優しく、まあるく、とびっきり―不動倭座長(剣戟はる駒座〈倭組〉)―

“倭”と漢字にすると勇ましいけれど。
“やまと”という音は、なんと安らかな響きだろう。
“や”が甘い音で、“ま”にとろみがあって、“と”でキュッと締める。

そんな名前の座長さんは、たたずまいも、なんとなく甘やかだ。

不動倭座長(2014/12/21@松山劇場)


遅ればせながら、明けましておめでとうございます!

2015年一つ目の記事は、2014年に書きそびれていた一本。
2014/12/20(土)-21(日)、親戚に会いに四国に行った際、松山劇場にも足を運んだ。

7か月ぶりに〈倭組〉を見て、改めて倭さんの持つ吸引力に驚いた。
「芸はまだまだかもしれませんが、とにかく楽しく!楽しかったなーと思っていただけるお時間を作っていきます!」
常に潤みのある大きな瞳が、客席に降りかかるようだ。

この方の舞台は、なんでいつもこんなに明るいのだろう。
私の体の底にもパッと照射する、陽射しの源はなんだろう?

2013年10月-2014年4月の関東公演を、私は思い返す。
2013年10月の旗揚げ。
いきなり、馴染みの薄いはずの関東周り。
相当に難しいコースだということは、私のぼんやりした知識でも想像できた。

旗揚げ翌月の11月、私は茨城の千代田ラドン温泉センターへ行った(当時の記事)。
駅からかなり遠いためか、夜の部のお客さんは20人程度だった。
そこに、賑やかに鳴り出した、お馴染み『一本釣り』。
ぽつぽつと座ったお客さんを前に、座員さんがずらり揃って、先頭はもちろん倭さんで。
「そーれっ!」
と掛け声に乗せて、元気いっぱいに釣り竿を振る。

「どうしたら茨城のお客さんに気に入ってもらえるのかわからないから、ああしろこうしろと、ぜひ僕たちに言ってください」
倭さんの真摯な口上からは、全身で客席を受け止めようとしているのが伝わってきた。

全身で、全力で。
その土地、その土地のお客さんが喜ぶものを。
旗揚げから辿ったのは、静岡、茨城、福島、秋田、神奈川、山梨、再び静岡。

「12月には福島にも行ったんです。福島のお客さんに、少しでも元気になっていただきたくて」
「これは1月に秋田のホテルこまちに乗ったとき、作った舞踊ショーなんです。秋田のお客さんがとても喜んでくれて、ぜひ秋田の風を持って行ってほしいと言っていただきました」
「我々は3月には山梨に参ります。山梨のお客さんを元気にして、癒してきます!」

丸っこい体つきで、一生懸命を絵に描いたように話される。
あの大きな瞳は、多分、目の前にいるお客さんから逸らされることがない。
“お客さんを元気にするお仕事” から基本の軸がずれないのだと思う。

だから、土地が違えど風土が違えど。
倭さんの明るさは、関東のお客さんの心に灯ったのかもしれない。

1月の秋田では、地元のファンの方に聞いたところ、例にない大入りを出したという。
2月の川崎・大島劇場には私も通った。
日に日に客席が満杯に近づいていくのがわかり、千秋楽は立見も出た。
3月の山梨のスパランドホテル内藤では、口上の最中に、客席後方から呼びかける男性客がいた。
「不動倭座長が面白いって聞いて、僕ら長野から来たんだよ!」
聞いた途端、倭さんは弾かれたように立ち上がって。
広い宴会場を駆け抜けて、一番後ろにいた男性客の所に、まっしぐらに走って行った。
飛びつくように、男性客と固く固く握手されていた。

旗揚げ当時のインタビューでは、こんな風に語られていた。
“自分の考えている世界観がお客さんにどこまで通じるか試してみたいですね”
“それで叩かれても自分で感じながら進化していきたいです”

(『演劇グラフ』2013年11月号)

この方は、舞台でやってみたいことが、とにかくたくさんあるんだろうな。
最近の漫画や映画、大衆演劇以外の演劇も、色々吸収しているんじゃないだろうか。
(名物のコントも、時々シュールな匂いの笑いがあって驚く)

その情熱に感化されたのか。
倭さんの笑顔を見ると、無性に嬉しくなってしまう。
理由もなく、良いことが起きる気までしてくる。

この正月公演は梅南座。
2014年5月から1年開けずの再乗りだ。
昨年5月の梅南座には、ゴールデンウィークを利用して私も行った。
隣席の男性の方が、違うお名前だった十代の頃の倭さんをご存知だと話してくれた。
「今の名前になってからは初めて観た。倭…なかなか良い名前を付けたもんだね。う~ん、良い名前だ」
しみじみと繰り返していた。

「やまとっ!」
かかるハンチョウも、どことなくまろやかな音に聞こえる。
声援を受けて、舞台中央から振り返る、その笑みは。



「や」さしく、
「ま」あるく、
「と」びっきり…
ってところかな?

