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2018年お芝居マイベスト ―役を手渡す―

毎年振り返ってるベスト芝居、これを書いてると大晦日だな~という気持ちになります(つまり毎年滑り込み)。今年の忘れがたいお芝居は6本!

★筑紫桃太郎一座 花の三兄弟『月夜に泣いた一文銭』
2018.2.9 夜の部@新開地劇場


「なぁ、あんちゃん、そんなむつかしい話はわからねぇよ」
頭の弱い子に対して、こんなに心の深い、やさしい言葉があるだろうか。牙次郎(博多家桃太郎弟座長)のいま一つ要領を得ない話を聞いて、正太郎(玄海花道花形)がゆっくりと返した言葉。
「百両が手元にあったなら――金がなぁ、お前を利口に見せてくれるだろう…」
定番のお芝居ながら、その底に流れている正太郎の尽きることない愛情を初めて見る思いがした。

大きな体を丸めて拗ねるかと思えば全身で喜ぶ、ピュアネスの固まりみたいな博多家さん牙次郎と、ひたすら優しい花道さん正太郎(また声が抜群にいい)。レアな配役で、特に花道さんは初役だったそう。ものすごく緊張したらしく、「休憩中にもずっとセリフを繰っていた」と口上で話されていた。このペアならではの澄み通った『一文銭』だった。


親方・筑紫桃之助座長

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牙次郎・博多家桃太郎弟座長

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正太郎・玄海花道花形

しかし花の三兄弟は楽しい。お人形みたいな美貌の長男、ずば抜けた技巧と力強さの次男、天衣無縫な末っ子三男。友人たちやTwitterの相互フォロワーさんにも三兄弟ファンが多く、2019年の躍進がとにかく楽しみ!

観たときの感想⇒筑紫桃太郎一座 花の三兄弟お芝居『月夜に泣いた一文銭』 ―優しい言葉と百両首―

★橘劇団『ウェイターの花道』
2018.5.5 @浅草木馬館


「シリアスな外題が出るとテンション上がるのは喜劇が嫌いなんじゃなく、喜劇だとどうしても内輪ネタとかグダグダになりがちだからで…素晴らしい喜劇は素晴らしいよ!」
昔、芝居を愛する友人が言っていた一言には、いつでも深く共感する。
毎年、自分のベスト芝居を振り返ると、5~7本の中に一本くらいは喜劇が入っている。シリアスな芝居の好きな場面をあとから思い出しても沁みるように、喜劇の好きな場面は何度思い出しても笑える!

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ウェイター・橘大五郎座長

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レストラン店長・かつき夢二座長

大五郎さん演じる元役者のウェイターは、レストランで給仕していても芝居から頭が離れない。絡んできたタチの悪いお客に「知らざあ言って聞かせやしょう」と名乗ったり、お客さんをお手洗いに連れて行くのに飛び六方で連れて行ったり…。極めつけはメニュー作り。「とれとれ野菜サラダ八百屋お七」には大笑いした😂
そしてその破天荒な行動を絶賛する、大の芝居好きのレストラン店長(かつき夢二座長)がまたおかしい。
足をじたじたさせて「く~っ、芝居好きにはたまらん~!」を連発し、テンションがMAXになったときには「ちょっと写メ撮ろ!」と素早い手つきで二人で自撮り写メを撮る(笑)
お芝居大好き、が溢れかえった大五郎さん&夢二さんの会話劇だった。

『ウェイターの花道』はゴールデンウイーク特別一日三回公演のうちの二回目だった。びっくりするくらい公演数を打ち、演目を作り続けている大五郎さん。くれぐれもお体大切に、楽しい30代を過ごしてほしい。

今年は大五郎さんにSPICEインタビューもさせていただきました⇒大衆演劇の入り口から[其之三十二] 橘大五郎座長が走り続ける“原動力”とは? SPICE独占インタビュー!

