2016舞踊ベスト5 ―人生の玉手箱―

今日はどんな舞踊に出会えるだろう? もしや、人生をドッカンと揺るがしてくれるような一曲があるかもしれない。大衆演劇ファン5年目の今年も、舞踊ショーが始まるときは、やっぱり期待しながらカメラを構えていた。
格別に心に残ったのは、曲の持つ物語と、役者さんの生き様が、互いに響きあう5本。

★たつみ演劇BOX・辰己小龍さん『夢やぶれて』(2016.1.10 夜の部@三吉演芸場)

夢は帰らない――
2015年10月のお誕生日公演で初披露だったという、小龍ワールドの傑作。初演を観た友人が感動をブログに書き記していたので、私も早く観たい!と思っていた。だから三吉演芸場に『夢やぶれて』のイントロが流れ出したときは、き、来たぁ!と興奮しきり。


“私は夢みた 希望高く生きて 愛はいつまでも 神に許されると”
曲の序盤は笑顔いっぱい。愛に満たされた幸せな女が、くるくるピンクの着物を翻らせる。
でも幸福は、突然打ち砕かれる。

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“夏あの人来て 喜びあふれた 私抱いたけど 秋にはもういない”
恐れ。喪失。絶望。愕然と自身を見下ろす女は、道が崩れていく音をなすすべもなく聞く。

“待ち続けてるわ あの人の帰りを”
小龍さんの小さな身体が舞台に倒れ、悲しみの底を這う。

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“夢見た人生 今地獄に落ちて”
やがてピンクの華やかな着物は真っ黒に変わり、赤い傷跡だけが残る。

小龍さんいわく、この曲は娼婦のイメージなのだと。最初は高級な娼婦だったものが、一人の人を愛してしまったために、年老いて傷ついて、娼婦でも生きられない最低のところに落ちてしまう…そんな物語なのだそうだ。
ということは、彼女の絶望は直接的には恋人を失ったことなのかな…? けれどその向こうに、“何かにやぶれること”そのものの心象が広がっている。震える指先や、夢の残骸を追って駆け出す足にまとわりつく、もう帰らない私、もう戻らない日々――

『夢やぶれて』は喪失に終わる物語だけど、演者のほうは希望いっぱいだ。2016年、小龍さんはさらに積極的にご自身を打ち出してくれるようになった気がする。11月の梅田呉服座公演ではついに小龍dayが実現したり、ブログを始められたり。
2人の弟座長の傍らで、女優さんは。絶え間なく生まれる何かを握りしめて、また新しい扉を開いていく。


★三河家諒さん『浜唄』(2016.3.20 昼の部@梅田呉服座)

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恋川純弥さんの1か月座長公演での一幕。三河家諒さんは舞踊ショーの最後の登場だった。彼女の後ろ姿が現れた瞬間、観客がわっ…!と沸いたのが忘れられない。この人の凄さに多くの人が期待していた。
“待ってました!”
大きな拍手は、そう言っているよう。お人形のような精微な姿が、くるりと振り返った。満員の客席を見渡して、諒さんはニカーッと笑った。
“お待たせしました、私が三河家諒や!”
気風の良い、いたずらっぽいまなざしで両腕を開く。客席を包み込むように。

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踊り始めた『浜唄』は、凛然としていた。
“朝だ船出だ 錨を上げろ 沖じゃ秋刀魚が待っている”
勇ましい漁師たちの姿を描き出しながら、飄々と楽しげに舞う。見れば、諒さんの足元は裸足だ。踏みしめられるのは浜の砂。磯の香りが漂ってくるようだ。

“陸で手を振る恋女房に 照れて笑って 綱を巻く”
男の中に女ひとり。稀有な才を磨き続けてきたこの方は、女。
大衆演劇の世界で、ショーのトリを務め、お客さんから“待たれる”存在になるまで。この女優さんはどれほど一人で走ってきたのだろう。

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パチっと打ち鳴らされる手。浜の女房らしく、小気味よく。
“二千年 二万年 浜じゃこうして 浜じゃこうして 生きてきた”
女はこうして生きてきた。
三河家諒は、生きてきた。


★劇団炎舞・橘炎鷹座長『花道ひとり旅』(2016.6.4 夜の部@浅草木馬館)

炎鷹さん、涙を流しながら踊っていらした。
浅草木馬館公演4日目、早くも座長出ずっぱりの『炎鷹まつり』。ぎっしりと埋まった客席に、ひとつの役者人生がぶつかってきた。

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“楽屋で産まれて舞台で育ち いつか覚えた立ち回り”
“(セリフ) 五つで初舞台。色んな舞台を回ってきました。
東京、横浜、大阪、広島、九州。そして今日皆さま方と、本当にありがとうございました。”


私が炎鷹さんを初めて観たのは3年前。芝居でのセリフ回しや、呼吸や、姿の整い方は、大衆演劇にわかファンだった私にも、肌感覚で巧さを飲み込ませるような芸だった。まなこには気迫が走っていて、聞いていた通りの天才だった。

