たつみ演劇BOXお芝居「武士道残酷物語」―望遠鏡とルーペ―

2016.1.10 夜の部@三吉演芸場

「軍平の実直なところとか、不器用でうまく立ち回れないところとか、一人の人間としてとてもよくわかりました!」
興奮冷めやらぬ送り出しで、たつみさんにお伝えした。

勝手なイメージだけど、たつみさんの芝居の持ち味と言えば、弱気を助け強きをくじくヒーローとか(『花盛り 高田馬場』の安兵衛)。
おっとりと品良い殿様とか(『一心太助 天下の一大事』の家光公)。
市井のしがらみを振りほどいた、無敵の強者や殿上人が、あの超美貌にぴたりとハマる。

でも『武士道残酷物語』では。
「わしもそろそろ出世をせねばならん。うまく立ち回ることも考えねば」
眉を寄せて真剣に言う五十嵐軍平は、ただひたむきに日々を生きる人間だった。

小泉たつみ座長(1/10舞踊ショー)


たつみさん演じる軍平は浅野家に仕える草履取り。主君はまだ幼児の浅野長矩(わかこさん)。軍平は、江戸家老の鬼頭(宝良典さん)の横暴を事あるごとに止めるため、鬼頭にすっかり睨まれている。毎回、大石内蔵助(小泉ダイヤ座長)が軍平をかばってとりなしてくれることで、なんとか事なきを得ていた。

宝良典さん(1/19舞踊ショー 当日のお写真で良いのがなく別の日から…) 
鬼頭の残忍さも誇張のない重みで演じられていました!
CIMG6061.jpg

軍平の“家族の情景”が良かったなぁ。冒頭、花見の席で鬼頭と一悶着あった後、軍平はつましい我が家に帰る。
「お帰りなさい。今日はずいぶん早かったんですね」
と笑顔で迎えるのは、妻・しの(辰己小龍さん)と愛児・いつき(本当の名前もいつきさん!)。
軍平はすっかりリラックスした表情で、
「いつき、母はお前に厳しいか?教育熱心だからな~」
と子の顔をのぞきこみ、愛しげに抱き上げる。
「よし、せっかく早く帰れたんだ、父と遊ぼう」
この場面、いつきさんを可愛がる、たつみさんの温かなまなざしが非常に印象的。“お父さん”の愛情が舞台に溶け出る。
小龍さん演じるしのは、夫の羽織りをこなれた手つきで受け取り、父子のやり取りをニコニコと見守っている。
3人だけの小さな家の中の風景は、この後の展開があまりにも凄惨なためか、かえって記憶の中でくっきりとした暖色に彩られている。

家族団らんに割り込む、突然の鬼頭からの使い(嵐山瞳太郎さん)。急務で屋敷に来いという。使いの文を読み、軍平の顔つきがきりりと引き締まる。
「この命をうまく果たせば、鬼頭様は今までのことを許してくれるかもしれん。そうしたなら、わしは出世ができるかもしれんのだ」
「出世をすれば、お前たちにも、もっと良い暮らしをさせてやれる!」

急ぎ屋敷に駆け付けた軍平に、鬼頭は重々しく告げる。
「実は、浅野家の中に反逆者が見つかった。その反逆者を始末してもらいたい」
「お前の腕は、目隠しをしていても相手の場所がわかり、斬ることができるという」
「反逆者が誰かなぞ、お前ごときが知ってよいことではない!目隠しをして、顔を見ずに斬るのだ」
言われるがまま、目隠しをして刀を握る軍平。そこに連れてこられた“反逆者”が、猿轡で声を封じられたしの・いつきだと気付かないまま、刀を振るってしまう。

軍平が騙されたことに気が付くのは、鬼頭の短刀に手をつぶされた後。舞台には痛みに苦悶する軍平と、白い布に包まれた首二つが残される。
動かない手で必死に包みの一つを開けて、軍平は絶叫する。それは変わり果てた妻の首だった。
「しの!なぜ、なぜ、このような姿に――誰がこんなことをしたのだ…!」
しばらく間を置いて、悲痛な細い声。
「わしか…」
そして、愕然ともう一つの包みを見つめる。“反逆者”として斬ってしまった、片方が妻なら、もう一方は誰なのか。
目を見開いて、口をうつろに開けて、信じがたい、信じられない、でも小さな包みの中に入っているのが何であるか、絶望的なまでにわかってしまう――
たつみさんの目、この世の終わりを見るような目だった。