★おもちゃ劇団『遠州しぶき』
2018.8.20夜 @梅南座


この6本の中からさらに一本選ぶとなったらこれを推すかもというくらい、胸に食い込んでいる芝居。
おしん(市川恵子太夫元)は、妹・お登勢(市川ななみさん)とともに、遠州灘で生き別れた弟・菊之助(ゲスト澤村千夜座長)を何十年も探している。しかし再会した弟は大盗人・夕霧菊之助になっていた。
一見よくあるお話なのだけど、セリフの一言ひとことに耳を傾けると、こんこんと深い思いが流れている。

「この人、そんなに悪いことしたの?優しそうな顔をしているのに」(菊之助の人相書きを見ながら、お登勢)
「弟が生きて帰ってきてくれたなら…。たとえどんな姿でも生きて帰ってくれさえすれば、両の腕(かいな)でしっかりと抱きしめてやります…」(おしん)
「思い出すなぁ、優しい姉さんと可愛い妹、一緒に行った遠州灘。しずくがかかって、冷てぇなぁ…」(菊之助)

千夜さんの菊之助役の哀しさや、ゲスト・要正大さんの金貸し役のユーモラスさなど見どころも多い。その中でやっぱり芝居の骨格になっていたのは、おしんを演じた恵子先生だった。たたずまいの一つ、表情一つに、失われた時間への無念さが響いていた。

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おしん・市川恵子太夫元

ラストシーン、おしんが菊之助を捕らえた白い縄をぐるぐると巻き戻す。見えない鳥目で虚空を見つめながら、ぐるぐる、ぐるぐる。
姉弟の何十年もの時間が、巻き戻っていくようだ。

「女優・市川恵子は今が旬です」(『KANGEKI』2018年9月号「旅芝居の母たち」)
そう語られていた通りの舞台。2019年も旬の演技を届けてくださるだろう。

当時の感想⇒おもちゃ劇団お芝居『遠州しぶき』 ―巻き戻る時間―

★劇団天華『刺青奇偶』(澤村千夜座長誕生日公演)
2018.9.22昼 @朝日劇場


恋愛を主軸に置いたお芝居と聞くと、個人的には期待の一方で不安も大きい💦
大衆演劇に限らず、映画や小説でも恋愛もののフィクションには素晴らしいものがたくさんあるけど、うぅ、これは~…という作品がラブストーリーである確率も高い。なんでかというと恋愛って一対一の密室空間なので、登場人物が“なぜそうするか”という動機を作り手が説明する責任が薄くなりがちに思うのだ。「この二人の恋愛はそうなんだもん」で、どんな展開も丸められちゃうというか(あくまで個人的な嗜好です)。

けれど天華版『刺青奇偶』が冴え冴えとした余韻を残してくれたのは、“この役はなぜそうするか”を掘り下げ続けた演者の力、脚本の力、そして長谷川伸の原作の力なんだと思う。

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お仲・藤乃かな座長

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半太郎・澤村千夜座長

まずゲスト・藤乃かな座長のお仲。船着き場での出会いの後、半太郎が体も見返りも求めず去っていくと、お仲はああっと叫び出しそうなくらい目をまん丸にして駆け出す。
そのときのかなさんの表情は、少女的な驚きに満ちていた。初めて“人”に出会った!欲望としての“男”じゃなく“人”に!そんな喜びが弾けるよう。花道を駆けていくかなさんの情熱から、お仲が半太郎に人生を捧げる理由がとても腑に落ちた。

そして千夜さん演じる半太郎の根底には、故郷恋しさが一貫して流れている。船着き場では少しでも故郷を感じようと、見えない江戸をじーっと見つめている。お仲の余命がいくばくもないと知った時、半太郎は泣きながら妻の両肩をつかんで叫ぶ。
「二人で一緒に深川へ帰るんだ…!」
深川へ。そこに帰れば幸福が待っているはずの、夢見た故郷へ。
この一言を聞いたとき、これは“ふるさとから切り離された人の物語”なんだということが迫って来て、舞台上の夫婦を見ながら泣いてしまった。

でも、故郷のシンボルともいえるお母さん(蘭竜華さん)とはすれ違い。ふるさとはいつまでも夢でしかない。最後にオリジナルの演出でそのことが強調されていて、突き刺さる『刺青奇偶』だった。

千夜さんの新作芝居を数えてみたら、2018年は5本だったかな?演技者としても演出家としても、ずっと期待の止まない役者さんだ。

★劇団駒三郎『楢山節考 姥捨て山』
2018.11.19夜 @大島劇場


大島劇場に寒村の風景があった。
ごそごそ音を立てるかんじき、蓑、手に息を吹きかける仕草、客人のための最後の一杯のお茶っ葉。「こんなに茶っこがうまかったかや」などのお国言葉のなまりも温かい。
ディテールの細かさという意味で、作りこまれた一本だった。

