剣戟はる駒座お芝居「はぐれ鴉」

2013.4.14昼の部@篠原演芸場

日曜日、前日土曜の昼夜鑑賞に続けての十条行きだったので、まさにはる駒座漬けの週末を過ごせました。
そして行くたびにぎっしりと満席感の増す篠原演芸場。
ただでさえ魅了される役者さんたちだけれども。
一杯の観客席の前では特に、その輝きはとんでもなく眩しい!

「はぐれ鴉」、鴉と付くからにはヤクザのお話。

津川竜座長演じる主人公の渡り鳥(役名を失念してしまった…)は、数年ぶりに故郷の街に戻って来た。
かつての弟分・新吉(不動倭さん)に再会するも、新吉は盲目になっていた。
「この目を治すにはな、百両要るっていうんだ」
「心配するな、今は百両ないが、必ず俺が治してやる」
そう約束し、兄弟分の絆が戻ったのも束の間。

「奴がいないなら、弟分を連れてくまでだ」
主人公を目障りに思う敵の組が、草鞋を脱いでいる食客(勝小虎さん)に依頼して、新吉を連れ去る。
新吉の面倒を見ている娘・おさと(晃大洋さん)と一緒に、必死に駆けつけるも時遅し。
哀れ、新吉は斬られた後だった。
主人公は悲しみこらえ、弟分の敵討ちに挑む。

鮮やかな水彩画のごとく。
各々のキャラクターの異なる色が、舞台にこんなに滲むとは。
「兄貴に、おさとちゃんと仲良くしてほしいんだよ」
倭さん演じる盲目の新吉は、その喋り口に気の優しさが滲んで、心に哀れだったり。
「俺はお前に負けたんだ…好きに殺せ」
小虎さん演じる食客は、敵役ながら透明な清水のような潔さだったり。

でも最も強烈な色彩を残していったのは、なんと言っても洋さん演じる「おさとちゃん」ですよ!

写真・晃大洋さん(4/14舞踊ショーより)


このお芝居の一番の見せ場は、終盤の派手な立ち回りではなく。
初対面の主人公とおさとちゃんの喧嘩シーンだと思う。

おさとちゃんは、兄貴分がいなくなってからずっと、盲目の新吉の身の回りの世話をしてきた。
新吉を数年も放ったらかしにしていた主人公への態度は、そりゃあ冷たい。
「あんたがいない間、あたしがねぇ、ずーっと新さんの面倒見てきたのよ!」
「新さん見捨てといて、今さら何なんだ?何が兄貴だ?ああ?」
百戦錬磨の渡り鳥も、たじたじとしてしまうほどの迫力。
でも大好きな新吉の前では別人だ。
「新さん、怖かった~」
「何なの、あの人~」
声音が変わる口調も変わる、ああ乙女だなぁ。

主人公も負けずと反撃はする。
「新吉お前、見えてないからわからねぇだろうけどな、ロクな女じゃねぇぞこいつは」
おさとちゃんをあの手この手で家の外に追い出すんだけども。
「何するんだよ!」
おさとちゃんは、戸ごと力任せに押して押して押して…
ガコッとついに戸が取れてしまい、勝者はおさとちゃん!
(しかし、戸を挟んで押し合う竜座長・洋さん御夫婦の光景は実におかしかった)

「女はなぁ、強くなきゃあ生きていけねぇんだよ!」
このセリフには会場の女性陣から大拍手が!
お芝居の中のキャラクターへの拍手なのか、それとも洋さんという役者さんへの共感なのか。
何にしろ私も、もちろん思い切り手を打ち合わせておりました。

でも、冷静に考えれば。
盲目の赤の他人の面倒を何年も見るっていうのは、並大抵のことじゃあない。
おさとちゃんの登場シーンは、新吉の部屋を掃除する姿だ。
かいがいしく、パタパタと障子にはたきをかける後ろ姿。
その可愛さ、健気さ。
「新さん、お帰りなさい!」
強さ逞しさ、その一方で新吉に注ぐ愛情深さ。

だから最後、おさとちゃんの退場の場面では悲痛な思いに胸を絞られた。
大事な新吉の命が、あえなく奪われたと聞かされた瞬間。
洋さんの大きな瞳がぶるぶる震え、かぶりが振られる。
「新さんが…嘘でしょ、新さんー!」
そして新吉の亡骸へ向かって、ふらふらと舞台袖に消える。

この日席を並べた友人は、観劇後に「おさとちゃん役の女優さんが良かった」としきり。
はる駒座のお芝居の垢抜けた風合いは、普段大衆演劇を観ない彼女からも笑いと感動をしっかり引き出したようで。
大衆演劇の素晴らしさを同世代の友人に知ってもらえると、もう私はそれだけで嬉しくなってしまう。

卯月の十条の昼と夜、舞台を染める色彩は無限の組み合わせ。
まだまだ観足りない、味わい足りない。
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剣戟はる駒座お芝居「慌て烏の子守唄」

2013.4.13夜の部@篠原演芸場

書きたい記事は溜まっているのに、嗚呼日々降り注ぐお仕事お仕事…
でも、今のはる駒座のきらめきは今書き残しておかないと。

「慌て烏の子守唄」は、慌て者の代貸し・安さん(津川竜座長)のお話。

写真・津川竜座長(4/13舞踊ショーより)


安さんの音が詰まったような喋り方が実にユーモラス!
旅の道中、雨に降られて飛び込んだうどん屋で、注文に一つにも四苦八苦。
「は、は、は…」
「は…?」
注文を聞きとる女将(千晃ららさん)も戸惑い気味だ。
「はん、ぶ、ん」
安さんは目を白黒させ、手ぶり交えて一生懸命。
しばらく時がかかってから、ようやく女将さんも理解する。
「つゆも半分、麺も半分、だから十六文のうどんを八文で半分くれと…ああ、いいですよ」
嬉々として倹約したうどんにありつく安さん。
本物のうどんを啜る、竜座長のにんまりした笑顔が可愛い場面(しかしはる駒座は舞台上で本当に物を食べる芝居が多いなぁ)。

