2013年 珠玉の一本―ラストショー編―

観劇の最後の楽しみ、ラストショー。
いわばディナーの最後のデザート的な存在。
デザート目当てに劇場に行く日を決めることだって、もちろん多々ある(特に女形大会とか聞いちゃうとあっさり乗せられる)。
張りきって書いていきます!

劇団花吹雪「六人花魁」
2013.1.26 夜の部@浅草木馬館


写真・桜春之丞座長(奥)・桜京之介座長(前)「六人花魁」より


1月から最大級のインパクトを食らってしまった。
花吹雪の男優陣6人が、一人ずつ花魁姿で踊るという豪華絢爛なショー。
5人目の花魁は、桜京之介座長。
セリーヌ・ディオンの「My heart will go on」の美声に乗って、しなやかに登場した。
その格好はギラギラの金色お着物、頭には発光する巨大な髪飾り…って言っていいのか迷うくらいでっかい(笑)

しかし、5人目でこれだけ壮大な見せ方をすると、最後の6人目はどうするのだろう…?
――疑問は、登場した春之丞座長を見て吹っ飛んだ。
衣装は純白、曲は「Can you celebrate?」。
呆気に取られていると、会場を飲み込む春之丞さんの艶然スマイル。
後ろから差し込む照明に、純白の衣装が照り映える。
「妖精だ…」「妖精だね…」
思わず隣の友人と言い合ってしまった。
この友人とは、いまだに「あれはすごかった…」「ウェディングドレスすごかった…」と語り草になるほど。


近江飛龍劇団「Ti amo」
2013.6.22 夜の部@篠原演芸場


写真・近江飛龍座長(左)・近江春之介さん(右) 「Ti amo」より


大衆演劇頻出曲「Ti amo」について、友人と深く合意したこと。
「あの歌はきっと、照れを全て捨てきらないと表現できない!」
だって、 ―「愛してるってフランス語でなんて言うの?」―
このセリフ聞いただけで、私はもう照れ混じりに笑ってしまう…
役者さんたちは舞台に立つと照れなんて吹っ飛ぶのだろうか。

そんな「Ti amo」の中でも、照れのての字もなく。
ためらいなく清々しく勢いよく、ラテンの愛の世界を見せつけてくれたのが、近江飛龍座長。
お衣装の肌露出もガッツリ多く、持ち前の熱量を全開に放って。
赤ソファの上で足を組み、相手役の春之介さんに「Ti amo」のメロディに沿って語りかける。
―「Je t'aime」「ドイツ語では?」―
飛龍座長は普段のコミカルな色をすっかり消して、精悍な顔つきがくらりと締まる。
睦言の真似、接吻の真似、繰り広げられる熱愛の世界。
―「…じゃあ、イタリア語では?」―
篠原演芸場にあんなに濃い色気が立ちこめているのを、初めて体験した。


たつみ演劇BOX「桜小町」
2013.8.9 夜の部@篠原演芸場


写真・小泉ダイヤ座長「桜小町」より


私の中では、The たつみ演劇BOXのイメージのラストショー。
形がきちんと整っていて、でも華やかで現代的!
―桜 花ビラ ヒラヒラ
風ニ揺ラレ 舞ヒ踊レ―

ナオト・インティライミの歌詞に乗った、群舞の身のこなしの洒脱なこと。

たつみ演劇BOXはお芝居でもショーでも、古い色と新しい色がきれいに混ざっている感じが好きだ。
寝かせきった粋の中に、パッと明るいモダンカラーが見事に咲く。
特に「桜小町」ではダイヤ座長の女形(写真参照)の美しさが印象的だった。
凛と、しゃんと、墨で描いたような女形。
でも、軽やかでモダンな、お姫様。

「珠玉の一本」シリーズを書くために一年分の写真フォルダを見返していると、たつみ演劇BOXの写真は、一目見て“きれい”と思う。
客がそう感じるように、苦心の衣装選び、舞台作りをされているのだろう。
その絵姿、2014年もきっと東京で見られる…よね?


劇団KAZUMA「曽根崎心中」
2013.9.16 昼の部・夜の部@浅草木馬館


写真・藤美一馬座長(左)・柚姫将さん(右)「曽根崎心中」より


劇団KAZUMAのラストショーの中でも、今のところベストの一本が「曽根崎心中」。
宇崎竜堂さんのロックナンバーを使用しているため、すごく斬新で、ミュージカルみたいにテンポがいい心中物だ。

でも、私が「曽根崎心中」を推す最大の理由は別にある。
それは、心中に至るまでのストーリーを丁寧に見せてくれること!

まず冒頭は、お初徳兵衛の会話の場面。
なぜ便りをちっともくれないのか、と柚姫将さん演じるお初が、一馬座長演じる徳兵衛を責める。
将さんのお初は拗ねたり困惑したり、純な可愛さ。
徳兵衛の窮状を聞けば、知らずに責めた自分を恥じて、
―言うたこの身は 恥知らず―
かぶりを振る姿に、お初の生真面目さが滲む。

続いて、九平次が往来で徳兵衛との約束を反故にする場面。
―寄るな 寄るな この嘘つきめ!―
ここでは龍美佑馬さんの、いかにも根っこの曲がった感じの九平次役が好きだ。

徳兵衛は友人に殴られ蹴られ、世間に見捨てられ、悔し涙を零す。
―無念でござる 悔しゅうござる―
よろよろと身を起こし、惨めな自分を自嘲する。
灯りを落とした舞台の上、一馬座長の全身から、哀れさが滴るようだ。

そしてお初徳兵衛は、天神森へ向かうのである。
一つ一つのシーンを積んで、このカップルが心中にまで追い詰められていく様が描かれる(しかも曲自体のノリがいい)。
すっかり感情移入しているゆえに、最後の心中はより悲しく、よりカタルシスは深い。


剣戟はる駒座<倭組>「お里沢市」
2013.11.3 昼の部@千代田ラドン健康センター


写真・勝小虎さん「お里沢市」より

お写真がぼやけてしまった…

このラストショーを見られたのは、遠く土浦まで行った甲斐があると思った。
浪曲に合わせた、短いお芝居のようなラストショーだ。
目の見えない夫・沢市に倭座長、献身的な妻・お里に小虎さん。
このご兄弟が夫婦役を演じると、二人の間に濃い慕情が醸し出されて、ひたひたと沁みる。
実際に仲の良いご兄弟なんだろうなぁ、と想像されるのだ。

とりわけ、小虎さんのお里が胸を打つ。
―妻は夫をいたわりつ 夫は妻に慕いつつ―
夫が盲目というハンデを背負っているゆえに、お里は妻だけど夫を守る側。
だから健気に尽くすばっかりじゃなく、気丈でしっかり者だ。
―「沢市さん 心確かにくだしゃんせ」―
一途さ、芯の強さ、しっとりした色気、それらのバランスが、小虎さんの女形にしなやかに収まっていてとても良かった。


以上5本が、ラストショーの私的ベスト!

