劇団花吹雪お芝居「おとめ与三郎」②寿美英二さん・桜京誉さんの夫婦役

2013.1.26 夜の部@浅草木馬館

さて、前回の記事で主役の春之丞座長編を書きまして。
このお芝居で私が、何が嬉しかったって。
久々に寿美英二さん・桜京誉さんの夫婦役が観れたこと!

写真・寿美英二さん(1/26舞踊ショーより)
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写真・桜京誉さん(1/26舞踊ショーより)
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昨年11月、花吹雪初見のお芝居は「兄の真心」。
「この劇団のお芝居いいなぁ!また来よう!」と何より思わせてくれたのは、
なんとも息の合ったお二人の夫婦役だったのだもの。

寿美さんが父役、京誉さんが女形で母役。
ご兄弟で演じる熟年夫婦の演技は、じっくりコトコト煮込んだ料理のように。
お芝居の御膳の上で、いっとう美味しそうな湯気を出しています。

「おとめ与三郎」でそれを味わえるのは、与三郎の実家の場面。
与三郎の両親としてお二人が登場。
三年も音信不通の芸者と結婚するという息子を、なんとか説得しようとする。

……二人で息子に膝突き合わせ、真ん中にじりじり挟むようにして(笑)
与三郎、いや京之介さん、セリフなのか思わずの一言なのか、

「何か…挟まれると圧力を感じます」

ですよね。
しかし京之介さんを楽しそうに追いつめる、お二人の間合いのぴったり加減といったら。

いくら説得しても、
「私はお富と結婚します」
強情な与三郎に、寿美さん演じるお父さん、一つため息。

「あのなぁ、わしだからまだ言い方が優しいんやないか」
「次はばあさんが動くぞ」

言うが早いか、「ばあさん」=京誉さん、ずずいと前に出て両腕まくり、仁王立ち。
がっしと息子の肩をつかんで、客席の前へ。
(ストーリー的にも実際にも息子なのがポイント)
半ば脅すように、

「親の言うことは聞いとくもんやで」
「親の言う事聞いたから今があるんやないか」

うう~ん、なんて深みのある言葉!
客席で苦笑、微笑を浮かべていても、
「そりゃそうですけど……」
と困ったように頭を掻く京之介さんを見れば、うっかり噴き出してしまう。
京誉さんのニヒルな眼差しが、なんだか座ってらっしゃいますよ!

呼吸のように、ふとした会話の場面にも味は滲む。
寿美さんが、追い返したおとめの緑のつけまつげについて、
「目に緑の蛾が止まっとるんや」
と言えば。
蛾が?と怪訝な反応をする与三郎に、
「目に緑のモスラが止まっとる。わしらの世代やとモスラなんや」
と引き継ぐ京誉さん。

この「わしらの世代」って言葉。
普通の言葉なんだけど、何気なくまとう、お互いを知る時間の長さ。
ご兄弟だから当然?
でも、それだけではないような。

私は観始めたばかりなので、全然劇団花吹雪について知らないのだけど。
そういえば、このベテランお二人には、役者としても同じ歴史があるのではなかったっけ。
同じ劇団を背負って、同じ毎日毎日を、一時間一時間を、
同じ幕の下で築いてこられたんじゃあなかったっけ。
そんなことを思わせられる。

熟年夫婦。
積み重ねた時間の上の、阿吽の呼吸。

「ばあさん、こうしちゃいられん、わしらも行くぞ」
「あいよ」

熟練夫婦。
お芝居がぎゅぎゅっと締まる、極上の出汁。

ああ、満腹。
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劇団花吹雪お芝居「おとめ与三郎」①春之丞座長のおとめ役

2013.1.26 夜の部@浅草木馬館

写真・桜春之丞座長(1/26舞踊ショーより)


写真はラストショーでのもの。
ラストショーは花魁だというのでさぞ豪華絢爛なお着物と楽しみにしていたけれど、
まさかウェディングドレス風で来るとは。
そして曲がCan you celebrate?だとは。
ゆらゆら幻想の中踊る花魁、というか花嫁姿を観ていると、
……あれ、花魁ショーってこういうののことだっけ?
ていうか私今何を観てるんだっけ?(笑)
やっぱり、毎度のことだけどすごいものを観てしまった。

しかし、お芝居での春之丞座長の役は、美極まりない写真のお姿とは真逆も真逆。
ドがつくほどの三枚目、しかも女性役!

