まな美座お芝居「質屋の娘」―死ぬまでお前を―

2016.4.21 @メヌマラドン温泉ホテル

一人で退屈そうに土を蹴る。
次は一人でけんけんぱ。
大きな質屋の娘・お福ちゃん(里見剣次郎さん)が遊んでいる。
つまらなそうに拗ねた顔で、朱色の振袖をフリフリ揺らしながら。

「幼い頃の高熱で、お福はあんな身体になってしまった」
「姿はもう20歳だけれど、頭の中は5、6歳の子どもとおんなじ」
お福の母(島崎寿恵座長)が語るように、大きな幼児を思わせる一人遊びが続く。

里見剣次郎さん

(芝居後の口上のお写真。可愛くて元気なお福ちゃん、演者が成人男性なのを忘れます)

どーしても、まな美座さんがメヌマに居てくれる4月のうちに、もう一回観たい!
…というわけで会社員の最終手段・有給休暇を駆使して、観劇仲間2人とメヌマへ。
当たった芝居「質屋の娘」、終盤の場面は、ずっとずっと心にとっておく財産になりました。

いくら頭の中身が子どもだって、お福ちゃんだってもう大人。恋もする。好きな人ができた。優しい手代の進次郎(市村新さん)だ。
娘の恋心を知った母は、進次郎に頭を下げて頼み込んだ。
「進次郎、どうかお福をもらってくれないだろうか」
「お福はあんな子だ、外に女を作ってもかまわない。でも家に帰って来たときだけは、あの子にニッコリしてやって、優しい言葉をかけてやってほしい…」
進次郎は恩ある女将の頼みとあって、「わかりました」と了承した。

女将は破顔一笑、歓喜に顔を崩して。
「ああ!よかった、よかった…!ああ、なんて嬉しい日だろう。今日はもう仕事どころじゃなくなった!」
心底安心した!という寿恵さんに、母親の愛情が打ち響く。このお母さんが頭の弱い娘の将来のことでどれだけ心を砕いてきたか、その喜びっぷりでわかる。

島崎寿恵座長
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(この日の個人舞踊は『くらやみ橋から』。作り出す物語性が圧巻!)

でも実は、進次郎には想い合う相手がいたのだ。それがお福の世話係りのお小夜(夢一途さん)。
「お福お嬢様、どうかお幸せに…」
お小夜はお福の幸せを願い、身を引こうと決めた。その折たまたま、お小夜の姉(媛野由理さん)が、病気の母の薬代のためにお小夜を訪れる。夜、お小夜は姉を追って、質屋を出て行ってしまう。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
このシーン、恋しそうに姉を呼んで舞台をはけていく一途さんがとっても良かった!

夢一途さん
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(暗いお写真になってしまいましたが、晴れやかな笑顔がかわいい!)

奉公先で恋を諦める決意をし、身の置き所がなくなったとき。
久しぶりに触れた姉の温もりに、家族のところへ無性に帰りたくなる…そんなお小夜の心細さが、短い呼び声でぴりっと伝わった。

進次郎はお小夜が残した置き手紙に気づく。
大慌てでお福を呼び、真実を話す。
「お福お嬢様…申し訳ありません、私は嘘をついていました。実は、私はお小夜さんが好きなんです」
だがお福は能天気な笑顔を浮かべたまま。
「でも、進次郎はお福のことも好きなんでしょ?」
「はい」
「じゃあ、進次郎と、お福と、お小夜と、三人で一緒になろ?」
「ああ、三人で一緒になることはできないんです。お福お嬢様への好きと、お小夜さんへの好きは違うんです」
「どう違うの~?」
なんと言えばお福に伝わるのか…考えあぐねた進次郎は、あえて本心にないことを言う。
「お福お嬢様なんか、大っ嫌いです」
ショックで呆然とするお福に、進次郎は平身低頭で謝る。

でも、お福ちゃんは心のきれいな子だったので。
ショックから立ち直ると、自分が着るつもりで引っ掛けていた花嫁衣裳を、進次郎に渡してやる。
「これ、お小夜に持っていって」
さらに、店のお金もどっさりと進次郎に押し付ける。
「持っていくの!早くお小夜を追っかけて!」
進次郎は恐縮しながら、お小夜を追っていった。