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

昨年も、倭さんのパワーについて書きたくなったことがあります。
⇒客席の手を引いて―剣戟はる駒座〈倭組〉・不動倭座長―

スポンサーサイト

剣戟はる駒座〈倭組〉お芝居「三人島造」

2014.5.4 昼の部@梅南座

稲荷「次にここを通りすがるのが女だったら、手籠にしちまえばいいだろ。俺の後でお前も楽しませてやるよ」
丸太「兄貴の後は嫌だ!なんか嫌だ!」

「三人島造」の悪役コンビ、“稲荷”(勝小虎さん)と“丸太”(叶夕晏さん)。
すっごく嬉しいな。
心の中でいつまでも温かい、お芝居の大好きなキャラクターがまた増えた。

言動も行動もヒドい二人組なんだけど。
小虎さんと晏さんのほのぼのした雰囲気のせいか、テンポのいい会話のせいか、憎めない可愛らしさがあるのだ。

写真・勝小虎代表代行(当日舞踊ショーより)


写真・叶夕晏さん(当日舞踊ショーより)


お芝居は、囚人の流刑島に飛び込んできたニュースから始まる。
囚人の島造(勝彪華さん)が、島から出られるというのだ
「おいら、生まれた時から身よりがなかったけど、おっかあが見つかったんだ」
喜色満面の島造の手には、生き別れの母が集めた、島造の赦免を願う千人の嘆願書。

囚人の稲荷と丸太は、島造を殺して島造に成り変わり、自分たちが島を出ようと企む。
が、島造を刺したところで、島造の兄貴分・白鷺(不動倭座長)に見つかってしまう。

それでも稲荷と丸太は、なんとか島の外に脱出する。
「船の底に隠れて島を出られたまでは良かったが…まさか途中でバレちまうなんてな…」
と稲荷がぼやけば、
「だから俺は最初から無理だって言ったんだ!なのに兄貴が無理やり」
と丸太が言い返す。

場所は、役人の目を逃れるため、人気のない古いお堂。
時刻は、辺りが真っ暗な夜半。
疲れきった二人がやいやい言い合う、この場面の風情が、私には一番印象的だった。

「島造の実家の相模屋に、丸太、お前が島造だって名乗って出るんだ。だが、この格好じゃ行けねえな。まずは金だ。この次、ここを通るやつから奪えばいいだろう」
小虎さん演じる稲荷は、我欲に正直で、目的のためなら手段を選ばない。
鋭い輪郭に、悪の色気がぶれる。
「ホントにそんなこと出来るのかよ…わあったよ、兄貴は、もう」
晏さん演じる丸太は、終始困り顔で、兄貴に文句を言いながらも着いて行く。
「ドン・キホーテ」のサンチョ・パンサみたいな従者の哀愁が、親しみやすいキャラクターだった。

このコンビの何が好きって、劇中で何度白鷺に追い払われても、またひょっこりと悪だくみをしながら現れる、しぶとさ。
互いに文句をつけあいながらも、二人一緒に行動している仲の良さ。

それから、見た目の可愛さもある。
小虎さんがしゅっと背が高く硬質で、晏さんがちんまり丸くて。
二人が並んでいるだけで、自然とユーモラスになる。
そのことがよくわかる場面は、島造の実家の相模屋。
若旦那風の着物に着替えた二人が、花道から登場する。
「丸太、お前、せっかく良い服着てるんだからちゃんと着ろよ。良い所の坊ちゃんに見えなきゃいけないだろ」
「そんなこと言ったって、こんなもん初めて着るんだからわかんねえよ」
ぶつくさ言う丸太の着物の襟を、稲荷が直してやる。
着飾った二人の体型が対照的で、やり取りが微笑ましくて、悪人だって忘れそう。