あらすじ…大事な家のお金をすられ、死のうとしていた与三郎(桜京之介座長)。
芸者のお富(小春かおりさん)は憐れんで、与三郎にお金を貸す。
二人はお富の年季が明けたら一緒になろうと約束する。

三年後、お富の店で働く男(桜愛之介さん)は「おとめ」という女性を探していた。
見つけたおとめ(桜春之丞座長)は貧乏な夜鷹。
そこへ持ち掛けられる儲け話。
お富の年季は明けたが、三年も経った今、与三郎の気持ちが変わっていないとも限らない。
そこで名前のそっくりなおとめに、お富に成り変わって与三郎の気持ちを確かめる芝居を打ってほしいという。

この、おとめのあまりにも強烈なキャラクター。
くるりと振り向くだけで、客席爆笑。
重量のありそうな緑のつけまつげ、顔の下半分がてかてか光るグロス、
そして右の鼻の穴からひらひら揺れるティッシュ(笑)
鼻が詰まってるゆえに、喋る言葉は、
「あたひ、ひっはおはんはへへない」(あたし、三日ご飯食べてない)
なんて調子。
正直、最初春之丞座長だってわからなかった…。

おとめは見た目もえげつないけど性格もえげつない。
愛之介さん演じる男が、
「私はお客さんではなくて…」
言った瞬間、
「お客さんじゃない?帰れ!」
成り変わり仕事の話を説明しようとすれば、不満げに
「あたひ、座ってる。あんた、偉そうに立ってる。座って」
仕事の前金をもらった直後だというのに、
「ご飯おごって。手引いて連れてって」

もう、おとめが一つ喋れば一つ波乱、
一つ動けば一つ騒動。

それでも仕事は一応きっちりやります。
訪ねていった与三郎の実家。
居たのは与三郎の父(寿美英二さん)と母(桜京誉さん)。
おとめの姿を見た二人は、
「なんで息子はこんなのと言い交したんだ…」
と呆気にとられる。
そしておとめを追い返すために嘘をつく。

「与三郎は死にました」
「浅草寺にお参りしている間に、上から落ちてきたハトの糞が耳と鼻と口に詰まって」
「ハト糞窒息病です」(←個人的には最大に笑ったところ)

おとめの性格からして、なら仕事は終わったとお金もらって帰るんだろうなぁ…と思っていたら。
「墓参り、したい」
「お墓の場所、教えて」
おや?
そして教えられた嘘のお寺へ、愛之介さんと連れだっててくてくお墓参り。

うん、おとめのキャラクターは確かにえげつないんだけど。
後半見慣れるにつれ、ぽろりと零れる情けのかけら。

たとえば終盤、結局生きていた与三郎と、本物のお富が再会する場面。
お富に惚れていた間男(桜梁太郎さん)が乱入し、短刀を振り回して場は戦慄。

そこへひょいっとおとめが飛び込み、短刀を奪って、間男の股の間にぶすっ。
「行きなはい行きなはい」
と、与三郎とお富を逃がしてあげる。

もう仕事は終わって、何の関係もないはずなのに。
当たり前~って顔して、さらり介入、結果的に人助け。

こんな一面があるもんだから、ティッシュ突っ込んだ顔も、見慣れたら可愛く思えてきたぞ。
春之丞さんの七色演技は、てかてかグロス色でも、やっぱりただの塗りたくった三枚目ではないようです。
わお!(←最近春之丞さんが言うのをよく聞く笑)

そしてこのお芝居ではもう一つ、たまらない見どころがあったので続きは次回!

春告げる声―劇団花吹雪・桜春之丞座長―

写真・桜春之丞座長(1/13舞踊ショーより)


あの、声!

春之丞座長について一番印象深いことといったら、
とんでもなく通りの良い、そして変幻自在の声である。

もちろん花のかんばせも目を奪うけれど。
舞台でのあの圧倒的な存在感は、声によるところが大きいのじゃないかなぁ、なんて思ってみたり。

「なあ兄さん、こんな話もある!」

声量がそもそも大きい上に、音に少しも濁りがない。
だから客席の奥のほうに居ても、春之丞さんの声はすとーん!と耳に届く。
見得でも切ろうものなら、どーん!と客席一体を飲み込んで響く。

そして、不思議なことに。
役によって声の調子がくるくる変わるのだ。
あるときは温かく、聴いてるだけで心がほんわりするような。
けれどあるときは切れるように冷たく、心に突き刺すような。