「珠玉の一本」シリーズ、選ぶときも書いてるときも、すごく楽しかった。
2013年、良い劇団さんたちがたくさん東京に来てくださったんだなと、つくづく思います。
来年の今頃、2014年の「珠玉の一本」では、どんなお芝居・ショーを並べることができるだろう?

このブログをお読みいただいている方の2013年ベストも、とても知りたいので…
もしよろしければ、コメントや拍手コメントで教えていただけると喜びます。

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2013年 珠玉の一本―個人舞踊編―

普段はお芝居の話ばかり書いてるけど、私の記憶の中では舞踊ショーの名品も光っています。
特に個人舞踊は、その役者さん一人が紡ぐ舞台。
曲が流れている数分間、私の心を取り込むのは、一つの歌、一つのお衣装、ただ一つの世界だ。
紡ぎ手はその奥にたたずんで、自分の色に染め上げた糸を、面白そうに投げかける。
今も思い出せる、2013年の色鮮やかな糸たちを引っ張ってみましょう。


不動倭座長「恋」(剣戟はる駒座<倭組>座長 当時は花形)
2013.5.26 昼の部@ユラックス


―咲かないつぼみのように 報われない恋でした―

(この舞踊のみ、感動ゆえに記事まで書いています。
なのに写真は痛恨のミスで消えてしまった…)

倭さんの「恋」は、一種の衝撃体験だった。
歌の出だしと同時に、情景が、水が流れるように頭の中に流れこんできたのだ。
恋する女性に想いを伝えられずに、相手を陰から見つめる青年の姿が。

―せめて一度くらい 振り向いて欲しかった
せめて風のように ただそばにいたかった―

倭さんが演じる青年は、恋する相手に自分をうまく見せることなんて出来なかったんだろうな。
もしかしたら、器用に恋敵に出し抜かれたりもしたのかもしれない。
これはお芝居じゃあないのに、頭の中で切ない想像が止まなかった。


三河屋諒さん「夢日記」(劇団炎舞ゲスト)
2013.6.23 昼の部@川越温泉湯遊ランド


―ほのかな命の私には 大きな愛はいりません―
写真・三河屋諒さん「夢日記」より


セリフ入りの歌が始まった途端、川越温泉の「小江戸座」からは一つのざわめきすら消えた。
お食事をしていたお客さんも、箸を止めた。
暗闇の中に一粒、灯りを落としたかのように。
諒さんが語りかける。歌いかける。

―なにが欲しいと聞かれたら 夢が欲しいと答えます―
どうして夢かと問われたら 明日(あした)が見たいと答えます―

黒い着物、きゅっと上げた髪が、原爆症と闘う女性・夢千代の儚さ、それでも折れない輪郭の強さを伝える。
夢千代の物語をまとって、舞台の上の呼吸はひっそりと、けれど確かに。

恥ずかしながら、この時点では三河屋諒さんについて全く知らなかった。
「夢日記」を見て、すごい女優さんがいる…!と色々検索し、名優として高名な方であることを知ったのだった。


彩子さん「お嫁においで」(劇団KAZUMAゲスト)
2013.9.16 昼の部・夜の部@浅草木馬館


―月もなく淋しい 闇い夜も 僕にうたう君の微笑み―
写真・彩子さん「お嫁においで」より


可愛い、可愛い、可愛いー!
と何度胸中で叫びながら、写真を撮りまくったかわからない。
ピンク振袖×白黒パラソル×彩子さんの必殺スマイル。
たとえるなら、見た目も可愛くて甘いお菓子をたっぷり詰め込んで、さあどうぞ!って差し出されたキャンディボックス。

―舟が見えたなら ぬれた身体で 駆けてこい―
包み込むような彩子さんの懐の深さ、弾ける明るさが、凝縮された一曲だと思う。
台風18号直撃の日、それでも浅草まで行った甲斐は、この舞踊が見れただけで全て報われた。


辰巳小龍さん「飢餓海峡」(たつみ演劇BOX)
2013.10.13 昼の部@ユラックス


―漕いでも漕いでも たどる岸ない 飢餓海峡―
写真・辰巳小龍さん「飢餓海峡」より


こんな記事まで書くほど好きな小龍さんの、成りきる系舞踊は選ぶのに迷いに迷った。
「朝日の当たる家」とか「お玉」とか「母ざんげ」とか…。
名品揃いの中で結局「飢餓海峡」にしたのは、仕事の出張の合間に足を伸ばしたら、たまたま見れたという、自分の幸運に感謝して。

小龍さんの「飢餓海峡」は、泣かせる後半も圧巻だけど、思うに鍵は前半だ。
―「私にはあのときの犬飼さんだってことが、すぐわかりました!」―
“犬飼さん”に会えて、ああ、緊張するけどすごく嬉しい。
照れながら懸命に話す乙女のような“八重”が、あんまり可愛らしくって、健気で。
だからその後の悲劇が、より響いてくる。


藤美一馬座長「銀座のトンビ」(劇団KAZUMA)
2013.10.30 千秋楽@篠原演芸場


―俺は俺で最後まで ド派手にやってやるけどね―
写真・藤美一馬座長「銀座のトンビ」より


どこまでも和らげな面差しの、その人生が、じわり滲んでくる。
ただでさえ泣ける一馬座長の「銀座のトンビ」、それも東京公演千秋楽とあれば思い入れもひとしお(千秋楽の記事はこちら)。

「演劇グラフ」6月号掲載の「劇団漫遊記」は、劇団KAZUMAだった(当然即買い)。
一馬座長のインタビューは、何度も読み返した。
座長さんというのは、どんなに背負うものの多いことか。
毎日舞台に立ち続けるというのは、どんなに固い拳を握りしめなくてはできないことか。
でも、“死ぬまで役者でいたい”と語られていたから。

―俺は俺のやり方で ハッピーにやってやるけどね―
俺は俺で最後まで ド派手にやってやるけどね―

ハッピーに、ド派手に、いつまでも魅せてくれるのだろう。
あの、白く溶ける笑みとともに。


二代目・恋川純さん「翼をください」(桐龍座恋川劇団)
2013.11.27 夜の部@篠原演芸場


―今 私の願いごとが 叶うならば 翼がほしい―
写真・恋川純さん「翼をください」


もっと前へ。もっと上へ。
上へ、上へ、上へ!
そんな思いが爆発していた光景が、忘れられない。

二代目・恋川純さんからは、エネルギーが常々迸っているように見える。
9-10月の東京公演では、恋川劇団は次々と初挑戦のお芝居をやっていらしたそう。
そのうち「一本刀土俵入り」は私も見て、瑞々しい駒形茂兵衛(二代目さん)とお蔦さん(鈴川桃子さん)に拍手を送った。

