劇団九州男お芝居『光と影』―旅芝居だからこそ―

2017.5.20 昼の部@三吉演芸場

大衆演劇のお芝居を観ていて、ああ…と胸を穿たれるのは。何気ないセリフや仕草の中に、フッと底なし沼をのぞくような心の深淵が開かれているときだ。
そして思う。舞台の上の役者さんたちは、その価値にどのくらい自覚的なんだろう…?

5月、三吉演芸場で観た劇団九州男さんのお芝居にもそういう一本があった。ほんのわずかなシーンで、大川良太郎座長演じるバテレン鬼十郎に鮮やかな色合いが差し込む。


大川良太郎座長

※思いきり芝居のネタバレを含みますのでネタバレ嫌な方は避けてくださいませm(_ _”m)

『光と影』は外題を見た時点ではわからなかったけど、始まってから、バテレン鬼十郎の話か!と気づいた。ほかの九州の劇団でも観たことがある。
そのときと異なっていたのは三兄妹の順番。今まで私が観たことのある芝居では、鬼十郎は長男。下に弟・妹がいた。でも九州男さんでは、鬼十郎は次男。兄の信吉(金沢伸吾さん)と妹の菊(九蝶香おりさん)に挟まれている。

良太郎さん演じる鬼十郎は美貌にシルバーの長髪をなびかせて、パッと見、ビジュアル系バンドのよう。鬼十郎というキャラクターの特異なダークヒーローぶりにとても合っていた。
バテレン(キリシタン)っていう名前通り。隠れキリシタンだった両親を幼い頃に島原の乱で喪い、兄・妹とも生き別れ、少年は裏街道を生きていつしか盗賊の頭になった――改めて書くと、まるでファンタジー漫画の敵キャラみたいな設定ですね。
(バテレン鬼十郎を演じる役者さん、記憶にあるのはいずれも黒マントや長髪など。かっこいい&ファッション縛りの少ない役なので、やっぱり見た目から気合いが入るんでしょうか(^^))

その長い銀髪が床につく。終盤、鬼十郎が舞台中央に座す場面だ。自ら両腕を重ねて突き出す。“自分を捕らえろ”と訴える。
「お前は重吉、弟の重吉なんだろう」
鬼十郎に向かって舞台右側から叫ぶのは、伸吾さん演じる生き別れの兄。役人になった兄は十手を握りしめている。
「兄さん、重吉兄さんなの?!」
舞台左側から縋りつくように声を上げるのは、香おりさん演じる妹。かたぎの妻になった妹の腕には赤子が抱かれている。

どちらにも顔を向けず、目を伏せた鬼十郎の低い声が響いていく。
「徳川の掟では、兄弟を同じ罪状に問うのを知らんのか。その掟あればこそ、決して兄とも呼べず、妹とも呼べぬ」
血の繋がった者の幸福を願えばこそ、感情を押し殺して。

泣く泣く兄が縄をかけると、
「バテレン鬼十郎を捕らえたと名乗りを上げろ」
と告げる。その口ぶりは動じない。涙も見せない。淡々と言葉を続け、
「見せてくれ、聞かせてくれ、それがこの鬼十郎、最後の願いだ――」

この時点で鬼十郎というキャラクターの骨格は“心を殺す”美学だ。鬼十郎が長男に設定されている芝居の場合、その忍耐ぶりが弟・妹を守る立場とぴったり一色に重なり、ひたすら悲しみに耐える姿が描かれていた。

けれど『光と影』の次男の設定では、もう一色が加わる。
引かれていくために立ち上がったとき、ふいに鬼十郎は兄にもたれかかる。ただ一度だけ、顔を兄の肩に埋める。甘えるように。
客席に見えているのは伸吾さんの横顔だけ。その目は切なく虚空を見る。やがて無言の弟の肩に両手を伸ばし、愛しそうに撫でさする。
この“弟”としての一瞬に、胸の奥で押し殺された幾百の想いがせり上がってくる。

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伸吾さんの兄・信吉役は、口跡の良さに加え、情が身体の中に灯っているように温かかった。

次の場面、鬼十郎は妹の方へ寄り、腕の中の赤子を覗きこむ。このときは兄らしく、涙する妹をくくられた腕で抱こうとするような体勢だ。

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香おりさんの妹・菊役。可憐さが光る。

三兄妹の言葉のない抱擁に胸を衝かれるのは、そこに本来ならそうありたかった“if”が広がっているからだ。キリシタン弾圧がなければ。兄妹がバラバラにならなければ――。
杉九洲男さん演じる上役の役人が、鋭い調子で言うセリフがある。
「かつて長崎で十字架を背負い、苦しんだ、悲しんだと聞いておる…それも大勢の人が!」
ここに物語全体の悲劇が収斂する。

大衆演劇の芝居は、道具や装置という点では潤沢な予算のある商業演劇に決して敵わない。良太郎さん含め、そのことをもどかしく思う役者さんは多いようで、
「ここにこういう仕掛けがあれば、もっと色々広がるのに」
と残念そうに口にされる。
もちろん舞台に立っている人が、より良い環境を望むのは当然だ。

けれど――道具や装置が追いつくことのない心のひだが、大衆演劇の芝居にはささやかに息づいている…と私は思う。
鬼十郎が兄にもたれかかった瞬間、舞台に広がっていった思慕の深さに、どんな大仕掛けが代わることができるだろう。

長い時間をかけて、旅芝居が各地の小屋を周りながら、吸収してきた観客の心。それらが一つのセリフ・一つの所作の中に、さぁっと再生されているのかもしれない。
だから、舞台の上にとってはいつも通りの何気ない場面でも、一観客の目には強く焼きついている。

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インパクト大だったキティのお着物!