「馬の足玉三郎」で生真面目な弟役として、兄役の京之介さんに真摯に呼びかけていた、
「兄さん、もう行くのかい」

「昭和枯れすすき」で本気で震えが来た悪役の冷徹な一言、
「なかなか骨のあるやっちゃ」

最初に観た「兄の真心」では、心清らかな医者のセリフ、
「私は本心から直江さんと一緒になりたいのです」

「道中夢枕」で通りかかった男女を幽霊だと勘違いしたときの恐怖に裏返った、
「出たぁ~~~~~っ!!」

思い出すだけで次々引き出しが開く。
玉手箱のように、色んな声音がぽこぽこと。

とはいえ私、まだ6本しか花吹雪のお芝居観ていないので。
まだまだ箱の中身は増える予感。

さて、口上挨拶のときとか素のお声を聴くと、すっごくカラっとした気持ちの良いお声だったりする。
「僕たちも日々努力してますから、ここはお客様にも、ひとつ努力をしていただいて!もっとたくさん通っていただきたいですね!」
なんて言って座をどっと沸かせる。
春之丞さんが喋っている間は、なんとなしに場が明るく照らされるような。

そう、あの力強い声は否応なしに明るさを連れてくる。
厳寒だというのに、眩しい陽射しがぐいぐいと劇場に引っ張り込まれる。

そのパワーに、気づけば口をほけっと開けて聴き入っている自分がいる。
「役者としては、一人でも多くのお客様に笑顔になっていただきたいですね!」
口上の最後に艶然とした微笑みまで付けられれば、ふぉお。うわぁ。
ここだけ、春。

豪奢な花吹雪の先頭に吹く、大きな大きな春風。
風の音に誘われて、またも休日の行き先は夢桟敷になるのだろうなぁ。

劇団花吹雪お芝居「道中夢枕」

2013.1.13昼の部@浅草木馬館

道中夢枕、ってなんて良いお外題だろう!
題をもって夢オチを予告していいのだろうか…とか最初思ったけど(笑)

夢の中は心の中。
誰にも触らせない秘密の中。
物語が進むにつれ、照明を落としたままの薄暗い舞台で展開されるのは、
主人公・勘太郎(桜春之丞座長)が心の奥に隠し持った物語。

写真・桜春之丞座長(1/13舞踊ショーより)


もう春之丞さんが舞台に現れると、何かすごいものが観れるんだろうなーと毎回期待している自分がいる。
そして幕が閉じると、「またすごいものを観てしまった…」と毎回息をつく自分がいる。

そんな春之丞座長演じる勘太郎は、旅の三味線弾き。
立ち寄った町に国定忠治が入り込んだらしく、町の空気は戦々恐々。
勘太郎は忠治の人相書きの立て札を見て、
「お吉、六三郎、お前たちだけは絶対俺が守ってやるから…」
と言うんだけども。
あれ?
視線の先には…誰もいませんよ?

道中、勘太郎は荒れ寺で一休み。
寺の住職(桜愛之介さん)によれば、かつてこの寺で心中した若い男女がいたらしい。
手に手をとって逃げてきた二人、一晩の宿を頼み、翌朝寺の二階で首をくくっていたそうな。

――この心中譚が夢枕の伏線。
舞台の上、むくむくと勘太郎の夢が入り口を広げる。

ふと住職が、勘太郎の荷に入っていた女物の着物に触ろうとした瞬間。
酔っていた勘太郎がいきなり大声真顔、跳ね起きるように、

「触らねえでおくんなせえな!」

いや、客席でびっくりしました。
春之丞さんの通りまくる声が、急に真剣なトーンで声量最大!
勘太郎は着物を抱きかかえて、
「俺の宝なんですから…」
と、再び小出しにされる秘密。

酔いにまかせて寝入ってしまった勘太郎は、誰かに踏みつけられて起きる。
それが、説教芝居の人形遣い・又之丞(桜京之介座長)と、おさい(小春かおりさん)だった。
どうやら二人は誰かから逃げているらしい。
まだ酔ってる勘太郎、若い二人にさんざ絡む。

「当ててみせようか、あんたたちのいきさつ」
「女のほうが旦那と一緒に、こいつの芝居を観に行って!そんで人形の後ろのこいつが目に入るだろ?!」
「段々女一人で行くようになるだろ。一人で行きゃあ、周囲のお客さんがあの役者さんはどうだこうだと教えるようになるだろ?」