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シカ・南條小竜太夫元

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与助・南條駒三郎座長

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菊・南條友李愛花形

とりわけ老母シカを演じた、南條小竜太夫元の演技がひたひた静かに沁みてくる。息子の与助(南條駒三郎座長)が役人からもらってきたお定め書きを渡すと、シカはうやうやしく礼をしながら受け取る。それが自分に山ごもりを命じるものだとわかった上で、役人への敬意が体に染みついている村人の在り方を端的に表していた。

母を背負って山へ連れて行く与助の、悲しみを押し殺した様。最後にわぁーんと劇場中に響く、娘・菊(南條友李愛花形)の胸を締め付ける泣き声に、もらい泣きした。自分を慈しんでくれた“かかさま”が、掟によって死なされていく――。

お芝居というより、本当の村の情景を切り取ったような一片。シカが、与助が、菊が、どこかで生きているような気がする。

★春陽座『赤垣源蔵 徳利の別れ』(忠臣蔵withオペラ)
2018.12.16昼 @京橋羅い舞座


オペラと大衆演劇がコラボで忠臣蔵をやるという。なんて面白そうなんだ!行くしかない!といきり立って、日帰り強行軍で大阪へ。オペラの荘厳な音楽と忠臣蔵の骨格の大きさが相まって、楽しい企画だった◎
そして芝居も、ゲスト・近江飛龍座長演じる兄・塩山伊左衛門と、澤村かずま座長演じる弟・赤垣源蔵の二人がはまっていたのだ。

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赤垣源蔵・澤村かずま座長

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塩山伊左衛門・ゲスト近江飛龍座長

飛龍さんもかずまさんも、演技がドーンと大きくて華やか。だからこの二人が兄弟役というのは、芝居のサイズ感的にぴったりだった。
伊左衛門て厳格なイメージだったのだけど、飛龍さんの場合、弟への愛情がいっぱいに溢れている。弟と仲良く囲碁をする場面に始まり、勘当したあとも弟が訪れたと聞けば「会いたかったのう」と悔しがる。そして赤穂浪士の討ち入りの報を聞きつけたときは、市助(ゲスト渡辺裕之さん)に興奮して両腕広げ、
「赤穂浪士の中にわが弟、源蔵がいたときは、そのときはのう、表門から帰って来たその上で『源蔵様はおられました』と隣近所に聞こえるように叫ぶのじゃ!」

一方、討ち入りを果たした源蔵は、晴れ晴れとした顔で友人(澤村心座長)や婚約者(澤村みさとさん)にお礼を言っている。
「ありがとう」「かたじけない」
その穏やかな表情が、背後からの「源蔵!」の一声で堪えきれなくなったようにクシャっと歪む。

声の主は駆けつけた伊左衛門。汗まみれで、ぜーぜーと肩で息をしている。
他の誰との別れにも冷静だった源蔵が、この兄の声には心乱さずにいられない――貴方が一番好きだった。兄が弟を愛するのと同じように、弟もまた兄を一番。
丁寧な芝居の春陽座と、唯一無二のTHEパワー・飛龍さん。異色の組み合わせで生まれた芝居だった。

10月は春陽座両座長にインタビューさせていただきました⇒大衆演劇の入り口から[其之三十四] やさしい和菓子みたいな劇団「春陽座」澤村心×澤村かずまの芝居語り

長々と記事にお付き合いいただき、ありがとうございました。
2012年夏に大衆演劇にハマって早7年。最近思うのは、お芝居が昔よりもっともっと好きだな…ということです(底なし沼)。演者のセリフ・所作・表情が好きなのはもちろん、長年使われてすり減った道具・背景幕・チョチョンと鳴る柝の音など。芝居を形作るものの色々が、愛しくなるときがあります。
それらはすべて“役”を成り立たせるために存在するもの。この役はどんな風に、役者さんの手から手へ渡されてきたのだろう。誰の気配が残っているのだろう。そんなことを考えながら、2019年もたくさんの役に出会えますように!