「二代目を見てると元気になる」
「二代目が頑張ってるから、私も頑張ろうって気になる」
恋川劇団ファンの友人たちが、本当に楽しそうに語っていた。

―この大空に翼を広げ 飛んでいきたいよ―
芸の高みを見つめて。
強い強い眼力が、空に昇って行く。
上昇気流のただ中にいる、22歳の二代目さんは、きっと2014年も大衆演劇界を大きく揺さぶるのだろう。


以上6本、今年の忘れられない個人舞踊。
役者さんごとに、お芝居とは全く違う顔を見せてくれるのが本当に楽しい!
イントロと同時に、毎回高揚感があります。

珠玉の一本シリーズは、次で最後。
最後は―ラストショー編―です。


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2013年 珠玉の一本―喜劇・人情劇編―

悲劇・真面目なお芝居編に続き、今回のピックアップは2013年に観た喜劇・人情劇の珠玉たち。
だけど、「泣いた」という涙の重さが肌に残る悲劇と違って、「笑った!」っていう喜色は軽々、お芝居が終われば肌から抜け落ちてしまう。
ひとときケラケラ笑って、半日も経てばなんであんなに笑ってたのか思い出せない。

だからこそ、今になっても私の奥に残っている笑いの粒は、ただおかしいだけじゃなく。
泣きがあり、情があり、悲しみさえもその中に溶けているように思います。
今回も1月から順番に、見た順。


劇団悠「山の兄妹 おちょこの嫁入り物語」
2013.1.3 夜の部@三吉演芸場


写真・高橋茂紀さん(当日舞踊ショーより)


兄妹愛を描いた温かいお芝居から、2013年の観劇をスタートできたのは実にラッキーだった。
とりわけ沁みるのが、木こりの兄(高橋茂紀さん)が、不細工な妹(松井悠座長)に注ぐ情愛だ。
妹が自分の醜さに気づかないよう、
「おちょこ、お前はかわいいから、鏡を見る必要なんてない」
家中の鏡を割って。
「おちょこ、お前はかわいい、かわいい」
繰り返し言い続けて。
二親を亡くし、山の中で、たった一人で妹を守ってきた兄。
嫁入り化粧を過剰に施して、かなりお化けじみてしまった妹の顔を見ても、
「いつもにも増してきれいだなぁ!」

……この情の深さ、たまらんです。

高橋茂紀さんは、結局この一回きりしか見れていないんだけど、すごく晴れやかな笑顔の印象的な役者さんだった。
6月、名古屋で劇団悠を見た知人も「高橋さんが良かった!」と話していて納得。


劇団花吹雪「踏切番」
2013.2.3 昼の部@篠原演芸場


写真・桜京之介座長(当日舞踊ショーより)


話の本筋となるのは、社長に見初められた妹(桜恵介さん)と、妹の生き方を案じる兄(桜春之丞座長)。
が、もう一人、強烈なトリックスターがいる。
「よかったなぁ!すごいやん!」
兄妹の真剣な会話に後ろから茶々を入れる、春之丞さんの弟分。
桜京之介さんが、健康的でお調子者の青年を元気いっぱいに演じる。

兄妹二人きりで話がしたいと言っているのに。
「大丈夫です。そこは空気読みます。KYだけどそこは読める!」
と自信たっぷりに言って、奥に引っ込んだかと思いきや。
引き戸の向こうには、張り付いた聞き耳!

「踏切番」は本筋は切ないのに、このお笑いキャラクターゆえに、明るい笑いばかりを思い出す。
最近本で知ったことだけど、佐賀にわかの筑紫美主子さんも演じられていた名物キャラクターらしい。


たつみ演劇BOX「掏摸(すり)の家」
2013.8.14 夜の部@篠原演芸場


写真・小泉たつみ座長(当日舞踊ショーより)


「竹さん、食べたことのないもの食べに行こう。あれだ、“ハヤシライス”!」
たつみ演劇BOXの「掏摸(すり)の家」のすごいところは、明治の東京の浮かれ気分がいきいきと表されていることだと思う。
それは、工夫された演出のたまもの。
たとえば、お芝居の幕が開く前に、ポポーッ、シューッと汽車の音がスピーカーから聞こえてきたり。
スリの庄吉(小泉たつみ座長)が得意げに身につけるのは、金縁眼鏡にハットにコートだったり。
やたらとキラキラ輝く指差しが、華やかなたつみさんにまたよく似合うのだ(笑)

後半、庄吉は盗んだ大金が、善良な一家のなけなしのお金だったと知る。
「あの、あの百二十円はなぁ、あれは盗んじゃいけない金だったんだ!」
真っ青になって、半泣きになりながら、女房(辰巳小龍さん)と金策に走る。
スリの家は、おかしくて、かなしい景色に変わる。


たつみ演劇BOX「稲荷札」
2013.8.18 昼の部@篠原演芸場


写真・辰巳満月さん(当日舞踊ショーより)


「掏摸(すり)の家」と同様、小泉たつみ座長が紡ぐ、おかしさの中のかなしさ。
「ここまでお願いしたんや、そろそろ数字戻してくれたやろ……ってなんでや、なんで戻っとらんのや~」
守銭奴で有名な、山城屋の御寮はん。
当たったはずの富くじの数字が変わったと、頼みの綱のお稲荷様に泣きつく。
たつみさんの三枚目役は、座っているだけでおかしいのに、笑っているうちに涙線がふいに緩んでしまう。

「稲荷札」では、御寮はんの愛娘・お七(辰巳満月さん)も私の心をとらえて放さない。
大好きな“お嬢さん”キャラクターの中でも、2013年のベスト。
手代の清七(小泉ダイヤ座長)との駆け落ちに、持って来た荷物は、
「三月のお雛様!」
子どもの心を映し取ったような、能天気極まりない思考が可愛いのなんの。

しかし、このお芝居とっても古いっぽい。
1935年頃には曾我廼家五郎さんがやっていたという回想を読み、びっくり。
ドケチなお婆さんって、昔からみんなの共感を得られるキャラクターなんだろうなぁ。


劇団KAZUMA「モグラとラッキョ」
2013.10.14 夜の部@篠原演芸場


写真・香月友華さん(当日舞踊ショーより)


「あの馬鹿息子」「あのクソジジイ」
美影愛さんと柚姫将さんの、犬猿の仲の父子役がとにかく良い。
「男はまた別のも星の数ほどいるけど、子どもは一人しかいないでしょ?」
香月友華さんの、たくましいお母さん役が重ねて良い。