再会はそれから2年後、2015年秋の関東公演。
驚いた。こんなに温かい舞台を見せてくれる役者さんだったのか…。
技巧はそのまま、けれど記憶よりずっと情に満ちた芝居ぶり。まあるい輪郭に笑みを乗せて、愛情いっぱいに客席を見つめる。
この間、舞台裏でどんな苦労があったのだろう。劇団メンバーもずいぶん入れ替わったようだ。もしかすると、辛いこと、うつむかなければいけないこともたくさんあって。痛みの中で、天才の芸はゆっくり変わって、優しくひらく花になったのかもしれない。

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“役者の子供と馬鹿にされ 涙こらえた事もある”

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“俺はそれでも旅役者 夢を背負って 花道ひとり旅”

2016年、劇団炎舞の東京公演は予想以上の客入りだったようで、篠原演芸場の千秋楽が一日延ばされるほどだった。2017年夏も浅草木馬館(7月)・篠原演芸場(8月)の公演が決まっている。


★劇団KAZUMA群舞『焼酎の唄』(2016.11.24 昼の部@三吉演芸場)

この歌に、こんな風景が作られるなんて。

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“飲んで飲んで飲んで焼酎”
“飲んで飲んで ほどよく飲んで”

定番曲の『焼酎の唄』。ノリが良くて歌詞がいかにも酔っ払い(笑)。大体の役者さんが立ちで、酒瓶持って踊られるかな? 単純に楽しい曲だと思っていた。
けど三吉演芸場のミニショートップ、幕が上がると、そこにあったのは小さな茶屋の風景。リズミカルに踊る千咲大介さん(中央)の後ろで、ほろ酔い気分の人々が酒を交わしている。

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吞み助っぽい男、その誘いをサラリとかわす小町、淡々と仕事する茶屋の男がいたり(左からひびき晃太さん・千咲凛笑さん・藤美真の助さん)

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酒瓶抱えて、退屈そうに煙管を吹かす男がいたり(龍美佑馬さん)。

のんきそうな人々の日常の中、軽快なメロディが転がっていく。
“飲んで飲んで 明るく飲んで”
“焼酎よ ありがとう”

定番曲がまったく新しく見えた。

Twitterで、大介さんのお誕生日公演の演目でしたよ!と教えてもらったので、送り出しで確認することに。大介さんに撮影した写真を見せながら、大介さんの発案なんですか?と伺ったら、「はい、そうです!」。風景っぽくてすごい驚いたんです!と興奮気味にお伝えすると、「そうですね、ちょっとお芝居っぽくしようかと」と頷かれていた。

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大介さんはこういうセンスがとても鋭い。劇団KAZUMAにこの役者さんが来てくれてから2年。「劇団千咲の座長です」。毎回、藤美一馬座長はメンバー紹介で大介さんをこう紹介する。いずれはご自分の劇団を再開させて、いなくなってしまう日が来たりするんだろうか…。
KAZUMAの舞台に新鮮な風を吹き込んでくれた、伸びやかな発想の持ち主だ。


★大川龍昇さん『新無法松の一生』(2016.1.16 夜の部@オーエス劇場)

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この舞踊を最後に持ってきたのは、5本の中でもベスト・オブ・ベストだから。2016年といわずこれから先も含めて、観劇ライフの財産をいただきました。大川龍昇さんの無法松。

“啖呵切るより手のほうが早い 無法松よと なじらばなじれ”

車夫の松五郎が、小さな頃から“ぼんぼん”と猫可愛がりしてきた少年。でも少年は成長するにつれ、松五郎の荒っぽい姿や無教養を恥ずかしがるようになる。外で自分をぼんぼんなんて呼ばないでくれと、学生服姿で嫌がる。

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“なしてぼんぼんに ぼんぼんちゅうたら いけんとな”
“なしてぼんぼんに 吉岡君とか吉岡殿って云わにゃいけんとな”


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“おいさんはのぉ ぼんぼんがごげゃん小まかぁとっから 育てちきたっとぞ”
節くれだった手で、子どもの頭を撫でる仕草をする。涙を浮かべて、なして、なしてと呼びかける。
嘘を知らない車夫は、子どもを全身でいとおしんだ。

太鼓の撥を腰に差し、手拭いを握りしめて、オーエス劇場の花道をよろよろ歩む。

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“そりゃぁ確かに ぼんぼんは大きゅうなった”
“ばってん幾つになっても おいさんからみたら ぼんぼんはやっぱり ぼんぼんばい”


個人舞踊の時間、ほぼ10分あったのではないだろうか。何かを背負っていらした。龍昇さん自身の長い役者人生の何か。あるいは、ほっそりとした身体にこだまする、世の片隅に捨てられていく者たちの呼び声。
今でもこの舞踊だけは、書きながら写真を眺め返していて、涙が出てくる。

大衆演劇の舞踊は、多くの場合、踊りとして完成しているわけじゃない。けれど一曲の中に、歌詞の心と、演者の息吹と、客席から吹き上がる熱気が全部ひとまとめに結晶している。
人生を映す舞踊ショーは、真剣に観るほどハッと宝の見い出せる、玉手箱のようです。

