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2023 私の今年の一本・『化狐雪夜啼』 受容と慈愛のカーテンコール

作者:吝梶丸さん
潤色:坪田塁さん
演出:松川小祐司座長
下座:劇団美松
初演は新風プロジェクト3/20@篠原演芸場+イープラス配信、再演は10/18@浅草木馬館

芝居と、自分と、社会。劇場の内で起こった物語が、観客(自分)を通して、劇場の外の見え方を変えていく。木戸を出るとき、入ってきたときと違うものを心の中に持っていられる。

2023年もたくさんのお芝居との出会いがありました。中でも今年は、一本のお芝居のことを語りたいと思います。自分の観劇体験に一つのやさしい「世界」を残してくれた、『化狐雪夜啼(ばけぎつねゆきよになく)』への偏愛を語り尽くす記事です。


※ラストまで芝居のネタバレがあります※


このお芝居のことを人に伝えるとき、「世界」という言葉が自然と出てきます。それは「違うもの」への受容と慈愛という核が、一見ストーリーに関わらなさそうな細部にも見いだせるからです。

化狐のバケ(松川小祐司座長)は悪戯ばかりして人々を困らせているけれど、唯一、和尚(ゲスト・里美京馬副座長)だけはバケに優しくします。「(化狐と)仲良くなれませんかな」と言って、怪我をしたバケに手当てをしてくれます。バケもだんだん和尚には心を開き、柿などお土産を持って和尚のもとを訪れるようになります。狐と人間、違う種族同士が気持ちを通わせていく過程がとても温かいです。


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小祐司座長が楽しさ全開で狐を演じられていたのも良かった!

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木馬館での再演時、客席の原作者の方に「おいらたちを生み出してくれてありがとう」と究極のファンサをする座長。いや、かわいい。こんなにかわいいことある?🦊

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和尚の浮世離れした聖らかさを、持ち前の健やかさであらわしていた京馬さん。


牧歌的だった芝居の雰囲気が変わるのは、最初の事件「重兵衛殺し」のエピソード以降。村人の重兵衛の死体が見つかり、人々は悲しみながらも「あいつは独り身だったから供養をしてくれる家族がいない」と言います。重兵衛は村人たちの手で供養されることになり、みんなで遺体の入った桶に手を合わせます。初見では普通に聞いていたこの台詞、配信で2回目、木馬で3回目と観劇回数を重ねるごとに、気になる台詞になっていきました。

というのは、村人たちの中に「家族」の描写がほとんど無いからです。微かにあるのは、序盤で南雄哉さん演じる茂平がバケに肥溜めに落とされる場面で、桜川幸梅さんが探しに来ているので、女房持ちとわかるぐらい(ただし女房はこのあとの場面は出ません)。他には藤川真矢さん演じる村人が、十五になった子どものことを和尚に相談しています(ただし子どもは出てきません)。


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雄哉さんの持ち味は、「市井の善良」的な役にぴったりですね。

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真矢さん。この芝居では台詞は少ないながらも芯のある声で、外しません。


家族の存在は仄めかされる程度で、村人たちは基本的に他人同士でワイワイしています。みんなで狐を追っかけたり、病の和尚を心配して集まったり。
大衆演劇でよく耳にする、おとっつぁん、おっかさん、お前さんなどの言葉が、この芝居には、ほとんど出てきません。血縁で結ばれた家族の表象は、その結び付きの強さゆえに、他人は入ることができない排他性をも持ち合わせています。でもこの村では、家族が見えにくくされている代わり、隣人の死にみんなで手を合わせる、緩やかな共同体が前面に出ています。
村人たちが野盗と遭遇したとき、幕前で一列になるのは、絵本を切り取ったような光景でほんとに可愛い🧙‍♂️

それから、クライマックス。バケによって真実に気がついた村人たちが、野盗(藤川雷矢さん)を捕らえる場面にも印象的な台詞があります。


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雷矢さん。和尚を殺して柿をかじった瞬間、「悪」が硬度をもって成立します。上手い。


「殺さねえでくれ」と命乞いする野盗に、村人たちは涙を滲ませながらも「殺さねえよ」「たとえ畜生でも、殺しちゃならねえっていうのが和尚様の教えだ」と言い、役人のところへ連れていきます。
悪を潰さず、ただそこにある命を認めるのは、このお芝居ならではの決着だなあと感じました。