ところが思わぬ事態が起きる。
うどん屋の旦那さん(不動倭さん)は、元々ヤクザの大五郎一家の若衆だった。
足を洗ったはずの悪縁に巻き込まれ、旦那さんも女将さんも大五郎(勝龍治さん)率いる一家に殺されてしまう。

息絶える直前、女将さんは安さんに必死に取りすがる。
「主人は死にました、そして私ももう死にます、お客さんしかお願いできる人がいないのです」
血に染まったうどん屋に、おぎゃあと響く泣き声。
託されたのは、まさかまだ赤ん坊の男の子!

「私の妹が、女ながらヤクザをしております。名は稲妻のおしん。妹にこの子を預けてほしいのです」
「妹が今どこにいるか…それはわかりません」

たまたま八文で半分のうどんを食べていたばっかりに。
一体日本のどこにいるかわからないという、雲をつかむような人を目指して。
安さんは赤ん坊を背負い、でんでん太鼓を振りながら旅をするはめになったのだ。

幕が閉じて再び開けば、物語は転調。
焦点は安さんの所属する白木屋一家へ移る。

白木屋一家の親分は既に亡くなっており、ドンは女将さん(晃大洋さん)。
肝のすわった女将さんは、大五郎一家のイカサマ博打を咎めて追われていた稲妻のおしん(津川鶫汀さん)を庇う。
それがきっかけで女将さんまでも大五郎に斬られる。
一家に帰って来た安さんは弔い合戦に出向き、そこからはシリアスな剣劇モードへ!

…なのだけど。
「ドス、は、駄目。こいつ、か、刀は、嫌がる」
安さんの言葉を懸命に拾うような喋り方。
旅姿の上からぐるぐる巻きつけられたおんぶ紐。
そして赤ん坊は背中でほんぎゃあ。

そんなパーツがいい具合に緩みを与えてくれて。
一切殺伐とした空気にならないのだな。

この後半は、私がはる駒座のお芝居の中でも特に好きな見所が、きらきらしく散りばめられていた。
最初にはる駒座に惚れこんだきっかけ・龍治さんの親分役、
ぐいぐい惹きつけられてやまない小虎さんの悪役(大五郎一家の若衆)、
年齢不詳の艶やかな紅・鶫汀さんの女形芝居、
などなど。
なので観劇中、楽しくて仕方なかったのだけれど。

一段と輝いていたキャラクターを一人挙げると、白木屋一家のお嬢さん(叶夕晏さん)でした。

写真・叶夕晏さん(4/13舞踊ショーより)


お嬢さんは一家の三下・政吉(津川隼さん)と恋仲。
「ねえ、あたしたちのこと、いつおっかさんに話してくれるのよ?」
「いずれ話すいずれ話すって、そんなの待ってたらあたしおばあちゃんになっちゃうわ」
箱入り娘っぽく、我がままで気が強くって自分の気持ちに正直。
母親である女将さんにも、
「お前みたいな気の強い女を好きになってくれる、物好きが近くにいて良かったね…」
と呆れたように言われるほど。
焼きもち焼きで、隼さん演じる政吉が稲妻のおしんの手を取ろうものなら、
「イヤー!!」
と甲高く悲鳴を上げる。
フンっと拗ねた表情丸出しでおしんを見つめ、
「政吉は行かないで!あたしが案内するわ」

晏さんのキャンキャンした演技の可愛いこと可愛いこと。
私はボンボン・お嬢さんキャラというか、<大事に育てられたがゆえ世間知らずで我がまま、でも根は素直>みたいなキャラクターに目がないのです。
篠原演芸場の座椅子の上で悶えつつ、幕間では隣の観劇仲間と「お嬢さん可愛い!お嬢さん!」とほくほくしてました。

はる駒座はいつも大役を張る役者さんもそうでない役者さんも、
皆上手くて、皆にほうっと目を見張ってしまう。

剣戟はる駒座お芝居「桐の木」

2013.4.13 昼の部@篠原演芸場

<桐の木 桐の木 大きゅなれ
 大きくなったら はっちゃんの…>

いとけない歌声が、幕の向こう側からころんと転がって来る。
捨て子だったお初、通称はっちゃん(千晃丸子さん)。
歳は9つ。

一人の捨て子を巡る物語「桐の木」は、他の劇団さんでも観たことがあった。
子役のあどけなさ、愛らしさが光るお芝居だと、これまで思っていた。

丸子さんはそりゃあ愛らしかったけれど(お顔はもちろん、声が可愛いのだ声が!)。
お芝居の骨格になっていたのは、はっちゃんを巡る大人たちの意志のぶつかり合いだと見えた。
はっちゃんの将来を思うが故に、大の大人同士が怒り、泣き、互いの感情を吐露しあう。
そんな「大人の喧嘩」(この題の洋画がありましたね)に着目して観ていた今回。

第1の喧嘩: 小平(津川竜座長)と寅やん(不動倭さん)

写真・津川竜座長(4/13舞踊ショーより)


写真・不動倭さん(4/13舞踊ショーより)