目の見えない島造の母親(宝華弥寿さん)を騙して、丸太が島造だと信じ込ませようとするも。
アッサリ白鷺に正体を暴かれる。
「お前ら、稲荷と丸太じゃねえか!おっかさん、騙されちゃいけません、島で島造を殺したのは、他の誰でもないこいつらだ!」
稲荷が忌々しげに、
「ばれちまったんならしょうがない…」
舞台の照明が落ち、稲荷と丸太にスポットライトが当たる。

ここで小虎さんが朗々とした声で名乗りを上げるのだけど、これが私的には劇中で一番きれいなセリフだった。
「春は花、夏は橘、秋は菊、冬は玉椿、長い徳川の世、世間の暗い裏道を鼠のように生き抜いてきた、稲荷の黒助、丸太の二人だ」
申し訳ないことにうろ覚え…実際はもっと長かったし素敵なセリフだったので、未見の方にはぜひ本物を聴いてほしいです。
しかし、やたらカッコいいセリフだったのは事実(笑)
やってることのえげつなさとのギャップが、おかしくってツボだった。

悪人なので、やっぱり最後には白鷺に斬られてしまう。
先に斬られた丸太を見て、稲荷が目を見開いて丸太!と呼び、直後に稲荷も斬られる。
何気ない演出なんだけど、なんだかんだ、兄弟分は互いが大事だったんだろうなぁと思わせられた。

お芝居の幕が閉じるやいなや、横に座っていたおばあちゃんが、私の肘を突っついた。
「私、今まで三つ大衆演劇の劇団を見てるんだけど、ここ一番上手だった!」
ねえ!ですよねえ!とひとしきり盛り上がっていると。
おばあちゃんの連れのご婦人が、しみじみ呟いた。
「芝居、すごく考えられてる。ここの座長、頭良いわ。賢いわ」
私も、改めて感じた。
全員の演技力の高さは、もう言うまでもないけれど。
スピーディーな展開や、絵になる場面が随所随所に織り込まれているところには、倭座長の知性が光っていると思った。

東京に戻ってから、ファンの方のブログをチェックしていると、梅南座は連休明けも大入り続きのようだ。
7か月の関東公演で、各地に明るい旋風を起こして行かれたように。
懐かしい関西でも、馴染みのお客さんに愛されまくっているのだろうな。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

剣戟はる駒座〈倭組〉お芝居「馬鹿の幸吉」

2014.5.3 昼の部@梅南座

むーっと口を固く結んで、顎を引いている。
手はトントンと休みなく、木槌でワラを叩いている。
時々、ぷぅっと頬を膨らませ、唇を尖らせて。
それが、倭座長のつくり出す、幸吉の表情だ。

写真・不動倭座長(当日デジカメ忘れたため5/4舞踊ショーより)


連休ですから!
金曜の夜、いそいそ乗ったのは新宿発の夜行バス、降車場所は天王寺駅。
大阪も3度目、少しは地下鉄にも慣れました。
それでもちょっと迷いながら梅南座を目指し、商店街の真ん中に「不動倭」の幟が立っているのを見たとき、嬉しかったこと、懐かしかったこと。

「馬鹿の幸吉」はファンの方のブログで泣けるお芝居と書かれていて、前から見たいと思っていた。
なんと言っても倭さんの演じる、頭の弱い青年・幸吉が素晴らしかった。
近所のお加代(叶夕茶々さん)に、祭で何かおみやげを買ってきてあげる、と言われて。
幸吉の口からたどたどしい言葉が、じたじたともがくように飛び出す。
「飴とな、しょうが焼きと、饅頭と、飴と、しょうが焼きと…」
「面はいらんの?幸吉、面、好きやと思うで」
「面?面て、なんや。面より、饅頭買うてきて、飴とな、しょうが焼きと…」

幸吉と一緒に暮らしているのは、庄屋の主人(勝龍治総裁)と、娘のお美代(宝華紗宮子さん)。
優しい“おじさん”と“お嬢さん”が、幸吉は大好きだ。
でももう一人、大嫌いな同居人がいる。
「幸吉、ただいま。うちの人はいないのかい」
主人の後妻のお滝(宝華弥寿さん)が帰って来ると、幸吉はじろりとねめつける。
お滝は幸吉の嫌悪をものともせず、お美代を呼びつけて罵る。
「お美代、あたしが呼んだらすぐに出てこいって言ってるだろう!お前ときたら、本当にしつけされてないんだから」
「おっかさん、すみません、すみません」
幸吉にとってお滝は、お嬢さんをいじめる “悪いおばはん”なのだ。

