新喜楽座お芝居「大江戸出世美談 新門辰五郎」

2014.6.29 昼の部@大島劇場

きれいな心の、きれいなお芝居。
役者の中村菊之丞(松川小祐司座長)は、汚いなりのおこもさんに、嫌な顔一つせず。
おこもさんが自分の贔屓になってくれると言うと、ありがたいと頭を下げる。
「どうか、末永く可愛がってやっておくんなさい」
「いただいたこの五文、どんな小判よりもありがたい…」

菊之丞役が肌に吸いつくような、芯からきれいな役者さんだった。

写真・松川小祐司座長(当日舞踊ショーより)


「大江戸出世美談 新門辰五郎」。
劇団によっては「稲川と新門」ってお外題でやっているところもあるとか。
“役者と贔屓”の関係を描いたお芝居だと知り、ずーっと見たいと思っていた。

役者・中村菊之丞(松川小祐司座長)は、上方から江戸に出てきたばかり。
芝居はうまいのに、知名度がないので贔屓がつかない。
大黒屋(金井保夫さん)にコケにされ、顔に傷までつけられて、屈辱に歯噛みしていたところ。
「あんたの芝居、すごいなぁ。大したもんや」
「わしが、あんたの贔屓になったるわ」
声をかけてきたのは、ボロボロの身なりのおこもさん・六助(松川さなえさん)だった。
菊之丞は、笑顔でお願いしますと頭を下げる。

六助は、実はおこも連盟(面白い設定だ…笑)の副会長だったので。
今度は、おこも連盟の会長(松川翔也副座長)が、菊之丞の家を訪れる。
「六助から、話を聞いてな。中村菊之丞っちゅうのがどんな役者か、確かめに来たんや」
「あんたの人柄が気に入った。わしも、あんたの贔屓したるわ」

菊之丞は喜ぶけど、弟子たちはドン引き。
菊之助(大和歩夢さん)も、菊太郎(松若さやかさん)も、汚い身なりの会長に嫌悪を隠さない。
「わしは、おこも連盟の会長やからな。わしが贔屓になったからには、あんたの芝居の客席に、全国のおこもたちをずらーっと呼んでやるからな!」
こんなことを言われれば、菊之丞師匠の名折れとばかり、弟子二人は真っ青になる。

だけど菊之丞は、ニコニコ笑って。
「へえ、ぜひお願いします」
このキャラクターはきれいすぎて、現実味がない…
――演じていたのが小祐司さんでなければ、そう思ったかもしれない。
小祐司さんの、可愛らしい笑顔で言われると、なんとなく腑に落ちる。
「ほら、菊之助、お客さんの履き物脱がして差し上げんと。弟子がえろう失礼いたしました」
セリフの言い方一つ、仕草の一つが、とても清廉な感じがする。

小祐司さんの演技をよく見ていると、菊之丞は完ぺきな聖者ってわけでもないみたいだ。
「贔屓と役者の盃や。飲まんかい。あちこちの居酒屋からもらってきた残り酒やけど」
と言って、会長に得体のしれない酒を差し出されると、流麗な眉が一瞬寄る。
やっぱり菊之丞だって、戸惑っているのだ。
でも次の瞬間、すぐに「いただきます」と笑顔で飲み干す。

「つまみも必要やな。これがあるわ」
と言って、会長の汚いずた袋から出て来るのは、剥き出しのちくわ(笑)
菊之丞はやっぱり一瞬顔が引きつるけど。
「おおきに。ほな、いただきます」と頬張る。

弟子たちはそんな師匠に呆れて、ついに「お暇をいただきます」と告げる。
「おこもさんに物もろうて、飲み食いするわしが、嫌か…そんなわしには、ついて来れんか」
さすがの菊之丞も、悲痛にうつむく。
それでも。
「なら、出て行け」
大事な弟子を失って、ひとりきり残されようとも。

菊之丞は、最初から、一点の曇りもない善人というわけではなくて。
身を削って、できる限りを尽くして、善人であろうと努めているのか…

この場面の小祐司さんは、並んだ歩夢さん・さやかさんのほうでなく、厳しい目線で虚空を見上げている。
まるで、言葉を自分自身の身の内に刻むみたいな、決めゼリフ。
「あの大向こうから、河内屋、菊之丞、とハンチョウかけてくださるお客様に、金持ちの大臣も、貧乏なおこもさんも、身分の上下はないんやで!」
弟子を失っても、貫くべきは。
心にあるのは。
菊之丞の人となりが、小祐司さんの醸し出す雰囲気と、さわやかに絡み合う。

小祐司さんは、2年前から、他劇団のゲストで何回か見たことがあった。
少し小柄な、ほっそりした体躯と、少女めいた顔立ち。
今年の1月1日から座長になったと聞いたときは、ちょっとびっくりした。
座長というと、みんなを引っ張る強い力が必要そうだけど。
あのちょっとおとなしそうな感じの人が、座長さんに?

