしてまとめてみると。
恋の成就、酒乱の改心、贔屓への恩、救貧の心、喧嘩の中の夫婦愛…
大好きな喜劇には、いずれも人の愛情が根底にある。
人の心には良いものがちゃんとあると、物語が無邪気に伝えてくれる。
甘っちょろいようだけど、他人を貶したりバカにしたりする笑いの取り方は、大の苦手なので。
ここに挙げたような喜劇なら、何度でも繰り返し観たいものだ。

次の記事は、私の趣味全開で書く…
敵役編です。

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2014年 珠玉の一本―悲劇編―

芝居は、通り過ぎていく。
毎日外題の変わる、目まぐるしい世界で。
どんな感動的な芝居が繰り広げられても、翌日には同じ舞台に別の芝居がかかる。

演じている側からすれば、精魂込めて演じながらも、翌日には脱ぎ捨てていくものなのだろうか。
実際、「あのセリフ感動しました!」と役者さんにお伝えしたところ、
「演じてるときは役の感情にまかせて喋ってるんで、実は自分で何言ったかよく覚えてないんです…」
と、衝撃の返答をいただいたこともある。

だから、胸に残るものが消えてしまう前に、書いておきたい。
前置き長くなりましたが、昨年に引き続き。
「2014年珠玉の一本」シリーズ、始めます。
今年観た中でも、凄い!凄い!と大喝采をいつまでも贈りたい記憶たち。

1本目は悲劇編。
(昨年の「珠玉の一本―悲劇・真面目なお芝居編―」はこちら)。
観た順に並べていったら、全部で7つの芝居になった。

剣戟はる駒座〈倭組〉「雪と墨」
2014.2.15 夜の部@大島劇場


不動倭座長(2014/2/9)


不動倭座長の、人間観みたいなものが垣間見えた気がして、唸った。
倭さん演じる孝造は、努力の末に武士の身分を手に入れた。
その心は次第に驕り、大工の弟(勝小虎代表代行)や、母(宝華弥寿さん)を見下すようになる。
「お前はただの大工やろ」
と、弟の手をギリギリ踏みつけたり、母の体に材木を乗せて苛めたり。
雪のごとく白い心は、墨のごとく黒く染まる。
けれどその奥に、こごっていたもの。
「お母はん、堪忍してや…」
最後に、黒に染めきれない、古い思いが溶け出してくる。
衝撃のラストシーンは、大島劇場の小さな舞台に突き刺さるようだった。
⇒当時の記事

劇団KAZUMA「男の情炎」
2014.5.19 昼の部@やま幸


柚姫将副座長(2014/5/19)
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「たった一つの宝物、あんな奴に奪われたくはなかった!」
柚姫将さんの、こういう芝居が観たかったんだ!
お誕生日当日に敵役っていうのはちょっとかわいそうかも…と最初は思ったけど、そんなことは全然なかった。
将さん演じる大五郎は、一家のお嬢さん(霞ゆうかさん)を幼い時から慕っている。
「きれいな人だ、いつか俺のものにしたいと……ずっとお嬢さん一人だけを見てきた」
けれどお嬢さんは、旅人の清次(冴刃竜也副座長)と恋仲になってしまう。
唯一の宝を奪われた大五郎のあがきは、飢餓にも似て。
「お集まりの皆さまがた…恋に狂ったこの大五郎――」
将さんの鬼気迫る終盤の語りだけで、岡山まで来てよかったと思った。
⇒当時の記事

劇団荒城「上州土産百両首〈大衆演劇版〉」
2014.6.7 夜の部@浅草木馬館


荒城勘太郎若座長(2014/6/9)


今年は、名高い荒城さん初体験の年でもあった。
「上州土産百両首」で勘太郎さんの演じた牙次郎は、いつまでも心に住まわせておきたい、いとけなさ。
「このまま、縄にかけられたまま番所に行ったら、兄ちゃん、死罪になってしまう、それだけは、どうかそれだけは」
兄ちゃん、死罪になってしまう――
唯一の肉親を、もぎ取られる痛みにわななく。
木馬館の舞台で、体を丸めて号泣する勘太郎さんに打たれた。
⇒当時の記事