まず、嫌いあっている父子が、同族嫌悪なのでは?と思うくらい、思考がそっくりなのがおかしくってしょうがない。
美人座長(霞ゆうかさん)が、自分に一目惚れしたと聞けば。
父「昔はそんな話は降るほどあったが、ここ最近はめっきりだった…」
子「そろそろ俺にも嫁が必要だと思ってたところだ…」
と疑いもせずに浮かれるんだもの。

私の目に映った限り、美影さんと将さんのテンポはぴたり噛み合っていて。
大先輩がいらした2か月で、将さんの舞台の紡ぎ方にはさらに糸が足されたのかな、とかワクワクしながら思っています。

そして友さん演じる“おっかあ”の、旅人(藤美一馬座長)とのやりとりは白眉だった。
「旦那も子どももいなくなった今、両方の一家の財産があんたのものってことだぞ」
「そうよね!あたし、また新しい男つかまえて新しい人生送るわ!」
このときの、破顔一笑の眩しさといったら(笑)


以上5本が、私的喜劇ベスト。
喜劇の殿堂入りは、劇団KAZUMAの「文七元結」。
笑い、情、泣き、人の弱さ、強さ、うずくような人懐かしさ。
私が大衆演劇の中に探しているものの、全ての切れ端が「文七元結」の橋の風景から覗いているような気がする。
KAZUMA遠征で一緒の友人が、最も愛するお芝居でもある。
今年は2013.2.11 昼の部@くだまつ健康パーク2013.5.5@夢劇場で見た。

さて、書き残しておきたいのはお芝居ばかりじゃない。
次回は―個人舞踊編―です。

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2013年 珠玉の一本―悲劇・真面目なお芝居編―

大衆演劇にハマって2年目の2013年。
木馬・篠原・遠征先の劇場で、通り過ぎていった、たくさんの夢の影。
中でも、いつまでも私の中で光り続けるであろう、個人的な“珠玉の一本”を。
今年の観劇録として、振り返ってみたいと思います。

まずは、このブログでも一番記事数の多い、悲劇・真面目なお芝居からのセレクション。
1月から順番に、見た順。

劇団花吹雪「道中夢枕」
2013.1.13昼の部@浅草木馬館


写真・桜春之丞座長(当日舞踊ショーより)


「またすごいものを観てしまった…」
今年の1-2月は、春之丞座長の舞台を見るたびに、そうつぶやくのが恒例だった。
華やかな容色と合わせて、あまりに鮮やかな手腕と変幻自在の声を持った、底知れない座長さんだった。

「道中夢枕」は、夢と現の狭間をさまよう物語だ。
夢の中は心の中。
誰にも触らせない秘密の中。
「触らねえでおくんなせえな!」
春之丞座長演じる主人公・勘太郎の心の奥深くに、もぐりこんで行くストーリー。
終演後、自分が本当に夢から覚めたみたいな、不思議な感覚があった。


剣戟はる駒座「河内十人斬り」
2013.3.9 夜の部@浅草木馬館


写真・勝小虎さん(当日デジカメを忘れたため3/24舞踊ショーより)


「俺はもう腹一杯や、お前が食え」
「茶碗一杯で何が腹いっぱいなもんか、お前が食え」
クライマックスで、一杯の白米を分け合って食べる熊太郎(勝小虎さん)と弥五郎(津川竜総座長)の情景は、決して忘れられないだろう。
妻に、義母に、村の者に裏切られ、恨みを果たした後は山に追われて。
人の心の醜さをこれでもかと心身に焼きつけられた義兄弟二人が、最後に分ける一杯の飯。
最後に味わう、人の温もり。

9月以降は、二つに分かれたはる駒座。
「河内十人斬り」は、小虎さんと竜総座長が揃う合同公演とかだと、また上演されるんだろうか。
はる駒座の総力を尽くした凄絶なこのお芝居に、いつか再会したい。


剣戟はる駒座「八幡祭 江戸の朱月」
2013.4.7夜の部@篠原演芸場


写真・津川鶫汀座長(当日舞踊ショーより)


記事を読んでくれた友人が、「絶対見たかった…!」と言っていた。
また、鶫汀さんファンの別の友人もこれは見逃したらしく、悔しがっていた。
なので、4月に「江戸の朱月」を見たことは私のひそかな自慢だったりする(笑)

「この美代吉姐さんはねぇ、宵越しの金は持たないんだよ」
蓮っ葉、冷淡、強欲、極まれり。
溶け落ちるように妖艶なファム・ファタール=美代吉(津川鶫汀座長)。
「あの女は、うそつきだ。江戸っ子は、みぃんな、うそつきだ」
越後出身の素朴さ、生真面目さ、故郷の母を思う様が哀れを誘う。
美代吉に心をなぶられた末に、狂気に陥る縮屋新助(津川竜総座長)。

3-4月に夢中になっていたはる駒歌舞伎は、つくづく多彩だったなぁ。


たつみ演劇BOX「明治一代女」
2013.7.27 夜の部@浅草木馬館


写真・辰巳小龍さん(当日舞踊ショーより)


小龍さんの演じる「明治一代女」のお梅は、悪名高い稀代の毒婦とは異なる。
まじめで、健気で、利発で、家族思いで、小さな体に気をいっぱいに張って、懸命に生きてきた女性だ。
そんなお梅が、悲運の底へ転落していくからこそ、目が離せない。
「津の国屋の晴れ姿を、一目見てから、牢獄に行きたい…」
小龍さんが、全身を震わせながら、引き裂くように叫ぶ。
「あたしそのために、人まで殺したのに!」

生身の女性としてのお梅が、見ているうちに愛おしくなってきたものだった。


劇団KAZUMA「男の人生」
2013.9.8 昼の部@浅草木馬館


写真・柚姫将さん(当日舞踊ショーより)


好きな役者さん×悪役の組み合わせは、私には至高です。
そんな柚姫将さんの悪役の中でも、今年のベストが「男の人生」!
篠原演芸場バージョンも良かったけど、木馬館で初めて出会った衝撃は忘れられない。

将さん演じる優しい気性の二代目親分に、腹心の鉄五郎(美影愛さん)が不信を吹き込む。
伊三郎(藤美一馬座長)が二代目の襲名を妬んでいますよ、と。
素直さゆえに、疑いに踊らされる。
弱さゆえに、恩を忘れる。
「いつ伊三が俺の寝首を掻きにくるかと思うと、おちおち寝られやしねえ…」
白木屋一家の二代目は、哀しい悪役。


劇団KAZUMA「兄弟仁義 男たちの祭り」
2013.10.21 夜の部@篠原演芸場


写真・美影愛さん(当日デジカメ不調のため10/6舞踊ショーより)