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明日を見る太陽 ―里見要次郎会長のこと―

2018.12.8夜@後楽座

太陽みたいな。

里見要次郎・関西親交会会長は、いつ観ても“ギラギラ”している役者さんだと思う。
野生の獣っぽい鋭い目。サーカスの香りのする、目の下に描かれた星。がっしり骨太の体は青年の気力にあふれていて、55歳というのが信じがたい。

――その人がささやくような声で話していたのは、切なかった。



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12/8後楽座

ちょうど後楽座・劇団天華に行く予定を立てていた12/8に、要次郎さんがゲストと知ったときはにんまりした。ふふ~大好物の要次郎さん&千夜さんペアがまた観られる!“ザ・ますらお”というエネルギーを持った要次郎さんの立ち役と、人を惑わす匂いのある千夜さんの女形のペアは、バランス抜群で大人の芝居で、大好きなのだ(*’ω’*)ノ
『一本刀土俵入り』の要次郎さん茂兵衛&千夜さんお蔦(2016年)や、『中山峠 どさ帰り』の要次郎さん演じる大工&千夜さん演じる毒婦 (2017年)の、哀しさからむ男女の芝居は今も胸に焼き付いている。

12/8の芝居は要次郎さんが立てた『木曽の勘太郎』だった。切望した男女ものじゃなかったけど、威風堂々とした勘太郎(要次郎さん)のたたずまいと、勘太郎に片腕を落とされて不具になってしまう新造(千夜さん)の心の機微が味わえてホクホクした。

ふと気になったのは、要次郎さんが少し声を出しづらそうだったこと。かすれているとかではなく、音量がしぼんでいた。
そのわけは要次郎さんの挨拶のときに分かった。
「先日インフルエンザの予防注射を打ったら、それ以来ずっと体調が良くないんですよ。体調を崩さないために予防注射打ってんのに、どういうこと?注射に何の成分が入ってたの?(笑)」
マイクを握って笑いを取りながら、その声は芝居のときよりもずっと小さかった。
「でもねー、明日はこの会議、明後日はあっちの会議に出て、その翌日は催し物に出て、全部終わったら僕はそこからゲスト回りです。休めないんです」

休めない…。

舞台の上の彼らはそういう生活だ。目まぐるしすぎる興行形態の中で限界まで羽ばたいて、アッという間に心身をすり減らしていく。
とりわけ里見要次郎会長は、多くの弟子を抱え、社会に大衆演劇をアピールする役割をも負っている。多忙を極めているだろう体は、それでも芝居中はギラギラした熱を崩さなかった。しっかと花道を踏みしめ、花道脇に座っていた私の頭の横を通り過ぎていった。

後楽座は要次郎さんがオーナーを務める小屋だ。個人舞踊のときには、当然たくさんの「要ちゃん」コール。この夜は、要次郎さんのTシャツを着たファンの方が前方に集まっていた。

要次郎さんの踊りは、若々しい。伸びやかなポップスで踊る。
腕を頭上にかかげ、ぐるぐる回しながら片足でジャンプ。高い背がより大きく見える。
「要ちゃん!」「要ちゃん!」
ぐるぐる。ぐるぐる。
胸の前、手でハートを作って。
天井に吠えて。
マンマミーア!と、陽気に踊る。

明るいなぁ…。
全部まとめてくれるボスが舞台に現れたみたいな、安心感。
長い間、どれだけの人に元気を与えてきたんだろう。要次郎さんが里見劇団の座長になったのは17歳のときだという。

50代の役者さんの中には、もう第一線を引いて隠居モードの方もいるし、いぶし銀の魅力や技巧をじっくり味合わせてくれる方もたくさんいる。だけど、要次郎さんはいつまでもバリバリの現役だ。

要ちゃんTシャツのお客さんたちは最高潮に盛り上がり、曲に合わせて両腕を振っている。
長い間、どれだけの人の希望であろうとしてきたんだろう。
客席の中に溶け込む、大衆演劇の舞台で。

今、手拍子を送っている後楽座のお客さんも、劇場を離れれば悲しみは無限にある。この世から剥がされてしまいそうな、ギリギリのところで劇場に足を運んでいる人もいる。
明日をなんとか笑って生きたい――
その切羽詰まった心に応えるように、舞台の上の人はスターであり続けてくれるんだろうか。
体をすり減らして、ささやくような声の日すら。