たつみ演劇BOX「高崎情話」
2014.7.21 昼の部@八尾グランドホテル


小泉たつみ座長(2014/7/21)


立ち回りの場面は、一枚の“絵”。
兄弟は、敵に囲まれている。
けれど目の見えない弟(小泉ダイヤ座長)は、周りに気づかずに三味線を弾く。
「続けろ、いいぞ、そのまま」
兄(小泉たつみ座長)は、ひとりで、多勢相手に刀をかざす。
ひらひら刃の舞う中、しゃんしゃんと三味線の音。
兄から弟への尽きない愛情が染み出してくる、無二の構図だ。
ところで、↑の写真を選ぶために久しぶりにたつみさんの写真を見返していたら、本当にこの方は王子様そのもので、改めて慄いた。
1~3月の関東公演、待ちかねているファンは私の周囲にも大勢。
⇒当時の記事

玄海竜二一座「天竜親恋鴉」
2014.8.3 夜の部@浪速クラブ


玄海竜二座長(2014/8/3)


この方が、もう座長としては引退だなんて。
玄海竜二座長を観られるのは最初で最後かもしれないと、大阪まで駆けつけた。
『天竜親恋鴉』の終盤、芝居を締めるように、ぽつりぽつり零された言葉。
「あっしはやくざでござんす」
「仁義を切りやす」
「親もおりません。親という名のつく者は一人もおりません」
一音一音に、微かな哀しみが尾を引く。
「裏街道を歩きながらも、表街道を歩きたいと…自分の信じる正義を刻みながら、一つ一つ…生きておりやす」
玄海さんのセリフ回し、間…まさに匠の技を見るような心持ちだった。
⇒当時の記事

橘劇団「鶴八鶴次郎」
2014.8.23 昼の部@浅草木馬館


橘大五郎座長(2014/8/23)


きっと多くの東京の大衆演劇ファンにとって、今年のニュースの一つなのじゃないかな。
名高い橘劇団の、木馬館・篠原演芸場、初公演!
稽古の跡が滲むような舞踊も凄かったけれど、なんと言っても芝居。
8月木馬、9月篠原――“通いたい”劇団が東京にいることの幸せを噛みしめた。
『鶴八鶴次郎』は、私の2年半の大衆演劇歴の中で、一番完璧な芝居だったのじゃないだろうか。
幼馴染の鶴次郎(橘大五郎座長)と鶴八(小月きよみさん)の、恋と芸を巡るお話。
ラスト、縋りつくように鶴八の三味線を抱きしめる鶴次郎の姿が、切なかった。
来年の8月木馬、9月篠原公演も早々に決まったという。
大衆演劇界に、大きな変革の歯車が、回り出した音を聞く。
⇒当時の記事

橘劇団「お化け月夜は妻恋宿の留八」
2014.9.27@篠原演芸場


橘小次郎さん(2014/9/27)


橘小次郎さんの芝居は、本当に見事だった。
『お化け月夜は妻恋宿の留八』では、化け物面になった弟分を、庇護する兄貴分の役。
「さ、留八、家に帰ろう。ちょいと待ってなよ?ん?」
小次郎さんの表情・仕草一つ一つに、弟分への情愛が脈打つ。
けれど、情がどろりと濃いのに、残らないでスッと引く。
「留、俺が今から行って、提灯を全部消してきてやるから」
晴れた口調と笑顔で、場の空気を調える。
この絶妙なバランスの芝居が観たくって、9月の篠原には随分通った。
小次郎さんは、日によって芝居に出たり出なかったりなので、当たったときの喜びは倍増。
⇒当時の記事