美影愛さんが立てられたという、まるでノワール映画のような。
白と黒の陰影の中、独特のしんとした緊張感が、絶えず張りつめている。
親しみたっぷりの劇団KAZUMAの皆さんは、このお芝居に限り別人のように見えると思う。

とりわけ私が撃たれたのは、柚姫将さん演じる政吉の名場面。
強者のおごりで虫けらのように刺され、死んでいくときに、思い返す。
故郷の大分を捨てて、兄貴分の辰二(冴刃竜也さん)についてきたこと。
血を吹きながら、なお清々しく、
「俺はついて来る人を間違えなかった!」
セリフ一つという単位で考えると、2013年涙をしぼったセリフNo.1である。


劇団KAZUMA「戻り橋」
2013.10.27 昼の部@篠原演芸場


写真・龍美佑馬さん(当日舞踊ショーより)


龍美佑馬さんの老け役がいかに深い情を紡ぐのか、思い知らされた。

戻り橋のたもとの、小さな甘酒屋。
佑馬さん演じる好々爺の主人には、拭いきれない過去がある。
かつて貧窮し、戻り橋のたもとに息子・文太郎を置き去りにしたことだ。
「とっつぁん、早く帰って来てな、紅葉みたいな手を一生懸命に振っていた――あの姿が、忘れられんのです」
橋はずっとそこにあって、主人を絶え間なく過去へ引き戻す。
佑馬さんが身をかがめて注ぐ甘酒一杯一杯は、“生きることの切なさ”を訴えるようだ。
中盤からラストまでは、私も友人もほぼ泣きっぱなしだった。


以上7つ、2013年の私的悲劇ベスト!

劇団KAZUMAの「生首仁義」は、思い入れがあんまり強いので、もう殿堂入りということで上記には書かず。
私はこのお芝居がきっかけで大衆演劇に目覚めて、これからもこのお芝居を追って行くんだろうなと思っている。
今年は2013.2.10 昼の部@くだまつ健康パークと、2013.9.20 昼の部@浅草木馬館で観ることができた。

次は――喜劇・人情劇編――に続きます。


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劇団暁お芝居「いれずみ丁半」

2013.12.23 昼の部@篠原演芸場

背景は新緑、目に青葉。
せせらぎの音も聴こえそうな、平和な景色の中を夫婦が連れ立つ。
「確かに俺は博打が好きだけどな、博打は二番目だ。いっとう好きなものは他にあるんだよ」
と夫の半太郎(三咲春樹座長)が言えば、
「他って何なの」
と妻のお仲(三咲夏樹座長)が問い返す。
「馬鹿、言わせるない」
半太郎は照れつつ、妻を引き寄せて耳打ちする。
しばしの間の後、お仲の人形めいた風貌が微かに驚く。
「……あたし?」

この、くすぐったいくらい健やかな夫婦愛の情景が、後の悲劇に映える。

写真・三咲昼春樹座長(左)・三咲夏樹座長(右)(当日舞踊ショーより)


篠原演芸場入り口のお外題札は、「刺青奇偶」。
でも劇団暁かわら版(三咲てつや初代座長が毎日発行している)には、「いれずみ丁半」とあった。
わかりやすく、という配慮だそうな。
長谷川伸さん原作のお芝居で、好きという人によく会うけど、私はどの劇団さんでも見たことがなかった。

一番心に残ったのは、主人公・半太郎のまめまめしい愛妻家っぷり。
「な、行こうか」
とお仲の手を引くときも、ちゃんと目線を合わせて少し下げるのが素敵だ。
半太郎とお仲の場面は、見ているこっちも、当てられたようににやけてしまった。

博打好きが玉に傷とはいえ、現実味がないくらい爽やかで優しい旦那さんなんだけど。
春樹座長は、そこに世慣れた男の風情をうまぁく加味していた。
たとえば、初対面のお仲の命を助けたとき、助けた女から見返りを求めないのかと問われて。
「馬鹿にするんじゃねえ!それで世の中を知ってるつもりか!」
半太郎は穏やかな顔を脱ぎ捨て、烈火のごとく怒る。
「お前さんの知ってるような連中だけが、男だと思うな」
うーん、格好いい。
長谷川伸さんが書いた当初から、半太郎のキャラクターの女性支持って強いんだろうな(笑)

反面、こんなにハッキリ「妻・命!」な主人公は、男性社会の中じゃあ馬鹿にされがちなんじゃなかろうか。
実際、クライマックスでそんな場面がある。

半太郎は、病のお仲の医療費を稼ごうと、自分の命を賭けた博打に出る。
博打の相手は、鮫の政五郎(三咲てつや初代座長)。
周囲を囲むのは、その子分たち(三咲暁人さん、大樹さん)。
「俺の話を、決して笑わないでくださいよ」
そう政五郎と約束して。
「俺は、世の中で、女房のお仲がいっとう好きなんです」
半太郎が吐き出した途端、子分たちはあっさりゲラゲラ笑い出す。

――が、そこで止めてくれる声がある。
「てめぇら何笑ってんだコラ!」
勢いよく怒鳴ったのは、猪太郎という子分の一人。
演じるのは、私がだいぶ贔屓気味の飛竜貴さんだ。

写真・飛竜貴さん(当日個人舞踊「柿の木坂の家」より)


「いれずみ丁半」での飛竜さんは、ちょっと悪ぶった役で、決して出番は多くない。
けど、その中でも細かい芸をしっかり見せてもらった。
「賭場荒らしたぁ、どういう了見だてめぇ!」
自分のセリフが終わった後も、ガラ悪く唾を吐く動作をしてみせたり。
ただ黙って政五郎と半太郎の会話を聞いているときも、話の内容に合わせて不機嫌そうに眉が動いたり。

猪太朗が、半太郎を笑った子分衆を怒鳴るのは、半太郎に同情したとかではなく。
政五郎が「笑わない」と約束した以上、子分である自分たちにも約束を守る責任があるからだ。
(この生真面目な人物造形も、小さな動作の積み重ねがあるからこそちゃんと伝わるのだと思う)

半太郎は、政五郎の温情で博打に勝つ。
政五郎に渡された金を握りしめて、一人むせび泣く。
「これで、お仲、これでお前の病を治してやれる、これでようやく…」
花道に腹ばいになり、拳を打ちつけるように泣く春樹座長、熱演でした。

そして、この直後の演出が衝撃的だった。
左側の花道で、半太郎がまだ喜びと安堵に泣いている、その背後。
閉じられていた幕がサッと取り払われて、半太郎とお仲の家が現れる。
家の土間に、倒れているその人は。
その動かない体は。
……観客の目にだけ、夫婦の運命の暗転が、一枚の絵として映し出される。
隣席の友人も、「あの絵は辛かった」と噛みしめていた。

さて、2013年度の大衆演劇鑑賞はこれで最後。
(明年1月担当の劇団さんを年末ギリギリに観劇予定だけど、それはもう2014年度に入れるとする)
各劇団の皆さま、劇場・センターのスタッフの皆さま、そしてこのブログを読んで下さる方含め、大衆演劇ファンの皆さま。
今年も一年お疲れさまでした!!