いや。
毎日毎日を、手づかみで汗かいて格闘しているのは、舞台の上も同じことだ。

例によって一晩で稽古したという『木曽の勘太郎』。二幕目の要次郎さんは茶店の主人の役で(勘太郎と二役)、暖簾をくぐり、瓶底メガネをかけた三枚目メイクで飛び出してきた。その口からは超・破廉恥ネタ込みのアドリブがポンポン(;’∀’) おどけたっぷりの表情も加わって、思わず笑った。受けている客席を見回しながら、アドリブはどこまでも続く。

毎日演目が変わる。出会う客席も変わる。
明日はもっと大きな笑いを。涙を。目の前の人を楽しませる、あらゆることを。
だからこそ演者はそのまなざしを張りつめて、限界まで汗をかくのかもしれない。
「要ちゃんっ!」
舞台と客席の明日への希求のど真ん中、大きな体がもう一度飛び上がった。

どうかお体大切に、と送り出しでお伝えせずにいられなかった。
長い長い間、走って来た体。今も先端を走り続ける体。

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いつまでも太陽のごとく、そこにあってくれるだろう。
ずっと客席と一緒だろう。

今も明日だけを見ている。目の前の客席だけを見ている。
ギラギラ光り続ける、エンターティナー・“要ちゃん”!

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万年筆とクレヨン ―劇団美松の兄弟座長の話―

兄は美しく弟はキュート。少女漫画から飛び出したようなご兄弟🌹
11月の3連休中日、篠原演芸場はほぼ満席だった。


兄・松川小祐司(まつかわ・こゆうじ)座長26歳。

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弟・松川翔也(まつかわ・しょうや)座長25歳。

「関東の座長さんの中でもおそらく最年少の僕たちです。未熟な面もたくさんありますが、若い力で一生懸命頑張ってます!」(翔也座長の口上より)

客席の両端には翔也座長の誕生日に贈られたらしい、カラフルなバルーンがぷかぷか浮かんでいる。篠原の名物おにぎり🍙(たらこ味)をいただきながら、2階席から観ていた。
元気な肉体が跳んだり跳ねたり、お客さんにズイッと指差ししたり、遠くの席まで手を振ってアピールしたり。今日の客席を満足させるんだ!という心がいっぱいにあふれていた。

美松さんの兄弟座長は、たとえるなら万年筆とクレヨンみたいだなぁ…と思う。

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翔也座長(左)・小祐司座長(右)

小祐司さんは全員を率いる立場のためなのか、張りつめていて、鋭いペン先に似ている。芝居してても古典で踊ってても、軽めのポップスで踊っていてすら、その姿はきりきりスラリ――怜悧な美の持ち主だ。
対して翔也さんは人懐っこそうで、声が大きくて明るい。にぱっと笑った顔に子どもみたいな愛嬌がある。クレヨンで画用紙に描くみたいな、大らかで自由な舞台ぶりだ。
兄弟姉妹はみんな個性があるといえど、ここまで真逆の持ち味だと面白い。

思い出すのは今年の7/15、炎暑の中の『団七九郎兵衛』。浅草木馬館の舞台の上で、団七=小祐司さんがザバァーッ!と水をかぶる場面は目にも涼しかった。
見せ場中の見せ場なので「座長―っ!」「松川―!」のハンチョウが飛んだ。拍手の中で団七の表情を見ると、恍惚とした顔つきで上を見つめていたのにゾクゾクした。義父を殺めた直後の興奮状態という場面の異常性が、小祐司さんの鋭い切っ先と絡んで、日常の世界からヒュッと飛び出していった。

打って変わって。
11/24、寒さ厳しい日の『俵星玄蕃』
蕎麦屋をしている杉野十平次=翔也座長の何気ない場面には、素直な役柄が見えてホッコリした。
十平次は知り合ったばかりの俵星玄蕃の妹(朝妃夢葉さん)に、そば代として簪をもらったものの気持ちが引けて、後日こんなやり取りをする。
「あの簪、ずいぶん高値で売れましたよ。余った金ですから取っておいてください(お金を差し出す)」
「えっ?以前、あれを売ろうとしたことがあるのですが、大した金子にはならなかったはず」
と不思議がられ、しまったとバツの悪そうな顔になる十平次。か、可愛い…(笑)。無邪気に描かれた役の色合いが、心にやさしかった。