物語のラストもまた、排除されていた狐を村が受け入れるシーンです。
尻尾の生えた和尚(バケ)と、すべてを分かった上で受諾する村人たちの会話。そして夢うつつのカーテンコール。ここの流れは、3回観て3回とも泣き伏しました。

狐、人間と違うもの。
あなた、私とは違うもの。
でも、いまここにいるのは同じ。

受容という哲学を、『化狐雪夜啼』は一つの世界として持っているお芝居だと思います。
分断されていることが、いつの間にか当然のようになった社会に暮らしているからこそ。この芝居のビジョンを心にかざしていたいです。

何度観ても涙の出るカーテンコール。降る桜の中、和尚がバケを膝に抱く光景で閉じられる世界。その余韻は、いつくしむ、という言葉の切々とした響きの中に溶けていきます。

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感謝🎑『とこしえの十五夜』が終わって

10/22(日)華舞台星天座
劇団天華・澤村千夜座長お誕生日公演

公演前に書いた作品紹介はこちら

※再演やDVDでご覧になる方もいると思うので、核心的なネタバレは回避しています。

台本をお渡しした後は自分のやることはなく、楽しみに待つのみです。が、昼の部が終わった瞬間、やっぱりドッと緊張が解けました。
「良いお話だったよ!」と話しかけてくださった方々、ありがとうございました。

ラストで、ある数字が「一瞬で変わる」のは、千夜座長のアイディアでした。本番バチッ!と決まって、鳥肌が立ちました。
自分が座長から伺っていたのは「初演は特別ゲスト等を呼ばす、いまの天華メンバーでやれる芝居にしたい」ということでした。なので、座員さんがフルメンバーで大活躍の一本になりました。

実質もう一人の主人公・お夏役だった沢村千華さん。喜びや恐怖や慈愛、各場面をドラマとして成り立たせる台詞回しは、心底驚かされる技量!
澤村龍聖さんの、芝居に希望をともしてくれる明るさは宝だと思います。二役演じ分け、かつ後半は狂言回しと出ずっぱりでした。
重要な役だった沢村紅華さん。儚げで無邪気な少女にぴったりでした。
キーマンを演じられた美理剣さん。渡されたお金をぎゅっと握りしめる表情に悲しさと味わいが詰まっていました。
音羽屋幸枝先生の役人は、その緊迫感で、物語の転換点となるシーンを支えておられました。
一番新人の澤村海斗さんも、意地悪な使用人の役を懸命に務めていました。

そして主役の澤村千夜座長。終盤は、座長の感情一本で舞台を引っ張っていかれました。千華さんに抱えられて、天を仰ぎ叫ぶ演技、熱泉がぷわーっと噴き出るようなエモーショナルぶりでした。

取り返しのつかない不幸が起こっても、人生には、また満月の夜が来る。歳を重ね、苦労を無数に噛み締めながら乗り越えてきた方だからこそ、再び大切な人の手を握る主人公の姿は、芝居でありつつ、「真心」の表れになったのだと思います。

㊗50歳!
夜の部では、「もう五十の声を聞きました」という台詞もアドリブで仰っていました。

私は、昨年お誕生日公演で上演いただいた『人形師半兵衛』と今作を合わせて、大衆演劇の役者さんが歳を重ねることの光を、自分なりに書こうとしています。

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と言いつつ、50歳とは思えない当日の写真を載せます。王子様の格好、似合いますね。

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感謝を込めて。皆さんお疲れでした!

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【10/22初演】『とこしえの十五夜』のこと

書いた台本の初演予告です。ありがたいことです!