次回の記事から4回程度で、2013年度の珠玉の舞台を振り返るつもりです。
年内にちゃんと終わる…はず(汗)

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劇団暁お芝居「母ちゃんて呼んでみたい」

2013.12.15 昼の部@篠原演芸場

飛竜貴さんのお芝居は、良いなぁ。
まだ数本しか見ていないので、わずかな印象で語るしかないけれど。
真摯なのだ。
真剣なのだ。
「十年経てば、人の心も、世の中も、変わるもんだなぁ…」
飛竜さんが舞台に出てきただけで、物語がピンと糸を通されたように脈打つ。

写真・飛竜貴さん(当日個人舞踊「惚れた女が死んだ夜は」より)

個人舞踊の時も、歌詞の物語の奥へ奥へと、入り込んで行くようだ。

お芝居「母ちゃんて呼んでみたい」は、「子役がいいよ!」と評判を聞いていた。
なので入場のときにお外題を見て、おおラッキー!と喜んだ。

お話の主軸は、商家の山城屋に渦巻く継子いじめ。
「なんだい、この米は…?買い直しておいで、買い直して来るまで家には入れないからね」
継母・お浜(三咲さつきさん)は、血の繋がらない娘・お美代(三咲愛羅さん)をこき使っている。
お美代の態度が気に入らなければ、髪の毛をつかんで引きずり回す。
生々しいいじめの場面は、『レ・ミゼラブル』のコゼットとティナルディエ夫人の面影を想起させる。

そして飛竜さんは、山城屋の主人であり、お浜の夫の役。
が、この主人はティナルディエのように、妻と一緒になってかわいそうな娘をいじめるわけにはいかない。
立場はもっと複雑だ。
主人は、お美代の実の父親なのだ。

「お美代、その傷はどうしたんだ!」
だからお美代が顔にひどい火傷を負わされたときには、瞬時に気づいて娘の肩を抱く。
そして、非道をはたらいたお浜に、険しさ極まる眼差しを向ける。

「毎日毎日、山城屋からは子どもの泣き声が聞こえて来ると言われる」
「躾けるのもいい、だがお前のお美代に対する仕打ちはあんまりだ!」
怒りをこめて妻をなじる。
飛竜さんのこわばった表情に、父としての愛情が滲んていた。

だが、お美代を庇えば庇うほど、お浜のいじめはひどくなるのだ。
それがわかっているので、強く出ることもできず。
「頼むから、お美代にもう少し、優しくしてやってくれ…」
結局主人は、無力にそう呟くしかない。

そもそも、なぜこんな事態になったか?
かつては、前妻であり、お美代の実母・お島(三咲夏樹さん)がいた。
だがお島は、罪を被って10年の島流しの刑になった。
残されたのは、主人と幼いお美代二人きり。

飛竜さんが、噛みしめるように過去を述懐する場面がある。
「私は死に物狂いで頑張った、それでも店は傾くばかりだった。なにしろ、この山城屋から縄付きが出たんだ」
そんな折、聞かされた。
お島は流刑先の島で死んだと。
「私は第二の妻を迎えた…」

だが、お浜の人格は最初から疑わしかった。
熱が下がらなくなったお美代に、お浜がどこかから手に入れた薬を飲ませた。
夜が明けると、お美代は口がきけなくなっていた。
「あの薬は一体なんだったんだ――あの薬は一体なんだったんだ!」
飛竜さんが、このセリフを二度繰り返すのが好きだ。
一度目は、ただお浜を糾弾する口調で。
二度目は、恐ろしい悪夢を否定したいという願い混じりで。

主人の10年は、悔恨と諦めの10年。
他にやりようがなく、生きるために良心を押し殺しながら、自らの弱さを見つめさせられ続けた歳月。

刑を終えて戻って来たお島に、主人は遠くを見て呟く。
「10年経てば、人の心も、世の中も変わるものだなぁ…」
彼が諦めたもの、手放さざるを得なかったものの大きさが迫って来る、秀逸なセリフだったと思う。

飛竜さん、あの上手さは一体何者なんだろう。
お芝居でも舞踊でも決して自己主張は強くない、送り出しでもサラッとした丁寧な応対。
それだけに、尚更気になる。

それから、この日の同行者は、大衆演劇初体験の同僚だった。
彼女が何度も言っていたのが、
「子役がめっちゃ可愛い!」
というわけで、このお芝居はやっぱり子役の愛羅さんありきだと思う。
あの可愛さ、哀れさ、尋常じゃない。

写真・三咲愛羅さん(当日舞踊ショーより)


序幕、重いお米を背負って花道から登場する愛羅さんは、もう完全にコゼットの風情。
くるりと客席を振り返った時、その虚ろな表情に驚いた。
悲しい顔や悔しい顔より、空洞のような瞳に、苛まれている子どもの心がリアルに映し出される。

暁さんのところの子役達は、芸達者で可愛いだけじゃなく、愛情をたっぷり注がれて育っている感じがする。
彼らが(全部で7人かな?)舞踊ショーでわらわらと出て来ると、篠原演芸場の空気はなんともぬくい。
お花をもらい忘れて引っ込んでしまう子が、「ちょっと、こっちも、こっちも!もらっていきな!」と声をかけられる光景も何度か目にした。


飛竜さんのお芝居を見に、忙しない師走だけどなんとしても篠原行きの時間を作りたい…。

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劇団暁お芝居「芸者の意気地」

2013.12.1 夜の部@篠原演芸場

篠原初乗りという「劇団暁」さんに、早速初日の夜に会いに行ってみた!
初乗りなので、周囲の観劇仲間からもあんまり情報がなくって。
でも、一度関東のセンターで親切にしてくださった方が、
「暁さんの雰囲気いいよー温かくってねー…」
と言っていたのを信じて。

早めに篠原に着いてびっくり。
役者さんたちが丁寧にお出迎えしていた。
「よかったら、これどうぞ」
と若手さんが配ってくれた栄養ドリンク。
もの柔らかな態度に、心がほどけて嬉しくなった。

さあ、ささ、お芝居。
初めての劇団さん、初めてのテイスト、お外題は「芸者の意気地」。

侍の一馬(三咲大樹さん)と芸者の菊次(三咲夏樹座長)は、二世を誓った恋人同士。
けれど女将(三咲さつきさん)は、一馬を菊次と別れさせようと目論む。
可愛い娘(劇団朱雀ゲスト・小雪玲奈さん)が、「一馬様と一緒になりたいの」とせがむためだ。
そこで女将は、菊次のライバル芸者・仇吉(三咲春樹座長)を手の内に引き入れる。

