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おもちゃ劇団お芝居『遠州しぶき』 ―巻き戻る時間― (澤村千夜座長・要正大さん・颯天蓮さんゲスト)

2018.8.20 夜@梅南座

数十年前に放してしまった手が、帰ってくる。

「歌舞伎役者になぞらえて、付けた名前が菊之助」
「遠州灘の浜辺、あたしは菊之助の手を引いて、お登勢を背負って」
「お登勢をおっかさんに預けに行って戻ってみると、もう菊之助の姿はどこにもなかった」

3日前に梅南座で観てきた『遠州しぶき』は、生き別れになった姉弟の人生を語る――というか“つぶやく”ようなお芝居だった。
体の底の悲しみは大きな声では語れない。


姉・おしん役(市川恵子太夫元)

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弟・菊之助役(ゲスト 澤村千夜座長)

旅芝居がじっと客席を見つめて、“語ろうとする何か”がある。それは誰の記憶だろう。お芝居を作った人の心象風景なのか、もしくはもっと古い元ネタがあるんだろうか…。
『遠州しぶき』のあちこちに差し込まれた仕掛けを見ると、この芝居を作った人はどんな人だったんだろうと思わずにいられなかった。

※ここから下、ラストシーンまでがっつりネタバレしているので避けたい方はご注意ください。

【全配役】
おしん 市川恵子太夫元
菊之助 ゲスト・澤村千夜座長
お登勢 市川ななみさん
銀次 ゲスト・颯天蓮さん
大五郎 高羽ひろきさん
大五郎の身内 三好かずやさん
大五郎の身内 ゲスト・蘭竜華さん
金兵衛 ゲスト・要正大さん


◆「優しそうな顔をしているのに」
姉のおしんと妹のお登勢、それに若い衆の銀次、3人だけの役人一家。おしんたちは、百両首の大盗人・夕霧菊之助の捕り親に任命された。
冒頭でななみさん演じるお登勢が夕霧菊之助の人相書きを見ながら、ぽつり言う。
「この人、そんなに悪いことしたの?優しそうな顔をしているのに」
聞いたときも心の通った良いセリフだなあ…と思ったけど、本当の意味はあとで分かった。

おしんとお登勢の間には、幼い頃に行き方知れずになった弟がいる。それが実は夕霧菊之助だということが、途中で明かされる。
家族で遠州灘を訪れたとき、おしんが手を放したわずかな間にいなくなってしまった菊之助。そのときお登勢はまだ赤ん坊だったというから、兄の顔を覚えていない。
“優しそうな顔”
兄だと知らず、それでもお登勢の無邪気は何かを感じ取っていたのだなぁと思い当たると、冒頭のセリフの切なさがじわじわ効いてきた。

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妹・お登勢役の市川ななみさん。終始、懸命な演技だった。


◆「生きていてくれれば」と「飯は済んだのかい」
見せ場の一つは、中盤、菊之助が姉妹の家を訪れる場面。弟だとは名乗らないまま、ためらいがちに、おしんに問いかける。
「お前さんの弟がもし生きていて、盗人になっていたらどうするんです」
てっきり、おしんは、役人としての職務と弟への情の間で葛藤するセリフを言うんだと予想していた。だから、次の恵子さんのセリフには圧倒された。
「弟が生きて帰ってきてくれたなら、たとえどんな姿でも生きて帰ってくれさえすれば…、生きて…。そうしたなら、両の腕(かいな)でしっかりと抱きしめてやります…」
繰り返される“生きて”の三音が耳に残る。どんな生き方をしていてもいい、生きてさえいてくれれば――と弟を待ち続けた、祈りの歳月が浮かんでくる。

このセリフを言う恵子さんは、私の座っていた7列目からでもはっきり分かるくらい、目が潤んでいた。小柄な体の中に、重ね重ねた弟への思いが透けて見えるおしんだった。

そして、弟を見失ったことを悔やみ続けてきたおしんの人生が明かされるにつれ、若い衆として一家にいる、銀次という男(蓮さん)の意味付けが違ってくる。多分だけど、銀次は弟の穴埋めとしての機能を持っているのじゃないか。 
と思ったのは、銀次がライバルの大五郎一家の嫌がらせに怒って飛び出そうとするのを、おしんが止めるシーン。
「はやるばかりが役人じゃない、我慢も道具の一つだよ。(表情を和らげて)…銀次、お前飯は済んだのかい」
「へえ、いただきました」
“飯は済んだのかい”は、もちろん親方としての純粋な労わりなんだけれども。この一言のトーンがとても優しくて、ふと血のつながりは何もない銀次が一家にいる理由を想像した。銀次は、弟に注ぐはずだった愛情の受け皿にもなっているのじゃないか…。

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銀次役のゲスト 颯天蓮さん。高身長美女!