地に這いずって、片腕に妻の首を抱き、もう一つの小さな首を凝視する。人間の抱きうる最も深い絶望が、一人の男の身体をよぎっていく。
あ、今すごく、構造的に高い視点が用意されているな…このとき感じた俯瞰の目が、ラストにも現れる。

最後に軍平は鬼頭への復讐を果たす。が、自らも幾度も斬られ、さらに主君を守るために長矩のお茶に盛られた毒を飲んだ。明らかに死は間近だった。
「上様、どうか一言、言葉を」
ダイヤさんの大石が涙しながら頼むと、わかこさんの長矩が淡々と言う。
「大義であった。余は忘れぬぞ」
その一言に瀕死の軍平は、血まみれの顔をくしゃくしゃにして笑う。すべて報われたと言わんばかりに。両手を握り合わせて、小さな主君に頭を下げる。
「もったいのうございます…!!」
そして幕が閉まる直前、最期の叫び。
「しのー!!いつきー!!」

人間としてここまで酷い目に遭っても。
『余は忘れぬぞ』
幼い殿様の一言が、武士・五十嵐軍平を救済した。
“軍平と家族”という温もりが、現代の私たちにとても近く感じられると思った次の瞬間。
“お家に仕える”という武士道の巨大な歯車が現れて、そこに生きている人々の血も涙も巻き取られていく。
望遠鏡のように時代の流れを静観する目と、人間の汗に接近していくルーペのような目が、芝居の骨格に鮮やかに現れて。
さっすが小龍さんの脚本だ…!!(結局いつもここに落ち着く)

生きる時代は選べない。生きる場所は選べない。
だからこそ、その時代の倫理で、ただ懸命に生きる五十嵐軍平の姿が、“私たち”の分身としてこんなに愛しく思えるのだろうな。
あまりに悲しい話なので、好みの分かれるお芝居とのことだったけれど…
個人的には、たつみさん主演の芝居の中で一番好きかもしれません!

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之十] ・辰己小龍さんスペシャルインタビュー!(たつみ演劇BOX)

小龍さんのインタビューが読みたい。
戯作にどんな知識が活かされているのか、演技にどんな創造を施されているのか、言葉で聞きたい。
2013年7月、小龍さんにひとめぼれしてから、ずっとそう思っていた。

自分自身がお話を聞かせていただいて、文字にさせていただく機会が訪れるとは…。
人生は数奇で嬉しいものです!

大衆演劇の入り口から[其之十] ・ついに登場!名女優・辰己小龍さんスペシャルインタビュー!(たつみ演劇BOX)



―ご自身の夢っていうのは、あるんですか。

小 夢はもう叶いましたね。もうじき40歳になるし…10代のときに夢見たことを20代で叶えて、20代で夢見たことを30代で叶えました。もうあとは、子どもの世代。夢見るというよりかは、これを引き継いでいく、将来の世代を育てていくっていうことに対しての責任ですよね。

―叶えた夢はなんだったんですか?

小 10代のときに夢見た夢は、やっぱり女優として皆さんに知っていただけるということです。当時、女優というのはもっともっと底辺で、名前の売れるものではなかったので。主演を張れる女優になりたいっていうのがあったんですね。座長ではないけども、主演はできるようになりましたし。今、自分の思い描いてた女優像になれたと思うんですよ。


⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)


読んで「涙出た」とコメントしてくださった方がいた。
24日の朝に記事を公開してから、小龍さんを愛するファンの多さを改めて感じている。

そして、インターネットは幕の向こう側にも届くツールなので。
大衆演劇の世界で奮迅する、幾名かの若い女優さんも目にしてくださったらしい。
若い女優さんには小龍さんに憧れる方も多いと聞く。

女優さんが主演(しかも世界を構築する巧さ)。
女優さんが戯作(しかも物語の運びの良さ・視点の大きさがただごとでない)。
女優さんが誕生日公演(そしてたたき出す大入り14本!)。

やっぱり、辰己小龍さんという女優さんは、大衆演劇の世界に咲いた一つの奇跡のようだと思います。
天性の花に、絶え間ない努力という水を与えて。
「奇跡」はきっと、次の世代の「希望」になっていくのでしょう。

1/9(土)の『小龍の七役』。
小龍さんが七役を演じ分ける、ファン垂涎の芝居。
七役の一つ・“お六”の「通らねえ煙管だなぁ~」の活き活きとした唸り方に、私の心は「ぎゃんっ!」て叫んでました。
“お光”の「まあ嬉しい!」の満面の笑みに、「きゅわんっ」て感じで胸が鳴りました。
クライマックスの場面でお六が君臨するように姿を現すと、「ひょーーー」って魂が奇声を上げました。