元々菊次が気に入らなかった仇吉は、ここぞとばかりに菊次を苛め抜く。
「菊ちゃん、あんた最近人気があって調子に乗ってるようだけど…この新橋の仇吉姐さんとじゃ格が違うねえ」
「このべっこうの簪、一体いくらかわかる?あんたの頭には、決して三百両以上の櫛なんて乗ることはないでしょうね」
嫌みたっぷりに、満座の中で菊次に冷や水を浴びせかける。

でも菊次もおとなしく黙ってはいない。
気品のある面差しで、凛と敵意を跳ね返す。
「仇吉姐さん、あんた小便垂れ芸者って呼ばれてるじゃありませんか」
「客の前で踊ろうにも、ろくに踊れないもんだから、『あたしちょっと御不浄に』。三味線弾こうにも、ろくに弾けないもんだから、すぐに『あたしちょっと御不浄に』。だから小便垂れ芸者って世間では言うんですよ」
うひゃあ。きっつい。

この仇吉と菊次の火花散る女の戦いが、このお芝居の眼目だ。
でも、ドロドロした陰鬱な後味はまったくなかった。
というのは、三咲春樹さんが、お芝居をいい具合に崩していたから。

写真・三咲春樹座長(当日ミニショー「竹とんぼ」より)

まだ春樹さんの舞踊を数本しか見ていないけど、見るほど遠くへ霞んでいくような表情が、とても印象に残る。

夏樹さんの様式美の光る菊次役に対して。
春樹さんの仇吉役は、悪役ながら茶目っ気を含む。
ちょっと眠そうに見える、とぼけた目元のお化粧とか。
簪を自慢した後の場面では、頭にごてごてと大量の簪とお花を挿して、しれっと登場したりとか。

花道の上で菊次を睨みつけ、
「もしあんたの頭に三百両以上の簪が乗ることがあったら―そのときは、あたしはこの芸者稼業を辞めまさぁね」
と、目線飛ばして決めた後に。
突如素の喋りに戻って、
「なんで俺が篠原の初日で、こんなんやらなきゃいけねえんだよ!」
と叫び出したときはびっくりした、そして笑った。

心地よく巧みにお芝居を崩していたのが、春樹さんだとすると、
夏樹座長や他の役者さん方は、お芝居をきっちり紡ぐ側。
中でも私の琴線に触れたのは、飛竜貴さんという方だった。

写真・飛竜貴さん(当日舞踊ショー「さすらい」より)


飛竜さんが演じていたのは、菊次を助ける商人・幸吉の役。
幸吉は三年前、大事な掛取りのお金を失くして自殺しようとしていた。
通りかかった菊次に気風よくお金を恵んでもらい、命を助けられた。

「ご恩は決して、忘れることはありません…!」
幸吉の食い入るように開かれた目、芯の通った声。
祈るように、空に手を合わせる姿の真摯さ。
この場面には、劇中最も惹きつけられたかもしれない。

以来、菊次が仇吉にいじめられるたびに、幸吉が助けに現れる。
「どうぞ、この簪を受け取ってやってください」
神様にでも仕えるかのように、恩ある芸者に心尽くしの品やお金を差し出す。
幸吉が登場するたび、恩返しのために身を砕く、心の濁りのなさが舞台を清めるようだった。

そして、暁さんを初めて観て、最も強く思ったこと。
みんな、お顔が優しい!
中には血縁じゃない方もいらっしゃると聞くのに、なぜか皆さん共通して、お顔にはんなりした優しさが漂っている。
そんな劇団暁の舞台には、私が大衆演劇に探している深情けと故郷恋しの思いが、重なる部分も多くて。

「やっぱり大衆演劇は、人情と郷愁だよね…!」
「ただ華やかなカッコいい舞台もいいけど、また来たくなるって言ったら温かい舞台だよね…」
同行した友人と、隣席でにんまり確認しあった。

うん、やっぱり大衆演劇は、人情と郷愁!

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影に燃ゆる陽炎――美影愛さん②――

前回に引き続き、劇団KAZUMAの舞台をひりっと締めて九州に帰って行かれた大ベテラン、美影愛さんの話をします。

「早すぎた天才なんだよ、あの人は」
最近、何十年も大衆演劇の変遷にずっと寄り添ってきた、目利きの方と話す機会に恵まれた。
美影さんについて、そんな言葉がまず出てきた。

前回も引用させていただいた、橋本正樹さんの「あっぱれ役者街道」。
美影さんが、1960~70年代の九州で、里見剣次郎として人気を集めていた頃のエピソードがある。
“真っ赤な鬘で、芝居に登場したのだ。はじめてかぶった熊本県の二本木温泉センターでは、観客は赤い鬘にびっくり仰天し、しばらくどよめきが鎮まらなかったそうだ。”
(『演劇グラフ』2012年5月号 第33回「あっぱれ役者街道」より)

それまで大衆演劇の世界には、黒髪と老け役の白髪の鬘しかなかったらしい。
人間の頭は黒か白、と当たり前のように思っていたお客さんの目に、燃える赤はどんなに鮮烈に映ったろう。
もし、私がその時代の客席にいたら…。
やっぱりまず驚いて、目を見張って。
でも次の瞬間には、あらまー綺麗な色!なんて言いながら、新鮮な舞台景色にワクワクしているんだろう。

ちなみに美影さんは、東京でも幾度も公演されているそう。
木馬館すぐ裏の「すずや」という老舗の舞台用具屋さんで、刀や小物を注文されたという。

木馬館という私の身辺に、そんな歴史がひそんでいたことが嬉しくなってしまって。
12/1(日)に浅草に行った折り、「すずや」さんを訪れてみた。

写真・「すずや」さん入り口(お店の方の許可を得て掲載しています)


残念ながらご主人が不在で、あまり詳しいお話は伺えなかったけれど…
奥様が、「美影先生は東京に来たときは必ず寄ってくれる」とにこやかに話してくださった。

「すずや」さんを出て浅草駅へ向かおうとすると、いつもの木馬館が私を見下ろしていた。
もうすぐリニューアル予定の二階建ては、大衆演劇場になってから37年分の歴史を飲みこんで、冬の冷気の中に息を吐いていた。

日々――文字通り毎日、毎時間(日替わりだし昼夜お外題入れ替えだし)。
凄まじいスピードで、変化し続ける大衆演劇の世界。
新しいお芝居にショーに、無数の役者さんが取り組んでいらっしゃる。
その歴史の中には、早すぎた人々がいたのだろう。
その激流の中には、研がれすぎた感覚が、先に先に走りすぎた人もいたのだろう。