後半ではおしん、菊之助、お登勢の三姉弟が揃った場に銀次が駆け込んでくるシーンがある。実の弟が戻って来た場では、逆に銀次が入って来た途端、他人であることが浮き彫りになっていた。


◆戻っていく時間
そして恵子さん・千夜さん二人によるラストシーンは、きっともう忘れられないと思う。
遠州灘で盗人の一味にさらわれ、どうにもならない事情で盗人にならざるを得なかったという菊之助。最後は姉と妹の窮状を救うため、自分の首にかかった百両を与えようと、自ら捕らえられる。声を上げるのはお登勢。
「夕霧菊之助、きりきり立―てー!」
あどけない、ななみさんの声なのが余計に悲しい。
捕り縄の先はおしんが握る。菊之助は手をくくられたまま戸の外に出て、懐かしく語り始める。
「思い出すなぁ、優しい姉さんと可愛い妹、一緒に行った遠州灘」
舞台の左端に立つ千夜さんは、視線を遠くにやっている。笑みを浮かべたまま、ゆったり噛みしめるような口調。

「しずくがかかって、冷てぇなぁ…」

――これはなんてセリフだろう、“冷たい”。
波の音が聞こえるとか、目に浮かぶとかじゃなく。

熱い冷たいは肉体の感覚だ。どこか楽しげに遠くに語りかけている菊之助は、昔を思い出しているのじゃなく、その体ごともうとっくに子ども時代に帰っているということが、“冷たい”の一言で、矢を射る勢いで迫ってくる。

弟の言葉にハッと突かれて、捕り縄を握るおしんの手が動く。ぐるぐると手繰り寄せ、長い縄が短くなっていく。自然、菊之助が戸の中に引っ張られるような形になり、おしんに近づく。
ぐるぐる、ぐるぐる。
ピンと張られた白い縄が、観客の前で巻き戻されていく。
ぐるぐる、ぐるぐる。
姉弟の何十年もの時間が、巻き戻っていく。

やがて姉弟の体が触れ合う。でもおしんは鳥目なので、夜になると物が見えない。(冒頭で出てきた鳥目の病という設定はここで効くんだ!と感動した)
おしんは見えないながらも、真っ先に弟の手を握る。左右の手を重ね合わせて、自分の小さな掌で包む。
“あたしは菊之助の手を引いて”
幼い日に遠州灘で放してしまった手。今、数十年を経て帰ってきた手。
重なった手にじっと目を凝らして、それからようやく弟の顔を見上げるのだ。

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ラストショーより。恵子太夫元と千夜座長の相舞踊。

送り出しで、このお芝居について伺おうと恵子さんを探したけど出てらっしゃらなかった…撃沈💦

『遠州しぶき』は色々な劇団さんで演じられているようだし、大衆演劇には類似の兄弟もののお芝居が多い。
でも、それぞれの役に演者の技術と心が丁寧に染み通るとき、初めて、芝居の根っこの何かが動き出すのかもしれない。

“生きて帰って来てくれれば…生きて…”

これは誰の記憶だろう。
物語にしか託せなかった、いつか誰かの悲しみや祈りが、まだ芝居の中に眠っている。

【おもちゃ劇団 今後の公演先】
8月 梅南座(大阪府)
9月 高槻千鳥劇場(大阪府)

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外に飛び出す旅芝居専門誌 ―雑誌『カンゲキ』の魅力―

\最新号の9月号、販売中っ/
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ご存じの通り、現在、大衆演劇の専門雑誌は2種類あります。『演劇グラフ』『カンゲキ(KANGEKI)』。劇場やセンターの売店で販売されています。
※かつては、他にも『花舞台』『演劇の友』などユニークな雑誌がありましたが、残念ながらどちらも休刊中。