どの舞台景色も、思い返すたびに、体の底で鮮やかな色を結ぶ。

お次は、喜劇編です。

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生きていく惚れ神と、生きていく私たちの話

――あぁ 惚れ神と生きる気になった――
この歌詞。
決定的なものを突きつけられたときみたいに、体に留まっている。

ご存知、『惚れ神』。
舞踊ショー鉄板曲の一つだし、きっと大衆演劇を象徴する曲でもある。
――惚れ神に会ったよ
そりゃもう 突然だったよ――

私は役者に惚れて、夢に惚れて、きつい香水の漂うあの異空間に惚れこんで。
惚れる心が無数に泳ぎ回っているからこそ、劇場の匂いはいつも濃厚だ。

でも“惚”の漢字を改めて見てみると、うすら寒い。
心が勿(ない)と書くのだ。
何かに夢中になったら、その分心を吸われてしまうみたいに。

思い当たる節はある。
劇場通いは、時間もお金もエネルギーも、かなりすり減る。
私の場合で言えば、大衆演劇にハマって以来、服飾にかけるお金がグンと減った。
「このスカート一枚で、何回木馬館行ける?って思っちゃうんだよねー」
これは、大衆演劇歴が同じくらいの友人の言葉。
そう、いつの間にか、デパートでは財布をなかなか開けないようになった。
第一、自分が可愛いスカートを履くよりも、可愛い女形を見ているほうがよっぽど幸せ…!

――惚れなさい 自分を捨てて 惚れなさい
誰かのために 生きなさい――

だもの。
惚れるってつまり、何かを吸い取られるってこと。

「しんどいわ…近くに来ると楽しいけど、とにかく、体力的に大変だった…」
お手洗いで漏れ聞いた、女性の一言。
このたび関東に乗ったのは、彼女が長年応援している劇団だったから。
大入りをできるだけ出すべく、腰や肩に鞭打って、ほぼ毎日通ったのだという。
千秋楽の日、彼女は大仕事を終えた責任者のように、静かに白髪を撫でつけていた。

惚れ神ってつまり、色々と吸い取っていく人のこと。

ホントに惚れてしまったら、服をちょっと我慢、なんてものじゃすまないようで。
“お花”は、その一枚一枚から、胸苦しいほどの思いが滴って見える。
こめられた思いの量だけ、なくなった心の数だけ。

役者に惚れる究極は、花井お梅になるのだろうか。
お芝居でもよくかかる、『明治一代女』のヒロイン。
「津の国屋ぁ―っ!」
最期は、喝采を送るみたいに歌舞伎役者の名を呼びながら、命を終えていく。

役者のために、罪を犯したお梅は哀れなんだけど。
自分の心が選んだものに全身全霊で奉仕するって、絶対気持ちいいだろうな。
物語に自分を重ねると、ふと口の中に恍惚を食む。
吸われて、捧げて、失って、空っぽの身を横たえる。
惚れるということは、本質的に死のベクトルを孕んでいるのではないか――

けれど、ここで思考に大きくブレーキをかけるものがある。
9月の篠原演芸場で出会った、『惚れ神』の光景。
この美貌の副座長さんの個人舞踊だった。↓

橘劇団・橘良二副座長(舞踊ショーより)


『惚れ神』がこんなに肌に吸いつくように似合うなんて…。
赤いサラサラの鬘、白い着物の光沢。
「良二―!」と、黄色い声が重なって飛ぶ。

惚れなさーい…と、軽く指先をくいっと手前に引き寄せる。
猫みたいな眼差しが、秘密めいて細まる。
「良二―!」「かっこいいー!」
ちょっと待って、何なのだろう、この場に渦巻く熱は。
周りを見回すと、歓声を上げる女性の、紅潮した頬。
惚れるってすり減るだの言っていた自分の浅はかさが、吹かれて飛ばされるようだ。

「あー、会いたいー!5月まで仕事頑張ろう、そしたら自分へのご褒美で遠征する!」
友人が、一番好きな役者さんの話をしているときの表情を思い出す。
人間、こんなに嬉しそうな顔ができるのかってくらいの。
喋ってるうちに照れてきて、彼女は童顔をうつ伏せてコーヒーを啜る。