「本当に毎日出し物替えて、若いとはいえ、倒れるんじゃないかって」
7月の木馬館公演のとき、壁にぴかぴかと貼られていた、全日(!)昼夜替えの特選狂言。心配そうに話していた人がいた。
古典ものからファンタジーまで、ザ・企画力!という感じの練られた貼り出し。太夫元のお母さんの力をベースに、26歳と25歳が上を目指してまっしぐらだ。

“応援して下さるお客様との一体感、それが何より大事なことだと、誕生日公演を通して感じたんです” (松川小祐司座長・『KANGEKI』2018年5月号インタビュー)

きっとこの劇団さんは、今、高い所へ昇っている真っ最中なんだな…。
どの役者さんにもそういう時期があって、ちょうどそのクレッシェンドの最中に観られていることは貴重だったと後から思うのかもしれない。
あ、美松さんが『俵星』やるんだったら観たいな、と足を運びたくなったのは、その急突進ぶりに気づいたら巻き込まれていたような気もする。

ところで昔は兄弟で座をやっていると、ライバル意識がバチバチで、そのうち片方が独立することも多かったようだけど…。

“基本はお兄ちゃんを先頭にして、僕がサポートできるようにしています”(松川翔也座長・『KANGEKI』同号)

今の時代のいいところ。
いつまでもソフトに、なかよしに。
このお二人は、ずっと一緒にやっていっていただきたいな。

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7/7 浅草木馬館 七夕にちなんだ姿で。

タッチの違うペンがふたつ、線を重ねながら進んでいく。
どんな絵になるんだろう。
どんな道になるんだろう。

すっと涼しい兄の目の隣、くるんと大きな弟の目がのぞく。


松川小祐司座長・松川翔也座長について、ライターの「暮れ六つエモーション」さんが最新インタビューを書かれています。両座長のキャラの違いが面白いので、ぜひご一読を⇒松川小祐司☆松川翔也(劇団美松)に聞く~「オレ座長だけど何か質問ある?平成世代の旅役者すっぴんインタビュー」第2回

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之三十四] やさしい和菓子みたいな劇団、「春陽座」に聞く 澤村心×澤村かずまの芝居語り

上品でやさしい銘菓をいただくような――それが、春陽座の芝居!
舞踊ショー重視の時代といわれても、コミカルなお芝居が好まれるといわれても、ひたすらカッチリ整った芝居を演じ続ける。
彼らに聞きたいことがあったので、箕面スパーガーデンの楽屋にてロングインタビューを決行させていただいた。

【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之三十四] やさしい和菓子みたいな劇団、「春陽座」に聞く 澤村心×澤村かずまの芝居語り



穏やかで懐の深い二代目座長・心さんと、元気印の三代目座長・かずまさん。ベストコンビ✨

聞きたかったのは、彼らが得意とする忠臣蔵などの古典ものを、どうやってお客さんに届け続けているのか?ということ。昔、テレビドラマとかで人々が共通知識を得て、たいていの人が赤穂浪士の物語を知っていた時代もあったらしい。けれど今では、私自身も含めて、ほとんどのお客さんがまっさらな状態でお芝居を観る。お芝居を観て初めて聞く名前、初めて知る言葉がたくさんある。
つまり、かずま座長が言う通り、こういうこと↓

かずま 歌舞伎の場合は客席全員があらすじを知ってることが前提やん。ずっと続いてる芸能やから。その上で、尾上さんや團十郎さんや幸四郎さんや海老蔵さん、「この人のこの役ってどんなんやろ」を観に行くのが歌舞伎やん。でも大衆演劇は、お客様が観ながら話を理解していくから、あらすじを知らない人でもわかるように、かつ楽しめるようにやらないと。

お芝居を演じると同時に、お話自体を伝えなくちゃいけない。でもインタビュー中でも言及されている『御浜御殿綱豊卿』(おはまごてんつなとよきょう)とか、歌舞伎と同じ元ネタのお芝居は「あらすじ、知ってるよね?」が大前提。お客さんが理解しやすいように、みたいな配慮が脚本にもともとないわけで……。
それを大衆演劇の舞台にかけるために、春陽座は色んな工夫を施している。

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これも工夫の一つ。かずま座長がわざわざ業者に発注して作ったというあらすじの紙。

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そしてショーもなんとか華やかに見せようと、着物の色が全員違う群舞をこしらえたり。

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両座長とメンバーが焼きそばやかき氷を作ってくれる、縁日イベントを企画したり。(調理師免許を持っているという、かずま座長が作る焼きそばは本っっ当においしい!)