小平「お前な、言うたらいかんで。捨てられとった子やて、近所の連中に絶対言うたらいかんで!」
寅やん「わかっとるけど、ついぽろりと…」

寒さ厳しい冬の夜。
家の前に捨てられていた赤ん坊を、育てることに決めた小平とお吉(晃大洋さん)の夫婦。

そもそも赤ん坊を見つけて夫婦を呼んだのは、小平の友人・寅やんだった。
寅やんは気のいい男だが、博打好きが祟って素寒貧…。
ついでに悪気はないが、口が軽いのが心配所。
「誰もこの子が私らの実の子やないなんて知らん。――ただ、一人を除いてはな」
お吉は寅やんに厳しい目を向け、寅やんはバツが悪そうに目を瞬かせる。

ため息一つ、小平が世話の焼ける友人のために懐から取り出したのは。
じゃらりじゃらり、金子の音。
「お前もなぁ、これを機に真面目に働け。博打はやめい」

小平の友情に感動する寅やん。
「わかったわ。わし、博打、やめるわ。博打は明日で最後にする!」
「なんで明日やるんや!今日で終わりやろ!」

ちょっと博打の誘惑に弱いものの、心にぽっと情け深さが灯っている寅やんは、倭さんが演じると実に自然。
一方で、クールで面倒見のいい小平は、竜座長が演じると実にしなやか。
この2人の友情は、「桐の木」全体の大きなキーになる。

第2の喧嘩: 小平とお吉

写真・晃大洋さん(4/13舞踊ショーより)


小平「あのお殿様、泣いとったんや。子供に会いたい、抱きしめてやりたい、それが親やろ」
お吉「私は絶対嫌や。たとえあんたと別れても、はっちゃんと離れるのは嫌や!」

9年の月日が経ち、賢く素直な子に成長したはっちゃん。
だが、はっちゃんを可愛がる小平の着物は、薄汚れて穴が開いている。
わりかし裕福だった小平の家は大きく傾いていたのだ。

「なんで、米の相場になんか手ぇ出したんや」
尋ねる寅やんに、小平は俯いて答える。
「――はっちゃんのため」

愛娘に良い暮らしをさせようと、無理をして田畑を担保にしたのがいけなかった。
あっという間に大損、暮らしはきつくなる一方だった。

そんな折、土地の旗本から出されたお触れから、思わぬ真実に行き当たる。
9年前、旗本の当主・中村新十郎(勝小虎さん)は家から勘当されていた。
恋人のお美沙(宝華弥寿さん)との間の赤ん坊も、貧困ゆえに育てる余裕がなく、捨てざるを得なかった。
だが新十郎が旗本を継ぐことになったため、その赤ん坊を探しているという。

はっちゃんは旗本の令嬢だったのだ!
慌てふためく小平とお吉夫婦の下へも、新十郎が視察にやってくる。

「この子は、歳は7つです、7つになります」
小平は必死に誤魔化し、娘を取り上げられまいとする。
だが、迷いもあった。
このまま自分が育てても、貧乏に苦労するばかり。
それより、旗本のお嬢様として良い暮らしをさせてやったほうが、はっちゃんのためなのではないか?

そんな小平の心を、徹底的に突き動かしたのは。
「勝手はわかっている。しかし、どうしても我が子に会って親子の名乗りがしたい。この手で抱きしめてやりたいのだ…」
新十郎の涙だった。

「こんな貧乏人の前で、あんな偉い人が涙流して…」
小平は、はっちゃんを新十郎に差し出す決意をする。

だが大反対したのが妻のお吉だ。
事態が分からず、きょとんとするはっちゃんを抱き寄せて叫ぶ。
「なんでや。9年育てたのは私らや、勝手に捨てといて!なんで今さらはっちゃんを取り上げられないかんの!」
「この子と離れるのは嫌や、嫌や!」
この場面の洋さんは体を震わせて、振り絞るように涙を流して。
慟哭のような声が、観客席に響き渡っていた。

だが、小平は断腸の思いで、寅やんに頼む。
「旗本屋敷へ行ってくれ。名乗り出て来てくれ!」
お吉は必死に取りすがる。
小平は自らの心を噛みつぶすように目を閉じている。
そして寅やんは、泣きそうな顔で(倭さんに泣きそうな顔されると観ているこちらの涙線も緩む)――旗本屋敷へ駆けて行った…。

第3の喧嘩: 小平・お吉夫婦と新十郎・お美沙夫婦

写真・勝小虎さん(4/13舞踊ショーより)


写真・宝華弥寿さん(4/13舞踊ショーより)


小平「梅雨はおむつがどうしても乾かなくて、暑い中火鉢を出して。一枚一枚、夫婦でおむつを火鉢の上にかざして、汗まみれになりながら乾かすんです」
新十郎「今まで、本当に苦労だった、すまなかった。この通りだ」
旗本当主の夫婦は、深々と頭を下げる。

この3つ目の喧嘩は、今までの2つとは違うかもしれない。
喧嘩と言うには、あまりに片一方に分がありすぎる。
愛娘を「返し」に来た小平とお吉が、新十郎とお美沙を前に語る、9年間の歳月に詰まりに詰まった子育ての苦労。
その愛情の深さ。

お吉は、はっちゃんが2歳になる前に高熱を出したことを、まるで昨日のことのように話す。
「はっちゃんが死んだら私も死ぬって思って。どうかはっちゃんを助けてください、助けてくださいって夜通し夫婦で祈ったんです」
小平は、かぶりを振りながら吐き出す。
「9年、9年…そりゃあ、苦労なんて一言じゃあ表せません」
「でも、はっちゃんのためやったら、苦労だなんて思ったことは一度もないです」

旗本夫婦は、ただ聞くしかない。
彼らは血の繋がったはっちゃんとの間に、空白の時間しかないのだから。

この場面は、舞台に溢れる感情の量が、あまりにも圧倒的で。
完全に小平・お吉夫婦に感情移入させる作りだった。
新十郎の「私の子はどこに?」というセリフが、観ていて胸に引っかかるくらい。
殿様の子じゃない、はっちゃんは小平とお吉の子だ!と、潤んだ視界の向こうに反論してしまうくらい。

そしてはっちゃんだって、今まで育ててくれた二親と離れるのは嫌に決まっている。
「はっちゃんは、きれいな着物なんか欲しくない。美味しい食べ物なんかいらない。お父ちゃんとお母ちゃんと一緒にいたい」
丸子さんが泣きながら訴える、声の健気さと言ったら!