「あらゆる芸能というのはね、結局、元気をあげるってことだと思うのね。凝り固まった心をほどいて」
長く興行の世界を見てきた方が、私に言った。

役者さんが客席に飛び込んでくる(ように見える)大衆演劇空間では、もらえる元気も、もしかしたら倍増されているのかも。
だって、目の前のお客さんの満足度に、今月の客入りがかかっているのだ。
芝居も、舞踊も、のっぴきならない生活勝負なのだ。
こっちも、自分の思いに酔って、吸い取られてる場合じゃない。
元気に通って、入場料を落として、舞台を回さなくっちゃ。

大衆演劇の本当にすごい所って、その生命力なんじゃないかと思う。
良い時期も悪い時期も、ある朝誰かがドロンしようとも、明日の幕は容赦なく開く。
だからなのか、あの舞台が投げかけるのは、一種の切羽詰まった勢いだ。
私は千と数百円の入場料で、生命の坩堝の中に降りていく。

――ああ 惚れ神と生きる気になった――

惚れちゃった分だけ、ちょっと疲弊する日もあるけれど。
お梅の恍惚も、この心には薄くよぎるけど。
送り出しの「また来てね」、ええ、行きますとも。

だから、受け取ったパワーを胸に、日常に帰る。
毎日しっかり働いて、お金稼いで。
ご飯食べて、たまにはスカートも買って。

私の、貴方の、惚れ神と一緒に、ずっと生きていく。
捧げきって倒れていては、この世界は回らないのだ。

“あぁ 惚れ神と生きる気になった!”

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樋口征次郎一座お芝居「生きたり死んだり」

2014.12.12 夜の部@一宮芸能館SAZAN

“オリジナル”を貫く人って、きっと面白い。
『演劇グラフ』の座長大会の記事で見かけるたびに。
着物の座長さんの写真が並ぶ中で、樋口征次郎座長が着こなすファンタジックなコスチュームは目を引いた。

仕事で名古屋出張の12/12(金)に、樋口征次郎一座が一宮にいると知って。
2か月も前から楽しみにしていた、初・樋口体験。

樋口征次郎座長(当日舞踊ショーより)


「お芝居見る所はそのドアの向こうです~」
一宮芸能館SAZANで受付をすませて、案内されたドアを開けようと手を伸ばすと。
バンと向こうから開いて、驚いた。
「いらっしゃいませ、好きな所座ってくださいね!」
そして開けてくれた人の顔を見て、なおさらびっくりした。
征次郎座長ご本人!
柔らかなスマイル、すらっと高い背にピンクのTシャツがよく似合う。
いきなりお会いできてしまった。

征次郎さんと、座員の風吹千春さんが、入口でお出迎えに出てらした。
「東京から来ました!前から樋口さんのところ観たかったんです」
と言ったら、「東京から?!」と驚かれて、でも喜んでくださったみたい。

開演を待つ間、地元のお客さんにビールをいただき、お相伴にあずかった。
親しげな笑い声に振り返ると、準備前の役者さんと従業員さんたちが、入口周りで雑談中だった。
小さな館の、緩やかな空間。
常連さん御用達の、小さな酒場を思わせた。

さてお芝居は、「生きたり死んだり」という喜劇。
夫婦の亀(光條優貴さん・男役)と、お鶴(樋口征次郎座長・女役)は、借金で首が回らない。
でも、せめて正月くらいは人並みに迎えたい。
お鶴が指折ってつぶやく。
「お酒と、お餅と、門松だって飾りたいし…」

そこで亀は、うまい金策を思いつく。
「昨年の村芝居だ。川に身投げしようとして、通りかかった人に金を恵んでもらうってのがあったな。俺も、あれと同じことをしてみるか」
亀の身投げのフリはうまくいき、通りかかった大家(三波若菜さん)が慌てて止めに入る。
「女房のお鶴のやつが、豆腐に頭をぶつけて死にまして、でもその葬式をあげる金もないんです」
涙ながらの訴えで、葬式代として二、三両の金を出してくれるという約束をとりつけた。