⇒≪2016芝居ベスト5≫も書きました

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2016芝居ベスト5 ―空を仰いで―

炬燵でごろんごろんする年末を過ごしています。一年のうちこの時期だけは、役者さんたちもリラックスできるのでしょうか?
暑い日も寒い日も、台風の日も雪の日も、全国の劇場・センターで繰り広げられた熱演。一年間休みなく走り続けた、すべての役者さん・裏方さん・劇場スタッフさんに、「お疲れ様!」の拍手を送りつつ…
今年も、格別に忘れがたい5本の芝居を振り返ってみたい。

★まな美座「質屋の娘」(2016.4.21@メヌマラドン温泉ホテル)

まな美座は、大衆演劇界の中でも独自の道を歩んでいる一座だと思う。人数はごく少数(大人は5人だけ)、派手な照明や舞台装置はなし。けれど演者の存在感と深みのあるセリフで、芝居は十分に濃い。島崎寿恵座長・里見剣次郎さんらの舞台ポリシーが伝わってくる。


島崎寿恵座長

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里見剣次郎さんは寿恵座長の次男。Twitterでも面白い方です。

『質屋の娘』は頭の弱い娘・お福ちゃん(剣次郎さん)と、質屋を切り盛りする母(寿恵座長)の話だ。
振袖を揺らし、一人けんけんぱをして遊ぶお福ちゃんを、暖簾の隙間からそっと母がのぞいている。お福ちゃんの体はとうに大人になっているのに、頭は幼子のまま。この母娘の空間だけ、時間が止まったようだった。
「お福ちゃん、かわいいお福ちゃんは、どこですかー…?」
母は、いないいないばあのポーズをして呼びかける。このときの寿恵座長の笑顔に、にじんでいた感情は何だろう。愛しい、苦しい、一人では決して生きていけない我が子。

「お母様、お福の馬鹿を治して」
と泣くお福ちゃんを、母はしっかと抱く。
「私はもう、死ぬまでお前を放さないよ。お前が嫌だと言ったって放しやしないよ」
質屋の屋根の下、二人、絵のように寄り添っていた。
⇒当時の鑑賞録


★劇団KAZUMA 玄海竜二会頭ゲスト「赤尾の林蔵」(2016.6.25昼の部@オーエス劇場)

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玄海竜二会頭

玄海さんはどうしてこんなにカッコいいんだろう(拝みながら)。写真の『座頭市子守唄』、股旅姿で現れた瞬間に悲鳴が出ました。「キャー!」なんて音が私の喉にも搭載されていたのか…!

6月の劇団KAZUMAゲスト、みっちり埋まった客席は、『赤尾の林蔵』に飲み込まれた。大親分と崇められた林蔵親分の、最期のひとときのお話。
「俺の娘は、千代はどうしてる?」
18年間の島流しから帰ってきた林蔵(玄海会頭)の心にあるのは、娘・千代(千咲凛笑さん)のこと。
終盤のセリフのない数分間。腹を刺されて絶命寸前の林蔵は、汗と血に汚れてよろけながら、土産の着物を娘に着せる。
その体は老いた。弱って、何もかも失って、人生の栄華はとっくに過ぎた。
――それでも林蔵は幸福だった。
汗まみれの玄海さんがにっこりと凛笑さんに笑いかけた瞬間、オーエス劇場の前3列が、いっせいに泣き伏した。林蔵の笑顔に、生への歓びが深く吹き上がる。

終演後、藤美一馬座長が「もう今日は私もお客さんと一緒ですよ!泣けるし、感動するし…。うちの会長(6月時点ではまだ会長)はすごい!この人についてきてよかった!」と語っていらした。

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玄海さんが歌って一馬座長が踊る『484のブルース』。

劇団KAZUMA版の『赤尾の林蔵』は残念ながら未見。そっちも来年は当たりますように!
当時の鑑賞録1(柚姫将副座長中心)・2(玄海さん中心)

【劇団KAZUMA 公演予定】
1月 鈴成り座(大阪)
2月 八尾グランドホテル(大阪)


★劇団天華「峠の残雪」(2016.7.23@大江戸温泉ながやま)

もがれた体で、それでもお前を――
澤村千夜座長の口上いわく、「役者人生3本の指に入るくらい好きな芝居」だそう。悪党によって口のきけなくなった兄・新造(澤村千夜座長)と、目の見えなくなった弟・新吉(澤村神龍副座長)の話だ。

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澤村千夜座長

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澤村神龍副座長

雪の降り積もる中、千夜さん演じる新造は、弟の草履や杖を自らの肌で温める。が、懐に入れたそれらは凍傷になりそうな冷たさで、引きつった悲鳴が上がる。
「兄さん、どうかしたのかい?」
盲目の弟には兄の様子がわからない。兄は話せない。
冷たさと痛みに飛び跳ねる新造の姿は、ユーモラスで哀しい。何も持たぬ者が、なお他者を思う。この情愛が芝居の通奏低音として響いてくる。

『峠の残雪』は今年5回と、最も回数を観た芝居でもある。中でも7月のながやま公演では、千夜さんが慟哭する場面の激しさが忘れられない。舞台に叩きつけられる拳から、この役者さん独特の、痛覚にも似た激情が突き刺さるようだった。
この月、劇団天華はながやまの歴代大入り記録を更新した。
⇒当時の鑑賞録