けれど、小平が娘を無理にでも旗本の下へ行かせようとしたばっかりに。
衝撃の底に突き落とされるラストが待っていた(他の劇団さんで観た時はなかった)。

未見の方のために、詳しくは書かないけれど。
記しておけるのは、観終わった後しばらく立てず、両隣の観劇仲間と、
「あんまりだ…」
「そんなのあんまりだ…」
と、涙で赤くなった顔を見合わせたこと。
それから観劇後のカフェのテーブルでも、チョコレートをかじりながら、話題は「桐の木」に終始したこと。

大人の喧嘩。
ぶつかる心と心は、一人の少女に寄せられた各々の愛情が、深いゆえに、濃いゆえに。
悲劇の幕が閉じる直前、舞台の上の大人たちを少女の声が包み込む。

<桐の木 桐の木 大きゅなれ
 大きくなったら はっちゃんの…>

剣戟はる駒座お芝居「一六三八 駕籠屋仁義」

2013.4.9 夜の部@篠原演芸場

貼り出してあった「9日(火) 女形大会」の文字に引き寄せられて、平日の退勤後に駆けつけた篠原演芸場。
3部・舞踊ショーは、期待以上に豪華絢爛絵巻のごとく、すっかり見惚れた。
その一方で、この夜の2部・お芝居は、ショーとのギャップ甚だしい三枚目喜劇!
竜座長・小虎さん・倭さん。
この御三方の演技の熟達っぷりを、とことん腹の底まで味わいました。

写真・津川竜座長(4/9舞踊ショー 女形大会より)
粋という言葉を生身に映し出すようだ。


写真・勝小虎さん
立ち役と印象が最も変わり、ほろりと柔和に溶けるような女形でした。


写真・不動倭さん
童女のような健気さが覗くから、倭さんの女形は不思議。


さて、いつも通りお芝居について綴ります。
駕籠屋の親方(不動倭さん)の家に、2件の泊まり客がある。
一人は、恩あるかつての奉公先の息子・清三郎(津川隼さん)。
いま一人は、父の仇討ちを志す旅人・新十郎(津川鶫汀さん)。
新十郎は怒りをこめて素性を語る。
「私の父は、役人の汚職を咎めたところ、その役人に逆恨みされて斬られたのです」
だが、親方は恐ろしい事実に気づいてしまう。
その役人、つまり新十郎の仇討ちの相手こそ、清三郎なのだということに…。

「大恩人の旦那様のせがれは、裏切れねぇなあ…」
散々悩んだ挙句、結局親方が選んだのは昔の恩。
新十郎に勧めた酒に、薬を盛って眠らせる。
あとは山の上で待ち受ける清三郎が、ばっさりと新十郎を斬ればいいだけだ。

このお芝居はここからが本題!
眠ってしまった新十郎を、誰が、どうやって、清三郎のもとまで運ぶか?
「今日はウチの駕籠屋は休み…残ってるのは一六・三八の阿保コンビだけか」
親方が不安げに、それでも「おおい、仕事だ!」と呼べば。
満を持してようやく登場、駕籠屋の兄弟分、タイトルロールの一六・三八(津川竜座長・勝小虎さん)。

悔やまれるのは、主人公コンビのうち、どっちが一六でどっちが三八なのか最後まで正確にわからなかったこと…(互いに兄弟としか呼ばないんだもの)
とりあえず仮に竜座長の役を一六、小虎さんの役を三八としておこう。

親方には「阿呆コンビ」でまとめられていたけど、一六と三八それぞれのキャラクターは、しっかり異なる色合いで立っている。

まず一六はちゃきちゃきとよく回る口、すばしっこそうな瞳。
親方から命じられた新十郎を運ぶ仕事にも、
「行くのやだよ、だって今日休みだもん」
「月にたった一度しかない休みに、なんで働かなきゃいけないの。休みの日くらい好きなように寝てたいの」
と、あっさり子供のように文句を垂れる。
褒美として金一両・もう一日の休みを提案されれば目を光らせて、
「一両くれて、一両とは別にお休みもあるんだよね?」
と念押し。
竜座長のコミカルな面が前面に出ていた。

一方、三八はあまり喋らず、瞳がとろんとどこか眠たげなキャラクター。
「お前はなんか喋れ!」
と苛立った親方に怒鳴られて、とろぉんと半笑い。
小虎さんの精悍な顔立ちに、この表情がふいとハマるのが不思議です。
すばしっこそうな一六・のんびり飄々とした三八の「空気感の差」、こういうのがサラッと舞台に差し出されるところが凄いと思う。

それでもって駕籠屋コンビは、眠らされて転がされた新十郎を見て、重大なことを思い出す。
「なぁ兄弟、このお方は、3年前俺達がスリやってた頃…」
「そんなことはやめろ、真面目に働くのが人の道だと説教してくださった上、ポンとお金まで下さった、あの旅のお方だ」
「大恩人じゃねえか!」
「今こそ恩返しのとき!」