「進次郎、行っちゃった。お小夜もいなくなっちゃった。お福、一人ぼっちになっちゃったー…」

ぽそりとつぶやいて、一人遊びを始めるお福。
うつむいて、つま先でポンポンと地面を飛ぶ。
剣次郎さんの醸す、小さな少女の情景。

家の中から、娘のそんな姿をのぞき見て。
母はわなわな手を震わせ、声を出さずに泣き崩れる。
それでも涙を振り絞り、どうにか心を落ち着けて。
暖簾の隙間から、いないいないばあのポーズをしてみせる。
「お福ちゃん、かわいいお福ちゃんは、どこですかー…?」

この母娘の空間だけ、時間が止まったみたいだった。
子どもはみんな大人になって、働いて、恋をして、親元を去っていく。まさに進次郎とお小夜のように。
でもお福の頭は5歳。いつまでも子どものままで、母の傍にいる。

「お母様、長生きしないでね」
振袖姿でコテンと座り、真剣なお福の横顔。
「お母様、お福のためにずっと苦労ばっかりしてきたから、あんまり長生きしないでほしいの」

お福の思いに打たれ、母は滂沱の涙を流す。
「この子がこんなことまで考えていたなんて…」
寿恵さんは一つ一つのセリフごとに肩を震わせ、膝を叩き、自分に言い聞かせるように。
「バカだったのはあたしのほうだ。世間の目なんか気にして」
「もう、死ぬまでお前を放さないよ。お前が嫌だと言ったって放しやしないよ」
やがて気丈に涙をぬぐい、すっきりとした表情で告げる。
「でもね、お福。悪いけど、あたしはうんと長生きをするつもりだから。お前には付き合ってもらうよ」
「泣いても一緒、笑っても一緒。どうせ一緒なら、笑って生きたほうがいい」

観劇仲間はみんな、親子ものの芝居にめっぽう弱い。終演のときには、私たちのテーブルは涙、涙で大洪水に(笑)

大衆演劇の芝居は、時折、観客席にうずく痛みを映し出すことがある。
お福ちゃんのような家庭が、現実社会にもたくさんあることだろう…
この世に用意されている表通りは、あんまり狭い。
世間から貶められて、それでも生きてきた人間の爪痕を、芝居が抱きとる。芝居を通して、私たちはこの世に出会う。

ぴょんぴょんと、元気に揺れる振袖。
“かわいいお福ちゃんは、どこですか?”
芝居を貫く、温かなまなざしと。
まな美座の一人一人が見せてくれた、情こぼれる演技。

質屋の屋根の下、しっかりと抱き合う母娘の風景を、何度も思い出す。
“もう、死ぬまでお前を放さないよ”
それはまるで、希望を含んだ一枚の絵みたいだ。
“お前が嫌だと言ったって放しやしないよ…”

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之拾弐]・熊谷で震えた!「まな美座」心の芝居

メヌマラドン―て、なんだか恐竜みたいな響きですね。ラドン。
そこへ2年ぶりに来てくれたまな美座!
ストンと体に落ちるセリフの一つ一つが、心地いい。
伸びやかな手足の一振り一振りが、気持ちいい。
アットホームな温泉旅館の空気のひと粒ひと粒が、肌にやさしい。

『わたしだけの戦争 つげの櫛』が終わって振り返ると。
友人たちがみんな目を真っ赤にしてボロボロと泣き、そこのテーブルだけ大惨事みたいになっていた(笑)

私たちと同じ時代に、この劇団さんがいてくれることの喜びを、書かせていただきました。

大衆演劇の入り口から[其之拾弐]・熊谷で震えた!「まな美座」心の芝居

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きらびやかな衣装より、豪華な舞台装置より、ただ魂震わせる芝居が観たい。そんな方は、ぜひ一緒に「まな美(び)座」を観に行きましょう。