【劇団天華 公演予定】
1月 池田呉服座(大阪)
2月 大江戸温泉物語あわら(福井)



★劇団新「俺は…太郎」(2016.8.28 昼の部@茂美の湯・もさく座)

今年、最もすがすがしい笑いをくれた芝居! 25歳・龍新座長の創ったオリジナル芝居だというのが驚き。特筆すべきは、前半に登場する“居酒屋の主人”(新座長)という強烈なキャラクター。

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龍新座長

「これ(刀)か? これはな、千歳飴だ」
肩にかついだ刀を揺らして、ニヒルにつぶやく。
小龍優さん演じる三太郎に、
「お前…何のためにここへ?」
とカッコよく尋ねるも。
「いや、酒飲みに来たんだけど…」
とまったくな回答を返される(笑)

彼の行動はよく見ると、大衆演劇によく出てくる“謎めいた男”キャラのパロディになっている。今まで見たことない様式性じゃないだろうか? 映画好きだという新さんが、新鮮な視点で切り込んでいるのがわかる。演者としても戯作者としても、来年もっと観たい役者さんだ。

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一方、新座長の弟・龍錦さんはピュアな持ち味。

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妹・小龍優さんの世界観も楽しい! 

10~12月の初の関西公演でも、関西の友人たちから劇団新を好きになったという声を聞いている。若き三兄妹から、新しい風が吹いていくのを感じる。
⇒当時の鑑賞録

【劇団新 公演予定】
1月 宇都宮ふくろうの湯(栃木)
2月 スパランドホテル内藤(山梨)



★橘小竜丸劇団「お島子守唄」(2016.10.29夜の部@立川けやき座)


信じていることがある。旅芝居には、各地の客席から吸収してきた、人々の喜怒哀楽がうずいていること。それが役者さんの熱とぶつかるとき、私たちの心の底に眠っているうめきが引きずり出されること。
“ごめんね”
『お島子守唄』は橘鈴丸座長のこの一言で、私の中に刻み込まれた。物語をはみ出した熱があった。

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橘鈴丸座長

夫の罪を被って島流しにされたお島(鈴丸座長)。10年の刑を終えて家に帰ってくると、幼かった娘・お美代(たちばな百花さん)は口がきけなくなっていた。さらに、後妻(たちばな佑季さん)にお美代は下女のように使われ、ひどい火傷を顔に負わせられていた。
お島は怒りに身体を震わせる。
「お美代の部屋は、あれはまるで物置小屋ではないですか…!これはどういうことですか、これは」

小さなお美代は何も恨まず、何も逆らわず、継母の暴力の前に倒れた。娘の身体を抱いて、お島は泣く。悲痛な喘ぎの中にしぼり出す音。
「ご…めん、ね…」
痛めつけられる弱者に、差し出しうる唯一のいたわり――私の耳にはそんな風に響いた。

鈴丸さんの滂沱の涙を流しての熱演もあったと思う。思えば、彼女の芝居には泣かされる率がかなり高い。ひたすら健気で、いつわりのない真摯さに心動かされてしまう。7月に観た『ヘチマの花』にもほろりときた。

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こんな独自の舞台衣装も、舞台への真剣さの表れだ。(そしてスタイルの良さ…お腹の引っ込み具合の美しいこと…)
【橘小竜丸劇団 公演予定】
1月 安田温泉 やすらぎ かわら座(新潟)
2月 つくばYOUワールド(茨城)


今年の観劇を振り返りながら5本を選んでみたら、自分の嗜好がすっごくわかりやすかった(^-^; 『俺は…太郎』はコメディタッチなので例外だけど、残り4本は全部、“弱いところへ落とされた者”の話だなぁと。
『質屋の娘』の頭の弱いお福ちゃん。『赤尾の林蔵』の老いた林蔵。『峠の残雪』の言葉を奪われた兄、視力を奪われた弟。『お島子守唄』の少女。
物語は時に私たちの現実を映している。底辺を生きる者の瞳は、大きな言葉に表れることなく、旅芝居にゆらゆら照らし出される。

でも、玄海さんの林蔵が死に際にニッコリ微笑むように。
大衆演劇はなぐさめだけじゃ終わらない。絶望の先、生きていくということの賛歌をたしかに歌ってくれる。
暗い沼の底から、なお空を仰いで。
生きていかなくては、あなたも私も。

今年も皆様一人一人にお世話になりました。同じ時代に大衆演劇ファンとして出会えることが、嬉しいです。
来年も一緒に舞台を見つめて、客席でお会いしましょう!

⇒≪2016舞踊ベスト5≫も書きました

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2015年 珠玉の舞踊 ベスト5

2016年始まって20日も経っちゃいましたが、今頃ですが振り返りです。
ストーリーが浮かんで涙した舞踊…そういう踊りに出会えたときは、一日中酩酊状態です。何度も何度も、写真を見て思い返します。
順位なし、観た順です、2015年の5本!