あれ、なんか話が脱線してきた。

「もっとあの役者さんとじっくり話したい!そしたらそういう時があるだろ!そう!送り出しだよ!」
どかーん!と笑いどころもかっさらって行く(笑)。

まぁそんないきさつで恋に落ち、おさいの旦那から逃げてきたらしい。
おや、この二人もまた、手に手を取って逃げる若い男女だ。
そう、先ほどの幽霊譚をなぞるように。

夢はまだ奥へ進む。
二人が立ち去れば、勘太郎は再び地面にごろん。
女物の着物を抱きしめて転がって、恋しそうに呼ぶ。
「お吉~……」
夢はまだ暗い底へ。

そこに現れるのが国定忠治(桜京誉さん)とその一派。
忠治に捕まえられる又之丞とおさい。
実はおさいは忠治の妻だったのだ。
駆け落ちした二人に、当然ながら大ヤクザは怒り心頭。

「これじゃ俺の男が立たねえ…」
男のほうは斬る、ときっぱり。

が、その緊迫したシーンに割って入るのが勘太郎。
「ここで女だけ生かすんですかい。女に良いように誤魔化されますよ」
「女は男を騙す生き物なんだ!」
「斬るんなら二人とも斬る、見逃すなら二人とも見逃す!どっちかにしておくんな!」

そしてついに叫ばれる勘太郎の秘密。

「俺は、女房に逃げられた!」

お吉、繰り返されるその名前は逃げた女房。
六三郎、冒頭で口にしたその名前はお吉と一緒になった弟分。

お吉と六三郎を追って、勘太郎は旅をしてきた。
だから勘太郎の夢枕の物語は、「手に手をとって逃げる男女」の形を繰り返す。
夢はそこで行き止まる。
心の奥へ行き止まる。

でも夢の終わり、自らの心の最果てで。
「勘太郎さん……あなたの三味線を、もっと聴いていたかった」
勘太郎は、ずっと会いたかったお吉の声を聞く。
「どうか、もう私を追わないで」
未練を断ち切るための言葉を聞く。

やがて勘太郎が目覚めれば、元の荒れ寺の前。
又之丞もおさいも忠治も、全ては夢の中の出来事。
「夢か…」
その瞬間の、春之丞座長の表情といったら!
泣き笑いのような、噛みしめるような。

ずっと薄暗かった舞台に、陽が昇るように明るい照明がついて。
暗い夢から覚めて、明るい方へ。
戻って来た住職に対し、勘太郎の笑顔は晴れやか。

「俺は、江戸へ帰ります。江戸へ帰って、芸の道に精進します」
「和尚さんには世話になったから…せめて、これをもらってくだせえ」

宝だったはずの女物の着物をあげて。
お吉の呪縛から解き放たれ、旅立つ。

幕が閉じ切るときまで、力いっぱい、拍手した。
勘太郎の秘密を求めて、夢枕の奥へ、心の奥へ。
観客がもぐりこんで行くような構造のお芝居に、長時間すっかり浸っていた。

そこに春之丞座長の大熱演が加われば、もう、ね。
やっぱり興奮気味に呟いてしまう、
「すごいものを観てしまった…」

劇団花吹雪お芝居「富くじ千両箱」

2013.1.6昼の部@浅草木馬館

写真・桜京之介三代目座長(1/6舞踊ショーより)


「おせんちゃんは間違いなく俺を好いてると思うんだ」
「でもおせんちゃん、どうにも口がうまくねえっていうか素直に言えねえんだよなぁ」
「で、俺も実はおせんちゃんのこと好きなんだけど…」

でれっと眉の下がった弥太郎(桜京之介三代目座長)。
一緒に旅をしてきた「友達」の、おせん(小春あきなさん)について。
もう誰も聞いていないのにも気づかず、やや照れながら一人語り続ける…。

今回のお芝居、私的な白眉はなんと言ってもこの場面ですね。
他にも演劇的な見せ場はたっくさんあったけど。
少女漫画脳的には絶対にこの場面ですね!

ああ可愛い。
はー可愛い。
弥太郎とおせんちゃんの初々しいカップルをずっと見つめていたい!です!