40年以上前、観衆の度肝を抜いた真っ赤な鬘!
その衝撃は、すっかり当たり前のように現在の大衆演劇に根ざしている。
木馬や篠原の舞台に、黒や白髪の鬘しかないなんて考えられない。
燃える赤、ジューシーな橙色、きらきらしいお姫様みたいな金髪が妖しく舞ってこその夢舞台だと、現代しか知らない我が身は思う。

先日も、緑色の鬘でリズミカルに踊る若い役者さんに手拍子をしながら。
その向こうに、若き座長・里見剣次郎と、観客席のどよめきを思い描いていた。

驚きを掠めかわして、残るものがある。
客席の喝采の中に、残すものがある。

私が愛する劇団KAZUMAのお芝居に残された、水面を打つような緊張感も、そのうちの一つに違いないのだ。
「敵役の美影先生が改心する場面で、先生に引っ張られるように舞台でボロボロっと涙が出た」と、自ら感動するように話していた藤美一馬座長を思い出す。

無数の足跡を残されて、そして、今。
私の無知な、よく言えばまっさらな目には。
なお一粒の熱さが見えるような気がする。

すぎもとまさとの名曲「吾亦紅」。
10月に見た美影さんの個人舞踊の中で、ほのかな情熱に感動した一曲だ。

写真・美影愛さん(10/9個人舞踊「吾亦紅」より)


――マッチを擦れば おろしが吹いて――
その目はどこを覗きこむのだろう。
――さらさら揺れる 吾亦紅――
その耳はいつの時代の風を聞くのだろう。

九州、関西、関東…津々浦々回られた。
青年座長・里見剣次郎として、「座・梁山泊」座長として、「まな美座」座長として。
無数のライトを、無数の歓声を、記憶の中に静かに見つめて。
今。
物語られる、今。

――あなたに あなたに謝りたくて――
――あなたの あなたの形見のことば――
目の前の、今日の舞台で紡がれる、お芝居のような舞踊。
踊っているとき、芯の強い女性だったというお母様のことを、思い出されていたそう。

つかみどころのない陽炎は、あえかな舞の形を残しながら、舞台に淡い言葉を残しながら、ゆらゆら伸縮して沈む。
その中に、ハッと瞬時に燃え上がる情。

舞は続いている。
言葉は続いている。
「鬼十郎、お前の言う約束っていうのは、お前の信じる神様との約束かい、それとも俺との約束かい」
(「三つの魂」のおやじさん役 2013.10.14昼の部@篠原演芸場)

今、物語は続いている。

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影に燃ゆる陽炎――美影愛さん①――

細く、淡く、霞む。
陽炎のように、生まれたばかりの言葉たちが、ほろほろと立ち昇る。

「二代目はなぁ、小さな炎だ。息をかけりゃあ大きくもなる、強く吹きゃあ消えちまう」
(「男の人生」の鉄五郎役 2013.10.20昼の部@篠原演芸場)

セリフは事前に固めているのではなく、お芝居の中でふっと浮かぶのだそうだ。
一緒に演じていた役者さんいわく、「何をおっしゃるかわからない…」
だからその一つ一つは、ともすれば消え入りそう。

「ゆらゆら揺れている炎だ、それを消しちゃならない」

影の中から言葉が零れて、また影の中に隠れる。
年を重ねてもなお背筋の伸びた、長い影の中に。

写真・青年時代の美影愛さん(この頃は里見剣次郎というお名前)


9-10月の怒濤の劇団KAZUMA鑑賞の日々。
そこにゲストとしていらしていた、美影愛さん。
じゅっと舞台に滲むような演技がすごい!
セリフのストックがすごい!
とこのブログでも色々書いてきた(例・「三代の杯」「兄弟仁義 男たちの祭り」)。

拙文でも書いてみるもの。
これをきっかけに縁を得て、ありがたいことに美影さんについて貴重な資料を送っていただいた。
上にあげたお写真もいただいた資料の一つ。
さらに、私が敬愛する橋本正樹さんの連載「あっぱれ役者街道」の、美影さんの回があった。
橋本さんのインタビューを受けて、美影さんはこう語っている。

“たとえば、道端に座りこんでいる年老いた乞食に、小判をポンとほおり投げて、見得をきって花道をはいるのもカッコいい。けど、僕はそんなとき、乞食の目線にあわせ、「なにかの、お役にたてなせぇ」とやさしく言いながら、すうっと小判をすべりこませます。”
(『演劇グラフ』2012年5月号 第33回「あっぱれ役者街道」より)

声を張るヤマ上げではなくて。
美影さんの演技は、セリフは、しんしんと舞台に降る。

たとえば、狭い土地で争いの絶えない二つの一家を指して。
「猫の額で唯我独尊」
たとえば、亡くなった知己を噛みしめるように悼んで。
「三途の川を千鳥足」

けれど、降り積もることはない。
言葉たちは執拗に繰り返されることなく、主張することなく。
気づけば芝居の間の中に、消え入ってしまうのだ。

“もう一度今の大見得のところをくりかえしてくれといっても「はて、なんといったかなぁ」と座長は首をかしげてしまう。”
(『朝日グラフ』昭和45年6月5月号 木下氏「大見得にかける生きがい(九州の旅役者)」)

瑞々しい青年座長だった頃も、そんな風に仰ったらしい。
43年前の「朝日グラフ」は、“里見剣次郎”という名前だった頃の美影さんを取材している。

それは、役を演じるのではなく、役の中に入り込むというスタイルのせいなのかもしれない。
26歳の里見剣次郎座長は、同誌でこう語っている。
“舞台にでると泣くときは本当に泣いちまうんだ。するとそれはお客にも通じてお客もふわーっとくるんだな”
68歳の美影愛さんは、先述の「あっぱれ役者街道」ではこう語っている。
“里見剣次郎、美影愛が、役を演じるのではない。ひたすら役になりきるんです。”

そしてつい三カ月前、劇団KAZUMAの木馬館初日「若き日の石松」で。
初めて美影さんの演技を見た私は、こう感想を書いている。

<無鉄砲な息子に対する、慈しみの深さが胸に残る>。
<それに、まるでお茶飲み話をしているような伸びやかな語り口>

わかりやすい、大げさな表情や動作を排して。
かの役者さんは役の中に沈み込む。
その芸の在り方は、歳月の経過の前にも不変。
淡々とした言葉の連なりの向こうに、独特の鷹揚な空気がふと香るのだ。

そして、資料を送っていただいて、もう一つ新たに知ったことがある。
私が普段見慣れている、カラフルな鬘。
気品のある紫や、エネルギッシュで爽やかな若手さんの青や、ピンクの可愛い女形。
あのカラフルな鬘を最初にこの世界に持ち込んだのは、美影さんなのだそうだ!
長くなったので次回に続く。

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