劇団悠お芝居「化猫」

2015.3.22 昼の部@浪速クラブ

『化猫』。
妖怪大好き人間には、なんて心踊る題だろう。
「どんなのかしらねぇ」「楽しみですねえ」
浪速クラブでお隣になり、仲良くなった80代のご婦人と開演を待った。
松井悠座長がなりきる化猫は、人間と猫の狭間をうごめく。
恐さと妖しさ、恨みと哀しみが、行灯の下で鳴く。
にゃおん!

松井悠座長(当日個人舞踊『ルージュの伝言』より)


劇団悠の浪速クラブ公演は、この2週間前3/8(日)にも見ていた。
驚いたのは、初乗りにも関わらず客席が満員なこと。
そして座員さんがみんな元気いっぱいなこと!
一人一人、こっちまで嬉しくなってしまうくらい元気で。
初めての浪速クラブの一ヶ月を、とにかく成功させようとする気概がひしひしと伝わってきた。

劇団悠の個人的な印象は、お芝居の構成がキッチリ練られている感じ。
素地に舞台・映画・本のオマージュらしきものが、私の知識でも気づくくらいはっきり見えることがある。

『化猫』の前半は、冷え冷えする恐さだった。
すず(松井悠座長)は、農村出身の身ながら、殿様(ゲスト・飛雄馬さん)の寵愛を一身に受けている。
面白くないのは、家臣の半三(高橋茂紀さん)。
そして半三の妹・萩江(高野花子さん)。
「お兄様!殿はあんな女の所ばかり行かれる…悔しゅうございます」
「案ずるな、萩江、必ずお前を殿の奥方にしてやる。そうすれば、殿はわしの思うがまま」
兄妹は密談する。
ほくそ笑む半三の手には、薬の紙片。
「これをよく効く薬と偽ってすずに。中身は、劇薬じゃ」

何も知らないすずが、半三からの薬を飲む場面が恐い。
「ああ、なんて苦いお薬…」
体は本能的に劇薬を嫌がり、思わず顔を背けてしまう。
せき込みながら、すずは必死に薬を飲む。
悠座長の儚げな姿と相まって、なんて恐い図だろう…。

薬は少しずつ、すずの体を蝕む。
美しかった姿はやつれ、殿の愛情も薄れていった。
久々に殿がすずの部屋を訪れたと思いきや。
「お前は、しばらく別荘で過ごしたらどうかと思ってな」
静養のため(実際は厄介払いのため)、山奥の別荘へたった一人で行かせるという。
すずは弱った体で、必死に泣いて抵抗する。
「別荘は人ひとり通らぬ、寂しい所だと聞きます。なぜすずがそんな所へ行かねばならないのです、嫌です!すずはお殿様の傍にいます!」

ついに半三に猛毒を飲まされて、すずはのたうち回る。
苦悶の場面が凄まじい。
すずが前半で酷い目に遭わされる場面がたっぷりあるので、後半の復讐劇にも説得力が生まれる。
しかし、はんなりした雰囲気の悠座長が髪を乱して喘ぐのを見ると、やっぱりかわいそうすぎるコレは…!

瀕死のすずは、すべてが半三と萩江の企みだったことを知る。
虚ろな目でゆらりと立ち上がり、飼っていた猫の名を呼ぶ。
「タマ…嬉しい時も悲しい時も、いつも一緒にいたお前」
「この身に代わって、お前が生き替わり、死に替わり」
「わらわの恨み、晴らしてくりゃれ…」

このとき、何か飛んだ飛んだ、と客席がざわついた。
確かに何かがサッ!と舞台を横に飛んだのだ(速すぎて見えない)。
あれが“タマ”なのかな?

後半は、“タマ”と“すず”が一体になり、白髪カツラ+化猫メイクの悠座長。
猫の仕草で手を丸めて、床を這い、舞台の表裏を自由自在に動き回る。
家来たちに追われ、戸板返ししたり、バリィっ!と障子をぶち破って客席正面に飛び出してきたり。
多分今まで観た大衆演劇の芝居の中でも、アクロバティックな演出という面では一番だったと思う。

特に私が楽しみにしていたのが灯篭抜け!
秋田のお友達から「悠座長の灯篭抜けはスゴイよ~」と伺っていたからだ。
舞台端に設置された灯篭を、飛んでくぐって舞台から消えるという演出が3回もあった。
そのたびに大きな拍手が沸いた。
何より見せ場の一つ一つに、客席を盛り上げてやろう!驚かせてやろう!という演じる側の高揚があって、心地良かった。
(しかしこの芝居、体がある程度軽くないとできない芸がいっぱい…)

そして、アクロバットと同じくらい。
人間と妖の溶け合ったような、悠座長の化猫の雰囲気が素晴らしい。
白い着物がしなやかに翻り、白い髪に埋もれた目つきが尖る。
一番ゾクゾクしたのは、化猫が家来二人に見つかる場面。
行灯の陰からヌッと白髪が現れ、逃げまどう家来に指を伸ばす。
家来は縛られたように動けなくなる。
ツツツーッと家来二人を足から逆さに釣り上げ、中央に仁王立ちする化猫!