元々、大衆演劇について雑誌や本で読むのは大好き。そして2015年末に『カンゲキ』が創刊されて以来、私の部屋の片隅はうず高い『カンゲキ』置き場と化しました。
編集部に「愛読してます!」とラブコールを送っていたのが届いたのか、この一年5カ月ほどは、自分もほんのちょこっとだけ、取材・執筆に関わらせていただいています(ありがたい…!)。

さて、なんでラブコールを送ってきたかというと…『カンゲキ』は創刊時から、雑誌全体の視点が「きれいでかっこいい役者さん」に留まらないような気がしたからです。
旅芝居の世界は、もっと濃くて、熱くて、どうしようもなく魅力的なもの。

でも、先日劇場でお話していたお客さんが「カンゲキって、売店で気になってるんだけど買ったことないのよ」と仰ったので、私が持っていた一冊を「よければ読みます?」と渡したら、ほぉ~とご覧になってました。
うーん、たしかに、買ったことがないものを手に取るって勇気が要るよなぁ…。それじゃ試し読みしていただくつもりで、私の思う『カンゲキ』のポイントを(勝手に)紹介してしまおう!


①表紙がめっちゃ攻めてる
『カンゲキ』と言えば、表紙企画「まちに飛び出す旅役者」!役者さんが色んな物語のモチーフになぞらえて、地域に飛び出します。

★個人的に好きな表紙ベスト3

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春陽座 2018年8月号
澤村心座長がめちゃめちゃ可愛い…!心さんって男前なのに、こういうポワンとした側面があるのが魅力的!お隣の澤村かずま座長はじめ、全員の表情がイキイキしている。撮影場所になった四日市の餃子屋さん(ぎょうざ衛門)に行ってみたくなる表紙です。モチーフは売れっ子花魁とその恋人。

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筑紫桃太郎一座 花の三兄弟 2017年6月号
春陽座のと甲乙つけがたいくらい好きな表紙。新門辰五郎×現代の消防士(本物)という発想が未来に生きてる!
博多家桃太郎弟座長が新門辰五郎、筑紫桃之助座長がその妻、玄海花道花形が若い衆に扮しています。この号には撮影に協力した東淀川消防署からのお手紙も掲載!消防署からの手紙が載ってる演劇雑誌は、きっと世界中にただ一冊…😊

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橘劇団 2017年10月号
神戸ポートタワーと八百屋お七の振袖が、青空に映えます。橘大五郎座長が高所マニアの八百屋お七、橘良二副座長が高所恐怖症の吉三郎。大ちゃんのコミカルでいて可愛い表情が絶妙です。

このあとの表紙を飾る劇団として発表されてるのは、2018年10月号(9/1発売)が劇団天華、11月号(10/1発売)が劇団炎舞、12月号(11/1発売)が劇団美松!


②芝居のテイストに合わせた誌面作り
喜劇ならよりウキウキする誌面に、悲劇ならセリフや場面の重さがより伝わる誌面に…レイアウトがいろいろ変化します!

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劇団昴星「次郎長と旅役者」2018年3月号

爆笑喜劇ならこんなポップなレイアウトだったり。

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劇団天華「林蔵」2017年10月号

人物像を伝える写真一枚でドカーン!と1ページぶち抜いたり。

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劇団KAZUMA「次郎長と旅役者」2018年6月号

たまに、デザイナーさんが遊びに走ってるな(笑)というのも。Dangoro’s methodって…。


③インタビューがたくさんある
毎号、インタビューがたくさん載っています。たとえば最新号の9月号には 8本を掲載。座長、花形、太夫元、座長の母、劇場オーナーなどインタビュー対象者もさまざま!
役者さんの語りって本当に独特だと思う。切り口にも言葉選びにも、その人ならではのまなざしがハッと息づいている。

★個人的に好きなベストインタビュー3
三河家諒さんインタビュー(フリー)  2017年12月号
“三十年やってきて肌で感じることですが…女性は男性の三倍四倍五倍やっても、なかなか見ていただけない。”
この言葉の重さ…。いつもクールでたくましい諒さんの胸中が、ふとのぞくよう。フリーの役者さんのインタビューという意味でもレア。