舞台の感動を言葉で書き表そうなどという気になるのは、観てしばらく冷ましてからの話で。
小龍さんの舞台を観ている真っ最中は、興奮の擬態語で胸の中がいっぱいです(笑)

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之九] ・前編(関東編) 横浜の「たつみ演劇BOX」に注目

私にとっての大衆演劇との出会いが2012年であったように。
2016年、この新しい年も、どこかの誰かにとっては出会いの年になるはず。
初めての大衆演劇―そのきっかけに、ほんの少しでもなれますように!
というわけで新年1発目の記事を書いております。

大衆演劇の入り口から[其之九] ・前編(関東編)  2016年、あなたも大衆演劇デビューしませんか?横浜の「たつみ演劇BOX」に注目

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「たつみ演劇BOX」の真髄のひとつだと思うのは、歌舞伎や浪曲で親しまれてきた物語をわかりやすく、しかも美しく描き直してくれることだ。
(中略)
2015年、東京・浅草木馬館と篠原演芸場で、異例のスタンディングオベーションを起こした『三人吉三』もまさにそうだった。記憶に鮮やかなのは、紙の雪が大量に降りしきるラストシーンだ。篠原演芸場の舞台上、雪をかき分けながらの凄絶な立ち回りに、客席の熱気も最高潮。すると小泉たつみ座長演じる和尚吉三が、花道にズザーッ!っと膝で滑りこんできた。花道に積もっていた雪が勢いよく客席に散った。このときの高揚!筆者も含め、花道横の客席は太いどよめきに包まれた。古典のはるかな物語が、たつみ座長の身体を通して、私たちに流れこんできた瞬間だった。


⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

上をクリックしていただくと、友人の花浅葱ちゃん撮影の、たつみ演劇BOXの三番叟の華麗な写真がご覧いただけます!
記事は1/8公開だったので1/9~1/11の3連休予告が入ってます。ブログに上げるのがすっかり遅くなってすいません…。

お正月から友人たちと一緒に、ウキウキと足を運んでいる横浜。
月の三分の一を終えて、すでに多くのドラマが生まれている。
1/9(土)『小龍の七役』、辰巳小龍さんの小さな身体が巻き起こす一大スペクタクルだった。
1/10(日)『武士道残酷物語』、小泉たつみ座長のやさしい持ち味が底にある、実直な男の人生を観た。
1/10(日)小龍さんの舞踊『夢やぶれて』は、世界に飲み込まれて涙しながら写真を撮り続けた。

一気に勢いを増した嵐山瞳太郎さんや、大蔵祥さんの細かな芝居への安心感も含めて。
芝居にひたすら真摯なたつみ演劇BOXの舞台は、やっぱり安心と信頼だ。

中でも、敬愛する姉上・小龍さんの開く世界観はますます深化しているようで…
この方はどこまで行かれるんだろうと、固唾を飲んで見つめる日々。

1/10(日)辰巳小龍さん 個人舞踊『夢やぶれて』
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この8・9月には木馬・篠原公演も決まっている。
その頃、それぞれの役者さんが見せる世界がどんな風に広がっているのか…。
いつもたくさん劇場のある大阪が羨ましいーとつぶやいてるけど、今年ばかりは関東ファンでラッキーだったかな?と思える幸運!

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之八] ・お正月の横浜で出会う「たつみ演劇BOX」と「三吉演芸場」

大晦日にこんばんは!
すっかりブログの更新期間が空いてしまいましたが…m(__)m
SPICEのほうの連載はぼちぼち書かせていただいています!
まずは、1月に三吉演芸場で公演する、たつみ演劇BOXさんを紹介させていただきました。

大衆演劇の入り口から[其之八] ・前編 息を飲むほど美しい!お正月の横浜で「たつみ演劇BOX」に出会う



このお正月、横浜で日本の美の世界に出会いませんか?
上の写真たちを見ていただければ、おわかりの通り。古典の美。完成された美。一枚の絵のような舞台から、研ぎ澄まされた“華”が観客に向かって放たれる!「たつみ演劇BOX」。全国約130といわれる大衆演劇の劇団の中でも、華やかさ・美しさは随一だ。舞台のすみずみまで、ピン!と緊張が漂う。


⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

TEBを紹介させていただくなら、まず写真!とにかく美しい舞台景色の写真を並べよう!
大衆演劇を観たことがない読者にも、あの洗練された画面はきっとインパクト大のはず。
そこで写真の腕の立つ友人たちにお願いし、友人たちとの協力作業のような感じで、TEB紹介記事が書き上がりました。
(お暇な方、各写真の下に載せている撮影者の名前を見ていただくと、この記事が他力本願で出来上がっていることがよくわかります笑)