この芝居は相当な運動量があるらしく、悠座長は口上のときには汗だくになっていた。
『化猫』の芝居は、元々お父様の松井誠さんがやっていたそう。
28年前、お父様が三吉演芸場で『化猫』をやっているとき、お母様が産気づかれて悠座長が産まれた…という、非常に縁深いお芝居ということだった。

しかし、個人的に最大の思い出は。
終演後、隣席のご婦人が、
「すずの恨みわかるわね、私も同じ目にあったら化けて出るかもしれないわ~」
と大変安らかな笑顔で呟かれていたことかな…。

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劇団悠お芝居「弁天小僧」

2014.6.1 昼の部@三吉演芸場

振袖姿で、ヤンキー座り。
松井悠座長の丸みを帯びた目が、客席を覗きこむ。
可愛らしい顔をコテンと曲げて、かったるそうに首をポリポリ掻く。
弁天小僧のちょっとした仕草から、仇っぽい色気が飛んで来てどっきりした。

写真・松井悠座長(当日個人舞踊「千本桜」より)


劇団悠は、必ずもう一度見たいと、去年のお正月から思っていた。
たった一度きり見ただけだけど、全員ののびやかな演技と親しみやすい空気が印象に残っていたからだ。

ブログとツイッターを通して知り合った方が、たまたま遠方から東京にいらっしゃるというので。
お会いするのを機に、うちからやや遠い三吉演芸場へGO。

開演前、座員さん一人一人、そして座長さんまで、「いらっしゃいー!」「お久しぶりです!」と客席にご挨拶に来たのに驚いた。
みなさん、客席を一列一列見ながら、笑顔で。
そういえば去年観た時も、こんな風に挨拶されていた記憶がある。
感服して、隣席に「丁寧ですねえ…」と何度も言ってしまった。

お芝居「弁天小僧」では、松井悠座長の弁天小僧菊之助が痛快に活躍する。
藪蛇一家に乗り込んで、新五郎親分(竹内春樹さん)をやりこめ、女郎屋に売られそうになっていた娘二人(高野花子さん・なおとさん)を救い出す。

私の心に焼きついたのは、本当になんでもない場面。
「親分、今、えれえべっぴんがやってきましたぜ!」
玄関口に現われた菊之助に、藪蛇一家の若衆たち(嵐山錦之助さん・吉田将基さん・田中勇馬さん)がワイワイ騒ぐ。
戸一枚、隔てられたところで。
菊之助は実につまらなそうに、足を開いてしゃがみこんでいる。
戸の向こう側で、べっぴんだと色めき立つ若衆たちを、小馬鹿にするように首をポーリポリ。

赤い袖が床に振りかかって、色っぽぉい…と私は見惚れた。
悠座長の拗ねたみたいな口元が、艶めいている。
華やぐ姿を支えるのは、丈夫の骨ばった足。
甘やかな女の子の容れ物にくるまれた、男が零れて来る。

「お待たせいたしやした、どうぞお入りくだせえ」
戸が開けば、足をシュスと閉じて、また女。
「失礼いたしますぅ…」
声も可愛く、しとやかにお嬢さん。

弁天小僧、好きっていう人が多いの、わかるなぁ。
島田を結った“女”の中から、花びらが目覚ましく開くように、“男”の肌が飛び出してくる。
「心配いらねぇ、万事は俺に任せておけい!」
お嬢さんの振袖から、突如として男性の生の手足が突き出すときの、活力に満ちたみずみずしさ。
もちろん見せ場の「知らざあ言って聞かせやしょう…」もあったよ!

―牡丹のようなお嬢さん 
 しっぽ出すぜと浜松屋―

ラストの立ち回りのときには、小粋に歌謡曲がかかって(多分三浦洸一?)、舞台の雰囲気は軽快に明るい。

それからもう一方、気になる役者さんがいらした。
物語冒頭で藪蛇一家に騙される、百姓を演じていた北城竜さんだ。

写真・北城竜さん(当日舞踊ショーより)


北城さん演じる百姓は、断腸の思いで娘を売ったのに。
手にした二十両を藪蛇一家に奪われ、失望の底。
「ああ、今まで気がつかなかったが、あんなところに松の木が。いっそ、あそこで首をくくって、きゅっと……いや、やめとこ、やめとこう」
悲愴なんだけど、ユーモラス。
訥々としたセリフが、絶妙なおかしさを連れて来る。

結局、川に飛び込もうと覚悟を決めて、川=客席を向く。
「この川、なぜだか笑い声が聞こえて来る…普通は年寄りが死のうとしたらかわいそうだと言うところじゃが、なぜだか笑い声じゃ」
恐る恐る、客席をじぃっとのぞきこんで、
「川の底をよく見れば、でかい石ころがごろごろしとるわい」
石ころ(笑)
北城さんの表情が真剣なので、やたらおかしかった。

見えないけど、84歳になられるらしい。
きびきびした個人舞踊の後で、「どうぞ松井悠をよろしくお願いします」と、深深と挨拶されていた。

艶やかな弁天小僧も見れて、お会いしたかった方とも会えて、嬉しい昼下がり。
隣席で楽しい観劇タイムにしてくださり、改めて、ありがとうございました!