3/12(土)午前11時、JR熊谷駅の改札前。筆者含め4人の大衆演劇ファンの友人が集まった。見合わせる顔は、それぞれやや眠たげ。東京住まいの筆者の場合、熊谷に来るまでに2時間かかる。それでも休日の朝の電車に揺られてやって来たのは、この熊谷で3月・4月公演している、「まな美座」の芝居が観たい一心だった。メンバーの一人の車に乗り、熊谷駅から20分程度の「メヌマラドン温泉ホテル」へ向かった。

アットホームな温泉旅館だ。足を踏み入れると聞こえるのは、地元の常連さんや団体客の宴会、楽しそうなカラオケの歌声。そこに流れてきたアナウンス。

「ただいまより、まな美座のお芝居を開幕いたします」

女性座長・島崎寿恵(しまざきひさえ)さんの声だ。ここでの公演は2年ぶり。2年前、寿恵さんを初めて拝見したとき、役が体に細やかに憑依しているような演技に驚嘆した。いよいよ3/12(土)の芝居『わたしだけの戦争 つげの櫛』の幕が開いた。

⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

大衆演劇はかつて、前狂言があって切狂言という芝居2本立てが基本だったそう。
さらに、前狂言・中狂言・切狂言という芝居3本(!)の時代もあったとか…
(なんて贅沢な…)
旅芝居の数少ない資料をめくると、食い入るように芝居を観る観客の様子が写真に残っている。

もちろん現代だって、それぞれの劇団さんは華やかなショーをしつつも、芝居を大切にしているけれど。
当時の旅芝居は、名前通り芝居がすべてだったのだなぁと思う。
舞踊は、芝居をする役者さんが“踊っている”という、プラスアルファのお楽しみであって。
芝居こそが根幹であり、息吹だった。
観客もずずっとその中にもぐりこんで、物語の中で息をひそめた。
その時代を私は知らない。

けれど、まな美座の寿恵さん、剣次郎さん、新さんたちの姿を観ていると。
その昔から今までの時間が、舞台に一直線に流れているのを感じることがある。

里見剣次郎さん(2016/3/12)
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きりきり立つ身体の線の美しさ。

島崎寿恵座長(2016/3/26)
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流れる身のこなしの中に、情がぽっと燃える。

ここにある身体は確かに、あの時代の続きなのだ…
その舞台をまぎれもない現代の役者さんが、現代の私たちに見せてくれていることが、とてつもなく嬉しくなるのです。

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まな美座お芝居「祭り太鼓に泣く親父」・2

2014.4.12 @メヌマラドン温泉ホテル

島崎寿恵さんの圧巻の演技について、ウキウキ語っている①はこちら。
今回は、芸達者な男優さんお二人の話をしたいです。

まず、里見剣次郎さん。
(0481.jpやブログでは剣次郎さんが座長となっている)

剣次郎さん演じる佐太郎親方が、舞台右手から現れて、第一声。
子方の大工・虎五郎を、少し困り顔で注意する。
「虎五郎、お前はまた…」
…その一言で、極めて良い声にびっくりさせられた!

写真・里見剣次郎さん(当日個人舞踊「黒い花びら」より)


「ねえお島、あの人は、私にとっては大事なおとっつぁんなんだよ」
ただ聞きやすい、きれいなテノールの声というだけではない。
体の底から出て、確かな重みを持って響く。
一方で、ターンと風を打つような爽快さがある。

まな美座の芝居はDVDで見ていたから、剣次郎さんという方は良い声なんだなぁと思っていたけど。
生で聞くと全然違う!全然!

「お鷹は私が苦しいときに、一緒にいてくれた。苦労を半分にしてくれた。それなのに、私が仕事ばかりで淋しい思いをさせてしまったのがいけないんです」
「おとっつぁん、またいつでもうちに来てくださいね。今度はおっかさんも一緒に。おとっつぁんが来ないときは、私たちが迎えに行きますからね」

劇中、剣次郎さんが喋る箇所は、自然と真剣に耳を傾けていた。

私はお芝居での声にやたらこだわりが強いので、ちょっと余談。
最近読んだ演劇の本に、あるフランスの名優が、レストランのメニューを読み上げただけで人々を感涙させたという説話が載っていた。
これは伝説じみてるけど、良い声を持つ役者さんって、本当に何を言っても心に響く。
このブログで書いたことのある美声の持ち主といえば、劇団花吹雪の桜春之丞座長とか、剣戟はる駒座の宝華紗宮子さんとか。