感動したのが、記事の公開直後、TEBファンの方がブログで紹介してくださっているのをたまたまネットでお見かけしたこと…
おそらく、喜んで下さった、のだと思う。
私は大衆演劇ファンであると同時に、大衆演劇ファンのファンでもあるので。
各劇団さんのファンが少しでも喜んでくれると、PCの前で欣喜雀躍するのです。

そして「後編」では、たつみ演劇BOXが公演する横浜・三吉演芸場を紹介させていただきました。

大衆演劇の入り口から[其之八] ・後編 商店街と名物アイス―横浜・三吉演芸場の魅力

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少々、三吉演芸場の歴史を紐解いてみる。演芸場の階下に、かつては銭湯「元祖草津温泉」があった。先に一階の銭湯があり、昭和48年、貸し小屋だった二階に三吉演芸場が開場した。にょっきりと高い灰色の煙突に、「ドントコイ、ドントコイ」と演芸場の呼びこみの太鼓が響く、全国的にもユニークな小屋だった。

「今舞台を終えた劇団の人たちが、裏からゾロゾロ銭湯に入って来るの。観てたお客さんも風呂に入って、役者さんとお客さんが、中で背中流しっこしたり、お風呂から上がって牛乳を飲みっこしたり」(三吉演芸場・本田玉江会長)

銭湯のほうは、残念ながら平成9年の建て替えで無くなってしまった。だが今も名残のように、公演している役者さんが三人ぐらい一緒に入れる、大きな楽屋風呂があるという。


⇒全編はこちら!(SPICEサイトに飛びます)

暑い夏の日、ツルツル冷たいお蕎麦を挟んで。
本田玉江会長が懐かしげに話してくださった、三吉演芸場の昔の話。
聞かせていただいたお話は、私の宝物です。
SPICE記事では歴史のほんの端っこのみ、何とか書かせていただいた。
本当はいずれちゃんと形にしたいのだけど…

大衆演劇世界は、広く深く遠く、ただ果てしなく。
書きたいことは目を回すほど増えるばかり。
途方もない道のりだけど、応援してくれる友人たちやTwitterのフォロワーさんたちがいるので。
一つ一つ、一歩一歩、書いていきます。
読んでくれる人にわずかなりとも「幸福」が届きますように♪

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たつみ演劇BOXお芝居「ダイヤ色・河内十人斬り」(小泉ダイヤ座長誕生日公演)

2015.3.4 夜の部@三吉演芸場

「普通兄弟分ちゅうのは、兄貴のほうが強いもんやろ。わしらは逆やないか。お前が弱いからな!」
ずけずけと、兄貴分たる熊太郎(小泉たつみ座長)に言ってのけて。
「ま、だから強い弟分がついとるんや」
弥五郎(小泉ダイヤ座長)は、当たり前のように。
熊太郎のために命を捨てる。

小泉ダイヤ座長(当日個人舞踊「酒供養」より)

↑芝居で血まみれで「何さらすんじゃあ!!」とか言ってた方が、ショーになるとこの愛らしさ…。
31歳おめでとうございます!

小泉たつみ座長(当日個人舞踊「男酔い」より)


弟座長の誕生日公演の演目は『河内十人斬り』…意外も意外な選択だった。
品よく綺麗なたつみ演劇BOXが、恨みと血で塗り固めたようなあの話を…?

というのは、私にとっての『河内十人斬り』は、合同時代の剣劇はる駒座で観た至高の芝居だったから。
勝小虎さんの熊太郎の生々しい憤怒、津川竜さんの弥五郎の切れるような覚悟。
舞台には、飢餓にも似た寒々しい景色が広がっていた。