あらすじはこんな感じ。
流れ者の弥太郎と、三味線弾きのおせん。
弥太郎は、
「女と一緒の旅は嫌なんだよー…」
「俺は一人で旅するほうがいいんだよ~」
とか言いつつ、なんだかんだおせんに助けられながら旅をしてきた。

たまたま弥太郎は、千両箱を背負った瀕死の老人 (桜京誉さん)に出くわす。
老人は江戸の出身だが、借金を背負い、大阪に出稼ぎに来ていた。
ところがとんだ幸運で、富くじで千両を当てた。
喜び勇んで息子の待つ江戸へ帰る道中、肩に担いだ千両を狙われ、お尋ね者の侍(春日隆さん)に斬られたのだった。
「私に代わって、江戸のせがれに、この千両を届けてくだされ」
老人の遺言により、弥太郎は千両を背負って江戸へ向かうのだった。

お芝居の本筋はこの千両を巡るいざこざ。
老人の息子(桜梁太郎さん)・借金取り(寿美英二さん)・十手持ちの与吉(桜愛之介さん)…
登場人物が多いにも関わらず、とことんスピーディーに話が進むので、最後までどうなるのかワクワクする作り。

でも、このお芝居にはもう一つ筋があって。
それが、弥太郎とおせんちゃんのほのかなロマンス。

序盤、弥太郎はおせんちゃんに対してちょっと冷たい。
鬱陶しそうに、
「また俺についてくる気かよ…」
とかぼやいていて。

でも、千両を狙ったお尋ね者の侍に、足を撃たれて大怪我を負った後。
寝ていることしかできない状況で、おせんちゃんが宿に帰ってくる。
すると弥太郎、そらもう嬉しそうに、
「おせんちゃんお帰り~」
「足が治ったら、また一緒に旅しような」

弥太郎が、その実おせんちゃん大好きなのが伝わってくるわけです。
そして冒頭で取り上げた、「おせんちゃんは絶対俺のこと好いてるし実は俺も好きなんだけど云々」の場面に繋がる。

…客席で内心悶えまくり。
好き合っているのに素直になれない、とかピュアな少女漫画の定石じゃないですか!
しかも双方が!
ピュアの二乗!

そもそも、この弥太郎というキャラクター造形のなんと楽しいこと!
元気で、やんちゃで、ちょっと向こう見ずなまでの若さに溢れている。
でもヤクザ者らしく意外とドライ。
千両箱を託した老人が、せがれの名前を途中まで言ったところで息絶えたもんだから、
「うん、多分、(息子を見つけるのは)無理だな」
と腕組みしてサラっと言うくらいにはドライ。

で、調子もいい。
愛之介さん演じる与吉が「堅気の仕事を斡旋してやる」と言うと、
「字は読めねえ」
「力仕事は嫌だな」
「週一、月曜に休みたいなー」
と笑顔でリクエストするくらいには調子いい。

でも見ず知らずの老人の遺言に従って、やたらめったら重い千両箱をひいひい言いながら担いで。
そのいざこざに巻き込まれて大怪我までしても。
決して見返りを要求したりしない、いやそんなこと思いつきすらしない。
義理人情を守る男前な心を持っているのです。

実際に若さ弾けてる京之介さんの弥太郎役は、もうぴたりと「そのもの」。
底に素の明るさが透けて、カラっと爽やか、ハマり役…
と、書こうとして気づく。

京之介さんってハマり役だと思わせること多いなぁ。
以前観た「太助と家光」の竹千代も、優しい面差しがぴったりだと思ったし。
京之介さんの芸の広さの証なのかもしれないな。

さて話を戻そう。
物語後半、おせんちゃんは弥太郎の足の怪我を治さんがため、借金をします。
その代償として、板橋を支配する政五郎親分(桜春之丞座長)の嫁になることに。
弥太郎は婚礼の儀直前に飛び込み、おせんちゃんを救います。
弥太郎とおせんちゃんは気持ちを告げ合い、政五郎親分もなんとか許してくれて、めでたしめでたし。

私は手を取り合う弥太郎とおせんちゃんを見て、唇の端が上がりっぱなし。
可愛いなぁもう(何回可愛い言うんだ)。

大衆演劇の男女の愛は、辛苦を共にした「夫婦」が多い気がするので。
(それももちろん味わい深いんだけど)
たまに初々しい若草のようなカップルに出逢うと、こちらの心まで小春日和。
小さな花が咲くような心持ちがいたします。

木馬館新春公演、一足早い春の花。

劇団悠お芝居「山の兄妹 おちょこの嫁入り物語」

2013.1.3@三吉演芸場

純粋さが、染みる。
うつくしい心が染み入って、くーっと胸に溶ける。
2013年最初に観れたのは、そんな素敵な人情劇でした。

写真・松井悠座長(1/3舞踊ショーより)