劇団天華・澤村千夜座長お誕生日公演
10/22(日)華舞台星天座
オリジナル狂言
『とこしえの十五夜』

題名は座長が考案されました。字面も、口に出して言っても、美しい題ですよね。

【作品紹介】
想いがすれ違いつつ、それでも想うこと自体に支えられながら、今日を生きている人々を描いています。中盤、ある仕掛けの種明かしとともに、話が終結に向けて転がっていきます。

人間の心理表現にこだわりたいという劇団さんの考えと、天華さんの舞台のうっすら夢見るような雰囲気をもとに、作りました。


今年7月@堺東

私事ですが、劇団天華さんへの提供台本が、今作で10本目になりました。
書き始めた頃も、いまも、千夜座長から台本に頂くご意見は「これでお客さんに本当に伝わるのか」という視点で徹底されていて、すごい人だなあと毎回思わされています。

天華さんで上演いただいた過去作一覧
『おりんの赤ん坊』
『紅い梅白い梅』
『紅かんざしのおしん』
『雪見ヶ池』
『鬼さんこちら』
『十三匁のかぐや姫』
『時の花』
『星天座の精霊』
『人形師半兵衛』
来たる初上演『とこしえの十五夜』🌕

自分自身、22日がとても楽しみです!

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幕を払われた鏡――大衆演劇でボーイズラブの新作芝居が上演されること

2023.8.10夜
新風プロジェクト第17弾『ひとひら、遙』
篠原演芸場
作:坪田塁さん
出演:龍美麗総座長・橘大五郎座長・橘炎鷹座長・里美京馬副座長
下座:スーパー兄弟
音楽:SADAさん・中林万里子さん

鏡にかけられていた幕が、取り払われたような気持ちです。芝居が終わっても、そこに鏡があることを、私たちはもう知っています。

※がっつりネタバレを含みます。ラストにも言及しますのでご注意ください※



ローチケ完売🎊で話題を呼んでいた『ひとひら、遙』。宣伝時のキャッチコピーから想像していた通り、男性同士の恋愛を描いたBL(ボーイズラブ)のお芝居でした。肌を見せるポスターは、BLで一時代を築いた耽美系作品をイメージしているのでしょうか。
上演のきっかけについて、美麗さんが「BLというのはすっかり市民権を得ています。それに歌舞伎ではBLの作品があるのに、大衆演劇では無いので」と口上で説明されていました。さすが、この方はアンテナが広いなぁと思いました。

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実雲役・龍美麗総座長。突拍子のない行動や言動でハラハラさせる役でしたが、演者の技術と深みのある声質が、どっしりと土台になっていました。

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実矩役・橘大五郎座長。美麗さんとの新風タッグは『寝盗られ宗介』でも観ましたが、このお二人の芝居は、堅固なだけでなく、どこにでも扉が開いていきそうな開放的なキャッチボールなのが素敵です。このお二人ならではの新しい芝居を、また観たいです!

BLやGL(ガールズラブ)は、漫画や映像作品には溢れています。その中には、「恋に性別なんて関係ないよ」的な台詞で、同性同士であることを無効化し、あえて意識させない物語作りも見られます。個人的には、この手法はあまり好きではありません。「関係ない」という言葉には、あくまで異性愛が基本なんだという考えがベースにあるからです。

『ひとひら、遙』で一番心に響いたのは、この真逆を行く、ド直球なBLへの姿勢でした。筋立ては、男同士であるために、主人公二人が自ら封じ込めた恋心を、前世の夢やリンゴなどのアイテムがほどいていくというものです。恋の相手が同性ゆえに、「病気だ」と差別されるのではないか、「異常だ」と相手から拒否されるのではないか、という内面化された社会的な壁を、物語の核心に持ってきています。また、ラストで生まれ変わった二人が手を繋いでいて、希望を仄めかせて幕が降りることにホッとしました。

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お芝居ラストの格好のままの口上挨拶。

これまで男性同士の恋愛が、大衆演劇の舞台でどう扱われてきたか――。一ファンとして見て、悪気のない“ちょっとした笑い”のネタとして、消費される例が最も多かったように思います。
※考えてしまうところがあり、去年、「“こっち系”って笑っていいことなのかな?」という主旨のツイートをしました。
もちろん大衆演劇だけの問題ではなく、これはかつてのメディアが、男性同士の恋愛をお笑いとして長年扱い続けたことの残滓だと思っています。

だから、直球のシリアスなBL作品が出てきたのは、本当に嬉しいことでした。また、新風枠で言えば、今年5月に上演された『紅天翔』でも、南郷力丸から弁天小僧への恋愛感情が明言されています。(作:渡辺和徳さん、南郷役:澤村蓮座長、里美京馬副座長 弁天役:三咲暁人座長)