晃大洋さんインタビュー(剣戟はる駒座 鵣汀組) 2017年11月号
芝居『小豆島』の当たり役・直江について、祖母の言葉を引用して。
“(祖母は)「直江はアホやない。知的に障害があるけれど、ものの道理をわかっている子だ」と。”
もう一か所、津川竜総座長の言葉を引用して。
“(総座長は)「弱い立場の子が道理を持って生きていることに耳を傾ける芝居なのだから」と。”
二人の発言に旅芝居の奥深さがシンボライズされていて、洋さんの『小豆島』がとても観たくなった。

三河家桃太郎座長インタビュー(三河家劇団) 2018年9月号
こちらは最新号から…。「桃太郎ファイナル」と題した超ロング公演でのインタビュー。鹿児島の高城温泉という人口の少ない地域で公演したときのことを話されている。
“その地域の住人は五十八名ですが、それ以上の人が来る。これがお芝居の力だ!と。これからどうやって生きていくのか、見えた気がしました。(中略)娯楽のないところにお芝居を届けたいのです。”
生涯、人の心を揺さぶって生きていきたい、という強い思いが文面から放たれてくるようだった。


④WEBと連動してる
ツイ廃で日々Twitterに引きこもっている身には、WEBで情報発信されるのが楽しい。Twitter(@info_kangeki)ではイベント告知やお外題情報、公式サイト(e-kangeki.net)にも毎号の見どころが掲載されます。


『カンゲキ』で毎号多くのページを担当しているのは加藤わこさんという書き手さん(ブログ:『加藤わこ三度笠書簡』)。加藤さんの「大衆演劇のある風景」というまなざしが、一ページ、一ページに生きています。
愛読者の一人としても、次はどんな企画が飛び出すのかワクワクしています。

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旅芝居の「今」をみんなで楽しんでいくために。

旅芝居専門誌『カンゲキ』は、全国の書店・センター・Amazonで、あなたに手に取っていただける日を待っています!!

★Amazonで販売中の『カンゲキ』一覧

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いま、木馬館に広がる世界 ―まな美座・島崎寿恵座長の紡ぐもの―

ただでさえ大好きな夏。
今年の7月は浅草の舞台が楽しすぎて、冷え冷えのパフェをてんこ盛りで目の前に出されたときのようにハッピーな季節を過ごしています(*´▽`*) 夏サイコー!

7月の木馬館公演は劇団美松。ここに特別ゲスト・まな美(び)座が加わった形。
※まな美座さんの木馬館出演は29日夜の部までだそうです!!

美松の兄弟座長の気合いと熱、旗丈司後見や松川さなえ太夫元などベテラン勢の味わい深さ、まな美座の若手・里見剣次郎さんのしなやかな技巧など、お楽しみポイントは多いけど…。
まな美座の島崎寿恵(しまざき・ひさえ)座長は、やっぱり格別だ。2016年の熊谷・メヌマラドン温泉公演から、2年ぶりの再会。

「まな美座座長、島崎寿恵のステージです!」
このアナウンスのあとに広がっていく個人舞踊の世界は、ひとり芝居だ。

◆風雪ながれ旅(7/1)




初日夜の舞踊。盲目の三味線弾きがよろよろ舞台に現れる。コッ、コッと杖が舞台のへりを叩く。舞踊というより、本当に目の見えない男が何かの拍子に地を踏み外して、ストンと舞台に降り立った――そんな感じがする。
やがて見えないはずの目が開く。

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激しい風と雪に、今にも倒れそうだ。

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風景の厳しさと重なるように、唇をわなわな歪めて悲痛極まりない表情を浮かべる。どこか遠いところに置いてきた心があるのだろうか。

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三味線弾き、一人きり、吹雪の中、ずるずる踏みしめる一歩。様々な要素が“彼”の生きのびてきた道のりの苦しさを想像させる。

でも曲が終わりに向かうにつれ、踊りは力強くなる。吹雪の中に一縷の望みを見出すように、笠を掲げる。

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\島崎―!/(渾身のハンチョウ)
まさに“飲み込まれる”という表現が当てはまる。木馬館を包み込むくらい、世界が濃くて大きくて、どろどろしているのだ!