そこで2人が思いついたのは。
「眠り薬の効き目が切れるまで、できるだけゆっくり、ゆーっくり準備してやろう」

最大の見どころは、出発を引き延ばす一六・三八コンビと、急く親方の掛け合い。
一六が茶目っ気込めて言う。
「この人を運ぶって言っても、このまま担いでいったんじゃあ、人に見られたら疑われちまう。必要でしょ、身支度」
そして一六は、奥の部屋から「順番に」「一つずつ」(もちろん草履、足袋は片方ずつだ笑)道具を持って来る。
「なんでいっぺんに持ってこないんだよ!」
親方の怒鳴り声もなんのその。
ようやく全ての道具を持って来た、と思ったところで。
「じゃ、次は俺が行ってきます」
と呑気に立ち上がる三八にずっこける親方。
「一緒に行け、一緒に!」
ですよね。

と思えば、
「この仕事もなぁ、いつまでも続けらんないよな。若いうちはいいけど、年取るだろ。体がきつくなるだろ」
「俺、将来は駕籠屋を辞めて、あれやるんだ。魚屋」
「いや、食べ物は難しい。俺はあれだ。傘屋」
すっとぼけた風に、今の状況と全然関係ない話を始める2人。
親方もついつい乗せられる。
「あのなぁ、お前たち、簡単に辞めるとか言うな。職を変えるっていうのは大変なことなんだぞ。俺はかつて奉公していて…」
と、ひとしきり昔話。
「親方、苦労したんですねぇ」
とヨイショする一六・三八。
乗せられまくった親方は、気持ちよく得意の歌まで歌わされてから。
「違う!ちっがーう!なんで俺が歌わなきゃいけないの!」
ですよね。
(しかしこのお芝居の倭さんはよく叫んでいた笑)

竜座長・小虎さん・倭さん、舞台の上を飛び交う、御三方の言葉のテンポの良さといったら!
セリフの洪水は舞台をうねって走って、観客席の私の耳までするすると心地よく流れこむ。
その流れに身を巻き取られるように、声に出して笑っておりました。

たっぷり笑えば、仕事の疲れも吹き飛ぶもの。
だから退勤後に篠原演芸場にまた行ける日はないかと、ついスケジュールと睨めっこしてしまうのだなぁ。

剣戟はる駒座お芝居「八幡祭 江戸の朱月」②津川竜座長の新助役

2013.4.7夜の部@篠原演芸場

“新助さん”
芸妓のために田畑を売った、哀れな名前。
“新助さん”
包丁を玩具のように振り回す、怖い怖い名前。
幕が降りた後、耳の奥にまだ残っているのは、美代吉が新助を呼ぶ声だ。
鶫汀さんの女形特有の、歌うような高音。

それから脳裏に蘇る、”新助さん”の崩れた般若顔。

写真・津川竜座長(4/7舞踊ショーより)

こんなに美麗な竜座長の、恐ろしい表情を観たものです…

縮屋の新助は、越後から江戸へ行商に来ている。
真面目で清廉潔白、八幡祭にいくら誘われても、
「故郷の母が私の帰りを今か今かと待っておりますので、私は祭を待たずに帰ります」

でも、行商中の家の窓の外を、通りかかる小舟がある。
船の中から、艶やかに笑いかける紅色がある。
「ねえ新助さん、きっとあたしを訪ねておくれよ」
「明日の祭、あたしも出るんだよ。見てくれないのかい?」
美代吉の色香にころりと当てられたのが、新助の運の尽きだった。

胸ときめかせ、いそいそと美代吉の家を訪ねる。
けれど、焦がれる芸妓は失望の表情をしていた。
「百両…百両の借金が返せないと、あたしは祭に出られないんだよ。美代吉姐さんもこれで終わりさ」
好きな人が打ちひしがれているのを目にして。
新助は、緊張に震えながらも、口に出してしまった。
思いきった未来に手をかけてしまった。

「私が、私がその百両を払うことができたら」
「美代吉姐さんと一緒に暮らしてもいいですか」
「故郷の母をここに呼んでもいいですか」

観ていて胸がきりきりしていた。
観客側にははっきり見て取れるように、鶫汀さんが演じていたからだ。
美代吉の顔に浮かぶ、欺瞞の色。
「ああ…いいよ。もちろんじゃないか」
快諾の声に滲む、明白な裏切りの色。
「本当ですか!ああ…よかった。約束ですよ」
冷たい舞台の上で、竜座長演じる新助一人が道化だ。

それから新助は、百両をかき集めに外に出て。
金策の果て、袖に小判をざらざら詰め込んで、美代吉の下に戻って来たときには、すっかり事態は変わっていた。

「もうそのお金はねぇ、要らないんだよ」

新助が金策に出ている間に、贔屓の若旦那が百両を届けさせたのだ。
新助の汗にまみれた百両は、不要になってしまった。
「一両も使ってないんだからいいだろ。お金、持って帰っとくれ」
さすがにバツが悪いのか、目を合わせずに言い捨てる美代吉。

でも、新助は。

――「帰る家が、ありません……!」

慟哭になる直前、ぎりぎりの正気で踏みとどまっている声音。
竜座長の白い顔を覆う掌がおもむろに下がり、血走った目が覗く。

それから新助は語る。
越後の商売仲間に頭を下げ、借りられるだけのお金を借りたこと。
故郷の田畑まで、先祖に胸中で手を合わせて売り払ったこと。
美代吉の口約束を信じて、愚直な男は全てを犠牲にしてしまったのだ。