この日、大島劇場の千秋楽で。
松川小祐司座長は、やっぱり少女みたいな美貌で、物腰柔らかだった。
だからこそ、きれいな中村菊之丞の役が、すんなりと身の丈にハマっていた。
内側にじっと思いをしまっているような、内省の深さが感じられるからこそ。
現実から浮くくらいに優しい役が、抜群に映えていた。

オマケ。
下の写真は、お芝居後の口上挨拶から。


お芝居の小道具に混ざっていた、テディベアを抱っこしての一枚。
普段口上の写真は撮らないのだけど、これは思わず激写。
こんなにテディベアの似合う成人男性は、なかなかいないと思う…!

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新喜楽座お芝居「信州決風記 小諸の夜嵐」

2014.6.28 夜の部@大島劇場

本当に死んでしまった、弟が。
自分で腹突いて、俺の言うとおりにして死んだ、死んでしまった、俺の弟が。
松川翔也さんの、目は愕然と見開かれ、唇はわなないていて。
表情から、そんな言葉が破裂しそうだ。

兄(翔也さん)が見つめるのは、突っ伏して動かなくなった弟(大和歩夢さん)。
先刻、腹突いて死んだ弟は、あどけない少年の顔をしていた。
そして、切腹を命じた兄も、まだ少年なのだ。
「銀次郎~!」
やくざ一家の親分という立場を忘れ、一人の兄として、声を限りに叫ぶ。

悲惨な場面なんだけど、翔也さんの絶叫が、不思議とみずみずしい。
…若さだなぁ!

写真・松川翔也副座長(当日個人舞踊「一千一秒」より)


私の友達で、新喜楽座がお気に入りという人が多いので、前から気になっていた。
すごいイケメン兄弟だとか、そのお母さんが素晴らしい女優さんだとか、花形のお芝居が好きという友達も。

「信州決風記 小諸の夜嵐」の幕が開いてすぐ、気づいて驚いた。
――これ、外題が違うだけで、劇団KAZUMAでいうところの「生首仁義」だ!
(私が大衆演劇にここまでハマったきっかけの芝居。かつて熱く語った記事はこちら)

血桜一家の三代目・銀次郎(大和歩夢さん)は、やくざなのに争いが嫌いで、気が小さい。
「何かあると、すぐに斬った張ったって…乱暴なことばっかりだ。だから、おいら、やくざは大嫌いなんだ」

血桜一家と敵対する横車大八親分(金井保夫さん)と、娘のおりゅう(松若さやかさん)は、三代目を陥れる。
三代目は、策略にまんまと引っ掛かり、おりゅうを無理やり茶屋に連れ込もうとした罪をでっち上げられてしまう。
「よくも、うちの大事な娘に手を出しやがったな」
「今日の七つまでに、血桜一家の縄張りよこすか、三代目の首を差し出すか、決めてこい」

兄の二代目(松川翔也副座長)は、弟の不始末に激昂する。
「銀次郎!お前、なんてぇ馬鹿な真似をしたんだ…先代から受け継いだ、この血桜一家の縄張りを!」
あろうことか、父親からの土地を守るため、実の弟に切腹しろと言う。
恐怖に泣く弟の手に、半ば無理やり刀を取らせる。

無慈悲にも見える二代目の行動。
父親への義理のため?
親分としての責任のため?

「銀次郎、お前みたいな甘ったれに育っちまったのも、無理もねえ」
――いや、二代目のセリフをじっくり聞いていると。
「親父は俺を厳しく育てても、お前は小さい頃から、ただただ可愛がられた…」
もっと単純な、父に溺愛された弟への嫉妬が混じる。

「赤ん坊のお前なら、親父にまたがって、その頭叩き割ろうとも、親父に許されただろう―!」
振り絞るような口調と、きりきり歪む翔也さんの横顔。
気弱な弟ばかりだけでなく、一見毅然とした親分の兄も、心にはまだ子ども時代が住んでいる。
演ずる翔也さんが、本当に若いのもあって(まだ20歳!)。
互いへの嫉妬や比較でごちゃごちゃ苦しむ、リアルな兄弟像が描き出される。

でも、小さい頃から一緒だった弟への愛情だって、当然あるのだ。
切腹の痛苦に呻く弟の声に、兄は背を向け、必死に両耳を塞ぐ。
そして遂に、背後で弟が絶命してしまったとき。
振り返った翔也さんの表情で、私は一気に涙が出た。

自分が死を命じたのに。
震える手に、自分が刀を握らせたのに。
いざ本当に弟が事切れてしまうと、肉親の死の重みを受け止めきれずに。
途方にくれた目で、わずかに首を振りながら立ち尽くす。

これまで、「生首仁義」の二代目といえば、成熟の中に悲哀が滲む、藤美一馬座長の演技しか知らなかったから。
翔也さんの、みずみずしい等身大の二代目は、とても新鮮だった。

それにしても翔也さん、感情が高ぶる箇所では「銀次郎~!」って声の限りに叫びまくっていた。
もうちょっと、抑え目な箇所もあってもいいんじゃ…?
ていうか、喉が心配!とハラハラ思っていたら、口上のときも、しばらくまともに喋れないほどだった。
そんな演技も、若さならではかな?

この物語に強いこだわりを持つ者としては、金井さん演じる横車大八のセリフで、こんなのを聞けたのも収穫。
「生首引っさげて、生首仁義と洒落こむつもりかい」
新喜楽座バージョンでは、「生首仁義」って言葉が入ってるんだ…!
この芝居のルーツが気になって仕方ない。

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