が、その頃、妻のお鶴も全く同じことをしていた。
「四半時前、うちの人が階段から落ちて、肝硬変で死んだんです。あたしも後を追わないと」
通りかかった金貸しのお兼(風吹千春さん)から、やはり葬式代を恵んでもらうことに成功する。

「大家さんがうちに来たら、お鶴、お前が死んだことにするんだ」
「じゃあ、お兼さんが来たら、あんたが死んだことにするのね」
ごまかすために、代わる代わる、死んだ真似を繰り返す夫婦がおかしかった。

個人的な大ヒットポイント。
征次郎座長が女役を演じるのが、とにかく可愛い!

「征次郎座長の演じる女役が可愛い」と、日本語を誤ったわけではない。
女形芝居をよくされる座長さん方のような、実際の女性と見まごう可憐さ…というのとは一味違ったからだ。
征次郎さんは、高く伸びる骨っぽい体つきといい、弦を弾くように切れる目線といい、立ち役がいかにも冴える感じ。
実際、普段ほとんど女形や女役はされないそう。

持ち前の精悍さを消しきらずに、「女房・お鶴」を演じられる様が、なんだか健気なのだ。
硬質な体躯を、紺色の女の着物にくたっと折り畳んで。
夫役の優貴さんと絡むときは、高い腰をやや落として。
ラストショーの黒田節で槍をくるくる回していた、大きな手をしなりと重ねてついて。
「うちの人が死んだんですよ、なぜこんなときにお正月なんて言ってられるんです!」
泣き崩れる芝居をしてみせる。

零れる男性っぷりを、ちょっと窮屈そうに女役に押し込んでいる。
つつっと手を伸べて、この座長さんを愛でたくなってしまう。

思わず、普段は撮らない口上のお写真も撮らせていただいたので、イメージを伝えられるだろうか。↓


身投げのフリをする場面では、勢いよく、びょんっ!と川に向けてジャンプ。
通りかかったお兼=千春さんが、引き止めながら、時々引っ張られて一緒に飛ぶ!
千春さんがセリフに混ぜて、「おまえさん、夜、元気だね…」と苦笑気味に言うくらいに。

お兼が訪ねてきたときに、死体のはずの夫がウッカリ起き上がってしまって。
ちょっと、ちょっとあんた!死んでてよ!
とばかりに、必死にバシバシと、手拭いで合図するお鶴=征次郎座長。
かっ…可愛い…っ!と壁際の客席で悶えていた。

お話させていただいた印象からも、舞台からも、フランクなお人柄が伝わってきた。
こんな若造が可愛いと連呼するのは生意気かしら…と思いつつも、笑って流してくれそうな大らかさを思い出したので。

舞踊ショーでは例の、独自のキラキラファッションも観られた(最初の写真参照)。
帰り際、楽しかったです、来てよかった!と言うと、
「そう言っていただけてよかった…東京から来ていただいたんだから」
温かさが、目の奥に弾けた。

細く高いシルエットが、SAZANの小さな舞台を、きらきらと染める。
柔らかに、朗らかに。

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若葉劇団お芝居「木曽路の女」

2014.11.30 昼の部@大宮健康センターゆの郷

あの、若葉しげるさんに初めて会いに行った。
大宮ゆの郷、11/30(日)一日限りの、若葉劇団の特別公演。

「泣かせておやり!泣かせておやりよ。女にはね、一人っきりで泣きたいときがあるの。そんな簡単にねえ、『泣くな』なんて言わないで!」
ぎゅっ―!と胸を掴まれた。
お芝居「木曽路の女」の終盤のセリフ。
言うしげるさんの目は、大きく潤んでいて。
本当に苛立たしげに唇を震わせて。
“女”の役で女の傷に寄り添う姿は、なんて可愛い、なんて優しい。

若葉しげる総師(11/30舞踊ショーより)