「約束を、守ってくださいよ」
「私は約束を守りました、今度は美代吉姐さんが、約束を守ってください」

ここの竜座長のセリフ回しは、段々舌がもつれていく。
新助の心がよろけていくように。
そこへ、美代吉のとどめの一言。

「約束約束って、しつこいねぇ。これだから田舎者は嫌なんだ!」

――観客が次に新助を見るのは、あくる夜の八幡祭の場面だ。
行き違う人々の手を、はらりと掴む腕がある。

「あの女は、うそつきだ」
「江戸っ子は、みぃんな、うそつきだ」

既に目の焦点合わず、虚空に話しかける、くにゃりと歪んだ笑顔の新助さん。
時折、「きぇーっ」とも「ひぃーっ」とも聞きとれる奇声を発する。

いわゆる「狂人」というのが出てくるお芝居は、初めて観たけれど。
竜座長の狂気の演技は、客席の私を凍りつかせるのに十分だった。
観たら怖い、でも観るのをやめられない、ホラー映画を怖々指の隙間から覗く感覚。

クライマックスは、包丁を手に美代吉を追い回す新助。
美代吉は必死に逃げようとするも、足がもつれてずるずると地を滑る。
鶫汀さんの「滑る」演技が、観ていてあんまり恐ろしいのだ!
すぐそこに包丁を振りかざした相手がいるのに、思うように進まない。
「来ないで、来ないで」
焦燥、恐怖、下駄を投げつけて這いずって逃げる。

けれど遂に、捕まった美代吉は血に染まり。
江戸の空に朱い月が昇る。
新助さんのタガの外れた笑い声と、瞳孔の開いた瞳を観客に見せつけて終演。

終わった後も、まだ心臓がばくばくとうるさくて。
せっかく竜座長と鶫汀さんが、芝居とは打って変わって仲良く口上挨拶しているというのに、なかなか入っていけない…。

でも竜座長が、このお芝居の基になった河竹黙阿弥さんの「八幡祭小望月賑(はちまんまつりよみやのにぎわい)」を紹介していたので、早速図書館で探して読んでみました。
それによれば、通称「縮屋新助」ともいうそう。

縮屋新助。
“新助さん”
通勤電車の中でページをめくっていても、時折思い出してぞくり。
はる駒歌舞伎が魅せてくれた夜は、底知れない朱いとばりの向こう側。

剣戟はる駒座お芝居「八幡祭 江戸の朱月」①津川鶫汀副座長の美代吉役

2013.4.7 夜の部@篠原演芸場

「鶫汀さんって普段は陽気な男の子って感じだけど、女形になると年齢不詳。若い女性の体に何十年もの年輪が詰まってるような…不思議なことにね、老獪な感じすらするの」
津川鶫汀副座長について、ある観劇仲間の言。

「副座長は女形の芝居がすごい!見た目だけじゃなく、女形の"声"が出るのがすごいの!」
これは、また別の観劇仲間の言。

写真・津川鶫汀副座長(4/7舞踊ショーより)


仲間の噂は違うことなく。
上がりまくっていた期待値をひょいと越えて。
津川鶫汀副座長演じる芸者美代吉が、篠原演芸場の舞台で黒髪揺らしてヘラリと笑う。

本日は、物語に入る前に。
非公開コメントで胸がいっぱいになるような激励をくださる方、
拍手ボタンをぽちっと押してくださる方、
この場を借りて心からの御礼を。
昨年末に駆け出したばかりのブログ、読んでくださってる方が本当にいるんだなぁ、と感激しています。
何より、何よりの力でございます。

さて題に「江戸」と付く、このお芝居の舞台は浅草。
先月私も足繁く通ったあの街に、狂気の朱月が浮かぶ、実際にあった事件を元にした話。

美代吉(津川鶫汀さん)は人気の深川芸妓だ。
「旦那、あたしばかりか姪っこまで芝居に連れて行っていただいたりして、ありがとうござんす」
艶めかしい眼差しに、とろけて落ちるような笑み。
「最近、ちっとも来てくれないじゃないか。あたしのこと、嫌いかい?」
蓮っ葉な性格がまた魅力。
「あたしも旦那といると、楽しゅうござんすよ」
贔屓の若旦那(不動倭さん)相手に、転がす声音の甘さ。
商売言葉とわかっていても、つい誘惑されてしまうのが分かる。

中には、美代吉の自分勝手に男を振り回すやり方に、憤る者もいる。
若旦那の店の手代(津川隼さん)は、若旦那のお座敷を中断して他の男と逢引きしていた美代吉に、怒りの拳を振り上げる。

しかし美代吉は怯むどころか。
頬を突き出して、得意の啖呵を切る。
「ぶちなよ。ほら、ぶちゃあいいじゃあないのさ」
このときの鶫汀さんの表情は見物だった!
大きな目をからかうように、ぐりっと見開いて、自分の頬を扇子でちょんちょん。
相手を完全に侮って、なおかつ気迫で競り勝ってしまう。

でも。
どんなに贔屓客がいても、その生活は素寒貧。
「この美代吉姐さんはねぇ、宵越しの金は持たないんだよ」
「皆おいで、あたしが飲ましてあげようじゃないのさ」
そう言って唇で弧を描く様は、粋そのものだけど。
粋の裏を返せば奔放。
自堕落に遊び暮らす毎日で、金子は華美な着物の懐から出て行くばかり。

おまけに、美代吉には一緒に暮らしている情人がいる。
船頭の三次(勝小虎さん)。
「なあ美代吉、助けてくれ、五両、都合してくれ」
博打で金をすっては、事あるごとに美代吉に金の無心をする。
若旦那に貰った豪奢なかんざしも、三次の借金のために質屋行き。
さらに若旦那がかんざしを買い戻すよう美代吉に与えたお金も、次の瞬間には三次の飲み代行き。
「へへ、金ってのはあるところにはあるもんだなぁ、美代吉」

