章劇・瀬川伸太郎さん個人舞踊「滝の白糸」

2014.3.15 夜の部@浅草木馬館

「不二浪劇団」の座長さんが、事情を経て、章劇にいらしているというのは聞いていた。
姿のかっこいい人だなぁ!というのが第一印象。
ミニショーの立ちの踊りも、お芝居の股旅姿も、背が高いので黒の衣装が決まる。
180センチはあるだろう、大きな体躯が敏速にきびきび動く様が気持ちいい。

だから、女形の個人舞踊が「滝の白糸」とアナウンスされたときはちょっとびっくりした。
儚げな悲劇の曲、がっしりした体でどう踊られるんだろう?

写真・瀬川伸太郎さん(「滝の白糸」より)


―心だけ下されば 倖せだから
どうぞどうぞ 行って下さい 東京へ―


やっぱり180センチの白糸、大きいな…(笑)とは思ったけど。
それ以上に惹きつけられたのは、潤んだ目。
はつはつと光る熱を湛えて、目線は、相手の男性に遠く投げかけられる。
祈りを流し送るように、手を合わせて。

―夢があなたに 叶うなら
苦労もかえって 愉しいと―


くるりと翻って。
相手との思い出を懐かしむみたいに、ため息まじりに空を仰ぐ。

私の見ていた二階席からでも、表情の変化がよく見てとれた。
哀しみの紋が、舞踊の中に収まりきらず、じんわり溢れる。
瀬川さんの白糸は、繊細で薄幸な女性…って感じじゃなくて。
もっと悲痛で、ひっかいた後に生傷の残るような。

体に詰まっている感情の量が、多そうな役者さん。
同じ日の、立ちの個人舞踊のときもそう思った。

写真・瀬川伸太郎さん(曲名不明)


こっちは実に粋で楽しげ。
歌詞に合わせて、勢いよく客席に呼びかけたりしていた。
鉢巻姿の大きな体躯から、生の感情が染み出る。

「不二浪劇団」は、東日本大震災のとき、福島県いわき市で公演中だったらしい。
大事な着物や鬘も、津波にさらわれたらしい。
それから3年、どんな苦労だったのかは知る由もないけど。

土曜の夜の瀬川さんは、ただしなやかに芸達者だった。
そして、始終、笑みを絶やさないでいらした。
お客さんのお花を受け止るときも、舞台の端で大入り手打ちをするときも、たまたま開演前に私が木馬館入り口で見かけたときも、

笑って、粋な、鉢巻姿。
揺れて、涙の、滝の白糸。

―好いた御方に 裁かれて
生命を生命を 断とうとも―


熱の中に、ぶれる、揺れる。

「滝の白糸」の終盤、白糸の死罪を表すように、床に倒れ伏せる。
それでも、なお顔を上げて。
火のような情の灯る眼差しが、最後までスポットライトの中に残る。

―滝の白糸
末は夫婦の ふたりづれ―


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章劇・梅乃井秀男さん個人舞踊「水色の手紙」

2014.3.15 夜の部@浅草木馬館

線の柔らかな、ほっそりした“女の子”だった。
軽やかに踊り出たとき、振袖がひらひら楽しげに遊んでいた。
揺れる振袖は、パステルカラーの水色。

写真・梅乃井秀男さん(「水色の手紙」より)


1年ぶりの章劇、したがって梅乃井さんの女形舞踊も1年ぶりに見た。
可愛いなぁ!と声を上げてしまいたくなるくらい、うっとり愛らしかった。

―お元気ですか
そして 今でも
愛しているといって下さいますか―


なだなかな眉、白い花の髪飾り、赤い唇にちょんと小さく乗っている笑みの形。
踊りの振りは小さめに、あくまで上品に。
淡く、ロマンチックに、リリカルに。

生身の女性の持つ湿度を、完全に打ち消して。
現実味がないくらいに、そっと客席を指す指先まで、透明感に満ちている。

浮かぶ既視感。
なんだかレトロで懐かしい…
あ、親に借りて読んだ、昔の少女漫画だ。
背後に花びらとキラキラのスクリーントーンが飛ぶ、甘い空想の世界だ。

―みずいろは涙いろ それを知りながら
あなたへの手紙を書いてます―


梅乃井さんは、目が大きくて丸みがあるせいか、風貌そのものがどこか少女めいていて。
滑らかな動作と、着物の水色が相まって、その容色は儚い。

梅乃井さんは、私が昨年2月に初めて章劇を見たときは、既にいらした。
そのときは、傘を使った立ちの踊りだった。
後で苦労人だと聞き、凛然とした眼差しの強さを思い出した。