幸吉の定位置は、庄屋の入り口。
そこに腰を下ろして、休むことなく、草鞋を作り続けている。
「幸吉、奥にもらってきたお饅頭があるから、一緒に食べよう」
とお美代が声をかけても、
「駄目、幸吉、仕事ちゅるわ」
作った草鞋を、町に売りに行き、ひたすらお金を溜める。

実は幸吉は、一年前に飢えていたところを庄屋に助けられた居候だ。
故郷はどこなのか、家族はどうしたのか、誰にもわからない。

役人の健三(勝小虎代表代行)が、幼子をなだめるように、幸吉に問いかける。
「もうずいぶんお金がたまったろう、何に使うんだ?」
「幸吉の金とちゃう、幸吉の姉やんの金や。姉やんにあげるの」
この言葉で、庄屋の主人もお美代も、幸吉に姉がいたことを初めて知る。
「そうか、お前には姉さんがいたのか。姉さんは今、どこにいるんだ?」
「わからんど」

お前はどこから来たんだ?
わからんど。
お前の親は、さぞ心配しているのではないか?
わからんど。

幸吉は、素性の見えない男なんだけど。
いつか会う“姉やん”のため、無心にトントンと草鞋を作る姿には、童心の清さがぎゅっと詰まっていて。
倭さんの編み出す純粋さに、胸を衝かれた。
この方の演技は、本当に、一番素直な種類の感動を呼び覚ます。

物語は、月明かりの中、悲劇に終わる。
明らかになる“姉やん”の正体と、流血の惨事。
幸吉の泣き顔が、照明を落とした舞台に、ぎりぎり焼きつく。

私は、伏線を溜めて溜めて、最後でそれを一気に回収して泣かせるっていうパターンが一番涙線に来るので。
前半で、“姉やん”を思って働く幸吉の姿を、もう少し長く見たかったな…と欲が出たりもするけど。
「姉やんに会いたい、どうやったら会えるん?」
幸吉が泣きながら、姉やんのいる月に向かって手を合わせて。
突っかえながら、唱える文言。
「なみゅあみ、なむあみ、だぶつ。これで姉やんに会える?」
この場面には、やはり切なさ・哀れさが極まっていた。

7か月ぶりの関西公演。
大入りの客席には、「やっと戻って来てくれた~」と笑顔の関西ファンの方もいらした。
〈倭組〉の皆さんも、懐かしい関西の空気で、リラックスされてるような。

私自身も、4か月ぶりの大阪の空気を満喫してきました。
ちょっと地下鉄乗ったり歩いただけで、他の大衆演劇場に出くわすのが面白い。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

剣戟はる駒座〈倭組〉お芝居「虎の改心」

2014.3.23 昼の部@スパランドホテル内藤

心底好きな喜劇って、思い返すたび、ほっこりとした笑いが改めて胸にほころぶ。
「虎の改心」は、見てるときも楽しかったけど、見た後で何回思い出しても楽しい!

不動倭座長演じる酔っぱらいの虎が、舞台端からよれよれ歩いてくる。
「酔ってない、ひょってないってぇ、言うてるやん」
呂律の回らない舌といい、絡むような千鳥足といい、倭さんの虎は酒くささまで客席に臭ってきそうだ。
頬は真っ赤、そして、羽織る着物も能天気な赤色。

写真・不動倭座長(当日舞踊ショーより)

最近、初めて倭さんを見た友人が、「すごくきれいな顔立ちの人」って評していた。こういうお写真を見るとそれがよくわかる。

さて大工の虎は、基本的にはいい人なのに、酒を飲むと豹変してしまう。
その日も、気持ちよく昼間から酒を煽った途端、女房(叶夕晏さん)に喧嘩をふっかけ始めた。
義父(宝華弥寿さん)が止めに入ると、あろうことか。
「お前ら、そうかわかった、実の親子で間男しとるやろ!」
そんな馬鹿な…と言う暇もなく、出してきたのは出刃包丁。
女房と義父は慌てふためき、
「虎に殺される、殺される!」
と、虎の面倒を見ている棟梁(勝小虎さん)の家に逃げこむ。

倭さんの前日の口上で、酒癖の悪い男の話だっていうのは聞いてたけど。
わりと深刻なレベルのドメスティック・バイオレンスだった…!