「木曽路の女」は、原田悠里のヒット曲に発想を得て、しげるさんが立てられたお芝居だそう。
お芝居の端々に、木曽の御岳山を見上げて泣く女の風景が、染み込んでいるようだ。

しげるさんの役は傍観者的ポジションで、実質の主役は若姫劇団・愛望美座長だった。
女やくざ・不知火のお常(ゲスト・愛望美さん)は、三年の島送りから帰って来た。
島で舎弟にした三次(ゲスト・ビリケンさん)を連れて。
けれど一家に帰ってみれば、懐かしい兄弟分の姿はなかった。
「ここは、あたしが住んでるんだよ。前の持ち主から買ったの」
代わりに、謎の女(若葉しげる総師)が一人で住んでいた。

女に聞けば、お常のいた木曽一家はすでに散り散りになっていて。
お常と夫婦になるはずだった梅太郎(ゲスト・愛染菊也さん)は、労咳で死んだという。
「梅太郎さんの墓はどこだい、墓くらいあるはずだろ」
凍りつく答えが返って来る。
「死んだ後、簀巻きにして、滝に投げ込んだっていう話だよ」

梅太郎を葬らず、一家を売ったのは。
こともあろうか、お常の兄貴分にあたる賽の目の弥之助(ゲスト・山戸一樹さん)だった。
「あたしは、絶対に弥之助の兄貴だけは許せない…!」
恨みを晴らすべく、お常は三次を連れて、弥之助の下へ向かう。

…劇の途中途中、切ないのは、梅太郎の幻がお常を訪れることだ。
「梅太郎さん、あたしだよ、お常だよ。帰って来たんだよ」
「帰って来たら夫婦になろうって…ねえ、どうして死んじまったんだい」
照明を落として、浮かび上がるのはお常=望美さんと、梅太郎=菊也さんだけ。
菊也さんが左手、望美さんが右手に佇んで、観客席を見ている。
お常が梅太郎のほうを見ようとすると、幻は消えてしまう。
「ねえ、行かないで、こっち向いて、梅太郎さん!」
お常の心の底で、ひりひり疼く喪失が伝わって来る。

しげるさんの緻密な脚本を最も感じたのは、ラスト。
映画みたいなドンデン返しがあるのだ(未見の方のために詳しくは伏せます)。
結果的に、お常は残された愛の幻すら失ってしまう。
絶望にはたはたと涙を流すお常。
そこに付き従っていた三次が、
「姐さんには涙は似合いませんよ」
と言葉をかける。

すっかりお常に感情移入していたので、この一言はだいぶ腹立った…!
泣かせてあげてよ…!
三次役のビリケンさんは味わい深くて好きな役者さんだけど!

そこでしげるさん演じる女が、前述のセリフを言ってくれるのだ。
「簡単に『泣くな』なんて言わないで!」
そう、そう。
そう言って慰めてほしかったの。
泣いてる女の人が、泣き顔を筵に隠す時間を与えてほしかったの。
悲しい幕切れをわずかに救うのは、一緒に目を潤ませてくれる存在だ。

しげるさんには、女の人も男の人も、途方もない親しみを覚えるだろうな。
実際、舞踊ショーでしげるさんが出てきたときは、ゆの郷の常連さんたちから、「若葉!」「若葉!」と大歓声だった。
くるくる踊り回るしげるさんの、愛らしかったこと。

この日はもう一つ、望外の喜びがあった。
ゲストの一人、山戸一樹さんという名優を、知ることができた。

山戸一樹さん(11/30個人舞踊「人生一路」より)


山戸さん演じる賽の目の弥之助は、ある意味一番弱い役。
甘言にそそのかされ、一家の大事を乗りきれなかった。
「俺は酒飲みだったから、酒で頭が狂っちまってたんだろうな」
一家を売った罪悪感から逃れるために、今も酒に溺れ続けている。
ぽっかりと虚ろな目に、挫折が見える。

