若葉劇団お芝居「木曽路の女」

2014.11.30 昼の部@大宮健康センターゆの郷

あの、若葉しげるさんに初めて会いに行った。
大宮ゆの郷、11/30(日)一日限りの、若葉劇団の特別公演。

「泣かせておやり!泣かせておやりよ。女にはね、一人っきりで泣きたいときがあるの。そんな簡単にねえ、『泣くな』なんて言わないで!」
ぎゅっ―!と胸を掴まれた。
お芝居「木曽路の女」の終盤のセリフ。
言うしげるさんの目は、大きく潤んでいて。
本当に苛立たしげに唇を震わせて。
“女”の役で女の傷に寄り添う姿は、なんて可愛い、なんて優しい。

若葉しげる総師(11/30舞踊ショーより)


「木曽路の女」は、原田悠里のヒット曲に発想を得て、しげるさんが立てられたお芝居だそう。
お芝居の端々に、木曽の御岳山を見上げて泣く女の風景が、染み込んでいるようだ。

しげるさんの役は傍観者的ポジションで、実質の主役は若姫劇団・愛望美座長だった。
女やくざ・不知火のお常(ゲスト・愛望美さん)は、三年の島送りから帰って来た。
島で舎弟にした三次(ゲスト・ビリケンさん)を連れて。
けれど一家に帰ってみれば、懐かしい兄弟分の姿はなかった。
「ここは、あたしが住んでるんだよ。前の持ち主から買ったの」
代わりに、謎の女(若葉しげる総師)が一人で住んでいた。

女に聞けば、お常のいた木曽一家はすでに散り散りになっていて。
お常と夫婦になるはずだった梅太郎(ゲスト・愛染菊也さん)は、労咳で死んだという。
「梅太郎さんの墓はどこだい、墓くらいあるはずだろ」
凍りつく答えが返って来る。
「死んだ後、簀巻きにして、滝に投げ込んだっていう話だよ」

梅太郎を葬らず、一家を売ったのは。
こともあろうか、お常の兄貴分にあたる賽の目の弥之助(ゲスト・山戸一樹さん)だった。
「あたしは、絶対に弥之助の兄貴だけは許せない…!」
恨みを晴らすべく、お常は三次を連れて、弥之助の下へ向かう。

…劇の途中途中、切ないのは、梅太郎の幻がお常を訪れることだ。
「梅太郎さん、あたしだよ、お常だよ。帰って来たんだよ」
「帰って来たら夫婦になろうって…ねえ、どうして死んじまったんだい」
照明を落として、浮かび上がるのはお常=望美さんと、梅太郎=菊也さんだけ。
菊也さんが左手、望美さんが右手に佇んで、観客席を見ている。
お常が梅太郎のほうを見ようとすると、幻は消えてしまう。
「ねえ、行かないで、こっち向いて、梅太郎さん!」
お常の心の底で、ひりひり疼く喪失が伝わって来る。

しげるさんの緻密な脚本を最も感じたのは、ラスト。
映画みたいなドンデン返しがあるのだ(未見の方のために詳しくは伏せます)。
結果的に、お常は残された愛の幻すら失ってしまう。
絶望にはたはたと涙を流すお常。
そこに付き従っていた三次が、
「姐さんには涙は似合いませんよ」
と言葉をかける。

すっかりお常に感情移入していたので、この一言はだいぶ腹立った…!
泣かせてあげてよ…!
三次役のビリケンさんは味わい深くて好きな役者さんだけど!

そこでしげるさん演じる女が、前述のセリフを言ってくれるのだ。
「簡単に『泣くな』なんて言わないで!」
そう、そう。
そう言って慰めてほしかったの。
泣いてる女の人が、泣き顔を筵に隠す時間を与えてほしかったの。
悲しい幕切れをわずかに救うのは、一緒に目を潤ませてくれる存在だ。

しげるさんには、女の人も男の人も、途方もない親しみを覚えるだろうな。
実際、舞踊ショーでしげるさんが出てきたときは、ゆの郷の常連さんたちから、「若葉!」「若葉!」と大歓声だった。
くるくる踊り回るしげるさんの、愛らしかったこと。

この日はもう一つ、望外の喜びがあった。
ゲストの一人、山戸一樹さんという名優を、知ることができた。

山戸一樹さん(11/30個人舞踊「人生一路」より)


山戸さん演じる賽の目の弥之助は、ある意味一番弱い役。
甘言にそそのかされ、一家の大事を乗りきれなかった。
「俺は酒飲みだったから、酒で頭が狂っちまってたんだろうな」
一家を売った罪悪感から逃れるために、今も酒に溺れ続けている。
ぽっかりと虚ろな目に、挫折が見える。

「お常、いっそ、お前の手で殺してくれ」
妹分の刃にかかろうとするも。
「ダメだ、お父っちゃんを斬らないで!」
飛び出してきた、まだ小さな娘・お花(子役さん。お名前覚えられず申し訳ありません…)。
この子のために、弥之助はまだ生きねばならない。

お常が立ち去った後、弥之助はお花に約束する。
「お父っちゃんな、酒、やめるよ…!」
泣き笑いのような山戸さんの表情が、焼きついている。

筵に隠れて泣くお常、酒瓶片手に千鳥足の弥之助。
何もかも失くした人たちは、それでも生きねばならない…。
土砂降りの向こう、またやって来る明日の哀しさ。

こんなお芝居の情景に浸れば、じんと胸から湧き出る、喝采。
――若葉!若葉!

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