でも昨日、私の目に映った梅乃井さんは、ひたすら可愛くて柔らかくって。


―誰からも恋をしているとからかわれ
それだけがうれしい私です―


乗り越えてきたものの大きさを、どこかに置いてきたように。
曲の流れる約3分間、この間だけは、“女の子”の顔になる。
可愛い動作、可愛い衣装、可愛い表情が、水色に溶けて、心地良く舞台に座る。
夢のミニチュアのような“女の子”。

見た後もしばらく、幸福感が胸に残っていた。
優しい味わいのお菓子をつまんだときみたいな、ほどける幸せ感が。

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劇団章劇お芝居「石松の初恋道中」

2013.2.2 夜の部@浅草木馬館

澤村章太郎座長の演じる、敵役のヤクザの親分。
もっぱら強きを助け弱きをくじく。
喧嘩はもちろん卑怯な手で勝てばいい。
たった一人の若い衆(澤村ダイヤさん)は、弱くてあんまり役に立たない。
トナカイみたいに赤い鼻の、
その名も赤鼻の大五郎!

写真・澤村章太郎座長(2/2顔見せショーより)


初鑑賞の章劇さん。
主演は森の石松役の澤村蓮副座長だったけど、一人一人見どころの多いお芝居で大満足。
中でも私の心をつかんで離さないのが、章太郎座長の演じた赤鼻の大五郎。
石松の敵役、それもあんまり格好の良くない敵なんだけれども。

大五郎親分が惚れたのは、大丸屋のお嬢さん・お染ちゃん(澤村七知さん)。
大五郎は五十近い設定っぽかったので、老いらくの恋と呼ぶにはまだ早いけど。
まだ十八というお染ちゃんとはかなりの歳の差。
それでも恋に焦がれ焦がれている様子、
章太郎座長が情感たっぷりの台詞回しで表現します。

「厠に行った時、手を洗おうとすると、お手水の鉢の中にお染ちゃんの顔が浮かんでくる」
いや、水です。
「おひつを開ければ、その中に白いお染ちゃんの顔が…」
いや、米です。

恋は盲目の文字通り、大五郎の心は何を見てもお染ちゃんに繋げてしまう。
澤村ダイヤさん演じる子分も呆れ顔。
(この章太郎座長・ダイヤさんの容赦ないやり取りもなんとも可笑しかった)

それでも、赤く染まった鼻を天に向けて、
お染ちゃんを思い浮かべ、切なそうに目をつむる大五郎が。
なんだか微笑ましく、可愛く見えてきたというのに。

「おい、いいから娘を連れて行け!」
暴走した恋心は、お染ちゃんを力づくで攫うという手段に出てしまうのです。
ええええ。
そしてヒーロー・石松にかっこよくお染ちゃんを救われて、石松とお染ちゃんの初恋物語が始まってしまうのです。
あちゃー。

でも、大五郎はそれくらいじゃあめげない。
物語終盤、もう一度お染ちゃんを誘拐する。
当然助けにやってきた石松。
どう迎え撃つのかと思っていたら。

子分と二人がかりで、石松を井戸に落とすという。
卑怯極まりない方法(笑)
うわあ。

でも最後は、石松と石松の兄弟分・小政(澤村雄大さん)に、たった一人の大事な子分も斬られてしまって。
石松・小政と大五郎の戦いになる。
そして当然のように負けて斬られまくる大五郎。
が、なかなか死なない。

「死んでたまるかぁ~」

唸りながら刀を地に突き刺して、粘る粘る。
この死に際の悪さ。
うわあ(2回目)。

大五郎親分の、やっている事自体は酷いんだけど。
お染ちゃんへの恋心、そして章太郎座長の醸し出す柔和さのせいか。
この敵役はどこかユーモラスで憎めない。
最後、結局斬られて退場する(死ぬ)場面なんか、
ああ可哀そうに…と思わずにはいられなくって。

大衆演劇のお芝居は、王道を歩むヒーローの魅力を存分に見せてくれる。
いつも私はそれにどっぷり浸っているのだけど。
お芝居の脇道のほうから、敵役の魅力はぴりりと効いて。

幕が閉じた後も、思い出すのは真っ赤なお鼻。