劇団暁お芝居「いれずみ丁半」

2013.12.23 昼の部@篠原演芸場

背景は新緑、目に青葉。
せせらぎの音も聴こえそうな、平和な景色の中を夫婦が連れ立つ。
「確かに俺は博打が好きだけどな、博打は二番目だ。いっとう好きなものは他にあるんだよ」
と夫の半太郎(三咲春樹座長)が言えば、
「他って何なの」
と妻のお仲(三咲夏樹座長)が問い返す。
「馬鹿、言わせるない」
半太郎は照れつつ、妻を引き寄せて耳打ちする。
しばしの間の後、お仲の人形めいた風貌が微かに驚く。
「……あたし?」

この、くすぐったいくらい健やかな夫婦愛の情景が、後の悲劇に映える。

写真・三咲昼春樹座長(左)・三咲夏樹座長(右)(当日舞踊ショーより)


篠原演芸場入り口のお外題札は、「刺青奇偶」。
でも劇団暁かわら版(三咲てつや初代座長が毎日発行している)には、「いれずみ丁半」とあった。
わかりやすく、という配慮だそうな。
長谷川伸さん原作のお芝居で、好きという人によく会うけど、私はどの劇団さんでも見たことがなかった。

一番心に残ったのは、主人公・半太郎のまめまめしい愛妻家っぷり。
「な、行こうか」
とお仲の手を引くときも、ちゃんと目線を合わせて少し下げるのが素敵だ。
半太郎とお仲の場面は、見ているこっちも、当てられたようににやけてしまった。

博打好きが玉に傷とはいえ、現実味がないくらい爽やかで優しい旦那さんなんだけど。
春樹座長は、そこに世慣れた男の風情をうまぁく加味していた。
たとえば、初対面のお仲の命を助けたとき、助けた女から見返りを求めないのかと問われて。
「馬鹿にするんじゃねえ!それで世の中を知ってるつもりか!」
半太郎は穏やかな顔を脱ぎ捨て、烈火のごとく怒る。
「お前さんの知ってるような連中だけが、男だと思うな」
うーん、格好いい。
長谷川伸さんが書いた当初から、半太郎のキャラクターの女性支持って強いんだろうな(笑)

反面、こんなにハッキリ「妻・命!」な主人公は、男性社会の中じゃあ馬鹿にされがちなんじゃなかろうか。
実際、クライマックスでそんな場面がある。

半太郎は、病のお仲の医療費を稼ごうと、自分の命を賭けた博打に出る。
博打の相手は、鮫の政五郎(三咲てつや初代座長)。
周囲を囲むのは、その子分たち(三咲暁人さん、大樹さん)。
「俺の話を、決して笑わないでくださいよ」
そう政五郎と約束して。
「俺は、世の中で、女房のお仲がいっとう好きなんです」
半太郎が吐き出した途端、子分たちはあっさりゲラゲラ笑い出す。

――が、そこで止めてくれる声がある。
「てめぇら何笑ってんだコラ!」
勢いよく怒鳴ったのは、猪太郎という子分の一人。
演じるのは、私がだいぶ贔屓気味の飛竜貴さんだ。

写真・飛竜貴さん(当日個人舞踊「柿の木坂の家」より)


「いれずみ丁半」での飛竜さんは、ちょっと悪ぶった役で、決して出番は多くない。
けど、その中でも細かい芸をしっかり見せてもらった。
「賭場荒らしたぁ、どういう了見だてめぇ!」
自分のセリフが終わった後も、ガラ悪く唾を吐く動作をしてみせたり。
ただ黙って政五郎と半太郎の会話を聞いているときも、話の内容に合わせて不機嫌そうに眉が動いたり。

猪太朗が、半太郎を笑った子分衆を怒鳴るのは、半太郎に同情したとかではなく。
政五郎が「笑わない」と約束した以上、子分である自分たちにも約束を守る責任があるからだ。
(この生真面目な人物造形も、小さな動作の積み重ねがあるからこそちゃんと伝わるのだと思う)