★辰巳小龍さん(たつみ演劇BOX)
『おんな道』~『愛の賛歌』2015.3.1@三吉演芸場

一流の戯作者であり演者。現代の大衆演劇ファンで良かったなぁと思わせてくれる、敬愛する姉上様。



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“打ちひしがれてなお生きる女”というのが小龍さんの舞踊にはよく出てくる。打たれて、踏まれて、崩れ落ちるも、まだ前を見据える女。この舞踊も前半の「おんな道」は歌詞が痛烈で、まるで女という生き物に生まれたことへの呪詛のような詞だった。

―嫌なお客にせがまれて男の枕にされながら つくる笑顔も生きるため―

この歌詞で女優さんが踊る。これを受け取る客席も多くが女性。男という絶対的な強者を持った上で、女は生きていかねばならない…。舞台に倒れ伏す小龍さんの、生々しい痛みに体が締めつけられた―と思ったら。
曲が変わった。「愛の賛歌」。倒れていた小龍さんが、何かに呼ばれたように顔を上げる。

―ただ命の限り 私は愛したい―

小龍さんの表情に光が差していく。体を起こし、ゆったりと踊り始める。こみ上げる情を抑えるように胸に手を置く(写真2枚目)。舞踊の中の女性が、恨みと侮辱から解き放たれて、燦々と注ぐ希望に向かっていくのがハッキリ見て取れた。赦し、望み、愛、そういうものを自身の底から生み出して、女は生きていく。奈落の底で始まり、晴れやかな笑顔で終わる物語だった。

★高野花子さん(下町かぶき組)
『旅人のうた』2015.3.22@浪速クラブ

2014年に三吉演芸場で個人舞踊『惚れちゃった』を観たときから、気になっている役者さん。舞踊の中のキャラクターが、全身の表情で豊かに伝わってくるのだ。

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高野さんの『旅人のうた』は、芝居『化猫』を観に行った浪速クラブで出会えた一本。席と私の写真の腕がアレで全身が撮れてないのだけど(後悔…)、袴での舞踊だった。リンと音のしそうなまっすぐな立ち姿(写真1枚目)。と思えば、慈愛で包み込むようなやわらかな笑顔(写真2枚目)。

――男には男のふるさとがあるという 女には女のふるさとがあるという―

下町かぶき組webサイトを見ると、高野さんは商業演劇にもかなり出演されているようだ。広く他の選択肢がある中で、自ら旅役者という道を選ばれた方なんだろうか…そんなことを考えながら淡々と踊るしなやかな身体を観ていると。旅役者としての毎日が、それを意識的に選びとった女性の覚悟のようなものが、どこかに滲んでいる気がした。

―なにも持たないのは さすらう者ばかり―
―どこへ帰るのかもわからない者ばかり―


★橘大五郎座長(橘劇団)
『願わくば桜の下で』2015.5.31@大宮健康センターゆの郷
(⇒観た当時、この舞踊で一本記事書きました)
大衆演劇界の大スター大五郎さん。いつ見ても明るいキャラクターだけど、彼がひとりで踊るとき、とても澄んだ“さみしさ”という持ち味が現れるように思う。

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傘を持って、杖をついて。どこか魂半分、抜け出てしまったような風情で。黒い着物の女が一人で歩いていく。その行き先は高野山なのだそうです。「高野山に亡くなった旦那さんのお参りに行くってイメージなんですよ」と、送り出しで、大五郎さんの中にある物語を伺うことができたのは幸運だった。

―枝垂桜のこの下であなたと散りたい この春に―

女の歩みは、ゆっくりゆっくり。一歩進んでは目を伏せる。半歩進んでは客席に微笑する。やがて胸から旦那さんの遺髪を取り出して、ハッと喪失の深さに思い当たるように目を見開く(写真2枚目)。

―草を枕に寝ころべば あなたの胸の 音がする―

寄る辺なく、頼りなく、喪われたものだけを懐かしみながら。亡くなった旦那さんのお参り――今はもうないものへの憧憬を全身に宿して、女形が哀しく微笑む。そこにはたしかに、儚い死生の際をなぞっていく光景がありました。
この舞踊を観られた「大宮健康センターゆの郷」が、8月末に最終日を迎えたことで余計に感慨深い。

★柚姫将副座長(劇団KAZUMA)
『越後獅子の唄』2015.9.19@東海健康センター「平針座」
(⇒この舞踊でも一本記事書いてます)

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―笛にうかれて 逆立ちすれば山が見えます―

将さんの越後獅子!イントロが鳴り出したときは、哀愁と望郷の景色が広がるのかと思ったけど。中盤、曲がアップテンポになり、一気に喜びが沸き上がる。将さんが小さな「平針座」の舞台を勢いよく駆け回り、足を踏み鳴らす。そのキレの良い躍動感。加えて晴れ晴れとした笑顔!