初めて見た里見剣次郎さんも、頭の中の“美声の役者さん”カテゴリに入れておこう。

それから、子方大工・虎五郎を演じていた市川新さんも忘れがたい。
虎五郎と、寿恵さん演じるとっつぁんが酒盛りする場面は、私的に一番見応えがあった。

写真・市川新さん(当日舞踊ショーより)


寿恵さんが、頭から足の先までお爺さん!という感じの憑依っぽい演技なのに対して。
新さんの演技には、虎五郎役との間に少し距離を置いた、冷静さが絡まっている印象だ。

「いけねぇ、忘れ物しちまった」と親方の家に戻って来て、一人留守番していたとっつぁんと鉢合わせ。
「やい泥棒、何やってんだお前、勝手に酒まで飲みやがって」と観違いして騒ぐも。
親方の舅だとわかると、「すみませんでした、おとっつぁん」と地に伏してぺこぺこ。

そんな、うっかり者の虎五郎のキャラクターだけど。
新さんのセリフ回しは、どこか茫洋として、頭からのめり込まない。
でも、なんだか、茫洋さを保ったままの独特の勢いがあるのだ。

たとえば、べろべろに酔った虎五郎が、とっつぁんにも次々と酒を注ぐ場面。
「飲みねぇ飲みねぇ、寿司食いねえ、あ、ごめんちょっと零した、さぁ飲みねぇ」
“ちょっと零した”と言いつつ、演技なので徳利もおちょこも空っぽ。
新さんの創り出す、つかみどころのないペースは、のんびりしているようで、虎五郎の酔い加減に合わせて段々加速する。
「酒癖が悪いのう、お前…」と困惑顔のとっつぁんと一緒に、舞台全体が虎五郎のペースに巻き込まれていた。

最後に、4/12(土)は、舞台以外でもとっても幸せなことがあった。
昨年夏に客席で知り合った群馬の友人と、再会できたことだ。
「ショーがどんなに華やかでも、やっぱりお芝居が良くないと」と、各劇団のお芝居を重視する彼女は、群馬や東京に来る劇団のお芝居を、常々しっかり見ている。
開演前に、彼女とお芝居トークで盛り上がれたのは何よりの喜びだった。
「主役が手前で喋っているとき、後ろの方でちゃんと“話を聞く演技”をしている若手さんには目が行くよね!」
と私が言うと、共感してもらえたのが嬉しくって。
改めて、ありがとう!

まな美座、熊谷は遠いけど今月もう1回くらい、なんとか行けないかな…。

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まな美座お芝居「祭り太鼓に泣く親父」・1 島崎寿恵さんの父親役

2014.4.12 @メヌマラドン温泉ホテル

昨年10月から、まな美座は気になる存在だった。
「芝居が好きなんだったら、来年3月に旗揚げする、まな美座は見た方がいいよ」
昨年9-10月、劇団KAZUMA東京公演に指導に来ていた美影愛さんに、そう伺っていたからだ。
(以前美影さんについて書いた記事はこちら)

東京からローカル線を乗り継ぎ、熊谷駅からバスに揺られ、三ツ橋バス停からてくてく徒歩、合計で片道3時間。
メヌマラドン温泉のピンクの壁が、目の前に現れたときはかなりの達成感があった。
わりと朝早めに着いたけど、大広間では既に地元のお客さんたちが、お風呂グッズを手に、輪になってお喋りしていた。

「寿恵さん、この人は本当にうまいから」
美影さんに何度も名前を聞いた女優さんを、ようやく見れた!