送り出しで、悠座長の「ありがとね!」と言う笑顔が眩しかった。
若いパワーに加えて、歪んだもののない、極めて健やかな印象を受ける。

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劇団悠お芝居「山の兄妹 おちょこの嫁入り物語」

2013.1.3@三吉演芸場

純粋さが、染みる。
うつくしい心が染み入って、くーっと胸に溶ける。
2013年最初に観れたのは、そんな素敵な人情劇でした。

写真・松井悠座長(1/3舞踊ショーより)


大地主・尾張屋の若旦那(きぶしさん)は、母(高野花子さん)の溺愛の下で育ったボンボン息子。
「安産型の大きなお尻の女性とでなければ結婚しません!」
そんな我がままを言って周囲を困らせている。
けれど理想の女性が、現れた。
たまたま山で目の前を通りかかったのは、大きな大きなお尻の女性。
兄の忠兵衛(高橋茂紀さん)と山で二人きりで暮らす、おちょこ(松井悠座長)だった。
尾張屋の母子は早速結婚を申し込み、兄妹も快諾した。

でも、事が決まってから、母子は初めておちょこの顔を見た。
おちょこは不美人通り越して、「味噌汁ぶっかけてから馬に踏まれた」ような顔をしていた。
おののく母子は、自分たちから結婚を申し込んだくせに、なんとかして結婚話をなかったことにしようとする…。

私の大好物・兄妹もの!
お兄ちゃんが妹を何とかして守ろうとする図っていうのがツボを突きまくり。
不美人の妹の結婚話にまつわるドタバタっていう構図は、劇団花吹雪で観た「兄の真心」を思い出す。

そう、これも兄と妹の真心の話。
せっかく結婚が決まったのに、おちょこはしょんぼりと忠兵衛に言う。
「おら、やっぱり嫁こさ行かねえ」
「おらが嫁に行ったら、あんちゃんがこの広い山の中で、一人になってしまう」
俯き加減に、手持無沙汰に地面を蹴りながら。
忠兵衛は慌ててこう返す。
「わかった!兄ちゃんも嫁こさもらうから!お前は嫁に行け!」
兄も嫁をもらうなら安心だと、おちょこは一転して喜ぶ。
「じゃあ、おらやっぱり嫁こさ行くだ、あんちゃん!」

ああ、あったかいなぁ。優しいなぁ。
この兄妹の純は染みる。

その直後の場面で、尾張屋の母子がおちょこを追い返すえげつない算段をしているだけに…
きぶしさん・高野花子さんが上手い故に、この場面はもういやらしくて!(褒めてます)

さて、松井悠座長演じるおちょこ。
座長の甘やかな眼差しを活かした表情もさることながら。
「声」がすごいと思いました。
朴訥で、温かくて、ちょっとダミ声で、底に今までの苦労がにじむ。
そんな声がひたすら慕わしく、
「あんちゃ~ん」
って呼ぶのです。
山育ちのおちょこの優しさ。
洗練されてないけど、あまりにむき出しだけど、ほわぁっと温かな手触り。

そんなおちょこが、尾張屋の母子に追い返されそうになり、泣き声を出すと。
あああ~…、泣くな、泣かないで、と、
客席から背中をぽんぽんと叩きたくなってしまう。

クライマックスの場面は、おちょこの今までの人生の語り。
聞いていると、忠兵衛がいかに妹を大事に育てたかが分かる。

おちょこが自分の醜さに気づかないよう、
「おちょこ、お前はかわいいから、鏡を見る必要なんてない」
家中の鏡を割って。
「おちょこ、お前はかわいい、かわいい」
繰り返し繰り返し言い続けて。
山の中で、たった一人で妹を守ってきた忠兵衛。
嫁入り化粧を施した妹の顔を見て、
「いつもにも増してきれいだなぁ!」と…

いかん、泣けてきた。
高橋茂紀さんの朗らかな笑顔が、誠実な忠兵衛にまたハマるのです。

結局尾張屋の母子は、おちょこと忠兵衛の生い立ちを聞いて改心する。
我がまま放題だった若旦那が、おちょこに「共に白髪の生えるまで」ともう一度求婚する場面では、心に迫るものがありました。

「おちょこ、お前はかわいい、かわいい」
繰り返されてきた、妹を守る呪文。
温かな呪文。
山の兄妹の心は、どこまでもほろほろと美しい。
新年最初に出会うお芝居としては、抜群で御座いました。


観劇感想の後になってしまいましたが、このブログにいらして下さる皆様。
往く年は大変お世話になりました。
来たる年もよろしくお願いいたします。

始まったばかりの一年を、どんなお芝居で満たせるだろう?
今は厳冬、お芝居で心に暖を灯して。
春が訪れれば、新芽のように元気で若々しい役者さんが観たくなるやも。
夏の日差しの下、日傘を差して劇場へいそいそ。
秋の人恋しい風に吹かれてセンターへいそいそ、これもいい。
そしてきっとあっという間に、また寒い日が来る。

何にしろ、たくさん、たくさん、良いお芝居に出逢える一年でありますように!