4年前、まな美座初見のとき、こんな女優さんがいたんだ――と撃ち抜かれる思いがした。
2年前、友人たちとその舞台に浸って語り合いたくて、片道3時間かけて熊谷へ通った。『私だけの戦争 柘植(つげ)の櫛』『質屋の娘』などの芝居は、思い返すだけで涙腺がぎゅっと刺激される。
だから今月、寿恵座長と愛息の剣次郎さんが木馬館という大舞台に立ち、見巧者なお客さんたちに称賛されているのを聞くと、とても嬉しい。

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寿恵さんの末っ子・里見剣次郎さん。お母さんによく似た面差しと、クールに見えて熱のこもった芸に惹きつけられる役者さん。Twitter(@satomi_kenjirou)も面白いです!

そしてもう一つ、寿恵さんの7月の舞台から忘れられない一本。

◆お吉物語(7/7)
色んな役者さんが踊るお吉。美しいお吉も艶っぽいお吉もいる。紅を引いた唇で、儚い姿がふらりと舞台に倒れ込む様は、哀れを誘う。
でも寿恵さんのお吉は、そんなやわな表現じゃなかった。

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ズッ、ズッ。酒浸りゆえに不随になった右半身を引きずって、その姿が舞台に現れたとき、劇場の空気が一変した。きらきらしたショーを観ていた私たちの体が、ずどんと一女性のリアルの前に突き落とされた。

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自分を売った伊佐新次郎への恨み言を吐き出したり、癇癪を起こして泣きながら、動かない右手を叩いたりする。
ボロボロの体は、それでもなんとか、外界に対して怒りという形で働きかけようとしているけれど。

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鏡をのぞくシーンから、表情が変わってくる。鏡の向こうから、絶望した女が見つめ返してくる。どんどん一人の中へ閉じていくお吉の世界。

酒に侵された体はいよいよ動かなくなってきて、舞台の左端のほうへ行ったと思ったら、がくんと膝をついた。

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暗い地面から見上げる目玉が光っている。木馬館は静まり返っていて、“お吉”のヒュッ、ヒュッという速い息遣いがはっきり聞こえた。

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その息が完全に止まるまで、目を見開いたまま――。

お吉が生きていた。約10分間、私たち客席とともに彼女は間違いなく生きていた。
終演後に憑依のようでした、と寿恵さんにお伝えしたら。
「そう言っていただくのは本当に嬉しいです。それを目指して演じています」と、舞台を降りるとめっきり柔らかくなる瞳を細めて、微笑んでいた。

演劇グラフで長期連載されていた、橋本正樹さんによるルポ『あっぱれ役者水滸伝』に『島崎寿恵』の前後編がある(2016年2・3月号掲載)。その最後の文に、この役者さんの姿形が余すところなく語られている。

“役者デビューが遅いベテランの女座長で、公演会場が限定されたハンディもあいまって、総じて大衆演劇ファンの馴染みはうすいが、島崎寿恵は、傑出した技倆をあわせもつ実力派なのである。仕草も声音も台詞まわしも申し分なく、容姿には品格がただよう。とりわけ人物描写が克明で、心の機微をたくみに描く、写実的で真情がこもった演技は、じんわりと心にしみこみ、「いい役者の、いい芝居を見た」という幸福感を、十分に満喫させてくれる。”
『演劇グラフ』2016年3月号『あっぱれ役者水滸伝 島崎寿恵・後編』


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真夏、浅草。
熱気に満ちた観客の前で。
その人は男になり女になり、数分間だけ別の人間を生きる。

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追記:
「戦争がひとりの人間から奪い続けたもの」を描いた、まな美座の異色の名作芝居『私だけの戦争 柘植(つげ)の櫛』。2年前、この芝居を観ようと観劇仲間で熊谷に集合し、『私だけの戦争』を一緒に目撃した。そのときのメンバーが各自で衝撃を書き残しているので、ご興味のある方はぜひ↓
・半田なか子さん記⇒「あなた」と「わたし」の物語:まな美座『私だけの戦争―つげの櫛―』@メヌマ(3/12)
・花浅葱さん記⇒お芝居『私だけの戦争〜柘植の櫛〜』[2016.3.12 メヌマラドン温泉センター]
・hanaさん記⇒まな美座「私だけの戦争 つげの櫛」〜生き続ける芝居〜
・私はSPICEで紹介記事を書いていました⇒大衆演劇の入り口から[其之拾弐]・熊谷で震えた!「まな美座」心の芝居

【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之三十二] 橘大五郎座長が走り続ける“原動力”とは? SPICE独占インタビュー!