写真・島崎寿恵座長(当日個人舞踊「くらやみ橋から」より)

(0481.jpでは寿恵さんは指導となっているけど、4/12(土)に座長として口上挨拶されていたのは寿恵さんでした。なので島崎寿恵座長と表記しています)

「祭り太鼓に泣く親父」の寿恵さんは、まさかのお爺ちゃん役!
頬をこけさせたお爺ちゃんメイクに、ぱちぱち瞬く目が可愛い。
ひょうたんとおかめが描かれた履き物がユーモラスだ。

寿恵さん演じる老いたとっつぁんは、江戸に嫁いだ娘・お鷹に会いに、田舎からはるばる娘の嫁ぎ先へやって来る。
「ああようやく着いた、本当に会えた、会えた、婿殿!」
娘婿の佐太郎(里見剣次郎さん)に迎えられて、歓声を上げる。

佐太郎は、腕のいい大工の親方になっていた。
その評判を聞き、とっつぁんは上機嫌だ。
「ここまで来る途中、人に案内してもろうたんじゃが、婿殿のことを、若いのにあの人は大したもんじゃと言うとったぞ」
それになぁ、と照れ混じりに続ける。
「わしの娘のことも、褒められた褒められた…。佐太やんの成功は、半分以上が嫁の力じゃとな」
“あの家の女将さんは素晴らしい”と人から褒められて、とっつぁんは娘のお鷹が誇らしくって仕方ない。
演じる寿恵さんの全身から、娘への慈しみがいっぱいに滲み出てくる。

喜色満面のとっつぁんは、気づかない。
佐太郎の顔が、ずっと曇っていることに。

佐太郎が出かけ、とっつぁんが一人留守番をしていると、子方大工の虎五郎(市川新さん)が戸を叩く。
一緒に酒盛りしたのが間違いだった。
泥酔した虎五郎の口から、真実が飛び出してしまう。
「親方も、前の女房はろくなもんじゃなかったぜ、あのお鷹のやつはよ!それに比べて今のお島姐さんは、観音菩薩だよ、ホント」

とっつぁんの顔が凍りつく。
喜劇から哀歌への転調。

全ては、とっつぁんの誤解だった。
“嫁の力が半分以上”
寄せられた賛辞は、佐太郎の後妻のお島(夢一途さん)へのものだった。
お鷹は、浮世絵師と浮気し、佐太郎の金を持って駆け落ちという恥知らずを犯した後だった。

喜びに満ちた前半の分、後半の哀しみはひたひたと染み入る。
「たとえどんなに出来の悪い子であっても、お鷹はわしの娘じゃ。わしにとっては、たった一人のかけがえのない娘なんじゃ」
寿恵さんは瞼をきつく閉じて、体を震わせ、両手を重ね合わせて。
親心の悲しさ、盲愛の愚かさまでありありと紡ぎ出される。

佐太郎とお島の夫婦は、お鷹との縁は切れても、とっつぁんとの縁は切れないと言う。
「いつでも、うちにいらしてくださいね」
優しく言うお島を見つめ、とっつぁんはぽつりとつぶやく。
「優しいのう…わしの娘があんたのようだったなら…」
夕闇の中、遠くからぴぃぴぃと祭りの楽器の音が響いてくる。
親子の風景は、祭りの浮かれ気分に取り残されたような寂寥に包まれる。

幕が閉まる直前、田舎に帰って行くとっつぁんのぼやきが印象的だった。
「付けた名前が悪かったかな…お鷹なんて名にしたから、どこへ飛んでいったかわからんようになってしもうた。お亀とかにしておけばよかったかもしれん」
客席になだらかな笑いの波が起きた。
「お鷹よ、お鷹よう…」
寿恵さんが目を潤ませながら、杖にすがるように、舞台袖の道をはけていく。
田舎から出てきた娘思いの父親は、悲しくて、でもユーモラスで、同情すべきで、同時におかしい。
悲しすぎず、笑いにも転がらず、そのさじ加減が見事だった。

そして寿恵さんの口上挨拶の丁寧なこと!
「お客様の少年・少女のような笑顔を見るのが、私にとって何よりの喜びでございます。今日は宝物のような日になりました!」
最前列に座っていたので、寿恵さんのきらきらした目を間近で見られた。
若者のような勢いのある語り口に、一気にこの方を好きになってしまった。
送り出しで少しお話ししていただくと、
「東京からわざわざ、ありがとうございます」
パッと心に飛び込んでくる朗らかさ、笑顔の大きさ。

そんなわけで、寿恵さんがあまりに圧倒的な存在感を放っていたけど。
里見剣次郎さんと市川新さんの巧さにも目を見張った。
②に続きます。

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