見海堂劇団お芝居「黒潮に叫ぶ兄弟」

2014.4.19 夜の部@ゆの郷

いわゆる“毒親”の悪役を見た!
「騙されたお前が、トンマなんだよ」
見海堂駿さん演じる、漁師の新兵衛。
酒びたりの日々の果てに、金に目がくらんで、息子に斬りつける。
まともな漁師だった頃の片鱗を思わせる、羽織の群青色が、よれよれ揺れる。

写真・見海堂駿代表(当日舞踊ショーより)


見海堂劇団は初鑑賞、ゆの郷も初めて。
土曜日の休日出勤のご褒美がてら、仕事帰りに足を伸ばして、お風呂と初めての劇団さんを堪能して来た。

お芝居「黒潮に叫ぶ兄弟」は、灯台守の弟・新吉(見海堂光副座長)と、兄・新太郎(風吹あさとさん)の兄弟愛を描く。
しかし、ストーリーを黒々と染めるのは、兄弟の父親の新兵衛だ。
駿さんは、酒焼けした肌色のメイクに千鳥足。
虚ろな目で、舞台にふらふら現れる。

浜を支配する高浜の親分(見海堂真之介総座長)は、新兵衛に儲け話を持ちかける。
「今年こそ、うちの一家が一番に大漁旗を揚げなけりゃ、うちは他の一家にやられちまう」「そこで、灯台の灯りを消して、海を真っ暗にしたいんだ。他の舟が彷徨ってる間に、うちの舟が真っ先に浜に辿り着けるようにな」
「新兵衛のとっつぁんよ、お前の息子の新吉が、灯台の鍵を持ってるだろう。その鍵を盗んで、俺の所に持ってこい」

――褒美に、十両やろう。
この言葉で、新兵衛の目の色がおかしくなる。

新兵衛は家に帰り、新吉から鍵をせしめようとする。
純粋な新吉は、「とっつぁん、それ、正気で言ってるのかい」と震え声で慄く。
「灯台の灯りが消えたら、漁師のみんなは真っ暗な中で灯りを見失っちまう。方向がわからなくなって、舟がひっくりかえったりして、死んでしまうかもしれないんだぞ」
だが新兵衛は、馬鹿馬鹿しいと言わんばかり。
「それがどうした、俺の知ったことか」

兄の新太郎も、「楽な暮らしがしたいなら、これから俺たちが一生懸命働いて、親孝行するから」と懸命に訴える。
それでも新兵衛は、ふんと鼻を鳴らして。
「この先どんなにお前たちに親孝行してもらったところで、十両なんてまとまった金が手に入ることは二度とないだろうよ」

駿さんの眼差し、唇の動き、一つ一つに、どろりとした欲望が絡みつく。
「鍵、鍵を持って来たぞ、早く金をよこせ」
新吉から鍵を奪い取り、高浜の親分の元に駆けつける。

鍵を追って来た新太郎が、覚悟を決めて父に刀をかざせば。
「すまんかった、実は高浜の親分に脅されて、鍵を盗んでこなければ殺すと言われ…」
ベタベタな泣き落とし。
駿さんが、唾を頬になすって涙に見せる動作が、笑いどころなのにぞくりとする。

そして刀を下ろした新太郎に、新兵衛は背後から斬りかかる。
…思わず私は、口を押さえてしまった。
大衆演劇では、親子の情愛は絶対的セオリーだと思っていたから。
新兵衛にも、物語の最後では改悛が訪れるのではと、想像していたのに。
予想を軽々と裏切って、昏く笑う、駿さんの横顔。
毒のような父親像は、強烈な印象を残していった。

それから、もうひとかた。
見海堂真之介さんの高浜の親分役にも、見ている側を不安にさせる、ほの暗さが漂っていた。

写真・見海堂真之介総座長(当日舞踊ショーより)


「うちの一家は、最近やられっぱなしだなぁ…」
ほっそりした高浜の親分が、白い着物で舞台に出てきたときから。
なんだか心をざわめかせる、言葉にしがたい恐さを感じていた。
しばらくして、真之介さんの涼しげな目元の上に気がついた。
わかった、眉を描いていないんだ!

眉のない顔には、何か心を不安定にする恐さがある。
真之介さんを見ていたら、中学生の頃大好きだった映画「ロード・オブ・ザ・リング」の、蛇の舌グリマという悪党を思い出した。
演じていたブラッド・ドゥーリフさんが、グリマの不気味さを表す手段を試行錯誤した末に、「眉のない顔」に辿り着いたとインタビューで語っていたのだ。

真之介さんの高浜の親分と重なったのは、ただの偶然だとは思うけど。
欠けた顔のバランスが、精神の欠落を象徴しているかのようで。
「新兵衛よ、お前の息子は別に殺しちまってもいいんだな?」
駿さんのどっぷり黒い悪役とまた違った、じわじわ忍びよる恐さだった。

いつも主役の座長さんが、悪役を演じるのって、いいよね…。


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