大地主・尾張屋の若旦那(きぶしさん)は、母(高野花子さん)の溺愛の下で育ったボンボン息子。
「安産型の大きなお尻の女性とでなければ結婚しません!」
そんな我がままを言って周囲を困らせている。
けれど理想の女性が、現れた。
たまたま山で目の前を通りかかったのは、大きな大きなお尻の女性。
兄の忠兵衛(高橋茂紀さん)と山で二人きりで暮らす、おちょこ(松井悠座長)だった。
尾張屋の母子は早速結婚を申し込み、兄妹も快諾した。

でも、事が決まってから、母子は初めておちょこの顔を見た。
おちょこは不美人通り越して、「味噌汁ぶっかけてから馬に踏まれた」ような顔をしていた。
おののく母子は、自分たちから結婚を申し込んだくせに、なんとかして結婚話をなかったことにしようとする…。

私の大好物・兄妹もの!
お兄ちゃんが妹を何とかして守ろうとする図っていうのがツボを突きまくり。
不美人の妹の結婚話にまつわるドタバタっていう構図は、劇団花吹雪で観た「兄の真心」を思い出す。

そう、これも兄と妹の真心の話。
せっかく結婚が決まったのに、おちょこはしょんぼりと忠兵衛に言う。
「おら、やっぱり嫁こさ行かねえ」
「おらが嫁に行ったら、あんちゃんがこの広い山の中で、一人になってしまう」
俯き加減に、手持無沙汰に地面を蹴りながら。
忠兵衛は慌ててこう返す。
「わかった!兄ちゃんも嫁こさもらうから!お前は嫁に行け!」
兄も嫁をもらうなら安心だと、おちょこは一転して喜ぶ。
「じゃあ、おらやっぱり嫁こさ行くだ、あんちゃん!」

ああ、あったかいなぁ。優しいなぁ。
この兄妹の純は染みる。

その直後の場面で、尾張屋の母子がおちょこを追い返すえげつない算段をしているだけに…
きぶしさん・高野花子さんが上手い故に、この場面はもういやらしくて!(褒めてます)

さて、松井悠座長演じるおちょこ。
座長の甘やかな眼差しを活かした表情もさることながら。
「声」がすごいと思いました。
朴訥で、温かくて、ちょっとダミ声で、底に今までの苦労がにじむ。
そんな声がひたすら慕わしく、
「あんちゃ~ん」
って呼ぶのです。
山育ちのおちょこの優しさ。
洗練されてないけど、あまりにむき出しだけど、ほわぁっと温かな手触り。

そんなおちょこが、尾張屋の母子に追い返されそうになり、泣き声を出すと。
あああ~…、泣くな、泣かないで、と、
客席から背中をぽんぽんと叩きたくなってしまう。

クライマックスの場面は、おちょこの今までの人生の語り。
聞いていると、忠兵衛がいかに妹を大事に育てたかが分かる。

おちょこが自分の醜さに気づかないよう、
「おちょこ、お前はかわいいから、鏡を見る必要なんてない」
家中の鏡を割って。
「おちょこ、お前はかわいい、かわいい」
繰り返し繰り返し言い続けて。
山の中で、たった一人で妹を守ってきた忠兵衛。
嫁入り化粧を施した妹の顔を見て、
「いつもにも増してきれいだなぁ!」と…

いかん、泣けてきた。
高橋茂紀さんの朗らかな笑顔が、誠実な忠兵衛にまたハマるのです。

結局尾張屋の母子は、おちょこと忠兵衛の生い立ちを聞いて改心する。
我がまま放題だった若旦那が、おちょこに「共に白髪の生えるまで」ともう一度求婚する場面では、心に迫るものがありました。

「おちょこ、お前はかわいい、かわいい」
繰り返されてきた、妹を守る呪文。
温かな呪文。
山の兄妹の心は、どこまでもほろほろと美しい。
新年最初に出会うお芝居としては、抜群で御座いました。


観劇感想の後になってしまいましたが、このブログにいらして下さる皆様。
往く年は大変お世話になりました。
来たる年もよろしくお願いいたします。

始まったばかりの一年を、どんなお芝居で満たせるだろう?
今は厳冬、お芝居で心に暖を灯して。
春が訪れれば、新芽のように元気で若々しい役者さんが観たくなるやも。
夏の日差しの下、日傘を差して劇場へいそいそ。
秋の人恋しい風に吹かれてセンターへいそいそ、これもいい。
そしてきっとあっという間に、また寒い日が来る。

何にしろ、たくさん、たくさん、良いお芝居に出逢える一年でありますように!