私が毎回大注目している小虎さんの演技の「生」っぷりは、この三次役でも堪能できまして。
たとえば、晩酌中の美代吉と三次の家に、借金取り(晃大洋さん)が押し掛ける場面。
「お金がないと言うわりに、良いもの食べてるみたいですけど」と咎められて、「あらやだ」と美代吉が言葉を濁している間に。
三次は酒と肴をそうっと自分の方に引き寄せて、借金取りの目線から隠す。
…さりげないこの動作に滲む、卑劣さの生々しいこと(最大級の褒め言葉)。

美代吉のキャラクターを決定づけるのが、他の誰でもない、この三次を気に入って傍に置いている事実じゃないかと思います。
「あの人の子犬みたいな目で見られると、あたしも弱いねぇ…」
自分を助けてくれる、贔屓の名士たちよりも。
自分が助けてあげられる、自分より金がない男。
しかも、自分と同じくらい自堕落で身勝手。

似た者同士の二人は、生活の憂いも晩酌で酒と一緒に流し込む。
「どんな事があっても、なるようにしかならねえよ」
「そうだねぇ、ああもう、あたしも飲むよ、注いどくれ」
「そうこなくっちゃ!」
明日のことなど浮かびもしない。

だがしかし、そんな生活のために、積もり積もった美代吉の借金は百両!
「暮れ六つまでに百両用意できなければ、あんたの着物も小物も全て質に入れちまいますからね」
借金取りの一言に、さすがの美代吉も顔色を変える。
着物がなければ、明日の八幡祭に出られない。
江戸の芸者が皆着飾って練り歩く、大事なお披露目の場だというのに。
ここを逃せばもう贔屓客はつかない。

その危機に運悪く、美代吉を訪れてしまったのが。
真面目な越後の縮屋・新助(津川竜座長)だった。

ここから物語は一気に、悲劇へと突き進む。
明日の晩は八幡祭、朱い月が昇るまであと少し。

剣戟はる駒座お芝居「びびり剣法」


2013.4.6 昼の部@篠原演芸場

4月最初の土曜日、お江戸の空は荒れ模様でも、冷たい雨が十条商店街に注いでいても。
篠原演芸場の中は、温かな笑いがとろけて春の陽だまり。
喜劇「びびり剣法」には、ほのぼのという言葉がぴったり。
劇全体を包み込むように響く、ぴーひょろろ…という鳥の声のせいなのか。
それとも、中心人物を演じた竜座長と倭さんの醸し出す、心深さのせいなのかな?

写真・津川竜座長(4/6舞踊ショーより)


写真・不動倭さん(4/6舞踊ショーより)


物語の軸は2人の侍の友情。
一人はめちゃめちゃ弱くて臆病な侍・青江源四朗(津川竜座長)。
いま一人は剣の腕前優れ、名のある剣豪を打ち倒したいと願う侍・壇ノ浦団兵衛(不動倭さん)。

空腹で死にそうだった団兵衛に、源四朗が握り飯をあげたことで絆が生まれる。
「この壇ノ浦団兵衛は、恩を忘れない男だ!」
感激に固く目をつむりながら、この上なく美味しそうにおにぎりを頬張る団兵衛。
むしゃむしゃもぐもぐ、豪快な食べっぷり。
喧嘩を売って来た役人(津川鶫汀さん)を、おにぎり片手に斬ったりもして(!)。
刀を鞘に収める前に、手に残った米粒ぺろり。

倭さんの演技の多面鏡は、この日は格別大きく開いて。
なんとも豪胆、気持ちのいい武士像が現れていた。

団兵衛は願い叶って、剣豪・伊藤一刀斎(勝龍冶さん)を打ち果たす。
ところが団兵衛は、足を滑らせて崖の下。
一刀斎の遺体とともに残されたのは、たまたま居合わせた源四朗!
一刀斎にびびり、刀を抜いてぷるぷる震えていたところを、
藩の家老(晃大洋さん)に目撃されたことで、大いなる誤解が生まれる。
「あの伊藤一刀斎を倒すとは!ぜひ娘の婿になってくだされ!」

話は家老の娘婿だけじゃ収まらない。
「源四朗殿に藩の剣術指南役になっていただきたい」
「そしてゆくゆくは、わしの跡を継いで城内家老に…」
どんどん一人歩きする、源四朗の強さ幻想。

それと言うのも、源四朗がきっぱりと誤解だと言えないせいだ。
この弱き侍は、心優しさの半面、誘惑に弱い。
家老の娘・おきぬ(千晃ららさん)の美しさにくらくら。
「おきぬどのに心底惚れてしまった…」
「好きで好きで好きで好きでたまらん!」
なのでずるずる、誤解を解く日は先延ばし。
戸惑いながらも家老の屋敷に留まっている。

竜座長のおろおろとした眼差し、気弱さが滲むセリフ回し。
普段の粋を絵に描いたような持ち味が引っ込んで、こういうキャラクターも絶妙に似合うから不思議。

クライマックスは、源四朗と団兵衛の、御前試合での再会だ。
伊藤一刀斎を斬った手柄を奪われて、団兵衛は怒り心頭だったものの。
相手はかつての恩のある友。
しかも惚れたおきぬの前で恥をかきたくないと、困り果てているようだ。

そこで団兵衛は、双方が得をするように目論見を立てる。
「試合にはお主を勝たせてやる」
「その代わり、わしを剣術指南役として殿に推薦してくれ」

ああ、確かにこれならwin-win。
ありがたがる源四朗に、団兵衛はからりと笑う。
「わしは、恩を忘れん男だと言っただろうが!」
この場面は2人の友情に心晴れ晴れ、観ている私の胸も明るく晴れた。

降りる幕に拍手を送りつつ、ぬくぬくと満たされた顔を隣の観劇仲間と見合わせて、「面白かったねえ」。
さらには知り合ったばかりのお隣席のご婦人とも、「面白かったですねぇ」。
そしてご婦人にいただいた飴を一緒に頬張りつつ、舞踊ショーの幕開けを待つ。
私が篠原演芸場を大好きなのは、こんな風な近しさゆえかも。
舞台と観客も近いし、観客同士も近い。