―暮れて恋しい宿屋の灯 遠く眺めてひと踊り―

歌の世界の凪いだ風景とさらり絡まって、舞台は光が差すように明るかった。この月は一馬座長不在で、竜也副座長・大介さんと初めての3人座長体制だった。客席に見えない大変さは推し測りようもないけれど。柚姫将さんという役者さんの生み出す喜びの深さは、唯一無二のものだと思う。“今ここに在る”という素朴な歓喜が、温かに手渡されるようだ。
11月に劇団KAZUMA@浪速クラブをご一緒した友人が、将さんについて語ってくれた言葉が忘れがたい。「柚姫さんを観ていると、ご本人の“人を信じよう、信じたい”という気持ちをとても感じる」
2016年。副座長の舞台には、どんな色が加わっていくだろう?

★喜多川志保さん(劇団天華)
『母ざんげ』2015.12.18@ユラックス

小さな体が、舞台に絵を紡いでいく。華やかな劇団天華の舞踊ショーの、いつも一番最後。志保さんの織り成す情感豊かな風景で、ショーが閉じられるのが好きだ。お写真もこれだけ1枚多く(笑)。

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『母ざんげ』は歌舞伎の『伽羅先代萩』の政岡の心情を歌った歌(若君をお家騒動から守るため、乳母の政岡の子・千松が毒見役として毒入りの菓子を食べて死ぬ)。
志保さんの政岡は、最初から最後までひとりだ。他の役者さんで、千松役の子役を登場させて表現する手法を観たことがあるけれど。大きなユラックスには、志保さんの孤独な影がぽつんと浮き上がっていた(写真1枚目)。

―毒と見えたら食えと言う 倅 千松 許しておくれ―

自分の影と対話するような姿。演じられる政岡が、千松の最期を思い出しているのがわかる。何度も何度も、この母はひとりで思い出してきたのだろう。影を見つめながら、身を切られるような痛苦を、そのたびに自分の身体に蘇らせてきたのだろう。

―幼い命を最後が最後まで母と呼べず逝ったのか―

ぎりぎりと自分の身体を抱きしめて(写真2枚目)。首を振り、震える腕を空に差し出し、床に崩れる。小さな女一人が武家社会のならいの前に、吹きこぼす悔恨、怒り(写真3枚目)。この日の客席を圧倒したのは、政岡という人物の清らかで立派な悲しみでなく。生木を裂かれるような、剥き出しの悲鳴だったと思う。

―血を吐く胸の 血を吐く胸の 母ざんげ―

ユラックスに喝采が沸いた。送り出しで志保さんに涙が出ました!とお伝えすると、「舞踊で泣いてくれたの?ああ、それが一番嬉しい。心が伝わるように踊っています」とニッコリ。キュートでいらっしゃる…

以上、5本が2015年のマイベスト舞踊!たった数分の曲で私たちを物語に誘ってくれる舞踊に、そんな世界を開いてくれた彼らに、感謝を込めて。
今年は辰巳小龍さんの『夢やぶれて』という、2016年ベスト入り候補に早くも出会って幸運な幕開けです!

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【SPICE】「大衆演劇お芝居」ベスト5…じゃ収まらなかったベスト10!

まず、クリスマスイブにSPICE編集部からメールで届いた「年末企画」の依頼。
「2015年ベスト5」というくくりで、今年を振り返る素敵な企画。
ひたすら楽しく書かせていただきました!

<2015年末回顧>お萩の「大衆演劇お芝居」ベスト5

記事では以下5つの芝居を選択(順位はなしです)。
いずれももずっと心に留めておきたい、出会えてうれしい名芝居。
それぞれへの感想と、各役者さんの写真を載せてます。

★たつみ演劇BOX「夜叉ヶ池」(2015.2.11 夜の部@篠原演芸場)
★劇団KAZUMA「品川心中」(2015.6.13 昼の部@三吉演芸場)
★橘劇団「鶴八鶴次郎」(2015.9.13 夜の部@篠原演芸場)
★劇団天華「釣忍」(2015.11.22 夜の部@篠原演芸場) 
★劇団炎舞「留と棟梁」(2015.11.29 昼の部@つくば湯~ワールド)


⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

でも、ですね。
規定の「ベスト5」じゃ、ホントは収まらない。
2015年もほぼ毎週末、芝居の世界に浸ってたので、名芝居はまだまだたくさん。
なのでブログでは、記事に収まらなかったもう5つを加えて、個人的な「ベスト10」を書き残しておきます。
残りは以下5つ!

★劇団悠「化猫」(2015.3.22 昼の部@浪速クラブ)
★桐龍座恋川「生きた幽霊」(2015.4.25 昼の部@篠原演芸場)
★劇団KAZUMA「雪の夜の父」(2015.6.24 夜の部@三吉演芸場)
★劇団都「丸山哀歌」(2015.8.15 夜の部@三吉演芸場) 
★劇団天華「丸髷芸者」(2015.12.20 昼の部@ユラックス) 

劇団悠・松井悠座長(2015/3/22)
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劇団悠の「化猫」は、灯篭抜けや戸板返しといったアクロバットが圧巻!
けれどこのお芝居が本当にすごいなぁと思うのは、外連のみに留まらず、松井悠座長の化猫が哀しさ・女性らしさを保っているところ。
人間の女である“すず”と猫が混ざり合ったという設定の化猫は、白い髪に白い着物。
暴れ回っても、細面なのも手伝って、どこかはんなりとした女性の面影が漂う。
そして一番の思い出は、この日浪速クラブの客席でお隣だった80代のご婦人の一言。
「すずの気持ちわかるわね、私も同じ目にあったら化けて出るかもしれないわ~」
人生の先輩の安らかな笑顔は、何か心に染み入るものがありました…。