虎は、べろべろに酔ったまま棟梁の家にやって来る。
「うちのかかあとじじい、ここに来とりますやろ。あいつら間男しよるねん、間男成敗したるんや」
ここで、棟梁はひとつ芝居を打つ。
「なら、飛び道具を使い。これで撃ったら一発や」
出刃包丁の代わりに渡したのは、黒光りするピストル。
ただし、玩具の。

虎に悩まされる周囲の人々を集めて、棟梁は筋書きを説明する。
「ええか、みんな、虎に撃たれて死ぬっちゅう芝居をしてほしい。この機会に、酒癖の悪さを直したらんとな」
芝居の参加者は5人。
虎の女房、義父、茶店の豆吉(宝華紗宮子さん)、後輩の大工(勝彪華さん)、それに少々頭のぼんやりした棟梁の息子(叶夕茶々さん)。

この5人の“死に方”がそれぞれに強烈で、舞台を賑々しく盛り立てる。
個人的に好きだったのは、紗宮子さん演じる豆吉かな。
「わし、もう人生に疲れたー!なあ、頼むから殺したって、殺してえなー!」
と、舞台に大の字になって、駄々っ子のように死をせがむ場面のシュールさ(笑)

「虎の改心」は、明るく描き出される嘘の世界だ。
酔いが回って頭を突っ込んだ先は、キッチュな彩りの玩具箱。
ぱぁんと玩具のピストルが鳴れば、冗談みたいな殺人が起きる。

でもその中に、確かな深い息遣いが現れる。
「みんな、みんな死んどる、どないしよう」
ようやく我に返った虎の嘆きは、それまでの笑いとの落差で、より沁みる。
「ああ、わしは、なんてこと、ホンマになんてことをしてもうたんやろ」
倭さんのくしゃくしゃの泣き顔が、物語の奥に埋まっていた吐息を掘り出す。

玩具箱みたいなお芝居の奥底に、さりげなく配された温もりがたまらなく好きだ。
小虎さんの棟梁にも、年期の入った苦労人の風情が織り込まれている。

写真・勝小虎代表代行(当日舞踊ショーより)


棟梁が可愛がっている息子には、やや事情があったりする。
「お前、いくつになった、言うてみ?」
問われて、茶々さん演じる息子は、楽しそうに指を八本立てる。
棟梁は額を押さえて、ため息をつく。
「あのなあ、お前もう二十歳や。八つの歳に頭を打ってから、ずっと頭の中が八つで止まってしもうたけど、お前もう立派な大人なんやで」
茶々さんのぽややんとした笑顔は、劇中では笑いにしか転化されないけど。
実は、棟梁のけっこうな苦労をほのめかせる設定じゃないだろうか。

「わしの大事なせがれに、何しとんねん!」
彪華さん演じる若大工が、息子に乗っかって苛めていると、すぐに飛んできて檄を飛ばす。
永遠の八歳児と暮らしてきた日々が積もって、棟梁の家の居間が、うっすらと情けの透ける風景になる。
小虎さんの悪役の話は再三してるけど、情の伝わる苦労人の役も良いですよねえ。
(懐かしいところでは「七福神」の番頭役とか)

ぱぁんと鳴る、玩具の銃声の向こう。
ほろりと溶ける、心のひだ。
「虎の改心」、今まで見たはる駒喜劇で一番好きかもってくらい好きになった!
スパランドホテル内藤ではきっちり1時間に収めていたけど、劇場で上演するときはもっと長めに演ったりするんだろうか。
たっぷり、じっくり…いつか必ず劇場で見たい。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村

剣戟はる駒座〈倭組〉お芝居「闇簪」

2014.3.22 夜の部@スパランドホテル内藤

黄色い縞の着物で、元気な足をむき出して、花道の間をバタバタ走ってくる。
「兄貴―!安太郎の兄貴!」
夜の部の「闇簪」はなんと言っても、晏さん演じる三枚目・“もんじ”の楽しさが抜群!