「お常、いっそ、お前の手で殺してくれ」
妹分の刃にかかろうとするも。
「ダメだ、お父っちゃんを斬らないで!」
飛び出してきた、まだ小さな娘・お花(子役さん。お名前覚えられず申し訳ありません…)。
この子のために、弥之助はまだ生きねばならない。

お常が立ち去った後、弥之助はお花に約束する。
「お父っちゃんな、酒、やめるよ…!」
泣き笑いのような山戸さんの表情が、焼きついている。

筵に隠れて泣くお常、酒瓶片手に千鳥足の弥之助。
何もかも失くした人たちは、それでも生きねばならない…。
土砂降りの向こう、またやって来る明日の哀しさ。

こんなお芝居の情景に浸れば、じんと胸から湧き出る、喝采。
――若葉!若葉!

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爛漫―劇団KAZUMA 11人の風景―

2014.11.21-24 @四国健康村

「劇団KAZUMA久しぶりなんですけど、パワーアップしましたね!」
シコケン行きに付き合ってくれた連れが、送り出しで一馬座長にそう言っていた。

どんなことにも、脂がのっている時期というのがあるのだろう。
今。
もしかしたら、劇団KAZUMAは、何度目かの盛りの季節に差しかかっている、のかも。
2014年、舞台に立つ人々が入れ替わり、新しいカラーを持った人々がやってきた。

満開の桜を見上げて、思わずシャッターを切るように。
“今”の彼らのスケッチを残しておきたくなって、書き走ってみた。
気づけばすぐに舞台風景が変わっていくからこその、2014年末の記録。

藤美一馬座長(11/24舞踊ショーより)

年齢を重ねるたびに、情け深く、美しくなっていかれるんじゃあと思っている。
こんなにたおやかな女形だけど、得意は芝居の三枚目。
情だらけの、人間くさい、愛しい、三枚目。
「私はこういう三枚目の、みんなに笑われてるような役が、一番合うんですよね」
そう話していたご本人も優しそうで、人間好きそうで、でも繊細そう。
一馬座長が、要にいてくれるこの劇団のカラーが、私は好きだ。
ひとすじの水が流れるような個人舞踊「船頭小唄」は、珠玉と思う。

柚姫将副座長(11/21個人舞踊「加賀の女」より)

将さんの、根っこのしっかりした独特の芝居。
表される心の一つ一つに、精魂こもっているので、心底芝居がお好きなんだろうなと思う。
たとえば、11/24(月)に観てきたばかりの「唄祭り やくざ仁義」で、自分の父親の仇敵が発覚した瞬間。
刀をかざして、静かに進み出て、
「そうかい…」
声のトーンが一気に落ちて(本当に“一気に”来る!)、黒加減が7割増しくらいになる。
この、白と黒をひっくり返すようなゾクゾク感は、将さんの芝居が好きな方にはわかっていただけるのじゃないかな。
出会ったばかりの頃から、この“成り切り200%”な芝居に惹きつけられてきた。
来た…!これだ…!と客席で、いつまでもゾクゾクしていたいものです。

冴刃竜也副座長(11/22舞踊ショーより)

竜也さんが女形で現れると、客席がざわっ…となるのは、私の気のせいじゃないはず。
特にセンターだと、大衆演劇の女形を見慣れていないお客さんも多いせいか、周囲の衝撃を肌で感じる。
ものすごい吸引力がある。
毒々しいまでの色気がある。
ねっとりと、艶やかに、暗澹の中に、咲く。
KAZUMAの常連さん以外の方に、劇団KAZUMAが好きと話すと、「あそこの竜也君、いいわよね。色っぽいわ~」と返されること数回。

華原涼さん(1/4舞踊ショーより)

声、顔、姿――全部きれいに整った…ああ、この方こそ、役者さんだなぁ。
女形なら、鮮やかに咲く。
立ち役なら、しぃんと沈む。
そしてクールな涼さんが、三枚目役をしたときの爆発力といったらない。
その芸達者さには、どんな歴史があるんだろうか。
『演劇グラフ』2013年6月号で、劇団KAZUMAが取り上げられたとき。
役者になったきっかけという質問に、涼さんの答えは『時の流れ…』だった。
手を怪我されていて、しばらく舞台に出ていなかったので、最近の涼さんの写真がなくて寂しい。