半太郎は、政五郎の温情で博打に勝つ。
政五郎に渡された金を握りしめて、一人むせび泣く。
「これで、お仲、これでお前の病を治してやれる、これでようやく…」
花道に腹ばいになり、拳を打ちつけるように泣く春樹座長、熱演でした。

そして、この直後の演出が衝撃的だった。
左側の花道で、半太郎がまだ喜びと安堵に泣いている、その背後。
閉じられていた幕がサッと取り払われて、半太郎とお仲の家が現れる。
家の土間に、倒れているその人は。
その動かない体は。
……観客の目にだけ、夫婦の運命の暗転が、一枚の絵として映し出される。
隣席の友人も、「あの絵は辛かった」と噛みしめていた。

さて、2013年度の大衆演劇鑑賞はこれで最後。
(明年1月担当の劇団さんを年末ギリギリに観劇予定だけど、それはもう2014年度に入れるとする)
各劇団の皆さま、劇場・センターのスタッフの皆さま、そしてこのブログを読んで下さる方含め、大衆演劇ファンの皆さま。
今年も一年お疲れさまでした!!

次回の記事から4回程度で、2013年度の珠玉の舞台を振り返るつもりです。
年内にちゃんと終わる…はず(汗)

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劇団暁お芝居「母ちゃんて呼んでみたい」

2013.12.15 昼の部@篠原演芸場

飛竜貴さんのお芝居は、良いなぁ。
まだ数本しか見ていないので、わずかな印象で語るしかないけれど。
真摯なのだ。
真剣なのだ。
「十年経てば、人の心も、世の中も、変わるもんだなぁ…」
飛竜さんが舞台に出てきただけで、物語がピンと糸を通されたように脈打つ。

写真・飛竜貴さん(当日個人舞踊「惚れた女が死んだ夜は」より)

個人舞踊の時も、歌詞の物語の奥へ奥へと、入り込んで行くようだ。

お芝居「母ちゃんて呼んでみたい」は、「子役がいいよ!」と評判を聞いていた。
なので入場のときにお外題を見て、おおラッキー!と喜んだ。

お話の主軸は、商家の山城屋に渦巻く継子いじめ。
「なんだい、この米は…?買い直しておいで、買い直して来るまで家には入れないからね」
継母・お浜(三咲さつきさん)は、血の繋がらない娘・お美代(三咲愛羅さん)をこき使っている。
お美代の態度が気に入らなければ、髪の毛をつかんで引きずり回す。
生々しいいじめの場面は、『レ・ミゼラブル』のコゼットとティナルディエ夫人の面影を想起させる。

そして飛竜さんは、山城屋の主人であり、お浜の夫の役。
が、この主人はティナルディエのように、妻と一緒になってかわいそうな娘をいじめるわけにはいかない。
立場はもっと複雑だ。
主人は、お美代の実の父親なのだ。

「お美代、その傷はどうしたんだ!」
だからお美代が顔にひどい火傷を負わされたときには、瞬時に気づいて娘の肩を抱く。
そして、非道をはたらいたお浜に、険しさ極まる眼差しを向ける。

「毎日毎日、山城屋からは子どもの泣き声が聞こえて来ると言われる」
「躾けるのもいい、だがお前のお美代に対する仕打ちはあんまりだ!」
怒りをこめて妻をなじる。
飛竜さんのこわばった表情に、父としての愛情が滲んていた。

だが、お美代を庇えば庇うほど、お浜のいじめはひどくなるのだ。
それがわかっているので、強く出ることもできず。
「頼むから、お美代にもう少し、優しくしてやってくれ…」
結局主人は、無力にそう呟くしかない。

そもそも、なぜこんな事態になったか?
かつては、前妻であり、お美代の実母・お島(三咲夏樹さん)がいた。
だがお島は、罪を被って10年の島流しの刑になった。
残されたのは、主人と幼いお美代二人きり。