こういった作品群は、大衆演劇のエンタメとしての寿命を大きく伸ばすものだと思います。というのは、客席が抱えている現実世界のほうが、そのように変わっているからです。
自分の知人に、同性カップルは複数います。同性パートナーを異性婚と同等に扱う会社も増え、そういう社会に大衆演劇ファンは住んでいて、劇場に足を運んでいます。社会と劇場は、地続きです。

芝居を含め、フィクションと現実を「切り離す」ということはそもそもできないのではないか、と私は考えます。同時代のフィクションと現実は、合わせ鏡のようにお互いを映し合っているからです。いまは古典と呼ばれる芝居も、かつては現実のニュース性を帯びていたように。

舞台には、「いま」の世界が照射する。
大衆演劇は、そのことを知り抜いた芸能だと思います。だからこそ、いつの時代もお客さんを見つめながら、「いま」の役者と、「いま」のお客さんで、最高の空間を作ってきたのだと。
実雲と実矩の幸せなエンディングを、あの日の客席の多くが望んでいました。フィクションとして可視化され、強調されることで、現実の苦しみが解きほぐされていく――鏡の照り返しの中に、「芝居を信じる」ことの意味があるように思います。

この日の客席は、夜の部にも関わらず、二階席までパンパンでした。美麗さんが客席を見上げながら、驚きを含めて「みんな、そんなにボーイズラブ好き?」と言っていました。
(好きでーす!BLもGLもまだまだ増えてほしいです!)


全席に置かれていた配役表。親切~!

自由な大衆演劇が、時代を映し出して、さらに自由になっていく。その乱反射の客席に身を置けることを、つくづく楽しいなぁと思うのです。

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【感想と感謝】5/23『ふたり傘』章劇×劇団美鳳合同公演

自作脚本の観劇感想です。公演前に書いたあらすじ紹介

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本当に仲良しな両座長が終始微笑ましかったです。ファンの方に応じてピース。

『ふたり傘』再演も、両座長の魅力いっぱいでした。人の良さがどの表情にも滲む蓮座長と、一つ一つの音が立ち上がるように台詞を響かせる友也座長。新造(蓮座長)ってこういう役だったのか、喜右衛門(友也座長)ってこういう役だったのか、と役者さんから教えられる気持ちでした。新造の「ごめんな」にグッときて、それを受けて喜右衛門の「本当にすまなかった」にグッッッときました。

悟副座長の女房役は勢い良く可愛く、いっぽう流星座長の女房役は傲慢な女性ながら、根は悪人ではなく。
十五歳の息子役を演じてくださった両花形は、芝居が始まると、思春期の子どもに見えました。表情や声づかいの幼い演技が、十五歳という役年齢にすっかり溶け込んでいました。
そして、瀬川さんの森介おじさんが大好き!!です。酔った足の踏む先に愛嬌。
天夜叉さん、恋丸さん、花道さん、3人の村人による大雨の場面は、短いシーンながら吹き飛ばされそうな迫力でした。

大衆演劇に限らず、多くのフィクションで…
男の登場人物の心の傷を「ケア」する役割は、「妻」「母」「子ども」などに与えられることが多いです。
でも、男同士で、ちゃんと自分の傷を見つけて、「ごめんな」「すまなかった」と謝り合って、大切な互いをケアしていける――自分が書くなら、そういう表象がいいなと思いました。そういう世界に住みたいなと思いました。

配役
澤村蓮座長 傘職人 新造
紫鳳友也座長 庄屋 喜右衛門
一城悟副座長 新造の女房 おきち
美月流星座長 喜右衛門の女房 おゆき
紫城輝也花形 新造の息子 新吉
澤村紫龍花形 喜右衛門の息子 金太
瀬川伸太郎座長 森介
紫鳳花道さん 村人
市川恋丸さん 村人
天夜叉さん 村人

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翌日5/24が蓮座長のお誕生日公演だったため、夜の部ラストショー後にもう一曲、全員で踊られました(友也座長によるサプライズでした)。笑顔とお喋りの止まらない舞台。

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昼夜大入りとのこと(自分が拝見したのは夜)。タペストリーを引っ張るために、友也座長が蓮座長の手を引いて舞台の隅へ。

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お二人で引っ張っておられました!

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連名の大入りティッシュ㊗

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大衆演劇の役者さんの「技」「魅力」を改めて思い知らされる日になりました!

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