だけど、たつみ演劇BOXの『河内十人斬り』は。
もっと軽妙で、人物の表情も柔らかくて。
手に取って眺めまわしてもケガしなさそうな優しさがあった。

たとえば冒頭には、物語への案内役が登場する。
袴姿のダイヤさんが、村の人間関係を解説してくれるのだ。
たとえば、松永伝次郎(宝良典さん)が、子分(大蔵祥さん・小泉ライトさん・辰巳花さん)を引き連れて歩いてくると。
「はい、ちょっとストップ!」
ダイヤさんの声で、宝さん以下三人、ぴたりと時間が凍りつく。
マネキンのように動かない宝さんを扇子で指して、ダイヤさんが客席に教える。
「こいつ、悪そうな顔してるやろ。松永伝次郎っちゅうて、実際悪いやつですわ」
また、おぬい(葉山京香さん)が待ち合わせに立っているところを指して、
「今の言葉で言えばデート、昔の言葉で言えば逢引きっちゅうことやな」
待ち人である寅次郎(愛飢男さん)が来た途端、ダイヤさんの突っ込みが冴える。
「って、色男やないやん!愛飢男やん!こういう相手は色男って決まっとるのに、あいつ待っとったんかいな!誰や、こんな配役にしたの(台本をめくる)…辰巳小龍かいな!」
この楽しい案内役のおかげで、物語にスッと入っていきやすかった。

それから、考えてみれば主役の弥五郎の登場場面は遅いので。
案内役を用意したのは、ダイヤさんが出てくるのはまだかまだかと、誕生日に集まったファンをやきもきさせないためかとも思ったり。

序盤はひたすら、たつみさんの熊太郎が、屈辱を味わうシーンだ。
「甲斐性なし」「金も家に入れない」「この博打狂い」…
熊太郎を囲んで足蹴にするのは、義母のおかく(辰巳小龍さん)、女房のおぬい、おぬいの間男である寅次郎、松永一家。
散々罵られ、貸した金の証文も破られて、挙句の果てに血まみれになるまで蹴られる。

熊太郎が痛みと悔しさで伏しているところに、流れてくる浪曲。
―熊太郎ためには 弟分で 鬼と言われた 谷弥五郎―
舞台の奥に座っている背中。
満を持して、ダイヤさん=弥五郎が煙管をくわえて振り返る。

「弥五、弥五」
と必死に呼びかける瀕死の熊太郎に、最初は「誰や、なんでわしの名前知っとるんじゃ」なんて言っていたくせに。
熊太郎だと気付いた途端、
「兄貴!兄貴やないか!わしや、弥五郎や!兄貴が気づかんでもわしはわかったで!」
と、マイペース。

ダイヤさんの弥五郎は、あんまり熊太郎を兄として立てたり、敬ったりはしないみたいだ。
ボロボロの熊太郎に、「情けないなぁ~」と遠慮なく言い放つし。
数日遊んで女でも買って来い、と熊太郎に言われて外出したときは、
「かわいそうに、弟分のわしにまで気ぃつかって」
と同情した顔で熊太郎の家の方を見やる。

でも、その情けない兄貴のために、もう腹をくくっているのだ。
自分の命を捨てようと、とっくに決めているのだ。
“借りは必ず二人で返す!”
博打場で思いがけず捕まってしまった弥五郎は、獄中から熊太郎に便りを出す。
「お前には何の関係もないのに、一緒に恨みを果たしてくれるんか…」
一人残された熊太郎は、弥五郎の便りを握りしめ、顔をくしゃくしゃにして泣く。
(たつみさんが綺麗な顔をあんなに崩して泣く芝居は初めて観た)

始終、もろに喜怒哀楽を出すのは熊太郎のほうで、弥五郎の明朗さは肝が据わりきっている感じ。
でも、ラストシーンは違った。

警官に囲まれた兄弟は死を決意する。
先に熊太郎が刀で絶命した後。
「一人では行かせんで…!」
兄の亡骸を自分の体とひとつにするように抱いて、目を開いたまま弥五郎は死ぬ。
ダイヤさんの宙をにらむ目に、悔しさ、無念さが渦巻く。
劇中、一貫して、熊太郎のために走り抜いてきた弥五郎が、その兄貴を喪ったとき。
内に秘めた兄思いが、とめどなく溢れ出してきた。

あと個人的には、『河内十人斬り』で一番好きなセリフ、「われ、われ、九州も知らんのかい」がたっぷり演じられていたので幸せ。
弥五郎と、妹のおやな(辰巳満月さん)の別れの場面。
まさか死にに行くとは言えず、九州へ行くと嘘をつく弥五郎に。
「九州ってどこなん、東京の向こうか?」
とあどけなく問うおやな。
妹の無知さ幼さに声を詰まらせて、「われや――」と絞り出した後。
ダイヤさんはああ、と言いたげに横を向き、間を置いて、再度おやなの顔を見て、
「九州も――知らんのかい…!」
はー…(感嘆のため息)。

見やすく、とっつきやすく、理解しやすく。
古いものに忠実で、かつ誰にもちゃんとわかる(それがすごい)。
“綺麗に品よく”をモットーにするこの劇団さんが、作っていこうとしている舞台の形を改めて感じた。

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