飛竜さんが、噛みしめるように過去を述懐する場面がある。
「私は死に物狂いで頑張った、それでも店は傾くばかりだった。なにしろ、この山城屋から縄付きが出たんだ」
そんな折、聞かされた。
お島は流刑先の島で死んだと。
「私は第二の妻を迎えた…」

だが、お浜の人格は最初から疑わしかった。
熱が下がらなくなったお美代に、お浜がどこかから手に入れた薬を飲ませた。
夜が明けると、お美代は口がきけなくなっていた。
「あの薬は一体なんだったんだ――あの薬は一体なんだったんだ!」
飛竜さんが、このセリフを二度繰り返すのが好きだ。
一度目は、ただお浜を糾弾する口調で。
二度目は、恐ろしい悪夢を否定したいという願い混じりで。

主人の10年は、悔恨と諦めの10年。
他にやりようがなく、生きるために良心を押し殺しながら、自らの弱さを見つめさせられ続けた歳月。

刑を終えて戻って来たお島に、主人は遠くを見て呟く。
「10年経てば、人の心も、世の中も変わるものだなぁ…」
彼が諦めたもの、手放さざるを得なかったものの大きさが迫って来る、秀逸なセリフだったと思う。

飛竜さん、あの上手さは一体何者なんだろう。
お芝居でも舞踊でも決して自己主張は強くない、送り出しでもサラッとした丁寧な応対。
それだけに、尚更気になる。

それから、この日の同行者は、大衆演劇初体験の同僚だった。
彼女が何度も言っていたのが、
「子役がめっちゃ可愛い!」
というわけで、このお芝居はやっぱり子役の愛羅さんありきだと思う。
あの可愛さ、哀れさ、尋常じゃない。

写真・三咲愛羅さん(当日舞踊ショーより)


序幕、重いお米を背負って花道から登場する愛羅さんは、もう完全にコゼットの風情。
くるりと客席を振り返った時、その虚ろな表情に驚いた。
悲しい顔や悔しい顔より、空洞のような瞳に、苛まれている子どもの心がリアルに映し出される。

暁さんのところの子役達は、芸達者で可愛いだけじゃなく、愛情をたっぷり注がれて育っている感じがする。
彼らが(全部で7人かな?)舞踊ショーでわらわらと出て来ると、篠原演芸場の空気はなんともぬくい。
お花をもらい忘れて引っ込んでしまう子が、「ちょっと、こっちも、こっちも!もらっていきな!」と声をかけられる光景も何度か目にした。


飛竜さんのお芝居を見に、忙しない師走だけどなんとしても篠原行きの時間を作りたい…。

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劇団暁お芝居「芸者の意気地」

2013.12.1 夜の部@篠原演芸場

篠原初乗りという「劇団暁」さんに、早速初日の夜に会いに行ってみた!
初乗りなので、周囲の観劇仲間からもあんまり情報がなくって。
でも、一度関東のセンターで親切にしてくださった方が、
「暁さんの雰囲気いいよー温かくってねー…」
と言っていたのを信じて。

早めに篠原に着いてびっくり。
役者さんたちが丁寧にお出迎えしていた。
「よかったら、これどうぞ」
と若手さんが配ってくれた栄養ドリンク。
もの柔らかな態度に、心がほどけて嬉しくなった。

さあ、ささ、お芝居。
初めての劇団さん、初めてのテイスト、お外題は「芸者の意気地」。

侍の一馬(三咲大樹さん)と芸者の菊次(三咲夏樹座長)は、二世を誓った恋人同士。
けれど女将(三咲さつきさん)は、一馬を菊次と別れさせようと目論む。
可愛い娘(劇団朱雀ゲスト・小雪玲奈さん)が、「一馬様と一緒になりたいの」とせがむためだ。
そこで女将は、菊次のライバル芸者・仇吉(三咲春樹座長)を手の内に引き入れる。