6年前、私が大衆演劇沼にハマったとき、この方はすでにトップクラスの人気役者だった。
現在、木馬・篠原2か月公演を全日大入り(!)という超・快進撃の途中。
そしてきっと10年後も――。

それはもちろん、すごいこと。
けれど同時にしんどいことでもあるのじゃないか…?
橘劇団座長、受け継いだ三代目、九州演劇協会会長、「みんなの大ちゃん」。
たくさんの背負うものが、立ち止まることを許さなかったりもするのじゃないか?

どうしても話を伺いたかったので。おそらく大衆演劇界一、休みのない座長のお一人に、貴重な貴重なお時間をいただいてきました。

大衆演劇の入り口から[其之三十二] 橘大五郎座長が走り続ける“原動力”とは? SPICE独占インタビュー!

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(本文より)
――大衆演劇ファンの中でも、大五郎さんのお体を心配されている方は多いと思います。倒れないか心配という声も聞きます…。

ほんとですか?(笑) 倒れません、大丈夫です!というか今月思ったんですが、休みの日って逆にダメなのかもしれないです。休みの日は熱中症みたいに具合が悪くなっちゃって。ずっと動いてるから、むしろ休むと生活リズムが狂っちゃうんです。


という冒頭のやりとりで、まるで高度成長期の企業戦士みたいだと思った(お体だけは大切になさってほしいものだ)。
それから、インタビュー中にうおー!とテンションが上がったのは、芝居『女殺油地獄』をお客さんにより理解してもらうための工夫について語っている箇所。

(本文より)
与兵衛の実のおとっつぁんはもう亡くなっていて、その奉公人だった人がお母さんとくっついたので、義理のおとっつぁんになってる。こういう関係性を全部セリフで説明しておくんです。でも、ただ言うだけじゃ伝わらないんです。

――と、おっしゃいますと…?

「義理の親じゃから」(一本調子)って言うんじゃなくて、「義理の、親じゃから」(「義理の」で切り、「親」を強調する節回し)っていう風にセリフをちょっと立てます。粒立てるというか。これで初めて、お客様の中にセリフの意味を残せる。するとお客さんの反応が絶対変わってくるんです。逆に、流すセリフは「~でございますねぇ」(速く)っていう感じです。


め、目の前で大五郎座長独特の、あの節回しが聞けた…!うまぁ…!という感動に加えて。
この発言が意味するのは、「物語の設定が複雑でも、理解を助けるのは演者の技術である」ということだと思うのです。
大衆演劇の芝居は、一部の脚本の粗さ・無茶さを、演者の上手さで芝居として成立させているケースがあまたあるけれど。複雑な筋のものや、新しいストーリーを大衆演劇に持ち込もうとしたときに、それを飲み込みやすいものにするのもまた上手さなんだなぁと思ったのでした。

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⇒インタビュー全文はこちら!(SPICEサイトに飛びます)


“ずっと同時代のトップにいるだろう役者さんだ”と、記事の導入に書いた。私が今後10年、20年、大衆演劇ファンでいたら……。その間ずっと 、劇場の壁に「橘大五郎」の大入り袋が並んでいるのを見るだろう。きっととても長い間、見上げることになる名前だ。
“舞台が好きですからね”と言いながら、やっぱり未来でも走っているんだろうか。

そして橘劇団マネージャーの鈴木さんに、インタビュー日程の調整をはじめ本当にお世話になりました!超忙しいのに数分で来る連絡(比喩でなく)…m(_ _"m) この敏腕すぎる片腕がいてこそ、座長がやれることもたくさんあるのだろうな…。

【橘劇団 今後の公演先】
7月 スパ&リゾート九十九里 太陽の里(千葉県)
8月 三吉演芸場(神奈川県)
9月 新開地劇場(兵庫県)


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ひと振りの刀 ―四代目・市川ひと丸座長との出会い―

古風な、あまりに古風な。

まるで古いモノクロ映画から輪郭をきれいに切り取って、2018年の舞台に貼りつけたみたいだ。
市川ひと丸劇団座長、四代目・市川ひと丸さんは衝撃の16歳だった。一枚看板の座長としては全国最年少。
「のう、どうだ、わしに一つ小遣い稼ぎをさせてくれんか」(『新月笛吹川』)
声も作法も体の使い方も、全部、THEクラシック!こんなティーンの役者さんがいらしたのか…!