写真・叶夕晏さん(3/23個人舞踊「Love Love Love」より)


この個人はとっても優しくて可愛かった。先月大島劇場で仲良くなった方に、「晏さんの舞踊が大好きで毎回楽しみ」という方がいたのも頷ける。

さて、もんじは、倭座長演じる主人公・安太郎の弟分に当たる。
旅に出ていた安太郎ともんじが、白木屋一家に帰って来ると、親分が亡くなっていた。
安太郎が跡目を継ぎ、お嬢さん(宝華紗宮子さん)ももらい受けることになる。

「なんだよそれー、跡目もお嬢さんも兄貴がもらうってのかよ、やってらんねえや」
拗ねるもんじをなだめようと、安太郎は知恵を使う。
「もんじ、お前には俺の後見をやってもらおうと思うんだ」
一家を城にたとえて、
「お殿様なんてのはなぁ、馬鹿でもできる。実際に裏でお殿様を動かしてるのは後見だ。後見は賢くなくっちゃあできない。だからお前に頼むんだ」
ここでもんじの曇り顔が一点、輝く。
「俺は賢いから後見かぁ!馬鹿な兄貴は親分をやって、賢い俺が後見…わかったよ兄貴!」
シンプルかつ自分への自信満々な思考回路が、いっそ清々しい。
晏さんが演じると、輪郭に率直さが滲み出て、可愛さまで増してくる。

私が好きなシーンは、もんじがお嬢さんに旅の面白話を聞かせる場面。
「ホントにこんなことがあったんだよ!安太郎の兄貴ってば、困ったもんだぜ。女とくれば見境なし!」
父親が死んで落ち込むお嬢さんを笑わせて、少しでも元気づけようとする。
単なるお馬鹿さんではない、人格の優しさが描かれていて、何より満面の笑みで威勢よく演じる晏さんを見ていると、温かい気持ちになる。
まあこの後、旅の話が段々安太郎の悪口になるっていうオチはつくのだけど(笑)

つくづく、晏さんの芝居の魅力を味わえたことは、山梨遠征の大きな収穫だった。
丸っこい顔に乗っかる表情が、弾けるように変わる。
締まった唇がぱかっと開いて、高音のセリフがつんのめるように走る。
昼の部の「匕首六之助」のおぎん役も、大熱演だったし。

もんじの生み出す笑いが「闇簪」の明の部分だとすると。
暗の部分を引き受けるのが、白木屋一家親分の後妻のお巻(宝華弥寿さん)。
神楽獅子の親分(勝小虎さん)と取引して、夫を殺させた黒幕である。

写真・宝華弥寿さん(3/23舞踊ショーより)


まず、大衆演劇で女性の悪役っていうのが珍しい気がして、悪役好きとしては注目せずにいられない。
私の中でお巻のキャラクターは、“傘を持つ女性”というイメージ。
弥寿さんの傘の使い方が、とても巧みで象徴的だったから。

たとえば、お巻と情人の吉松(勝彪華さん)の場面。
お巻が親分を殺してしまったことに、吉松は慄いているが、お巻はねっとりと艶のある声を投げかける。
「吉松、お前の欲しいのは…これだろう?」
お巻の持っていた大きな傘で、二人の男女の姿はすっぽり覆われる。
すぐ傍に親分の遺体が転がっているというのに、二人からは見えなくなる。
血の罪悪が傘に隠され、代わりに睦みの匂いが立ちこめる。

傘って、“隠す”道具になりうる。
後にお巻は吉松とも情がもつれ、口封じに吉松をも殺してしまうのだけど。
そのときも傘を持っていて、広げられた骨と布の向こうから、ぬっと小刀が突き出す。

「ねえ吉松、あたしと別れるのはわかったからさ。これで今生の別れになるかもしれないんだよ、別れ酒の一杯くらい、つきあっとくれよ」
とても毒婦には見えない、お巻の洒脱な笑い方。
粋な女性が、風情をまとって大きな傘をぱらり広げる。
傘の内側、隠された奥、殺意が閃く。
お巻と傘、シンボリックな組み合わせが印象的だった。

晏さん・弥寿さんをはじめ、卓抜した女優さんを見ると。
沸く思いは憧れと、ほのかな切なさ。
一応この身も女だから?
勝手に感じてしまう共感と愛情は、かっこいい男優さんに対する高らかなファン心よりも、ひょっとするとざらりと深い。
大衆演劇ファンの友達や、客席で仲良くなった方の話を聞くと、実は心に「ひいきの女優さん」を秘めている方の多いこと。

凛とした女優さんのまなざし、大好き。

にほんブログ村 演劇ブログ 大衆演劇へ
にほんブログ村