元々菊次が気に入らなかった仇吉は、ここぞとばかりに菊次を苛め抜く。
「菊ちゃん、あんた最近人気があって調子に乗ってるようだけど…この新橋の仇吉姐さんとじゃ格が違うねえ」
「このべっこうの簪、一体いくらかわかる?あんたの頭には、決して三百両以上の櫛なんて乗ることはないでしょうね」
嫌みたっぷりに、満座の中で菊次に冷や水を浴びせかける。

でも菊次もおとなしく黙ってはいない。
気品のある面差しで、凛と敵意を跳ね返す。
「仇吉姐さん、あんた小便垂れ芸者って呼ばれてるじゃありませんか」
「客の前で踊ろうにも、ろくに踊れないもんだから、『あたしちょっと御不浄に』。三味線弾こうにも、ろくに弾けないもんだから、すぐに『あたしちょっと御不浄に』。だから小便垂れ芸者って世間では言うんですよ」
うひゃあ。きっつい。

この仇吉と菊次の火花散る女の戦いが、このお芝居の眼目だ。
でも、ドロドロした陰鬱な後味はまったくなかった。
というのは、三咲春樹さんが、お芝居をいい具合に崩していたから。

写真・三咲春樹座長(当日ミニショー「竹とんぼ」より)

まだ春樹さんの舞踊を数本しか見ていないけど、見るほど遠くへ霞んでいくような表情が、とても印象に残る。

夏樹さんの様式美の光る菊次役に対して。
春樹さんの仇吉役は、悪役ながら茶目っ気を含む。
ちょっと眠そうに見える、とぼけた目元のお化粧とか。
簪を自慢した後の場面では、頭にごてごてと大量の簪とお花を挿して、しれっと登場したりとか。

花道の上で菊次を睨みつけ、
「もしあんたの頭に三百両以上の簪が乗ることがあったら―そのときは、あたしはこの芸者稼業を辞めまさぁね」
と、目線飛ばして決めた後に。
突如素の喋りに戻って、
「なんで俺が篠原の初日で、こんなんやらなきゃいけねえんだよ!」
と叫び出したときはびっくりした、そして笑った。

心地よく巧みにお芝居を崩していたのが、春樹さんだとすると、
夏樹座長や他の役者さん方は、お芝居をきっちり紡ぐ側。
中でも私の琴線に触れたのは、飛竜貴さんという方だった。

写真・飛竜貴さん(当日舞踊ショー「さすらい」より)


飛竜さんが演じていたのは、菊次を助ける商人・幸吉の役。
幸吉は三年前、大事な掛取りのお金を失くして自殺しようとしていた。
通りかかった菊次に気風よくお金を恵んでもらい、命を助けられた。

「ご恩は決して、忘れることはありません…!」
幸吉の食い入るように開かれた目、芯の通った声。
祈るように、空に手を合わせる姿の真摯さ。
この場面には、劇中最も惹きつけられたかもしれない。

以来、菊次が仇吉にいじめられるたびに、幸吉が助けに現れる。
「どうぞ、この簪を受け取ってやってください」
神様にでも仕えるかのように、恩ある芸者に心尽くしの品やお金を差し出す。
幸吉が登場するたび、恩返しのために身を砕く、心の濁りのなさが舞台を清めるようだった。

そして、暁さんを初めて観て、最も強く思ったこと。
みんな、お顔が優しい!
中には血縁じゃない方もいらっしゃると聞くのに、なぜか皆さん共通して、お顔にはんなりした優しさが漂っている。
そんな劇団暁の舞台には、私が大衆演劇に探している深情けと故郷恋しの思いが、重なる部分も多くて。

「やっぱり大衆演劇は、人情と郷愁だよね…!」
「ただ華やかなカッコいい舞台もいいけど、また来たくなるって言ったら温かい舞台だよね…」
同行した友人と、隣席でにんまり確認しあった。

うん、やっぱり大衆演劇は、人情と郷愁!

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