最後は2人、若手の成長と未来について語っていらして、ジーン…。

かずま まだまだな部分もあるけど、皆で一生懸命、頑張って良いものを作ろうとしてる姿勢は観てほしいかな。

心 皆の基礎レベルが上がれば、できることも増えるやろね。芝居にしても、ショーにしても。

かずま 個人力やね。今は若い子たちの個人力がまだまだやから。お客様がたくさん入る劇団さんは、見ててやっぱり若い子らもすごい!俺は芝居、まず芝居ありきやから、芝居をもっともっとレベルアップせんとね。

心 でも稽古では、新吾先生や僕らが教えるだけでなく、前までその役をやってた子が次の子に教えたりすることもあって、ほんとにみんなで良い芝居を作ろうとしています。若い子らにはまだ自分の色っていうものがないけど、成長とともに、それぞれの色が出るかなと。そしたら劇団の色も変わっていくやろね。


⇒インタビュー全文はこちら

心座長・かずま座長、本当にありがとうございました!

今回の記事を書きながら、ふとありがたいな…と思ったことがある。
事前準備・事後の確認として、過去の大衆演劇雑誌や著書にフルに学ばせていただいたこと。両座長の経歴は『花舞台』2014年の春陽座インタビューを読んで学んだし、澤村源之丞さんや大川龍昇さんのことは、橋本正樹さんの著書『あっぱれ旅役者』シリーズで確認することができた。
先をゆく人々が残してくれた財産に助けられて、今、自分が書けているのだと思った。

こうやって細々と書いているSPICEインタビューも、いつか誰かのお役に立てる日がありますように!

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【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之三十三] 本川越駅から3分、旅芝居の世界へ!川越湯遊ランドの誘い

西武新宿線の黄色い車両に揺られてゴトゴト…。終点・本川越駅まで。
川越湯遊ランドに行くときは他の劇場やセンターへ行くときよりも、どこかのんびりした気分。
今回のSPICE記事は初心に帰って、「大衆演劇初めての方への招待状」を出すつもりで書きました。

【SPICE】大衆演劇の入り口から[其之三十三] 本川越駅から3分、旅芝居の世界へ!川越湯遊ランドの誘い


川越湯遊ランド外観

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取材日9/19の新生真芸座お芝居『東海遊侠伝 石松』

当日、芝瞳若座長に写真撮影許可をいただきました(ありがとうございました!)

記事のクライマックスは、後半に登場する劇団担当スタッフ・芝田さんの言葉です。

「どの芝居を観ても、自分の人生を振り返るときがいつもあって…。自分がその立場だったらどうするだろうとか、色々考えさせられるような感じになりますね。芝居に共感できるんです。観終えた後、芝居の余韻に浸っているお客様がたくさんいらっしゃるんですが、その気持ちがよく分かります」

どうして大衆演劇は魅力的なんだろう。どうしてこんなに心をつかんで離さないのだろう? この言葉に、そのヒントを垣間見る気がしました。
5年前、川越湯遊ランドに就職して初めて大衆演劇を観たという芝田さん。初めて観たときから、人情劇に“共感”を覚えたそうです。
よかったら全文を読んでみてください。

⇒記事全文こちら

さて、取材日は朝から川越にいました。お約束をいただいた時間までだいぶあったので、街を散歩していたら……午前中からたっくさんの観光客!! シニアの夫婦や友達づれを中心に、小江戸・川越を満喫している人がいっぱいいました。
このうち10分の1でも川越湯遊ランドに行ったなら、絶対に全日大入りが出るのに…!せめて、すぐ近くでお芝居をやってることを知っていたらいいのに…!

なので、読んでいただく方に「これから川越に来る観光客」を想定し、この記事が少しでも届くようにと思っていました。そしたら「本川越駅から3分」というタイトルが拾われたのか、Twitterでは川越情報を発信するアカウントや、観光施設の公式アカウントが記事をツイートしてくれて。

計画通り(例の悪い顔)
いえいえ、本当にありがとうございます。

湯遊ランド内で売っているフランクフルトがめちゃめちゃ美味しいので、芝居を観てお風呂に入って、フランクフルトを食べてまた芝居を観る…そんな極楽な休日を近いうちに過ごしたいと思います。

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