本日、5月最終日。全国百数十の旅芝居の一座は、いっせいに移動日だ。九州男さんも大阪へ戻られて行った。横浜公演、お疲れ様でした&ありがとうございました!

場所は小さな小屋やセンターかもしれない。
持ち物は少ないかもしれない。
けれど各々の芝居の中にたくさんの宝を宿して。
さあ! 6月も、旅芝居がやって来る。

【劇団九州男 今後の予定】
6月 八尾グランドホテル(大阪府)
7月 堺東羅い舞座(大阪府)
8月 梅南座(大阪府)

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之二十四] 大川良太郎座長の語る今と未来「すべては大衆演劇を広めるため!」

たくさんの荷を背負って。なおきらめく人を、スターという。

≪ご自分の劇団を超えて、大衆演劇界全体のために、ひとり外の世界に打って出て、観客の層を広げてきたことに対する思いをお聞きしたいです≫
やっぱり難しいかな…? イヤ、でも、やってみる前から諦めるまい。
と思い、インタビュー依頼書には率直な気持ちを書いた。宛先は劇団九州男・大川良太郎座長。

【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之二十四] 大川良太郎座長の語る今と未来「すべては大衆演劇を広めるため!」



インタビューが実現したのは、まず仲介にご尽力して下さった方のおかげ。そして原稿整理や撮影の合間に、写真を提供して下さったカンゲキスタッフさんにも助けられた。
誰より、超多忙な劇場公演中に応じて下さった良太郎さんに大きな感謝を込めて。

(記事より抜粋)
――ただ、こういう世界があるんだってことを知ってもらう効果はありますよね。

そう、決して損ではない。僕はそう思って出てるんですよ。大衆演劇を知る機会自体、なかなかないと思うんで。

――ほんとに、大衆演劇の存在を知らないって人がまだ多いですもんね。

めっちゃ、いっぱいいます。ほんまに知られてない。この横浜公演も非常に厳しいですしね。今日も昼の部は大入りいただいたけど、夜の部の入りは50人弱かな? 考えたら、50人しか集められないっていうのはつらいですよね。やっぱり大衆演劇って弱いよなぁって思いますよね…。大衆演劇もね、歴史が長いのに、文化に入れてもらえないのが寂しいですね。歌舞伎とか、お相撲さんとか、日本の文化じゃないですか。

――本当はそういうところに入ってもいいですよね。

一時、「大衆演劇」っていう名前がダサいせいで、広まりにくいんじゃないかって思ったんです。「歌舞伎」ってカッコいい名前じゃないですか、それに対して…。だから新しい名前考えようって思ったんですけど、結局俺が言ってもなーって…(笑)


⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

美貌と王様みたいなオーラ、辺りを照らす陽気さ。今までそんなイメージを抱いていた良太郎さんは、とても頭の回転が速くて、こちらの拙い質問も1を聞けば10わかってくれる人だった。

ハッとした発言のひとつ。30代はじめ、商業演劇に積極的に出演していた頃を振り返って。
「結局、稽古のために、自分の劇団をひと月半とか離れるんで…。だんだんファンの中からも、最初の1年くらいは応援するみたいな形やったんが、やっぱ2年3年になってくると、大衆演劇を忘れたんやとか、もうそっちに行きたいんやろとか…そういうお言葉をいただくようになってしまって」

大衆演劇の外に向けて働きかければ、それだけ目立つ。出る杭は内外から打たれる。
挑戦するということは、いつだって向かい風だ。
それでも広いところを見て。大衆演劇の未来を見て。

記事用の写真を撮らせていただくため、三吉演芸場の一番後ろからカメラを構えていた。小さな花道から、よく響く声とともに良太郎さんが登場すると、客席がきゃぁーっとさざめく。
ああ、“華”ってあるんだなぁ…としみじみ思った。

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時代に咲く華。
私たちと同じ時代に、スターがいて良かった。

一方、ちょっと驚いたこと。
今月、三吉演芸場に足を運ぶ中で、印象深かった芝居が『光と影』だった。良太郎さん演じるバテレン鬼十郎はクールな悪党。生き別れの兄(金沢伸吾さん)と妹(九蝶香おりさん)に巡り合っても、自分の罪に兄妹を巻き込むまいと名乗らずこらえる…という役どころ。
よろりと場を離れた鬼十郎が一人涙する場面で。カッコいいクールな役だから肩だけ震わせたりして泣くんだろうか、と思いきや。
壁によりかかった良太郎さん。
…息の詰まったような嗚咽漏らして、呼吸困難ばりに泣いてらっしゃるー!

この、突如として芝居に全身を投げ打つところも。
“舞台”から決して離れない、彼の魅力なのだ、きっと。

三吉演芸場の公演も、あと1週間を残すばかり!

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