桐龍座恋川・初代恋川純太夫元(2015/4/20)
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しょーだーい!しょーだーいっ!とコールしたくなってしまう。
私の友人間では大人気の初代恋川純さん
その芸の豊かさ、愛嬌の深さをいっぱいに味わえたのが「生きた幽霊」だ。
初代演じる番頭は、純座長演じる若旦那相手にやりたい放題。
くしゃくしゃと笑み崩れる笑い皺の中に、透ける芸の重層。
何十年、ひたすらに芝居して、芝居して、芝居してきた。
初代の丸みを帯びた身体に、芝居がみちみちと詰まっている。

劇団KAZUMA・藤美一馬座長(2015/6/4)
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劇団KAZUMAの「雪の夜の父」はボケちゃったお父さんをめぐる、家族の物語。
ささやかに、それでも拳を握って必死に生きている人々の、小さな物語。
3年ぶりに観ることができた、思い入れの深い外題だった。
「雪の夜の父」の筋を聞いた友人が、「現実と地続きの夢」という素敵な言葉で表現してくれた。
私たちの日常の苦しみから生まれる、“こうだったらいい”“こうなったらいい”という祈りが。
優しいお芝居の奥に、こんこんと息づいている。
それはやっぱり、劇団KAZUMAのカラーであり、つまり藤美一馬座長という役者さんの持つ色合いなんだろう。

劇団都・藤乃かな座長(2015/8/19)
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私は芝居に飲み込まれやすいので、芝居観ながらしょっちゅうボロボロと泣いているのだけど、劇団都の「丸山哀歌」は呼吸困難を起こすほど涙した。
遊女・結の遊郭に15年間閉ざされた人生。
けれど藩士・桂木清之助との出会いを経て、ひとすじ光が差す。
「もっといろんな国のお話をしてください!」
桂木の夢の話を聞くほど、結の心は自由に飛び立っていく。
藤乃かな座長の描く女の人生は、悲惨なものでありながら、たしかな希望を底に湛えていた。
ラストシーン、大きな花のひらくような、かな座長の笑顔が印象深い。

劇団天華・澤村千夜座長(2015/12/19)
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2015年、忘れられない出会いの一つとなったのが劇団天華さんの芝居。
澤村千夜座長の痛烈に突き刺さる鋭いセリフや、深い闇をのぞくような底なし感や、ざらざらした手触り。
なにか、「新しい風景が開ける」のを体感している真っ最中。
11月の篠原演芸場公演で衝撃を受け、勢いで12月ユラックスまで遠征してしまうくらい。
ユラックスで観られた「丸髷芸者」は、やっとつかんだ夢を自ら手放す芸者・お蔦さんの話。
哀しみの極みを笑って生きていく女の人の話(近日中にブログ上げます)。
2016年は、この劇団の人情芝居をもっと観てみたいな、と思っています。

…2015年の振り返り、どーにか2015年中にアップできました!(笑)

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2014年 珠玉の一本―舞踊編―

お芝居みたいな舞踊が好きだ。
ひとり芝居大好き。当て振り大好き。
世界観に引っ張り込んでくれるような舞踊が観られると、客席でカメラを抱えながら、頭はその世界に飛んでいる。

2014年末の珠玉の一本シリーズは、悲劇編喜劇編敵役編を書いて。
最後の記事は、舞踊の傑作を振り返って終わります。
挙げさせていただいたのは、9つの舞踊。
少々長めの記事になりましたので、のんびりお付き合いくださいませ。

勝小虎代表代行(剣戟はる駒座〈倭組〉) 「ひばりの佐渡情話」
2014.2.11 昼の部@大島劇場



悲し、遠し、佐渡の面影。
勝小虎さんの女形舞踊は、枝垂れるようななまめかしさが、しとしとと胸に残る。
『ひばりの佐渡情話』で息を飲んだのは、滑るような所作の向こうに、佐渡の曇り景色がおぼろげに現れ出ること。
たとえば、両手が波の形を作って揺れる。
ざんぶ、ざんぶと、静かな波が客席を手招く。
限りなく霞んで、消えてしまう手前の、こごりのような色に見えた。
⇒当時の記事
⇒同じ大島劇場で観た『夢日記』も傑作でした。

島崎寿恵さん(まな美座) 「くらやみ橋から」
2014.4.12@メヌマラドン温泉ホテル



この方の至芸が観たくて、3時間かけてメヌマラドン温泉ホテルまで行った。
―それ以来この橋 くらやみ橋と呼ばれてますねん―
大月みやこの歌いだしのセリフが終わった後。
寿恵さんの独自のセリフが加わる。
「そう言う私も、川の底を覗きこむように生きてきました…」
「というより、生かされてきたんやなー…」
虚ろな眼窩は、下を向いている。
やがて寿恵さんは、何かを振り切るように、泣き出しそうな顔を上げた。
「まるで――抜け殻や!」
掬いきれない悲しみが、舞台空間を食い破る。
2015年、必ず再会したい女優さんだ。