ところ狭しとぎっちり並べられた、座布団と座椅子。
その観客席を、これもまたところ狭しと壁に掛けられた、大量の役者さんのタペストリーが見下ろしている。
あの畳空間の濃密さと言ったら。

木馬館から翌月篠原演芸場という鉄板コース。
個人的には篠原に来てからが、劇団の魅力の濃い味をとことんいただくお食事本番。

剣戟はる駒座お芝居「江戸っ子やくざ 恋の春雨」

2013.3.30 昼の部@浅草木馬館

桜が満開を迎えたと思ったら、瞬く間に葉が混じり始めたように。
あっという間に過ぎ去ってしまった弥生月、三十日は浅草千秋楽。

花冷えも花曇りもなんのその、木馬館はお客さんでみっちり!
特に遠方からいらしたご贔屓さんが多かったのか、この日は誰が出ても、
「座長!」「鶫汀!」「祀武憙!」「洋ちゃん!」
と会場からのハンチョウがきれいに決まる決まる。
聴いててとっても気持ちよかったですねー。

お芝居「江戸っ子やくざ 恋の春雨」は、千秋楽に相応しく、笑いどころも情け深さもたっぷり織り込まれた盛りだくさんの逸品。
主に笑いどころを担うのが、「はらわたの腐ったような」武士のキャラクターだ。
名は竹村。
演じるのは、晃大洋さん。
この日の洋さんは、間違いなく会場中の心をつかんで行かれました!

写真・晃大洋さん(3/30舞踊ショーより)


洋さん演じる竹村は、正直かなり最低な男。
茶店で食い逃げしといて、従業員の娘への言い訳は、
「お前が召しあがってください、どうぞ飲んでください、と誘ったのではないかー!だからわしは食いたくもないのに食ったのだ!」

幼馴染・村上(不動倭さん)が胸の病で苦しんでいるのに、
「昔、古書をまとめて買いたいというお前に貸した金があっただろ。あの金を返せ」
と言い募る。
しかも、どうやら作り話のようだ。
村上がお前に借りた覚えはないと言えば、貸しただろうが!とキレて。
あろうことか、刀でばっこんばっこんと村上を殴るのだ。
病人を!しかも古い友達を!
「労咳持ちで、武士のくせに腰には竹光か!村上、お前も落ちぶれた姿になったものだなぁ!」

訂正。
“かなり最低”じゃない、最低そのものだった…。

でも。
やってることだけなら極悪な竹村を、とんでもなくコミカルに、愛嬌交えて魅せてくれるのが洋さんならでは。

棒に寄りかかってふらふら歩む男が、幼馴染の村上だとわかった瞬間、
「村上ではないかー! さ、さ、いいからここに座れ」
棒で地面にぐーるぐーると輪を描く。
まさかその輪っかが座布団とちゃぶ台…なんだよね。

村上の苦労話を聞いた後、竹村は神妙な顔をして、
「村上よ、実はわしもこの三年、病に苦しめられておるのだ」
「お前が?」
「うむ、いぼ痔になってしまってな」
「…それと一緒にしないでもらいたいな…」
「今や互いにこんな体になってしまったなぁ」
だから一緒にしたらいかんってば。

竹村と村上の場面、観客席は笑いの渦。
もう洋さんの一挙手一投足がおかしくって仕方ない。
そして物語後半、竹村は再登場する。

芝居の本筋は、元やくざの春雨一家の兄弟分と、敵対する浅間一家の因縁にある。
クライマックスが近づき、春雨宗太(津川竜座長)、弟分の政吉(津川隼さん)、浅間一家衆と役者は揃った。
いよいよ立ち回りが始まりそうな舞台景色、シリアスモード最高潮…
そこで浅間一家親分(勝龍冶さん)が、「先生!お願いします」と一家の食客を呼ぶ。

「うむ。任せろ」
と舞台に現れたのがあの竹村だった瞬間、爆笑に包まれる客席。

「わしの剣の流派は、右は無念流、左は残念流、合わせて無念残念流だ。何も案ずることはないぞ、浅間殿」
それまでのシリアスな空気をぶち壊していく竹村。
ああ、やっぱりこのお芝居は洋さんの輝きを堪能するものだ!

そんなわけで、洋さんの三枚目役の魅力、芸達者ぶり、大爆発の千秋楽でしたが。
倭さんは前回の鑑賞に続けて、病に身も心も喰われている男の屈辱という新たな演技を見せてくれた。
浅間一家若衆の頭を演じていた小虎さんは、舞台の端のほうにいる時も、他の若衆役と眉をひそめて談義。隅々までお芝居空間が創られていた。
やっぱりはる駒座のお芝居はすごいな。
毎回胸いっぱいお腹いっぱいにさせてくれるけど、まだまだ観足りないな。

でもまだ、観れるのです。
四月は十条、篠原演芸場で!
普段の月末は去っていく劇団さんを思って寂しいもんですが、もう一カ月、はる駒座が東京にいてくれるということが嬉しくって仕方がない。

千秋楽はラストショーの幕が降りた後も、熱気に溢れたアンコール!
会場から上がる拳と手拍子と、この日の木馬館はライブハウスさながら。
私も観劇仲間と互いの興奮した顔を見合いつつ、心の底から盛り上がって盛り上がって…
あああ、楽しかった!

篠原のぐぐっと舞台に近い畳の客席から、見上げるはる駒歌舞伎はどんな煌めきなんだろう?
春爛漫、はる駒座が彩ってくれるお江戸の四月が始まります!