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市川ひと丸座長

6月のオーエス劇場では、2回にわたって座長襲名記念の座長大会があったそうだ。

私がひと丸さんを初めて観たのはその少し前。4/14の愛知・一宮芸能館SAZANだった。尊敬する友人の激推しで足を運んだ。芝居『心もよう』の中盤でひと丸さんが登場し、第一声を発したときの衝撃が忘れられない。
「ここらあたりもすっかり変わっちまったなぁ、十年ひと昔とはよく言ったもんだ」
(゚Д゚)
リアルにこんな顔してしまったと思う。よく響く、これぞ芝居、そんな声。ストトンと体に落ちる明朗な声。今、太夫元クラスの役者さんたちは若い頃にこんな喋り方をしていたんじゃないかと思わせる。
タイムスリップじゃないか、これは。
お芝居全体も細かな構築や、演者の皆さんの誠実な演技が堪能できて、大満足の一夜になったのでした。

そして2回目に拝見したのは6/9。
一宮で芸風を垣間見たものの、もしかしたらオーエス劇場公演ではちょっとカラーを変えられているのかも…と予想していた。なんせ大阪・新世界は超激戦区だし、同世代の役者さんの多くは、現代風のセンスや王子様みたいなビジュアルで人気を集めているのだから。

けれど、オーエスでもひと丸さんは変わらなかった。芝居『新月笛吹川』、個人舞踊【望郷じょんから】、ポップス【最期の川】を踊ってすら(!)、どこか墨で描いた絵を思わせた。若い体に、得体の知れない老優が入ってるみたいな気がした。

だから、「ラストショー、Joker!」とアナウンスされたときは驚いた。Jokerといえば、若手さんが洋風衣装やフードで踊るイメージの一曲だけど…。ひと丸さんが踊るの…?! どんなだ…?!

ん?流れてきた、このパラパラした電子音みたいなイントロは…【唐獅子牡丹】!
舞台に登場する大勢の悪党たち。ひと丸さんは刺青も鮮やかに、彼らを刀でバサバサ斬っていく。昭和残侠伝みたいな世界観だ。

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そして、そのまま曲は【Joker】へ繋がった。ひと丸さんの刀が勢いを増す。任侠スタイルのJokerって斬新、と思っていたけど。

―バッサバッサ ブッた斬る“ボンクラ”
ブッ飛ばすか 乱世の覇者“Joker”―


よく聴くと歌詞が合ってる…!
敵に囲まれた侠客は縦横無尽に向きを変え、ひたすら斬る。汗だくで斬る。

この日の芝居終演後。幕が上がると、ひと丸さんが国定忠治の格好のまま座っていた。マイクを握って口上を始める。
「あまりそう見えないかもしれないんですが(笑)…16です」
歳を言うと、驚きのざわめきが広がった。舞台の上の人は、どっしりと老境のような居ずまいで笑っていた。

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戦場に若武者ひとり――そんな情景だった。
父・南條す丶む総大将がそのあと語っていわく、まだまだ「四代目・市川ひと丸」の名は知られていないこと。オーエス公演でも上旬は苦戦を強いられていること。

少年座長がこれから、ブッた斬らなきゃいけない壁はたくさんあるんだろう。
流行?
知名度?
世の中の流れ?

―どんな状態でも覆してやる
革命児 それがJoker―


その【Joker】は洋風衣装もフードも選ばず、手にはひと振りの刀。
16年で培われた芸風、ただ一つを持って、ひとりで挑んでいた。

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古風、上等。
壁をブッ飛ばして。
タイムスリップしてきた大きな目が、未来を見ている。

【市川ひと丸劇団 今後の公演予定】
7月 桃太郎温泉(岡山県)
8月 飯塚セントラル劇場(福岡県)

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