辰巳小龍さん(たつみ演劇BOX) 「暗夜の心中立て」
2014.5.4 夜の部@浪速クラブ
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『暗夜の心中立て』は、2014年の舞踊ショー流行曲に挙げられると思う。
中でも辰巳小龍さんの舞踊は、やはり圧巻だった。
黒と橙の衣装の花魁は、叶わない恋に身を震わせる。
思い極まったとき、紅い包みから毒をあおる。
その次の瞬間――血を流す口元、カッと開いた目!
両腕で死を抱きとるように、客席を向く姿は、今も焼きついている。

沢村菊乃助さん(玄海竜二一座)「番凩」
2014.6.7 夜の部@浅草木馬館
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人間の体って、こんな風に動くんだ…!
腕の一振り、脚の一筋で、ボカロのハイテンポな曲を操っているようだ。
劇団荒城ゲストに来ていた6月、菊乃助さんを初めて観た。
まだ23歳なのに、面立ちの雰囲気が静かなせいか。
舞台姿は水を打つように清く、涼しい。
12月の座長襲名、おめでとうございます。
ゆりかもめでコミケへ向かう、オタクの座長さん…どんな舞台世界を見せてくれるだろう。
⇒当時の記事

荒城真吾座長(劇団荒城) 「歌麿」
2014.6.14 夜の部@浅草木馬館
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右手には絵筆。
引き絞るような厳しい眼差しで、自分が描く“女”を見つめる。
真吾さんが演じるのは絵師だ。
――私 まるで浮世絵 歌麿――
曲が進むにつれて、絵の中の女に恋情を燃やし、やがて狂気に陥る。
耳慣れた『歌麿』だけど、こんな表現方法があるのか…。
真吾さんの頭の中では独自の世界観が尖っている感じがして、恐る恐る覗きたくなる。

柚姫将副座長(劇団KAZUMA) 「夢一夜」
2014.6.20 昼の部@八尾グランドホテル



今年の将さんの舞踊を思い出すと、本当に女形が美しくなられたなぁと思う。
将さんの女形からは、演じられる“女性”の健気さや真面目さが薫る。
『夢一夜』を選んだのは、ある一シーンに心奪われたから。
――最後の仕上げに 手鏡見れば――
のところで、大方整えた髪に手をやって、右、左、と軽く首を曲げ、そっと髪に触れて。
手鏡をひっそり覗きこむ。
女の人の小さな部屋に、客席ごと閉じこもっていくような感覚に陥った。
⇒当時の記事

桜春之丞座長(劇団花吹雪) 「化粧」
2014.7.13 夜の部@三吉演芸場



墨色の着物に、儚い花が咲いていた。
春之丞さんが演じるのは、好きな人に去られた女。
顔を覆って、独り泣く。
――バカだね バカだね バカのくせに
愛してもらえるつもりでいたなんて――

華やかで可憐な女形が、恋に破れてしおれる。
勝気に歩んでいる人の、ふとした心弱さを見る思いがして、涙してしまった。
⇒当時の記事

大川竜之助座長(劇団竜之助) 「大きな古時計」
2014.8.20 夜の部@三吉演芸場



チクタク、チクタク。
時計の針に見立てられた扇子が動く。
たまたま三吉演芸場の近くに用があった際、あの大川竜之助さんが劇団十六夜のゲストに来ていると聞いて、急きょ飛び込んだ。
『大きな古時計』の中盤、竜之助さんの白い袴姿がぴたりと固まる。
手元の扇子だけが時を刻み、空気が張りつめる。
――今はもう動かない その時計――
お花を付けた方も、舞踊の最中には入らず、曲が終わってから渡されていた。
止まっていく時計の物語は、誰も入れない、一人の世界だった。

橘小次郎さん(橘劇団) 「夜叉のように」
2014.9.21 夜の部@篠原演芸場



私の2014年の大衆演劇は、この舞踊抜きでは語れない。
目に止まらない速度で、付け替えられる面。
技術的なすごさに加えて、表される情念の生々しさに衝撃を受けた。
ぎり、ぎりと、地の底で悶える痛みが、私の胸にも差し込まれるようだった。
一の面は、女。
二の面は、怨。
三の面は、夜叉。
四の面は…
入れ替わり立ち替わり、現れる恨みの貌。
その合間に挟まる小次郎さんの素顔が、穏やかな目つきなのがかえって憑依めいている。
ああ、芸を観た!という高揚がいつまでも残った。
⇒当時の記事

「2014年 珠玉の一本」シリーズ、これにておしまい。
長い振り返りにお付き合いいただき、ありがとうございました。

大みそかですので、いつも読んでくださる方へご挨拶。
「お江戸の夢桟敷」は、開始からようやく2年が経ったところ。
おぼつかない筆ながら、舞台から受け取ったものを、私の手から貴方の手にお分けする気持ちで、書いております。
今年もありがとうございました。
来年も、大衆演劇の世界にひしめく息づかいを、敬意をこめて書き残していきたいです。
どうか、貴方もご一緒に。
良いお年を!

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