藤美真の助さん(11/21舞踊ショーより)

初めて真の助さんを見た知人が、「舞踊を見て一発でファンになりました!」と言っていた。
真の助さんの舞踊…というか、客席とのじゃれあいは面白い。
「真の助―!」の掛け声に、「やかましいわ!」と返したり。
がははは、とも、うへへへ、とも、文字化できない謎の笑い声を響かせたり。
お笑いキャラを務める一方で。
客席に対しても、劇団の仲間に対しても、大きな眼差しで見ているのがわかる。
あらゆる面で大人なこの役者さんは、私にはホッとする存在だ。

龍美佑馬さん(11/24舞踊ショーより)

今、最も飛躍を感じる役者さん。
じっくりと、一歩ずつ、稽古されてきたのだろうな。
ふと気づけば、こんなに昂ぶる芝居をされる方だったか。
こんなに傘を使った舞踊が似合う方だったか。
そんな驚きをもって、新たな役者さんを見る目で、佑馬さんの人懐っこい笑顔を見た。
骨太の体躯に、渋みの走る姿。
↑の写真のような、“海の男”系舞踊は誰よりハマると思う。

ひびき晃太さん(11/21舞踊ショーより)

新人さん。
声が親しみ深くて、あっけらかんとしていて、耳に心地よい。
大抵は舞踊ショーで歌を歌うけど、11/24(月)のお芝居「唄祭り やくざ仁義」では、茶店の主人の役があったのでセリフが聞けた。
裏方でもいつも忙しなく、働き回っているようだ。
舞台の光は、影で走る人の汗あってこそ。

KEITAさん(11/22舞踊ショーより)

ここ数か月、ちらほら耳にする限りでは、KAZUMAの客席の10代のお嬢さんたちから、絶大な支持を得ているのじゃないだろうか。
私自身、2年前、木馬館で初めて見たとき。
あまりの美少年ぶりに、「え、えっ?!」と驚いてしまった。
立ち姿が美しく、大成されるような気がする。

劇団千咲 千咲大介座長(11/23個人舞踊「曼珠沙華」より)

“魅せる”ということの体現を見る。
客席の心をつかみとるアンテナが、身体の内側から、きらりと反応するのだろうか。
↑の写真は11/23(日)の個人舞踊、「曼珠沙華」は宇崎竜堂カバー。
ムード歌謡みたいな気だるさ満点の歌に、あえて古典舞踊っぽい笠!
なんとも瀟洒な組み合わせ。
オシャレ上級者ってこういうことか…
千咲をお休みする前は、大変な苦労をされたようだ。
今、この座長さんがKAZUMAの舞台から投げる光の強さ。

千咲菜野芭さん(11/24舞踊ショーより)

頭に飾ったお花も可憐、まだ少女みたいな女優さん。
けれど懐深さが、切なげな眉に現れている。
そのためか、菜野芭ちゃんの舞踊には、ふと揺らぐ色香がある。
演歌の女唄がよく似合う。
想う相手の弱さ、ダメさ、ひっくるめて包みこんでしまう―そんな歌詞が、踊り手の皮膚と吸い合う。

やっさん
いつも穏やかな投光さん。
一馬座長の女形舞踊のときの照明がすごくて、職人魂を感じる。

計11人(私が把握していない裏方さんとかいない限り)。
きっとこれは、移ろっていく風景の一つだ。
芸も人も、変わって行くんだろう。

刹那だからこそ、毎日、毎時間、毎分の舞台には、生々しい血潮が走る。
時に追い立てられて、切羽詰まって、それぞれが今の自分を、目の前の観客に叩きつける。
新しく来た人も、昔からいる人も。
自らの色を見つけながら、咲き群がる今。

熱放つ、“今”!

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